心の趣くままに

捨て猫、ミオッチ。ただいま密かにダイエット中!しかし変わらぬウエスト周りに、最近では、ゴン太と呼んでいます(^_^;)

小説家になろう

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以前、こちらのブログでも掲載させて頂いた、優希君&舞子ちゃんのお話、『大好き!』の続編です。
 
ありがたいことに、『小説家になろう』さんの方に、続編を望む声が寄せられまして……本当に、有難いお話です
 
中学生と言えば、部活動でしょう
 
ということで、部活動見学のお話です。
 
こんな感じで始まります
 
 


 
 
 

   俺は好きでもないやつと一緒に登下校したりしない。



 優希君にはこれまで、はっきりと好きと言われたことはない。

 だからこの台詞は、とてもとても嬉しかった。

 吉原さんに言われた言葉なんて、一瞬にしてどこかに吹き飛んでしまうくらいに。

 むしろこんな素敵な言葉を与えてくれるきっかけを作ってくれた吉原さんには、感謝したいくらいだった。



「なに締まりのない顔してるんだよ」



「えっ?」



 火曜日の放課後、部活動の見学をするため書道部へと向かい、優希君と並んで歩いていた私は、不快そうな声音に足を止めた。

 同じように足を止めた優希君の眉間には、しっかりとした皺が刻まれていた。

 その不愉快そうな面差しに、昨日の優希君の言葉にフワフワと舞い上がっていた気持ちが一気に地上へと降りてくる。



「……私?」



 自分を指差しながらの問いかけに、優希君の綺麗な面差しの中、眉間の皺がますます深くなる。



「他に誰がいるっていうんだよ」



「締まりのない顔……してた?」



「ああ。頭のネジが緩んだ、可哀想な子みたいな顔してた」



「頭のネジって……」



 まあ確かに、フワフワした気持ちに表情もフワフワしていたに違いない。

 だからといって、頭のネジが緩んだ可哀想な子って、優希君、あんまりなんじゃない!? という抗議の言葉は、勿論、口には出さない。

 だって、優希君の言っていることは正しいはずだから。

 そうか。

 頭のネジが緩んだ可哀想な顔していたのか、私。

 瞬間、昨日、吉原さんから投げかけられた言葉を思いだす。





   あなたみたいな背と胸ばっかり大きいばかな女に、優希君みたいな聡明な子、全然似合わない。





 きっと、そう思っているのは吉原さんだけではないだろう。

 優希君を好きだと思う女の子は、みんな思っているはず。

 好きな子だけじゃない。

 きっと舞子と優希君を知っている人は、みんな思っているはずだ。



「ごめんね、優希君」



 頭が悪いことが何だかとっても申し訳なく思えて、泣きたい気持ちの謝罪に、優希君の眉間の皺が険しくなる。



「なにが?」



「舞子、ばかで」



 口にした途端、ますます泣きたい気持ちになった。

 ああ、何で舞子は、おばかなんだろう。

 もっともっと勉強して頭良くしないと、全然、全く優希君につり合わないよ。

 既に身長もつり合っていないんだし。

 せめて中身だけでもつり合うようにしないと。

 近い将来、きっと優希君に嫌われてしまう。

 思った瞬間、胸に走ったツキリとした痛みに、本気で涙が零れそうになった。

 そんな今にも号泣したい舞子の耳に、わざとらしいくらい深く長いため息が届いた。



「誰もそんなこと言っていない」



「でも……」



「それに、舞子はばかじゃない」



「ばかじゃ……ない?」



「ああ。素直で優しいだけだ」



 胸を張るようにして強く断言する優希君に、驚きに目を見開いた。

 舞子と違って、簡単に好きという言葉を口にしない優希君。

 だから不安だった。

 勿論、優希君の気持ちを疑っているわけじゃない。

 一生懸命勉強を教えてくれたり、お守りやオリジナルのスノードームをプレゼントしてくれたりと、言葉でもらう以上の愛情を感じたりもした。

 それでも、やっぱり不安だった。

 優希君が、舞子のことをどう思っているのか。

 何が良くて、一緒にいてくれるのか。

 そんな不安を、素直で優しいだけという一言が、完璧に払ってくれた。



「……優希君」



 祈るように胸元で指を組み、先程とは違う喜びの涙に瞳を震わせる舞子に、優希君の綺麗な顔がしまったというように開いたかと思うと、両頬にサッと赤が走った。



「ほら、行くぞ」



 怒ったような声音でプイと顔を逸らした優希君。

 その項も見事なまでに真っ赤かだ。



「うん!」



