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 六十年安保の渦中、国学院の学生歌人の岸上大作が自殺した。原因は安保闘争
への挫折感と失恋だと言われる。革命と恋に駆け抜けた青春の記念碑として、岸
上の名と歌集『意思表示』は歌人たちに哀惜された。現代の実力者歌人たちもま
た、学生運動の飛沫を浴びていたから。

 だが、石本隆一氏は岸上を強く批判した。その思想ではなく、相手の女性の迷
惑を顧みない恋情について。そして石本氏はその岸上を哀惜する風潮に憤りをぶ
つけたのだった。その石本氏の文を読んだ時、私は「ははぁ」と合点した。石本
精神が根を張っている土壌が、どうやら「任侠道」にあるらしいと理解したから。

 任侠道の淵源は遠く紀元前に遡るらしい。中国・春秋時代、地方に跋扈する無
頼の徒たちは、中央の権力の束縛を嫌い、その圧政と馬賊から庶民を守る義侠的
な側面があったという。恩愛を受ければ、その義理を果たす為に体を張る心意気
を大切にしたようだ。いわゆる「義侠心」とか「男気」である。
 『史記』において司馬遷は世間が「仁侠の徒」を誤解していることを嘆き、そ
の積極的な側面を評価しているらしい。現代のヤクザはその精神と真逆のことを
やっている訳だが。

 一方的に女性に恋し、断られると自殺する行為は相手への「当てつけ」になる。
それに故郷の老母のことを思えば、岸上は男の風上にも置けない―そんな怒りだ
ったろうか。私は日本の伝統的な人倫は「真っ直ぐ」「曲がった」という二つの
言葉に示されていると思っている。それは「美意識」と換言してもいいだろう。
岸上大作の自殺は「曲がった」こと、人倫を外れたことかもしれない。

 正しい意味の任侠精神は、近代的な法の整備と共に檻の中に封印されることに
なった。男の猛獣性も含んだロマンや性愛の激しさは、合法化された格闘技や夫
婦関係の檻の中で発散されるしかなくなったのだろう。それを嫌えばアウトロー
になるしかない。
 ・ずぶ濡れのラガー奔るを見おろせり未来にむけるものみな走る (塚本邦雄)
 ・さらば象さらば抹香鯨たち酔いて歌えど日は高きかも    (佐佐木幸綱)
 ・なれのからだの部分部分をひとつずつ汝にもどして帰してやりぬ(石本隆一)
現代は男たちにとって「見果てぬ幻影」を追う時代なのかもしれない。

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