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父の葬儀をした葬儀場は、実家から近い。だから、よく、その前をとおりかかってしまう。
必ず「今日は誰かの葬式があるかな」と、入り口をじっと見てしまうのだが、「○○家通夜」あるいは「○○家告別式」という看板が立っていることは少ない。葬儀場があちこちにあるせいもあるかもしれない。
しかし、人の死、つまり、彼らにとって「仕事」がないからといって、人件費は通年かかっている。
父が死んでからしばらく、実家に、葬儀会社の営業担当が来てしつこかった。
ピンポーンと玄関が鳴るので、母が開けると、
「○○社です。このたびは、ご愁傷様でした。お線香を上げさせていただけませんか」
と言う。母は、人を疑うことをしない人なので、はい、はい、と言って家に上げる。
上げて、焼香をすると、さっそくその人は、母に
「互助会に入りませんか。奥様の葬儀の際には、こんなにお安くできますよ」
と言って、互助会への入会を勧める。我が家は、その葬儀場とは、全く懇意でも何でもなく、ただただ家から一番近い、という理由で使わせてもらっただけである。勿論、父が互助会等に入っていたわけでもない。父が死に、電話をし、葬儀を頼んだだけである。請求されたぎょっとするくらいの葬儀代は、すぐに全額払った。彼らにとっては、大変カネ払いの良い客に写ったのかもしれない。
その後も、母は、
「また今日も『お焼香させてくれませんか』って言って、この間の人とは別の営業の人が来たのよ。で、互助会に入ってくれ、って言われたの」
などと電話をしてきた。私は、母のお人よしを知っているので、
「何ではっきり『入りません』って言わないの?私も比べてみたけど、互助会に入るからと言って、そうそう安くなるわけでもないよ。それに、母のときには、ここに住んでいるとも限らないでしょう」
などと言っても、お人よしの母は、うじうじ、
「でも、悪いから」
などという。私は聞いていて、どんどん機嫌が悪くなる。おまけに、
「あの葬儀のとき、司会進行の人がなんとなく親切でなかった気がするけど、金一封を包んであげるべきだったのかしら」
などと、どうでもいいような過去のことを後悔している。私は切れそうになり、
「何言ってるの、司会進行をするのは彼らの仕事でしょ!あれで十分だったじゃない。それに、葬儀代をウン百万も払って、何でそれ以上チップを払わないといけないの?バカなこと言わないで」
と母を叱った。
ある日、私がたまたま実家にいたとき、偶然、また営業が来た。例によって
「お線香を上げさせてください」
と言う。が、私は、ぬらくらした母に代わって、
「あの、もういくら来ていただいても、互助会には入りませんから」
と言った。
それだけで、もうそれ以降、誰も来なくなった。
ったく、お人よしで優柔不断は母を持つと苦労する。
ま、それだから、害がなく、敵が少なくて、誰からも好かれる母ではあるのだが。
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