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母も私も、この人を、「80過ぎの幼女」と呼ぶ。
おばばは、自分の考え方だけが世の中で絶対、という性格のため、自分の趣味や尺度に合わないことは受け入れない。体はさすがに衰えているものの、口の減らなさは若いころとまるで変わらない。ガンを患っているのだが、もう80代だから、進行も止まっているようだ。が、さきごろ、脳梗塞を起こして入院中だと聞いた。となると、新年早々、近いうちに葬式が出そうだ。
このおばばには子供が3人いるが、すべて同居ないし近くに住まわせているので、いつでも子供らを足がわりに使っている。全く、どの子も羊のようにおとなしく親孝行なのである。どこへ行くにも孝行息子に運転させていたから、「旅行狂」を自負する割には、70歳を過ぎるまで、新幹線に乗ってどこかへ行くと、国内旅行でも万単位で金がかかる、という単純なことすら知らなかった。
わが実家のことは、本当に見下してやまない。私も、母には、
「うちを見下して喜んでいるなら、それで我が家もあの家に貢献している、ってことだよ、いいじゃん、バカにされても。気にしないで」
と言って慰めているが、気持ちが良いわけはない。我が実家は、もともと旅行なんてそう好きではなかった上、父が薄給で、ぎりぎりの生活をしていたわけだが、そんな両親に向かって
「イタリアへでも行きなさいよ、イタリアはいいわよ」
「ハワイに行ったら?私なんか何回ハワイに行ったかわからないくらい。飽きちゃったわ。なんであんたたちはいつも家にいるの?」
などと、横浜すらろくすっぽ出たことのない両親の顔を見るたびそう言った。このおばばは、上述の性格により、旅行に行かない人を、異常者よばわりしてやまない。私の父など、旅行なんかより、家で酒を飲んで寝ているのがよっぽど幸せだったのであるが、このおばばは、酒を目の敵にしており、旅行代金という支出は世界一正当化されるのに対し、酒に金を払うことは絶対に許さない。人の趣味は自分の趣味と違うのだ、という単純なことを、絶対に理解できない。
このおばばの悪い話はもっとある。我が実家から中元、歳暮、その他何か世話になった際の付け届けの類に対するチェックと批判に余念がないのだ。このおばばの母親が名古屋出身で、冠婚葬祭やお返しに異常に金を出す人だったので、その影響を考えれば、無理ないと言えば無理ないのかもしれない。が、もともと、前述の通り、我が実家のことをひどく見下して楽しんでいるので、母が何か届けると、
「こんな安っぽいものを送って」
だとか、
「うちは、孫の旦那さんが医者なの。医者のいる家柄に合わないでしょ」
などと言う。孫の旦那が医者だとどう関係あるのかわからないし、厳密には、孫の旦那さんは、歯学部を出ているので、「歯」医者だ。しかし、このおばばを含めた一家のみなさんは、絶対に「はいしゃ」ではなく、「は」を省略して「いしゃ」としか言わない。
私の父が死んだとき、みなさんは5000円から数万円くらいの香典を持ってきてくださった。お返しは、5000円の日本茶のセットにして、みなさんに持たせた。
「5000円のお茶の詰め合わせを贈ったのなら、もうそれ以上お返しはしなくたっていいんじゃない?」
とおばばが母に言ったそうだが、母はだまされなかった。なぜなら、このおばばは、方々の親戚へ電話をかけまくり、
「○子さん(←母の名)、いくらくらいのお返しを寄こしたの?」
というリサーチをするのが、至上の楽しみなのである。だから、母は、いちいち高島屋に行き、いちいちお返しなるものを送った。おかげで、葬儀後は、しばらく「お返しノイローゼ」になってしまったほどである。
たびたび書いてきたが、私はこの日本の「お返し」なる習慣が大嫌いである。もらったらもらっておけば良いではないか。いつかは別のときに返すのだから。それを、このおばばは特に、見下しつづけているわが実家がどのくらい自分の狭い信条に沿ったことをしているか、監視するのが楽しくて仕方ないのである。なにか自分の信条に合わないことがあれば、ここを先途と母に電話をかけて苦情を言うのだ。だから、私が「お返しなんかしなくてもいいじゃん」と言っても、おばばを恐れ、母はくそまじめにお返しをした。
