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エリザベスカラーは、装着したままで買い取ることになった。万一のために点滴用のジョイントが前足に付けられたままなので、噛んで取っちゃうことを防ぐためにな。ジョイントとカラーを外したのは、翌朝の夕方だった。
この前庭障害で入院した時のブログも、大きな反響があったな。たくさんのお見舞いと励まし、退院の祝福の声をいただいてうれしかった。
退院後もしばらくは具合が悪かった。診せに連れて行ったこともある。
そして、ひとつ変わったことがある。
散歩が長くなった。以前はもっぱら走るばかりで、二十分ほどで帰っていたんだ。
それがとなりの町内まで行くようになって、まず距離が倍以上になった。
そして初めのうちは走るものの、あとは歩く 『散歩』 になったんだな。
後半は疲れて、ゆっくり歩きになるんだ。一歩一歩、口を開けてヨタヨタとな。
そうさせないために途中で引き返そうとしても、ブレーキがかかって 「行く!」 と。
こんな拒絶の姿もかつては見られなかったことだ。そしてにおいを嗅ぎながら、慎重に歩くようになった。
チッコの時以外にも立ち止まったり、ジグザグに歩いたり。それに伴って所要時間も大幅に伸びて、平均すると四十五分くらいに!この変化の理由を 『バウワウ』 の先生に尋ねたところ、
「病気をしてゆっくりと歩くことしか出来なかったことで、今まで走っていて見落としていた、場所ごとのにおいとかいろいろなことに気づいたのではないか。目覚めたのじゃないかな」
なるほど!一理あるなと思ったオレ。そうかもしれない。やるじゃないかフク。
転んでもタダでは起きないってことか?じっさい、散歩中も帰ってからも笑顔で元気だからな。過呼吸だったりへたり込んだりしているわけじゃないからな。
「入院の時の血液検査も正常だったから、心臓や腎臓が悪化したとか、急に老化が進んだとは考えにくい」
と先生。同感、同感。
フクがにおいを嗅ぐのは、その場所にいた犬のチッコが主だと思うんだけどーー
飼い犬が多いとなりの町内に行くようになって、改めてわかったことがある。
道端に残る犬痕跡を執拗にチェックするにもかかわらず、じっさいの 『犬そのもの』 にはまるで無関心なんだな。相手がすぐそこで吠えていても、道ですれ違っても見向きもしないんだ。初対面の犬でも、そうでない犬でも同じ。「なんだ犬か」 とでも言いたげに、いつも視線をそらすフク。その徹底ぶりにいつもおどろかされるオレ。
犬が嫌いらしい。トラウマがあるのかもな。
退院後のフクには今でも、前庭障害のダメージか?と思われるものはある。
撫でている時に、首が左側にねじれていってしまうことがある。
立ち上がってブルブルッ!と身体を揺らす時、腰砕けになることが増えた。でもそれらは、フクの日常生活にとって障害というほどのものではない。
じつは退院してしばらくの間、ドッグフードを食べなくなったんだ。缶詰も食べない。おやつのササミくらいしか食べない時があって、焦った。
「主食を摂らないんじゃ、身体が持たんぞフク」
そこで妻が、野菜やお肉を買い込んでーー 『日替わり』 で専用食を作ったんだな。
今までもっぱらドッグフードだったフクにとっては、まさに 『怪我の功名』
うれしそうに食べるフク!それを見た妻も笑顔!
やがてフクは元通りにドッグフードを食べるようになった。
それでも妻の手料理は現在も継続中でな。夕食にフクは毎日それを味わえるってわけさ。
「やったな!フク」
フクは正確な歳がわからないけれど、今年で十四歳くらいだろう。
年齢の割に若いと思う。
「うちに来て三年は寿命が延びたな」 と、妻と話している。
この調子だと、まだまだいけそうだ。
いつかは 『フクがいなくなる』 という現実を、今は想像出来ないんだな。
これからもフクと共に歩みたい。
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ブログのあとがき
去る8/31の回に 『本書のあとがき』 はUPしたのでね。
ここでは全文掲載を終えた今現在のあとがきを。
もともとは 大手出版社からの出版を夢見て書き始めた 『ここにおれフク』
なかなか他にはない内容のノンフィクションなこと。
主人公の犬が今現在も元気に生きていることで、ハッピーエンドなこと。
それで読んだ人も、元気になってくれるんじゃないか?
書き上げて自分なりの手ごたえは感じられたものの、さて出版。 どんな方法で?
犬エッセイの公募はない。 出版社に原稿を送ったところで、門前払いだろう。
自費出版? 読者のあてもないのに、何十万円もかけられない。
でも フクのことを本にしてやりたい。 元気なうちに、なんとしても一冊の本にして!