 怒りを滲ませたようなドカドカとした足取りで歩を進める優希君の背中に、大きく返事を返す。

 クールで無口で、喜怒哀楽をあまり表に出さない優希君。

 そんな優希君が、ふとした瞬間に見せる焦った顔や、戸惑う顔を見られるのが何よりも嬉しくて、思わず弾む足元に気持ちもホクホクとジャンプしてしまう。

 今、優希君が振り返ったら、また締まりのない顔をしてると言って、眉間に皺を作るんだろうな。

 そんな想像を巡らせることすら楽しくて、ムフムフしてしまう舞子の前で、優希君の足がピタリと止まった。



「着いたぞ」



 未だ怒気を感じさせるような声音に、振り返らないままの優希君が「書道部」と書かれた部室のドアを二度ノックする。

 室内からの「は〜い!」という軽やかな返事に「失礼します」ときっちりとした言葉を返し、入室する優希君に続いて室内へと足を踏み入れる。

 途端、喜びを滲ませた声音が耳に届いた。



「あっ、優希君だ!」



「えっ、優希君!? あっ、ほんとだ♪」



「なになに、優希君!?」



 畳の上に置かれた長テーブルの前で、半紙に向かっていた女の子たちがパッと華やいだ面差しで弾むような声音と共に次々と立ち上がる。



「優希君、書道部に入るの!?」



「ええ……まあ……検討中ということで……」



「検討なんかしてないで、入りなよ、入りなよ」



 満面の笑みでスカートの裾をはためかせ、駆けるようにして近づいてきた三人の女子は、いずれも三年生だ。

 優希君は同級生だけでなく、下級生や上級生の間でも人気がある。

 特に年上のお姉様方の間では「弟にしたい№1」として非常に人気がある。

 そのことは、十分理解していた。

 書道部だから、女子が多いんだろうなということも。

 でもまるで憧れのアイドルに遭遇した一団のようなキャッキャとした展開は、まるで予想していなくて、戸惑う優希君と同様、ただただビックリだった。

 っていうか、誰も私の存在に気付いてないみたいなんですけど!?

 170cm近くある舞子に気付かないなんて、これまたビックリなんですけど!?

 それくらい女の子達にとって、優希君の書道部への入部は想定外だということなんだろうな。

 それは、当然だ。

 舞子だって、優希君が書道部を考えてるなんて、ちっとも思っていなかったよ。

 それにしても、ちょっと騒ぎすぎなんじゃないかしら。

 いくら可愛い〜優希君が見学に来たからって、ここまで喜ぶもの?

 まあ、舞子が彼女達の立場だったら、飛び跳ねて喜んじゃうけど……それにしても、喜び過ぎだよね。

 頬を上気させ、あれこれと話しかける女の子達に、なぜか胃がムカムカとしてくる。

 お昼、食べ過ぎてないし。

 これって……やっぱり……。



「もう小笠原さんは、入部済みだよ」



「小笠原……さん?」



「そう。確か同じクラスだったよね。ね、小笠原さん」



 上級生の問いかけに、窓の近くに置かれた長テーブルを前に、筆を手にしたままの小笠原さんは、はにかんだような笑みを浮かべると小さく「はい」と返事をした。

  小笠原(おがさわら) 百合子(ゆりこ) さん。

 華族の流れを汲むというお家は、お金持ちが多いと言われる学園内でもトップクラスの裕福さだ。

 素晴らしいのは、家柄だけではない。

 テストの成績は、優希君と常にトップの座を争うほど頭もいい。

 そして何より素晴らしいのは容姿だ。

 舞子の茶色っぽい髪と違い、小笠原さんの髪はまるで墨で染めたように黒っくろで、艶っつやだ。

 黒目がちの大きな瞳も真っ黒で、同性の私から見ても惚れ惚れとするくらい綺麗。

 そんな髪や瞳の色と反比例するように肌は雪のように真っ白で、健康的と言えば聞こえのいい舞子の肌色とは大違い。

 そんなお人形のようなしっとりとした容姿に相応しく、控えめで大人しく優しい気質の小笠原さんは、男の子に大人気。

 舞子も以前、ハンカチを忘れた時、未使用のハンカチを貸してもらったことがある。

 そんなだから当然、女の子にも大人気だ。

 小笠原さんみたいに、美人で頭が良くって気立てが良かったら、どんなにいいだろうと思ったことは数知れず。

 多分、小笠原さんを知る女の子は、みんな一度や二度は思うんじゃないのかな。

 それくらい小笠原さんは、完璧スーパーお嬢様だ。



「小笠原、書道部にしたんだ」



「うん」



 そう言って返事をした小笠原さんの頬は、ほんのりと染まっていた。

 その桃色に染まった澄んだ頬に、私は理解した。

 瞬間、生まれて初めて抱いた嫉妬の感情に、心臓がグラリと揺れた気がした。




 
 
