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今日から、仕事始め。
という訳(?)で、今年もガンガン、小説をアップするぞ
とうい決意の下、只今、「ムーンライトノベルズ」さんに連載中の小説の冒頭をアップさせて頂きます
なぜ陽を受けた髪が赤味を帯びた金色に輝くのか、瞳の色が空色なのか、肌が雪のように真っ白なのか、三歳の 楓・オハラ には分からなかった。
けれどもそのことで同じ保育園に通う一部の園児達からからかわれたり、意地悪をされたりしているのだということだけは理解出来た。
だから日焼け止めを片手に腕を取ろうとした保育士、安田 の手を楓は思い切り振り払った。
「いや!」
普段大人しくて無口な楓が癇癪を起こしたように大きな声で叫びながらの荒々しい所作に、安田が面差しに驚きを作る。
「どうしたの、楓君」
「塗らないの!」
「塗らないって……」
「みんなと同じになるの!」
いじめと呼ぶほどの大袈裟なものではない。
だが同じすみれ組の男子に、容姿の違いをからかうことを何度か注意したことのある安田は、瞬時に楓の言動の意味を理解したのだろう。
目の前の面差しから驚きが消えたかと思うと、すぐさま困惑の色が広がった。
「日焼け止めを塗らなくても、楓君は皆と同じにはならないわよ」
憐憫を感じさせる声音が悲しくて、風景が涙の膜で滲む。
そんな楓を憐れむような眼差しで、諭すように安田が言葉を綴る。
「楓君はお肌が弱いから、日焼け止め塗らないと痛くなってしまうでしょう」
安田の言葉に楓は自分の腕を見た。
七月も半ばだというのにライトグレーのチェックの長袖のスモックを着ているのは、窓から差し込む光りにさえ反応してしまう過敏な肌のせいだ。
その長めの袖の先から覗く手の甲は、まるで手袋をしているかのように真っ白だ。
なぜ自分ばかりがこんなにも白いのだろう。
手だけでなく足も顔も、瞳の色も髪の色も他の子供達から比べたら色が薄い。
重たく感じるほどのくっきりとした二重も、金色に輝く薄い眉毛も、皆が感嘆するほどの高い鼻も、何もかもが周りにいる子供達と違う。
日本国籍を得ているとはいえ、両親がアイルランドから移民してきた先祖を持つカナダ人なのだから容姿が異なることは仕方がない。
だが幼い楓には容姿の相違の原因を理解出来るはずもなく、その現実がただただ悲しくて涙が盛り上がった。
今にも涙を溢れさせそうな楓の様子に気付いたのか、安田の声音が丸みを帯びる。
「少し前も日焼け止めを塗り忘れて、お熱出してしまったでしょう」
雨空の日でも、楓は10時と15時に安田に顔や手足を重点的に全身に日焼け止めを塗布してもらっている。
その日、安田は休みだった。
連絡ミスだったのか朝も午後も、誰も楓に日焼け止めを塗布しなかった。
医薬品ということで日焼け止めは園の方で管理している。
勝手に楓が使用することは出来ない。
大人しい気質で人見知りの楓が、組を預かった園長に塗り忘れていることを伝えられるはずもなく、結果、夜発熱した。
特別長時間、外で日に当ったわけではない。
だが通常の外出で頭痛を起こし、炎症を起こしたように皮膚は赤くなり、発熱してしまうほど楓は日の光に弱い。
「だからね」
「いや!」
頭痛の痛みも、赤くなった皮膚の辛さも、発熱の苦しさも分かっている。
けれども他の子供達と同じになりたいという願いの方が強く、物理的に無理だと言われても安田の言葉を受け入れられず、触れようとした手を再び払いのけた。
「皆と同じになる!」
「どれだけお日様に当っても、楓君は皆と同じにはならないのよ」
同じにはならない。
どんなに日に当っても、どんなに願っても、自分は周囲の子供達のような肌色にも髪色にもならないのだろうか。
異質であり続けることが酷くショックで、見開いた瞳から蛇口が壊れたように涙が溢れ出す。
追いかけるようにして引き結んだ唇が綻び、悲しみの声が溢れ出す。
「どうしたの、楓!?」
楓のいるすみれ組から一番遠い場所にあるさくら組に席を置く 涼宮 大地 が、大きく名前を呼びながら室内に飛び込んできた。
大地は楓と同じマンションの隣同士で、兄弟のようにして育った。
来年小学校に入学する年長組の大地は、休み時間には欠かさず年少組の楓を訪ねてくる。
大地が傍にいる時は、同じ組の男子から肌の色や髪の色をからかわれることはない。
人見知りで引っ込み思案の楓にとって、四月に入園したばかりで未だ慣れていない園での生活の中、大地の存在は大きかった。