福島県で被災した87歳の親戚の老女の話を以前書いたが、この老女に昨年5月、見舞金を持参したおり、我々は、
「絶対にお返しは不要ですから、このまま受け取ってください」
と言って置いてきた。その後、律義な老女からは、手編みのマフラーとせんべいなぞがお返しで来たが、この程度ならこちらも負担にならず、可愛いらしいものである。安心した。
そこへ、タイミングを計ったように、おばばから母に電話があった。あの老女から我々にいくらお返しが来たのか、確認するためである。おばばの電話の切りだしは、
「あの人、うちには牛肉を送ってきたのよ。○子さん(←母の名)には何を送ってきたの?」
と聞く。お人よしの母も、さすがにカチンと来たそうで、
「私と桃実で計20万円置いてきたの。でも、絶対にお返しはいりません、このまま受け取ってください、と言ってきたから、マフラーとおせんべいだけだったわよ。これでいいの。うちは、何ももらわないほうがよっぽど嬉しいわ」
と珍しく言い放った。これを聞いていたおばばは、ぐうの音もでなかったそうだ。ひひひ。ざまみろ。
こんな性格だから、このおばばは友達がおらず、さみしくなると、お人よしであるうちの母にだけ、ひんぱんに電話をかけてくる。このおばばの葬儀には、いくら包んで持って行ったら良いのだろう。その際には「お返しはいりません」と言って置いてきたいのだが、あの家のことだから、速攻で、要りもしないお返しがくるだろうな。毛布とかお皿とか。
私は、母が死んだら葬式はごくごく簡素にし、お香典は一切受け取らないことに決めている。お返しも、このおばばの一族も面倒だから。
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母、親戚、近所
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記事を拝見しながら、1〜2名の顔が浮かび上がりました。
どこの家にも大なり小なり、嫌われ者の親族はいるものですね。
冠婚葬祭、特に葬祭には口出ししないのが当事者家族へのせめてもの思い遣りだと思うのですが、ここぞとばかりに「大活躍」します。特に田舎はウルサイですね。
いくら包もうが、お返しを何にしようが、余計なお世話ですよね。
ある意味、かわいそうな人々です。無視するのが一番だと思います。
過去、一度だけ会葬御礼の品と一緒に届いた手紙で、とても感動したものがあります。
「尚、故人の遺志により、皆様方のお心遣い(香典)はすべて日本赤十字社に寄付をさせて頂きました」と、末尾にさり気なく書いてありました。
42歳。
癌で亡くなった、最も尊敬する先輩の奥様からの手紙でした。
会社のPCで『訃報』アイコンを開けば、社員の家族や社員の訃報が掲載されており、常に10〜20人以上の訃報と式場などの詳細が載っていますが、最近では「香典・供花・・・辞退します」の文字が目立ちます。
冒頭の人々には、到底理解出来ない事柄ですよね。
2012/1/2(月) 午後 9:17 [ snefkm ]
正月早々大笑い。
葬式を期待する年寄はなかなか死なないこともまた事実です(私もだいぶ期待されています)から、おさおさ油断を召さらないように。
私の同僚の父親(地方のセレブ)が亡くなった時に葬式に行き、なにがしかの香典を包みました。納骨の知らせに、「いただきました香典は交通事故遺児基金(だったかその類のもの)に寄付させていただきました」とありましたので、香典返しは期待していなかったのですが、それでも来ました。
なんか嫌な感じでした。香典返しをくれるくらいなら寄付をしたなんて言うなってぇの。
2012/1/2(月) 午後 10:25
まあー、一種の「傍迷惑な好人物」なの、鴨。
(ノ-_-)ノ ~┻━┻・..。
目に浮かぶよう、鴨。
2012/1/3(火) 午前 8:57 [ KABU ]
私も、被災した知人友人になにがしかしましたが、「絶対にお返しはいらない」と言ったのに、お返しがきてしまい、少し複雑な気持ちがしました。でも、福島とか岩手の人には「お返しするな」というのは、無理なの、鴨。
