柏秦透心ぃズの屋根裏部屋

オリジナルノベルを中心とした、柏秦透心の趣味の夢工場♪

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第1話 予想ガイズな高校生活

 本格的に暖かくなって来た春。桜が舞っている城翔高校の正門で、ひそかに心の中である決意しているのは海澤なず、十五歳の少女だ。
 昨日この高校に入学式を終えたばかりの新入生だが、もともとこの城翔高校は男子校で今年から共学化して、なずはその第一期生になる。
 この高校を選んだのには、理由は一つだった。
 全国区レベルのテニス常勝チーム校。
 両親は趣味であるテニスに、幼い頃からなずを付き合せ、物心が付いたあたりにはもうラケットを手にしていた。純粋に好きで小・中に上がるにつれ、テニスに対する気持ちは格段強くなり、中学最後の大会ではダブルスで全国ベスト4に入った。
 去年の夏、この高校が共学化になることを聞いて、なずの決意は固まった。あの城翔でテニスが出来たら。あの城翔で指導してもらえれば。すごく胸が高鳴ったのを今でも覚えている。
 しかも第一期生。自分が女子のテニス部を作りたいと思った。


 昨日の帰り、グラウンドの方から聞き慣れた音が響いていた。
 無意識のうちに、音のする方へ足が動く。
「わー」
 城翔高校男子テニス部──昨日は入学式のため上級生は休みのはずで、他の部活はやってはいなかったのだが、さすがだとなずは見とれてしまった。
 名前は覚えていなかったけれど、テニス関連の雑誌で顔を見たことがある人もいた。
「早くやりたいなぁ……テニス」
 なずは見ていた。金網の向こうのコートで指導している人間が、自分の担任の谷屋先生だった。
 これはしめたと、さっそく朝の学活のあと、話を聞いてみることにした。
「3・4限は体育館で新入生歓迎会だ、遅れるなよ」
 クラスの自己紹介で、テニス経験者の女子はわずかに二人、いたわいたのだが。
「高校は、勉強に専念したいの」
 さらりと断れてしまった結果があった。
 まあ結構レベルのある学校だ。そういうこともある。
「あの、先生!」
 廊下に出たところで谷屋を呼び止めた。
「ああ! そういえば海澤、お前テニスで去年の全国中学校ベスト16なんだってなぁ」
「あ、はい! ダブルスの方が成績は良かったんですけど」
「昨日うちの部覗いてだろう。女子のテニス部、つくる気あるのか?」
「はい、そのために城翔に来たんです」
 そうかそうかと、谷屋は腕を組んだ。
「俺が顧問してやりたいんだが、女子部だしな。うちの副顧問してる隣りのクラスの上村先生あたってみろ。俺が話しといてやろう」「ホントですか? やったー! ありがとうございます」
 上村先生とは、名前が榛名とすごく美人な先生だった。ガタイの良い谷屋先生と並んだら、なんだかこれこそ美女と野獣に見えていた生徒も少なくはない。
 上村という先生は、なずが尋ねるともろ手を挙げて喜んだ。
「本当に? 良く言ってくれたわ。男女共にテニスの名門校にするわよ!」
 そんな浮かれていたなずと、気合い十分の上村先生だったが、部員集めは難航した。
 共学一期生だから女子自体がまだまだ少ない上、テニス部に所属してた子もまともなのが見つけられない。
 部活転向・勉強への集中などなど、一週間頑張ったけれど結局人を集めることができなかった。
「ま、しかたないよなぁ……」
 上村に言われなずが報告に行くと、谷屋先生は遅いお昼を食べていた。
 唸りながらちょっと考えたあと、谷屋はなずが驚くに値する提案を出したのだ。
「どうだ、こういうのは。うちの部のマネージャーをやらないか?」
 なずは一瞬聞き間違えたかと固まった。
