|
宇奈月を出た私たちは、北陸道を金沢方面へと向かいました。
黒部から金沢までは100キロあるかないかぐらいで、道中も渋滞もなくスムーズに進み、私たちは3時には金沢の街に着いていました。
金沢という街は実に現代と古来の雰囲気がうまく調和したところだなあというのが最初の感想でした。
インターを降りるとそこは小京都という言葉が似つかわしくないほどに整備された4車線の道路で、路肩には全国チェーンの飲食店が立ち並ぶ、いわゆる地方都市の様相を呈していました。
しかしその景色は金沢を代表する場所でもある兼六園に近づくにつれて少しずつ変貌を遂げていきます。
道の脇には和風な作りの建物が目立つようになり、大きな暖簾もちらほらと見受けられるようになってきます。
そして街の中心部を流れる浅野川にかかる浅野川大橋に差し掛かるとそこは、いつかガイドブックで、あるいはテレビの一場面で見た、あの川岸に並ぶ茶屋と川の風景になるのです。
私は橋を渡る際に思わず、あー!ここだー! と叫んでしまい、嫁を驚かせてしまいました。
その直前に、おそらく昔好きだった人の実家であろう看板が見えたことによる気まずさもあり、声は余計にでかくなったものと思われます。
さて、私たちは茶屋町近くの駐車場を見つけて車を停め、とりあえずあたりをぶらぶらと散策してみました。
大通りは少し寂れた感じの商店街といった佇まいでしたが、一本通りを入って川の方に向かうと、そこは小京都と言うにふさわしい、実に情緒ある雰囲気の通りになりました。
さすが城下町だけあって通りは狭く(※城下町通りは敵の侵入を遅らせるため細くて複雑な作りになっている)、立ち並ぶお店のほとんどが木造でモダンな佇まいで、普段はほぼ小物屋さんなどには目もくれない私が、ある店ある店の戸をくぐり、ちょこまかと買い物をしてしまうほどでした。
私は手彫りのふくろう細工にあすなろの葉を入れて作られたストラップと、蒔絵に使われる金細工を戦国武将のかぶとの形に加工したシールを購入し、シールに関しては余分に買って、GW後半に会う横浜の武将大好きな甥っ子たちへのお土産としました。
そこから更に川の方角へ向かうと、そこはほの暗い狭い路地と純和風な建物たちが織りなす、まるで映画のワンシーンのような光景でした。
ちょうど古本市が開催されていたために通りには沢山の古本が並び、そしてその周りにはお客さんの人垣が出来上がり、ただでさえ狭い路地が、通るのもやっとという状態になっていました。
ですが、本を売る人、それを買い求める人、そしてその風景を見る人すべてが、楽しそうに穏やかな笑顔を浮かべていました。
古本市の通りを抜けるとそこは『くらがり坂』と呼ばれる一角で、言われてみれば確かにその一帯は他の路地に比べて蒼色が濃く、全体が少し落ち着いた湿り気を孕んでいるようでした。
くらがり坂をかすめてそのまま歩を進めると、道はつづら織りとなり、その先にはこの心ときめく迷宮の出口が見えてきました。
茶屋と小物屋の間から川沿いに出ると視界は一気に開け、今までうす暗さに慣らされていた網膜が明順応するまでのわずかな間、それはまるで夢の狭間から現実へと放り出されたような感覚に陥りました。
そこは主計町(かずえまち)茶屋街、浅野川のほとりに続く並木とともに立ち並ぶ小京都を代表する光景でした。
私たちは立ち並ぶ落ち着いた建物と流れる川の作る風景の美しさに息をのみながら、なんて素敵なところだと口々に言いつつ、ゆっくりとゆっくりと、川沿いの道を散策しました。
そして気がつけば時刻は4時半、ホテルのチェックインが6時ということもあり、私たちは後ろ髪をひかれながら金沢の街を後にしたのでした。
また絶対に来よう、今度は、せめて兼六園を見られるぐらいの時間的余裕をもって、と誓いながら。
金沢を出た私たちは、一路富山県は魚津市へと向かい、本日の宿泊先である <金太郎温泉 http://www.kintarouonsen.co.jp/>に着いたのは6時まであと少しというところでした。
部屋へと案内され、ふすまを開けた瞬間に飛び込んできたのは強烈なオレンジ色の光でした。
見ると、オーシャンビューの窓には日本海に沈まんとしている夕陽と、それに照らされて輝いている魚津の街が広がっていました。
部屋まで案内してくれた女中さんも、いい時にいらっしゃいましたねとおっしゃってくれ、写真を撮るなら今ですよと付け加えてくれました。
それではお言葉に甘えてということで、私たちは夢中で少しずつ水平線へと近づいていく太陽と、徐々に色を変えながら滲んでいく空を写真に収め続けました。
女中さんはその間中ずっとにこにこと見守ってくれ、私たちが夕焼けの写真を満足のゆくまで撮り終わるのを待ってから館内の説明をして下さいました。
そんな気遣いがすごく嬉しかったです。
説明を終えた女中さんが部屋を出た後、私も部屋を出てホテルの裏側の窓へ行き、残照に照らされた立山連峰の写真を何枚か撮り、それから7時の夕食まで時間があったのでゆっくりと温泉に浸かりました。
ちょうど宿泊客のほとんどが夕食の時間だったようで広大なお風呂場はほぼ貸し切り状態で、たいへん贅沢な時間を過ごさせてもらいました。
なお温泉は強めの硫黄泉で、浴室に入った瞬間は思わず顔をしかめてしまうほどの硫黄のにおいを感じますがすぐに慣れ、ぬるめのお湯にいつまでも浸かっていたくなるような素晴らしい温泉でした。
さて、その後はお楽しみの夕食なのですが、ここのお料理も木の芽坂さんに負けず劣らずの美味しさでした。
高級感のせいか品数が多めで量は少なめになっていて、量より質で勝負しているのがはっきりと解りました。
特に美味しかったのが富山名物の白エビを使った炊き込みご飯で、エビの香ばしさと甘みがこれでもかというほど凝縮された一品で、本気でもうひと釜おかわりさせてもらえないかとお願いしたくなりました。
私たちは金沢の街を結構な距離歩いていたのでそれなりに疲れており、日付けが変わる前にはぐっすりと眠ってしまいました。
そして朝は少しゆっくり7時半に置き、美味しい朝ごはんを食べて帰り支度を整え、ホテルを後にした時には9時半を少し回っていました。
旅行最終日の計画は、福島へ戻る途中で喜多方に立ち寄り、遅めのお昼と満開の桜を背景にしてSLばんえつ物語号を撮ることでした。
この楽しかった旅もあと少しで終わってしまうのかと思うと、ちょっとだけさびしく感じました。
ホテルの玄関を出ると、快晴の空と真っ青な日本海が、また来いよと言ってくれているようでした。
きっとまた来ると思います。
富山、大好きになりました。
|
全体表示
[ リスト ]



