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新聞に載らない内緒話

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新聞に載らない内緒話

【桜の由来】


 まだ巨人の練習場が多摩川にあった頃、Yさんというグラウンドキーパーがいた。

いつも地下足袋、カーキ色の汚れた作業服上下で、帽子のツバはよれよれだったが、

正面のYGマークの橙(だいだい)は妙に鮮やかだった。



 無精ひげと赤ら顔の働き者で、

例えば長嶋さんが早朝に堤をランニングするときはすでにグラウンドにいたし、

台風の直撃で河川敷のグラウンドが水没したときは、駆けつけた藤田監督が呆然と立ちつくす中、

「大丈夫でさぁ。ちょいと時間をくれれば元通りにしてみせますよ」と胸を張って見せた。

不届き者が夜間、グラウンドに忍び込みマウンド周辺に汚物をまき散らしたときは本気で泣いて

怒って見せたし、外野を彩る雑草はまるで芝生のようで、

春先に顔を出したタンポポは踏まれてはかわいそうとシャベルでフェンス脇に除けた。



 練習のない日は川縁の流木や、枯れ木などを拾って歩き、まとまると荒縄でまとめ薪とし、

ダッグアウト裏に雨風が当たらないよう積み上げた。

ある時、この薪を盗もうとした人間がおり、

これを目撃したYさんはまるで獲物を見つけた猟犬のごとく飛び出して取り戻した。

あまりの敏捷さに驚いた長嶋さんが金一封を出したという「伝説」が残った。



 1月の自主トレ、2月1日のキャンプイン当日など巨人はこの多摩川で調整練習を行った。

河川の、文字通り寒風吹きすさぶ環境で、唯一の暖房といえばドラム缶におこした焚き火で、

Yさんが集めた薪が燃料だった。

練習が終わり選手達が引き上げるとYさんはドラム缶の底に残った灰を丁寧に集めた。



 さて、桜の季節になった。3月は雑用に追われ、花見に行くことが出来なかった。

グラウンド脇の多摩堤もまた桜の名所である。

4月始め、やっと時間がとれてサイクリングがてらここを訪れた。

夜来の雨で桃色はやや薄れてはいたが、桜は青葉を彩りに陽光の中にあった。



 「Yさん、焚き火の灰を集めてね、肥料にしてたんですよ。アルカリ性だって。

桜の木の下に撒いてましたね。今年もきれいに咲きました」



 そう教えてくれたのはグラウンド脇のおでん屋のご主人だった。

店先の日だまり、猫がニャーとないた。

Yさんは独身のまま、若くして亡くなっている。




 恋知らぬ 猫のふり也 球あそび (正岡子規「筆まかせ」)  


新聞に載らない内緒話

久しぶりなので、内緒話も一気に2本アップします。

【白球の背景】

 その小さな記事を読んで思わず首をひねった。18日付の日刊スポーツ。再録してみたい。


 「韓国政府は、WBC準決勝に進んだ韓国代表選手11人の兵役免除を決定した。

崔煕渉内野手(ドジャース)金善宇投手(ロッキーズ)呉昇桓投手(サムスン)

金泰均内野手(ハンファ)らが、特例措置の対象になった」



 韓国に2度惜敗した日本は、米国がメキシコに敗れ僅か0・01差という失点率で準決勝に

駒を進めた。これが17日、韓国と3度目の対決が決まった日で、韓国政府が前述の特例、

「兵役免除」を決めた日でもある。



 兵役免除はベスト4進出を決めたから、というのがその理由だろうが、

注目の日本戦を前にこの決定はいささか早急であったような気がする。

本紙・趙海衍通信員は「兵役特例とは、軍隊基礎訓練4週間をもって、

現役服務2年を代替する制度である。

もともと法律上の兵役特例対象は、五輪3位およびアジア大会1位以上の者であり、

今回の措置は文字通り『特例』である」と原稿を寄せている。

結果的に韓国は準決勝で日本に敗れた。



 国の期待を背負ってプレーをする。

これが「建前」とすれば、プレーをした結果の兵役免除はいかにも個人的な「本音」のような気がする。

建前と本音がうまくバランスを取って韓国代表の快進撃があった、とみる。

兵役免除という安堵感が選手達のプレーに対する矛先をいささか鈍らせはしなかったか。

特例決定は韓国が世界一を達成してからでも遅くはなかったような気がする。



 「平和慣れしている日本と違い、国土と民族が分断されていて、

いつ戦争が起きてもおかしくないような厳しい情勢が、今の若者の祖父の時代より

半世紀以上も続いている」と趙通信員の文章は続く。

日本も韓国も同じ白球を追う若者達ではあるが、グラウンドに登場するまでの経過、環境は全く異なる。

日韓以外の国でも同様だ。

スポーツライター、鉄矢多美子さんは

「例えばキューバ、ドミニカ共和国などの国は兵役(徴兵ではない)はありません。

失業者があふれるドミニカなど、むしろそうした制度があれば給料、

食事などが与えられるのでむしろラッキーに思うのではないでしょうか?