「マ、マネージャー?! 私がですか?」
「そうだ。うちの部に“マネージャー”として海沢が入って、まあ雑事をやってもらわないことはないが、他の奴らと同じように指導もしてやる。全国トップレベルの技が拝み放題。おまけに俺の直指導付きだ。そこまで熱心なら、これで一年棒にふらなくてすむだろ? 女子テニス部を作れる見通しがつくまでは」
 担任はそこまでイッキに言ってから、余裕でタバコに火をつけていた。
「だっていいんですか? 私みたいなのが名門城翔テニス部のマネージャーなんて」
 今の状況では女テニは絶対無理だ。
 だが、こんな名門チームのマネージャーなど、務まる自信なんてものを持ち合わせていない。それに、だいたいにしてなずはテニスを“やる”のが専門でマネージャーなんかの経験もない。
 しかし目の前のその名門チームを率いている、当の顧問は言い切ってくれたのである。
「その眼がありゃあ十分」
 なずをやる気にさせるには、十分な一言だったみたい。
「私やる! やらせてください!」
「仮にも俺のクラスの生徒だ。そうこなくっちゃあな!」
 放課後、その日からさっそくなずは、あの城翔テニス部の練習に合流することになった。
「おい集まれ! 新しく入ったマネージャーを紹介するぞ」
 谷屋の声に、各自思い思いにウォーミングアップをしていたメンバー達が、一斉に集まって来た。
 さすが常勝校チームの貫禄と言える面々の視線がなずに集中し、気分は蛇の生殺しだ。
「い、一年、海澤なずです。よろしくお願いします!」
「かわい〜! なずちゃんだってなずちゃん! オレ地爪克美《ちづめかつみ》! カツでいいから、顔覚えてね」
「え」
 しょっぱなから、ハイテンションなノリが返って来た。最初の一声がそんなものだったので、なずは意外性によろけていたのだが、次は何やら一撃必中の言葉を食らった。
「女か」
 不機嫌そうな呟きに、なずはちくりとしたはずだが、緊張のあまり自覚はすっ飛んでしまっている。
「海澤は女子テニス部を作ろうとしたんだが、まあなにぶん共学第一期だからな。集まんなかったんだ。だから表向きマネージャーではあるが、お前らと同じ扱いでメンバーに迎え入れることにした」
「いいんじゃね? 華があって。部長はオレ、馬原歳哉《まばらとしや》」
 そう言って自分に親指を突き付けて前に出て来たひときわ貫禄のあるオーラを放つ先輩。
 どこかで顔を見たことがあるとなずは思った。
「副部長の蓮永宰《はすながつかさ》。よろしく」
 笑顔で自己紹介してくれたこちらの先輩も、なずは見覚えがあった。
「て、部長たち聞いてなかったんですかぁ?」
「あれ? 確か隣りのクラスの……」
「1年5組品木穣司《しなぎじょうじ》。お前、灰栖《かいせい》中の海澤だろ」
「そうだけど」
「なになにぃ〜? ジョージ知ってるのぉ?」
「なんだよジョージ。お前も隅に置けねぇなぁ」
 そう言って絡んだのは最初に声を掛けて来た地爪と、部長の馬原だ。
「違いますよ。地元近いんで」
「あー、えっと垣成《かきなり》中のドベジョージ?!」
「誰がドベだ!」
「だって垣中のみんながそう言ってたよ。花奈ちゃんとか」
 こちらは廊下でチラッと見かけて、どっかで見覚えあるとなずは思ってたけれど、やっと思い出した。
「あのなぁ〜」
「おいおい、練習始めるぞお前ら」
「う〜っス」
 谷屋は部長に任せて、職員室に戻っていってしまった。
 なずは、なんとなく一人気まずい気持ちを、今更ながら抱えていた。
「よし! コート軽く10周!」
 ここにいるメンバーに号令をかけてすぐ、馬原は踵を返してなずを振り向いた。
「なずマネ! お前も一緒に走れ。自分のペースでいいから」
「は、はい!」