この手でページをめくってみたい。
そんなわけで出来た本は、当初の想いにほど遠い 手作り文庫本。
一冊ずつ、プリンターでの印刷。 量産ともほど遠い ほぼ限定本。
書店に他の本に交じって並べられたい。 たくさんの人に、懸命に生きているフクの存在を知ってほしい。
そんな気持ちのままに、まずはこうして ブログに全文を掲載したことでね。 微力ながら、読者を増やすことが出来るかもってな。 だってブログは本人が消さない限り、ずっと残るそうじゃないの。
フクはオレに出会うまで名前も付けられず、十年くらいは繋がれっぱなしの毎日だったらしいんだな。
不遇な犬だったんだ。 でも うちに来て変わった。本来の笑顔を取り戻した。これはそうなるまでの物語だ。
もし今オレが当時のフクに出会ったなら、こう言い放ってやるところだ。 いや、オレじゃなくても言うかな?
『シアワセ10倍返しだ!!』
『倍返し』 くらいは出来たかな?
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エッセイ「ここにおれフク」
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沈んだ気持ちで帰宅したけれどな。じきに気を取り直して、「夕方にまた行こう」 と思ったんだ。今度はフクが好きな
『おかかごはん』 をお粥にして持って行った。けれども、容器からよそって差し出しても食べん。死んだような生気のない目をして、顔をそむけてしまう。それでオレはフクに語りかけた。
「フク大丈夫だ。オレはちゃんといるぞ。元気になれ!早く帰って来い!」
顔を近づけて、何度も何度も名前を呼んで。頭や身体を撫でまわして。必死だった。
そうしたら、少しずつ表情が出て来て!四つ足に立ち上がって、しっぽを少し振って!
それを見た看護師のおねえさんが、「これをあげてみてください」
ゆでた鶏肉をほぐしたのを手渡ししてくれたんだな。フクの口元に持っていったら、ガツガツガツッ!って食べた!ここ何日か何も口にしなかったのが、目の前でーー。
「やったなフク!えらいぞ」
五月四日の朝食以来だった。長かった・・・。 その後、お粥もちょっとだけ食べた。お肉の方がよかったか?
「それじゃ明日は、ゆでたササミを持って来てやるからな」 そう約束して帰宅。
翌九日。朝走ってから、ササミとゆで汁を持って 『バウワウ』 へ。それをフクは平らげた。
「やった!」 診察室の先生に興奮して報告すると、
「今食べたものを吐いて戻さなければ、今日の夕方に退院していいでしょう」
「ほんとですか!」
そして夕方、フクを帰宅させたんだ。五日間の入院だった。
「フクよくがんばったな!えらいぞ。死ななくてありがとうな」
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ゴールデンウィーク中は六日、七日と休診日で、入れないことになっている。
フクに会えるのは八日の朝だ。それまでどう過ごすか、妻と話し合った。
オレは言った。
「これはフクがくれた休日だと思おう」 と。
病院でフクが病と闘っている姿は目に浮かぶけれど、ここは気持ちを切り替えよう。
ふだんは夕方の散歩があるから、それまでに帰宅しなきゃいけない。
それが今はフクがいないから、『門限』 がないわけだ、わかるか。
今まで行きたくても行けなかったところへ行こうじゃないか、とな。
それで六日はオレ、まず早朝ひとりで散歩コースを走ってな。朝食後に、岐阜県の 『道の駅』 にツーリングに出かけた。妻は朝から、名古屋の実家へ遊びに行った。
オレも午後バイクでそのまま妻の実家へ行って、夕方フウコを散歩させたんだ。
いつもならばフクを散歩させている時間。したくても出来ないことだったんだな。
そのあと、遊園地のメリーゴーランドに乗った。実家のすぐ近くにありながら、妻も初めてということだった。
それで夜、妻はクルマ。オレはバイクで帰って来た。
『バウワウ』 からの電話はなかった。フクは無事らしいな。
「日ごとに良くなるって話だったから、今日より明日の方が悪化するとは思えんよな。
きょう大丈夫だったってことは、明日もきっといいよな」 とオレ。
「それじゃ明日は、遠くに行こう!」
早朝に走ったあと、クルマで一路長野県の開田高原へ。妻と木曽馬に乗って来た!
本物の馬の身体はあたたかく、オレはそれだけで感動したな。
そして山を越えて、飛騨高山へ。来たくても来られないところだった。古い街並みを歩き、妻に飛騨刺子のショルダーを買った。オレも、その時に見染めた飛騨家具の椅子を、後日手に入れた。
そして帰り道沿いにあった温泉に入り、のんびりしてから夜中に帰宅した。
この日も幸い、電話はかからなかった。
こうして 『フクがくれた休日』 を、二人は満喫したのだった。
そして八日の朝。早朝に走ってから、九時すぎに妻と 『バウワウ』 へ。
もしかしたら、今日退院ってことはないだろうか?そんな淡い期待は一目で消し飛んだ!
フク、全然ダメ。無表情で、目がトロンとしている。
オレが呼びかけても、頭を撫でても顔をそむけちゃってな。しっぽも振らん。
オレだとわかったのかな?フクじゃないみたいだ。
「何だかスネたようになっちゃってね」 と先生。相変わらず水も食べ物も受けつけていないとのこと。
点滴で栄養補給をしているものの、それには限界があるそうでな。そうだろうなぁ。
「自分の口から水を飲んでくれないとね」
吐くのは止まった。チッコはケージの中にしていると。ウン○はしていないと。
きっと食べていないから出ないんだな。
ショックだった。これは重症だぞ。いつまでもずっとこうだったらどうしよう。費用だって、十万とかになっちゃったらどうしよう・・・。
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『バウワウ』 に到着すると、ケージの中でチッコしていた。
待合室にいる間にまた吐いて。診察室でも吐いたからな。通算で何と十回も!