 ただし、スポーツを政治に利用するということは、多かれ少なかれどこにでもありますね。

キューバにはスポーツの育成システムが確立されていますが、ドミニカは、そうしたものはおろか、

ごく一部のお金持ちの特権階級による支配が顕著な国ですので、

下部のものは学校にも行けないというが現状で、育成システムどころではありません。

それにかわるものとしてはMLB30球団の野球アカデミーがあるくらいです」と教えてくれた。




 世界一は結果だが、勝った負けただけではないWBCの背景も心に刻んでおかなければならない。 


新聞に載らない内緒話

最近の更新といったらコレばっかりですが・・・(^^ゞ

【雄々しく生きよ】

 高校生の3月上旬は、期末試験のシーズンらしい。

17歳になる我が家の娘も、普段はアルバイトに忙しいが、

この時ばかりは部屋にこもって悪戦苦闘の体である。

昨年末、2学期の成績表をみたら、生物の成績欄が「2」だった。

10段階評価で「2」かと思い、「ウチの家系は理工系向きじゃないからな。しょうがない」

と慰めたら家人に怒られた。「2」は「2」でも100点満点中の2点である。

「どうやったらこんな点数が取れるんだ」とあきれかえった。

「とんでもない高度な授業で、零点もたくさんいるから」と娘はどこ吹く風。

机の上にダーウィンの「進化論」まであったが「これを読んでもだめか」

と思わず吹き出した。

さて、どんな先生なのだろう。



 3月7日付の新聞を読んでいたら、こんな記事にぶつかった。

期末試験前夜、自分の高校に忍び込み、試験問題を盗もうとした高校生3人が建造物侵入と

窃盗未遂で現行犯逮捕された、という。

6日の試験で赤点をとると留年の可能性があったとか。
「英語が苦手で単位が危なかった。自信がないので盗もうと思った」とコメントが載っていた。



 「ところで赤点なんて言葉、まだ生きているのだろうか」と同僚に聞いてみたが

「うーん、どうかねぇ。最近は聞かないねぇ」という返事。

記事には赤点という表現はあるが、高校生が自らの言葉で「赤点」とは言っていないようだ。

落第点というのが今風のような気がするが。

古い記憶では、赤点という制度は確か高校から適用されたような気がする。

「30点以下(25点説もあった)が赤点だった」と同僚は言うが、

私の高校は平均点の半分以下が赤点だった。

学校によって仕組みが違うのだろうか。

「アヒルになっちまうぜ」という表現もあった。

「2」という数字がアヒルの形に似ているから、10段階評価で「2」という意味である。

成績不振で「アヒルの行進」とよく笑われたっけ。



 高校時代、確か英語のテストだった。

「風と共に去りぬ」(Gone With The Wind)の原文が試験問題でどうにも解けない。

赤点を覚悟して答案用紙の余白に「Gone With The Failure in an Examination」
(落第と共に去りぬ=この英作文、正しいだろうか。また赤っ恥かな)と書いたら、

採点してくれた先生の書き込みが素晴らしかった。



 「スカーレット・オハラのように雄々しく生きなさい。失ったものを取り返せ」


  こんな先生もいたのである。





      (日刊スポーツ新聞社編集局・石井秀一編集局次長) 