 いきなり呼び捨てられてしまったなずは、なんだか味わったことのない気分だった。
「海澤さん」
 続け様、副部長の蓮永に声を掛けられる。
「あ、副部長。なずでいいです」
「僕も宰でいいよ。じゃあなずちゃん、あとでまたちゃんと顔合わせはするけど部員の紹介するね。部長の後ろの、カツはさっき最初に名前聞いたよね?」
「はい」
 宰にメンバーのことを聞きながら、なずはのろのろと走り始めた。
「その後ろが加藤勇人《かとうはやと》。背が高いから分かりやすいでしょ?」
「本当に背、高いですね」
 さっき「女か」って言った人物である。
「次が田中孝介《たなかこうすけ》。あれ?レオとヨージはまた休みか」
「ツカっちゃんになずちゃん、おっ先ぃ〜!」
 その時、先頭を走っていた地爪に、猛スピードで追い抜かれた。しかも後ろ向きだ。
 本当にすごいテンションの人だなという印象を、なずは受けていた。
「もう一人、神野礼音《かんのれお》っていうのがいて、三年はそれで全部」
 宰は、なんて言うか「美人さん」といった感じで、ある意味男にしとくのが勿体ない顔立ちだ。女のなずより、かわいいと言いたくなりそうな人種。
「じゃあ3年生は6人ですね」
「そういうことだね」
 部長の馬原先輩は、全国屈指の、「城翔の暴れ者」と称されている人だった。
 その名はテニススタイルはもとより、馬原先輩そのものを適格に表現していた。
「うらぁ! 遅刻したんだから俺に付き合えヨージ!」
 遅れて来た2年生の先輩に、馬原部長はすかさず絡みに行った。
「んじゃオレがヨージと組むかなあ」
「あぁ? 何言ってやがんだぁカツ? 昨日の勝負の続きなんだからオレがヨージと組むんだよ、な!」
 馬原はグッと勢いよく、ヨージという2年の後輩の首に腕を回した。
 痛そうだが逃げるに逃げられないヨージは、脂汗をだらだらと流している。
 そんな時、なずの後ろで誰かが呟いた。
「トシが……」
 振り向くと、宰がのろのろと馬原達の方へ歩み寄って行った。
「トシが……トシがそんなやつだったなんて」
 いきなり口許を押さえて今にも泣きそうな表情をしている。さも恋愛ドラマの修羅場のように……。
 それを部長はすかさず抱き締めた。
「バカだなぁ、宰。オレが宰以外眼中にあるわけないだろ?」
「な、何してんスか部長! 副部長も」
「あぁただのお遊びだから、放っときなジョージ。って、あぁあ」
 ドベジョージ以下1年生男子は一応反応はしていたけれど、なずは衝撃のあまり固まってしまっている。
「なずちゃんまで怯えてるよ? トシにツカっちゃん」
「ん?」
 きょとんと二人は振り返って、そのあとはコート一面が爆笑の渦と化す。
 何人かは耐え切れなくなってコートの上で笑い転げている。
 なずは事態の把握をし損ねていたが、笑い声にやっとで汗だくの放心状態から開放された。
「あーおっかしぃぜ。ジョージ赤くなってんぞ」
 当の部長はお腹を抱えてのた打ち回って笑っている一人となっていた。
「城翔テニス部名物、トシとツカっちゃんの『二人っきりの世界deショー』。で、新入部員がどう反応するかで、前々からの話題だったんだぁ。なずちゃんもジョージも、ナァイスリアクション!」
「ひ、ひどいですよぉ! 先輩たち」
思わず真っ赤になりながら抗議の声を上げたけれど、内心「いいな」と思っていた。
 まだ今日が初めてなのに。
「ははは、わりぃわりぃ。いつおっ始めるかと思ってよ」
「いつもこんなことばっかりしてるわけじゃないんだよ?」
 入部初日、なずの新しいテニスライフが、こうして始まった。

           ...続く


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