2012/1/3(火) 午前 8:59 [ KABU ]
snefkmさん、
>ある意味、かわいそうな人々です。
は、大いにその通りなのですが、
>無視するのが一番だと思います
は、こっちが無視したくとも、むこうが勝手に電話をかけてきて、いろいろ指図やら論評をするので、昔から大変世話になっている手前、母も従ってしまうんですね。本当にいい迷惑です。あのおばばは、自分の思っていることだけが絶対の指標なので、他人にも従わせないと気が済まないのです。実にやっかいな老女です。名古屋出身の母親に育てられたから、冠婚葬祭に対して異常に燃える名古屋流のしきたりも絶対に変えないですね。おっしゃるとおり、この老女には、
>「香典・供花・・・辞退します」の文字が
なんて到底理解できないでしょう。
しかし42歳で他界とは、お若すぎます。
2012/1/3(火) 午後 0:48 [ 桃実 (Momomi) ]
憲坊法師さん、寄付および香典返し、ですか。えらい出費ですね。きっと、その「寄付」の文字を見て、「香典返しはするもんだ!」とかいう批判が中のどなたかから出たのではないでしょうか。葬式のやり方とか香典返しをするしないなんて、一切任せておけばいいのに、と、そのうち母の葬儀をするであろう私は聞いていていやになります。
おっしゃるとおりこの老女は、なかなか死なないと思います。母に電話をかけてくるたび「あたしなんか、もういつ死んだっていいんだから」と言うのですが、そう言いつつ、もう何年たつか?
2012/1/3(火) 午後 0:51 [ 桃実 (Momomi) ]
KABUさん、被災地の方がお返し・・・・ いただくのも気の毒になります。どうしてそうまでしてお返しをしないといけないんでしょうねえ、田舎のしきたりはいやです。もしどうしてもというのなら、もっと復興してから、とかにしていただきたいものでは。
2012/1/3(火) 午後 0:53 [ 桃実 (Momomi) ]
涙で読みました。嫌われ者の親戚がいるから御家族がまとまるのよね。同じタイプのおばがいます。入院してずっと何年も年賀も出していないことに気がつきました。お見舞いにいけば遅いと文句。年賀状だせば内縁の夫の名前が宛名にないと文句。親戚中がちかづかない。でもいいところもあった。幼い頃にはお年玉を確かにくれた。疎くなるとなったで寂しいねえ。泣けてきた。お話の親戚の方の存在はあなたの気持ちをお母さんに味方する勢いをあなたに与えている。するどい視線を育ててすごくいいエッセイを書かれる隠し味をあなたに知らないうちに与えている。お兄さんが美人のことを見極める仙台時代の力を伝えるように。あなたはほんとうにすごい美人だ。そんな方に影響与える嫌われ者がおいでになることはこのエッセイから私自身もきづかされました。いいエッセイです。感謝です。
2012/1/8(日) 午後 3:25 [ 青山龍二 ]
青山龍二さん、涙が出るような心のこもったコメントをありがとうございました。嫌われ者の親戚がいるから家族がまとまる・・・そうそう、おっしゃるとおりですね。
2012/1/8(日) 午後 6:23 [ 桃実 (Momomi) ]
はじめまして。

うちの近所のおばさんを思い出しました。
まあ、地区では金持ち、うちは貧乏で育ちました。
父親の初盆とおばさんの旦那さんの初盆が重なりました。
その時に初盆が三軒あったのですが、浜で祭壇を組んで送るのですが、おばさんは「うちは真ん中だね」と言う。
私はどうぞどうぞ。という。
昔から用意は地区の方々が集まってするらしいけど、おばさんは「うちはうちでするから」って言われて、もう一軒もそれではうちも自分ところでしますと言う。
初盆とかそうそうあるものでもないので困りましたが近所の人に聞いて何とか
おばさんは「吹き流しは風で千切れたら悪いから短くした方がいいよ。また、花火はうちに沢山あるから他の人はいらないよ」って言われたけど、花火は大量に吹き流しは長く格好良く。
自分の親父を送るんだから思ったように気持ち良くしないとね。
愚痴のようになりごめんなさい。
2012/1/9(月) 午後 1:37 [ satton2002 ]