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私は、人と話をするのが好きです。
人の話を聞くのも好きですし、人にアドバイスをするのも好きです。
そういった理由からなのか、私は若い時分からよく知人の相談相手になってきました。
その相手は、ほとんどが女性です。
彼氏がどうだとか、今好きな人がいてだとか、会社での人間関係や仕事の進め方だとか…。
そのほとんどが恋愛がらみの内容だったのですが、そのたびに私は思っていました。
なぜ、その対象が冗談でも私ではないのだ、と。
そんなこんなで、私は若いながらも少ない人生経験の中からなるべく解決に向かうようなアドバイスをして、時には甘えている人に対して辛辣な言葉で叱咤したりもしました。
その結果、やっぱりウォッチさんに相談して良かったと言ってくれる人が多かったのですが、中には辛辣な言葉だけを記憶してしまい、あいつは私が悩んでいるのに厳しい言葉でこき下ろしてきた、などという悪評が流れてしまうこともありました。
そんな女性の悩み相談につきものなのが、涙です。
いつも強がって無理して、頑張って生きている女の人は、決して弱みに付け込みません、人畜無害ですというのを売りにしていた当時の私に相談をすることで、少しずつ話をしていくうに心がほぐれるのでしょうか、最初はなかなか本心を話さないのですが、徐々に心の扉を開き、そして今まで無理をしていたことを再認識させてあげると、感情が抑えきれなくなって自然と涙があふれてくるようでした。
今、私と一緒に働いている派遣社員のKさんという、結婚して1年足らずの女性が、悩みを抱えています。
その主な内容は、同居している義理のお母さんとの関係が上手くいかないというものです。
私は昔と変わらず今でも人畜無害を売りにしていて、何か悩みがあったら話を聞くからねと同じ部署の人たちにも話をしています。
そこでKさんと、ちょっとしたきっかけから互いの家庭の話になり、ここ数カ月ほど同居はめんどくさいんです、などという話をぽつぽつと聞いてあげたりしていましたが、ここ1カ月ほどは特に愚痴をこぼしませんでした。
そして1週間ほど前から、明らかにKさんの様子がおかしくなりました。
いつもにこにこしている人なのに、笑顔が消えて、ふさぎがちになってしまったのです。
もしかして、何かあったのではなかろうかと思っていたら、向こうから昼休みに話しかけてきました。
「ここ最近、すごく義母との関係がおかしくて、私が作った料理を食べてもらえないんです…。」
なるほど、と思いました。
きっと、今までもずっとそういうことがあったのに、我慢してごまかしてきたんだな、と。
すごく実直な女性で、普段の仕事でも少し無理をして頑張ってしまう人のため、私は家でも無理に笑顔を作って自分をごまかしてしまっていたのだろうと直感しました。
ですので、私はとにかく黙って話を聞いてあげました。
お義母さんは、食事の際にも自分以外の家族しか知らない話題ばかりを家族と話し、自分がその話についていけないのを楽しんでいるみたいだ、とか、自分の実家が農家で、そこから私が貰ってきた野菜には手を着けずに、同じ野菜をスーパーから買ってきて食べている、など。
いかにも陰湿でプライドの高いばあさんがやりそうな手口だと思いながら聞いていました。
Kさんがひととおり話し終えてから、私は話を聞きながら考えていた解決策を話しました。
お義母さんはきっとプライドが高く、自分の大事な一人息子を奪われたと思っていて、全てが意識して嫌がらせをしているわけではなく、無意識でやってしまっている嫌がらせもあるのではないか、それにいちいち腹を立ててしまっていたのでは、マザコンの気がある旦那さんまでもを敵に回してしまいかねないよ。
そして、旦那さんを味方につける=お義母さんを敵に回すという構図になってしまうので、旦那さんをあからさまに味方につけるのではなく、旦那さんと二人だけの秘密を共有するなどして、連帯感を持って知らないうちに自分に協力してしまっているように仕向けるのもひとつの手段だよ。
などなど、親身になってアドバイスをしました。
そして、
「本当に今までよく頑張ったよね、えらいね、でも、その頑張りは絶対に無駄なんかじゃないからね。」
と言った瞬間でした。
Kさんの大きな瞳からぽろりと涙がこぼれ落ち、そしてそれは留まる事を知らずいくつもの軌跡となって頬を伝っていきました。
どうやらKさんは今まで自分が強がっていたことや、誰にも頑張りを認めてもらえなかったことに気付いたのでしょう、感情に抑制がきかなくなり、大粒の涙と共に体の中から想いを言葉に乗せて大きな声で吐き出していました。
その言葉は嗚咽にところどころ遮られ、細切れになりながら、必死で私に意味を伝えるのがやっとでした。
「私っ、今っ! 家、家の中でっ! 全然、居場所がなくて! ずっと寂しくて! つ、辛くてっ! うわあああ!」
それは嗚咽を超えて、感情の渦に飲み込まれたかのような大声でKさんは泣きながら言葉を紡いでいました。
私はこういう場面を何度も見て来ていたので、全く動じずに、静かにただ感情が収まるのを待ちました。
そして、その泣き声に気付いた何人かのおばちゃん達が隣の部屋から集まってきました。
「Kちゃん、どうしたの!」
泣きじゃくり、ほとんど何も喋れない様子のKさんを見て、おばちゃん達は
「ウォッチさん! アンタ、何やったの!」
「!! いや、俺は何もやっ」
「ちょっと、Kちゃん、ウォッチさんに何されたの!」
それに対してKさんは必至で
「ウォッチさんがっ!(悪いんじゃないの) ウォッチさんがぁっ!(悪いんじゃないの)」
と、後半部分を言葉にできないまま、口に手を当てつつ私を軽く指差してぶんぶんと首を振りながら連呼するものだから、20代の女性に何かセクハラまがいなことをしておいて、自分は悪くないと平気でのたまう37歳のおっさんという構図が即座に完成。
騒然となるおばちゃん達に対して必死で無実を主張するものの、何か汚いものを見るような視線が刺さりました。
結果、しばらくして落ち着いてちゃんと喋れるようになったKさんが事情を説明するまで、私は若妻に手を出したセクハラ野郎と思われ続け、ひどく肩身の狭い思いをし続けたのでした。
●ウォッチタワーさんのお悩みです
良かれと思ってやったことが裏目に出るのが私の人生なら、
最初から誰かの嬉しさために何かをしてあげようとは思わない方がよいのですか?
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