新聞に載らない内緒話

【長生きって小じゃれてる】



 2月15日、元巨人監督・藤田元司さんの告別式が行われた。

現場記者時代、さんざんお世話になった監督だけに悲しみはひとしおである。

故人を偲ぶのはもちろんだが、斎場にはかつて取材した球界関係者、

ニュースを競い合った他社の記者などが顔を見せ、しばし思い出話に花を咲かせる。

集まった多くが現場を離れ管理職であったり、すでに定年を迎えていたりで、

一種同窓会のような風景。

不謹慎だが、葬儀に出席するということはそんな楽しみもあり、

まぁ、「年を重ねる」ということはそういうことなのだろうと思ってみたりもする。



 トリノ五輪真っ盛りである。

技術革新のおかげで遙かイタリアで行われている試合が終了後わずかな時間で記事と写真が届く。

昔ならば明け方午前3時のレースなど翌日の新聞に間に合うはずもなかったが、

おかげで(嫌々ではないが)こちら編集局も早朝まで対応に追われることになる。

スピードスケート女子500メートル。

岡崎朋美がわずか0・05秒差でメダルを逃した。

残念ではあったがレース内容は素晴らしかった。

新聞を作り終え、刷り上がった新聞を眺めながら、妙な満足感が残った。



  34歳。試合後どんな談話を発表するのか興味があった。年齢的に引退が取りざたされる。 

  「世界には30代で頑張っている人はたくさんいる」 

  まだまだ現役続行の意味である。


  94年リレハンメル五輪ではこう言った。 

  「悔いが残る。長野に向けて体力が続けば1年1年乗り越えて目指したい」



  98年長野。 

  「タイムにも無限の可能性がある。次を狙います」


  02年ソルトレークシティ。 

  「スケートは好きですし、できるならずっとやりたい」




 熱湯に少しづつ冷水が混じり込んでゆくような、言葉に柔らかさが出てきたような気がする。

「頑張っているひとはたくさんいる」。

そうなのだ。勝つばかりが五輪ではないし、世の中スポーツ選手ばかりが頑張っているわけではない。


 2月15日付日本経済新聞夕刊。

女優の桃井かおりさんがインタビューに答えて、こんな言葉を口にしている。


 「五十歳の誕生日にロケしてた学校の校庭で、できなかった逆上がりができた。

体ってすごいよね。

年齢を重ねてできるようになったことがもっとあるんじゃないかと思ったりして。

そう考えると長生きって小じゃれてる」




  長生きって小じゃれてる。いい言葉だ。 





(日刊スポーツ新聞社編集局・石井秀一編集局次長)







↓その他の内緒話はコチラから。
マイタウン8

新聞に載らない内緒話

【腰巻きとパンティ】



 キャンプ宿舎といえばホテル住まいが当たり前の時代になったが、

私が野球記者になりたての頃は旅館が担当記者の住処(すみか)だった。

巨人宮崎キャンプ、グラウンドがあるのは市街からタクシーで30分ほどの青島である。

かつてフェニックス・ハネムーンという言葉があり宮崎・青島は新婚旅行のメッカであった。

もっとも海外旅行が盛んになるとこの町はすっかり斜陽になった。

年に1回、巨人のキャンプで活気づき潤う、といった風だった。

 4人で取材チームを組む巨人担当だが、宿舎となった旅館の6畳間はキャップ格の先輩記者

が独占し、「兵隊」の私たちは10畳間に押し込まれる。男3人がキャンプ期間中の1ヶ月を

同じ部屋で過ごす。

ここに臨時電話と原稿を送るファックスが設置されており、新米の私は電話番である。

何しろ深夜まで東京の野球デスクは電話をかけてくるし、

ニュースを抜かれると朝っぱらから罵声を浴びる。



 この旅館に「おさきさん」と呼ばれる年配の女性(当時で60歳は超えていようかという)がいた。

男所帯にウジがわくではないが、なにせ殺伐とした毎日である。おさきさんは脱ぎ捨てたズボン、

ワイシャツから果てはパンツまで拾い集め、そして洗濯をしてくれた。

原稿の締め切り時間がいつも旅館の夕食時間とかち合った。

ふすまをあけて、小さな声で「ご飯の用意が・・・」と声をかけてはくれるが、

こちら男どもは原稿に必死で返事もしない。

それでも9時過ぎまでお櫃(おひつ)の前で待っていてくれて

「ご苦労だったねぇ」とご飯をよそってくれた。



 おさきさんの奇妙な習慣に気が付いたのは、キャンプが始まって10日ほどたってからだろうか。

毎日物干し場に洗濯物が(もちろん当方のパンツも混じっている)満艦飾となるのだが、

白一色の下着に混じって見るも鮮やかな紫の腰巻き、真っ赤なパンティが混じる。

「あのお婆ちゃんが身につけてるわけじゃ・・・」と男達はつまらぬ妄想たくましくする。

ところがひょんな事からこの腰巻きとパンティの謎が解けた。

青島にただ1軒、ストリップ劇場があり、何かの拍子に(そんな訳あるまいに)木戸をくぐった。


その踊り子を見て驚いた。


紫の腰巻きに真っ赤な・・・である。


「まさかあの踊り子は娘さん」と恐る恐るおさきさんに聞いたが

「ふふふ」と意味深な笑みを浮かべて答えてはくれなかった。



 キャンプも終わりに近づいた頃、お世話になったお礼に旅館でささやかな宴をひらいた。

 「強いばかりが男じゃないと いつか教えてくれた人・・・」

興ののったおさきさんは酔って、歌った。終戦直後に流行った「浅草の唄」だと後になって知った。



 東京の人であったのかも知れない。




(日刊スポーツ新聞社編集局・石井秀一編集局次長)





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