もう脱水状態だろう。その間、食べ物も水も口に入れていないんだから・・・。
診察が始まると、すぐに5本くらい注射を打たれたな。抗生剤や栄養剤。それからめまいを抑える薬。
血液検査もして、こちらは幸い異常なし。内臓器官がヤラレていないことは、嬉しい誤算だったわ。不幸中の幸い。
診断は、前庭障害にまちがいないと。耳の病気で、老犬が突然にかかりやすいんだと。
五〜六日でめまいも治まって、目も正常に戻ります、と。眼振もなくなるって。
でもその間 『飲まず食わず』 になるので、体力が消耗して死んでしまうことがあると。
「これはもう入院させないと危ない状態ですけど、一日一万円ほどの費用がかかります。一週間くらいはみてもらった方がいいでしょう。どうされますか?」 と訊かれたんだ。
そう言われてもなぁオイ。水も飲まない犬を連れ帰ったところで、見す見す死なせるようなものだろう?
檻での生活は、マムシで入院した時でもうたくさんだと思ったがな。痛々しくても入院させれば、点滴で治療薬や水分補給などの処置が受けられる。病院が先生の自宅にもなっていて、
「診察が休みの時でも目を配っていますから」 と言われるんだな。
ずっと在宅で世話を!飼い主にとって、こんなありがたい病院はないわ。
ここは入院しかないだろう?おまかせするしかないだろうとな。
かくして前年の秋以来の入院患者となったフク。再びカラーを着けられてな。
発病に気づいたのが当日で、翌日の朝に病院へ連れて行ったわけだ。
すぐに応急処置をしてもらって、そのまま入院ーー。
今振り返ると、何て幸運だったのだろうと思う。 『最短』 で処置したわけだもんな。
「何かあったらお電話します」 と先生。
『何か』 とは、良くない知らせだろう?電話が来ないことを願って、フクを預けて来た。
最善の選択をしたのだから、あとは信頼しておまかせしよう、と。
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五月に入って早々、大変な出来事があった。
フクが突然の 『前庭障害』 で倒れてしまったんだ。
この病気も名前も知らなかったオレは、最初何が起こったのかわからなかった。
夕方四時頃だった。いつもは帰宅すると玄関のケージから出て来るのに、この日はなかなか出ない。
おかしいな?と思っていたら立ち上がって、わずかにしっぽを振って。
そのあと歩きかけて、足がもつれて歩けない。再度試みるも、ふらついて倒れて!
「どうしたんだフク!」
やがて食べたものをケージの中に吐いてな。しばらくしてから、二度目。
掃除しながら、食当たりかと思った。でも首が左側に傾いたままになっちゃって!
これは変だ。
そのうちに目をしばたたせ始めて。チックの状態。視神経までたのみの 『バウワウ』、ゴールデンウィークでやっていない。こんな時に限ってなぁ。
結局その夜、合計八回も吐いたんだ。もう、黄色い胃液しか出ない。
口が渇くのだろう。気がつくと洗面器がある玄関に向かって、ヨロヨロと必死で歩いて行くところでな。途中の台所でまた吐いて。水を飲んだら直後に吐いて。
ーー これはいかん。死んでしまう!どうしたらいいんだ。一体何が起きたんだ?
妻とつきっきりで見守りながら、
「今夜が山かもしれんなぁ」
きのうまで、いや今朝まで何ともなかったのに。
いきなりの展開に、思考がついて行かない。満足に眠れないまま、一夜が明けてな。
「フクは?」
と玄関を見ると、ケージの中で意識もうろうとした感じでたたずんでいる。
「おお、生きてる!」
フクは一睡もしていないかもしれん。そんなフクを見つめながら、ふと思った。
その日は日曜日。 『バウワウ』 ふだんは午前中だけやっているんだな。連休中だけれど、もしかしたらやっているかもしれん。
そう思ってクルマで見に行くと、予想的中!やった!神は見捨てていなかった!
受付で症状を説明するとーー
「それは今、めまいが起きています。世界中が頭の中で回っている状態です」
なるほど、めまいか。クルマ酔いの激しいようなものだな?それなら納得出来るわ。
歩けないことも、食欲がないことも、食べた物を戻すことも。
「何とかして連れて来てください」 と言われ、さてどうやってフク号に乗せようか。
帰宅して、妻と知恵をしぼった。初めてのことだけれど、ハウスケージにフクを入れて、二人で左右を持ってクルマに乗せようということになった。
最初はうまくいかなかったけれど、フクを中に誘導してチャックを閉めることに成功!
こうして 『バウワウ』 に連れて行けたんだな。ハウスケージを買っておいてよかったなぁ。
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