その大地の登場で、安堵する気持ちから泣き声が一際大きくなる。
意地悪をされても大きな声で泣くことなどない楓の号泣に、グリーンのノースリーブスモックを身につけた大地は、驚きの大きさを示すように戸口で立ち止まった。
細く柔らかな真っ直ぐの髪質の楓と違い、太くて硬い上に癖のある髪質の大地は楓と違い幼い頃から短髪だ。
男の子と思われたことがなく、気弱な気質を表しているかのような柔らかで儚げな面差しの楓と違い、目鼻立ちのくっきりとした大地の面差しは、強い気質を物語るように力強くはっきりとしている。
その面差しが号泣する楓の姿に驚きに開く。
だがすぐに我に返ったように面差しを引き締めると慌てた様子で駆け寄り、号泣する小さな身体を安田から庇うようにして抱き寄せた。
状況や理由は分からなくても、安田の言動で楓が泣いていることは理解したのだろう。
幼いながらも精悍だと言われる面差しに憤怒の色を浮かべ、強い拒絶を滲ませた眼差しを安田へと向ける。
敵意に満ちた面差しに、安田の口元に苦笑が浮かぶ。
「先生、意地悪をしたわけじゃないのよ。楓君ね、日焼け止めクリームを塗りたくないって言うの。日焼け止めを塗らないと大変なことになるの、大地君も知っているでしょう」
楓とは兄弟のような付き合いであるから肌の弱さも、日焼けによる弊害も大地はきちんと理解している。
だから安田の言葉に驚きを隠せなかったのだろう。
漆黒の瞳を見開くと腕の中で号泣する楓と僅かに距離を取り、頭一つ分大きい身体を丸めるようにして泣きじゃくる面差しを覗き込む。
「楓、どうして?」
「皆と同じ肌の色になりたいんですって」
優しい声音での問いかけに、ますます緩む涙腺に答えられない楓の代わりに、安田が悲しげな面持ちで言葉を綴った。
その言葉に酷くショックを受けたような面差しをした大地からも言葉が出ない。
「大ちゃんと……同じがいい……」
まだ幼く、たくさんの言葉を知らない。
けれども窓を閉めていても届く庭で遊ぶ子供達の嬌声が響く中、楓は懸命に心からの望みを口にした。
「同じに……なりたいの……」
色が真っ白で、お化けみたいだとからかわれるのが辛かった。
目の色が変だと言われ、煌きの違う髪を引っ張られるのが嫌だった。
だがそれよりも、楓は大地のようになりたかった。
太陽の下を自由に駆け回り、小麦色に日焼けした元気いっぱいの大地。
物怖じしない性格で常に人の輪の中心にあり、快活で闊達な大地は大人しい気質の楓の憧れだった。
そう、楓は大地のようになりたかった。
「大ちゃんと……同じに……」
自らの切望をうまく言葉に出来ず、泣きじゃくりながら同じ言葉を繰り返す楓に、目の前の面差しが今にも泣き出しそうに歪んだ。
二の腕をつかんでいた指先が、大切そうに流れ落ちる涙のせいで熱くなった白磁の頬に触れる。
「こんなにきれいなのに……」
揺れる声音で慈しむように頬に触れていた指が、窓から差し込む光りに金色に煌く髪に触れる。
「僕は楓の色、大好きだよ」
強く綴られた言葉に、楓は俯いていた面差しをゆっくりと上げた。
「だいす……き……?」
「うん!」
見上げる楓に向けて、大地が満面の笑みで大きく頷いた。
「綿飴みたいに真っ白な手も足も、はちみつ色の髪も、お空みたいな目も綺麗で大好きだよ!」
「ほん……と……?」
「うん」
「きらいじゃ……ない……?」
「うん。大好き!」
真夏の太陽にも負けないような鮮やかな笑みで力強く発せられた言葉に、止まりかけていた涙が再び溢れ出す。
周りの子と違う肌の色も瞳の色も髪の色も、楓は大嫌いだった。
その容姿を、大地は大好きだと言ってくれた。
綺麗で、大好きだと。
そのことがただただ嬉しくて、大嫌いな容姿が少しだけ好きになれたような気がした。
そう、楓にとって大地の言葉は絶対だ。
なぜそうなのかは幼い楓には分からない。
ただ格好良くて強い大地は楓にとって憧れでありヒーローだった。
両親と同じくらい好きで、他に比べようのない大切な存在。
この頃から楓は大地が、ただただ好きだった。
大好きな、フィギュアスケートのお話です。
BL扱いになっていますが、単なる青年の、スポーツ成長記録になっているような気も……
そんな中途半端なBL小説、『約束。』
ご興味を持たれた方は、ご一読の方、宜しくお願い致します
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