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映画『この世界の片隅に』予告編 p.p1 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; font: 24.0px 'Hiragino Kaku Gothic Pro'}p.p2 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; font: 24.0px 'Hiragino Kaku Gothic Pro'; min-height: 36.0px}
2017年5月26日 神戸シネリーブルにて鑑賞
すずさんに天使「ジェルソミーナ」を見た
この作品は、主人公「すずさん」の声を演じた「のんさん」の存在なくしてありえなかったでしょうね。
朝の連ドラ「あまちゃん」(あのときは能年玲奈さんでしたね)で、初めて見た時
「どうやってこんな女の子が生まれて来たのか?」
「どうやって育てたらこんな人になるのか?」
と見る人を釘付けにしました。
彼女の存在そのものが
「のほほ〜ん」
「天然そのまんま」
「平和で、のどか」
いわゆる世間の手垢みたいなことが何もついていないという
ほとんど奇跡と言えるほどの存在感でした。
本作の主人公「すずさん」はまさに”のんさん”の生き写しです。
作中の冒頭、すずさん自身が語ります。
「私は、ぼぉ〜っとしていて」
「しょっちゅう、物忘れをしていて」
そんなとぼけた人物で、そもそも
「悪意」とかいうものが、体の中に「ひとかけら」もないような”無垢な存在”です。
まさに天使のような心を持って、この世に生まれて来た人。
あっ!
ここまで書いて来て想い出しましたよ。
イタリア映画の名作「道」
主人公の知恵遅れの女性「ジェルソミーナ」さん。
彼女がもし、日本の大正時代に生まれたら……。
そこに「のんさん」の声と「すずさん」のフォルムを与えてあげれば、
それが本作の主人公なのです。
本作の鑑賞ポイントはいくつもあります。
昭和初期。そこに描かれる庶民が戦争へ導かれてゆく日常。
すずさんのように
「のほほ〜ん」と「ぼぉ〜っと」している間に、いつのまにやら空から
「機銃掃射」されたり「バクダン」が落っこちてくる。
そんな時でも、庶民は、婦女子たちは
「ご飯を作り」「掃除をし」「洗濯物を干す」のですね。
本作では、そういった危機的状況「非日常が当たり前」になってゆく、人間の感覚が鈍ってゆく、その様子を
「のほほ〜ん」と
そして誤解を恐れずに言えば
「楽観的に」
描いてゆくのです。
ここにこそ、監督の手腕と、この作品の「凄み」があります。
親戚の男たちはみんな、兵隊に取られてしまった。
戻ってくるときは、白い布で包まれた木箱だけが帰ってくる。
中にあるのは、骨じゃなくて石だったりする。
「人の命なんてこんなものか」
あ〜ぁ……。
なぁ〜んてことは、すずさんは考えません。
ただ、今日のこの日を「のほほ〜ん」と生きてゆきます。
いつのまにやら、着るものだって「たすき掛け」
そのたすきには「大日本国防婦人会」なんて書かれてます。
まぁ、これもご時世だもんね。兵隊さんは”命がけ”私たちは”襷掛け”だもんね。
このように布地に水が染み込むように、ジワジワと
「戦争という色」に生活が染められてゆくのです。
そのあまりの自然な成り行きにこそ、恐ろしさが隠されています。
背景描写の美しさも、本作の鑑賞ポイントですね。
「細かいところまで、ちゃんと描いてあるでしょ」という押し付けがましさが全くないのです。
のほほ〜んとした主人公のキャラクターを、両手で、やわらか〜く、包み込むような描き方なのですね。
細密描写の極致といえば、宮崎アニメの「千と千尋の神隠し」が代表的です。
本作は、あのリアルさ、緻密さの方向には振っていません。
さて、イタリア映画の「道」
もう一人の主人公がアンソニー・クィン演じる「ザンパノ」です。
彼は旅芸人です。この男、ジェルソミーナを自分の奴隷として買い、一緒に旅周りに出るのですね。
この「道」という作品は、悪魔が天使を金で買い、散々使い廻した挙句、ポイと捨てちゃう、という悲劇であり「寓話」なんですね。
ザンパノは後に、自分が使い捨てた「天使」ジェルソミーナが、野垂れ死んでしまったことを知ります。
自分がやってしまったことはなんだったのか?
ザンパノは自分の行いが、まさに悪魔であったと気づきます。
「自分は天使を殺してしまったのだ」
気づいたとき彼は「人間」としての悲しみに襲われるのです。
有名なラストシーン。
海辺の砂浜。母なる海。
その前でひれ伏し、彼は人間としてさめざめと泣くのです。
「人間の原罪」を描いた「芸術作品としての映画」
その極限に迫った究極の映画の一つだと僕は思います。
本作「この世界の片隅に」では、ヒロインは死にません。
戦争を生きぬきます。
だからこそ、余計に残酷なのです。
ヒロインは見なくていい光景を見てしまいます。
ヒロインは負わなくてもいい傷を負ってしまいます。
人はそれを運命と言うのでしょうか?
確かに人は人生を生きてゆく上で
「運」としか言いようのない瞬間に出会うことがあります。
この文章を書いている私自身、何度も命の危険がありました。
しかし、57歳の今も、のうのうと生き延びています。
同じ職場で働いていた二十歳そこそこの若者。
あっという間に自ら命を絶ちました。
人の命ってこんなにあっけないものなのか……。
本作のヒロインのように「のほほ〜んと」「ぼぉ〜っと」生きることも悪くはないのかもしれません。
この世界にはいろんな生き方があっていい。
この映画はそう思わせてくれます。
劇場でロングラン上映された理由がわかるような作品でした。
観てよかった……。
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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆
美術 ☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆
総合評価 ☆☆☆☆
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作品データ
監督 片渕須直
声の主演 のん、細谷佳正、尾身美詞
製作 2016年
上映時間 126分 |

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