 本当に、久しぶりの舞子ちゃんなので、あのテンションで綴るのに、本当〜〜〜に苦労しました
 
 もともと、私はテンションが低いので
 
 そんな苦労の末の作品です。
 
 よろしかったら、ご一読の方、宜しくお願い致します

今日から仕事始め。

今日から、仕事始め。
 
という訳(?)で、今年もガンガン、小説をアップするぞ
 
とうい決意の下、只今、「ムーンライトノベルズ」さんに連載中の小説の冒頭をアップさせて頂きます
 
 
 
 
 


 
 なぜ陽を受けた髪が赤味を帯びた金色に輝くのか、瞳の色が空色なのか、肌が雪のように真っ白なのか、三歳の 楓・オハラ には分からなかった。
 
 けれどもそのことで同じ保育園に通う一部の園児達からからかわれたり、意地悪をされたりしているのだということだけは理解出来た。
 
 だから日焼け止めを片手に腕を取ろうとした保育士、安田 の手を楓は思い切り振り払った。
 
 
 
「いや!」
 
 
 
 普段大人しくて無口な楓が癇癪を起こしたように大きな声で叫びながらの荒々しい所作に、安田が面差しに驚きを作る。
 
 
 
「どうしたの、楓君」
 
 
 
「塗らないの!」
 
 
 
「塗らないって……」
 
 
 
「みんなと同じになるの!」
 
 
 
 いじめと呼ぶほどの大袈裟なものではない。
 
 だが同じすみれ組の男子に、容姿の違いをからかうことを何度か注意したことのある安田は、瞬時に楓の言動の意味を理解したのだろう。
 
 目の前の面差しから驚きが消えたかと思うと、すぐさま困惑の色が広がった。
 
 
 
「日焼け止めを塗らなくても、楓君は皆と同じにはならないわよ」
 
 
 
 憐憫を感じさせる声音が悲しくて、風景が涙の膜で滲む。
 
 そんな楓を憐れむような眼差しで、諭すように安田が言葉を綴る。
 
 
 
「楓君はお肌が弱いから、日焼け止め塗らないと痛くなってしまうでしょう」
 
 
 
 安田の言葉に楓は自分の腕を見た。
 
 七月も半ばだというのにライトグレーのチェックの長袖のスモックを着ているのは、窓から差し込む光りにさえ反応してしまう過敏な肌のせいだ。
 
 その長めの袖の先から覗く手の甲は、まるで手袋をしているかのように真っ白だ。
 
 なぜ自分ばかりがこんなにも白いのだろう。
 
 手だけでなく足も顔も、瞳の色も髪の色も他の子供達から比べたら色が薄い。
 
 重たく感じるほどのくっきりとした二重も、金色に輝く薄い眉毛も、皆が感嘆するほどの高い鼻も、何もかもが周りにいる子供達と違う。
 
 日本国籍を得ているとはいえ、両親がアイルランドから移民してきた先祖を持つカナダ人なのだから容姿が異なることは仕方がない。
 
 だが幼い楓には容姿の相違の原因を理解出来るはずもなく、その現実がただただ悲しくて涙が盛り上がった。
 
 今にも涙を溢れさせそうな楓の様子に気付いたのか、安田の声音が丸みを帯びる。
 
 
 
「少し前も日焼け止めを塗り忘れて、お熱出してしまったでしょう」
 
 
 
 雨空の日でも、楓は10時と15時に安田に顔や手足を重点的に全身に日焼け止めを塗布してもらっている。
 
 その日、安田は休みだった。
 
 連絡ミスだったのか朝も午後も、誰も楓に日焼け止めを塗布しなかった。
 
 医薬品ということで日焼け止めは園の方で管理している。
 
 勝手に楓が使用することは出来ない。
 
 大人しい気質で人見知りの楓が、組を預かった園長に塗り忘れていることを伝えられるはずもなく、結果、夜発熱した。
 
 特別長時間、外で日に当ったわけではない。
 
 だが通常の外出で頭痛を起こし、炎症を起こしたように皮膚は赤くなり、発熱してしまうほど楓は日の光に弱い。
 
 
 
「だからね」
 
 
 
「いや!」
 
 
 
 頭痛の痛みも、赤くなった皮膚の辛さも、発熱の苦しさも分かっている。
 
 けれども他の子供達と同じになりたいという願いの方が強く、物理的に無理だと言われても安田の言葉を受け入れられず、触れようとした手を再び払いのけた。
 
 
 
「皆と同じになる!」
 
 
 
「どれだけお日様に当っても、楓君は皆と同じにはならないのよ」
 
 
 
 同じにはならない。
 
 どんなに日に当っても、どんなに願っても、自分は周囲の子供達のような肌色にも髪色にもならないのだろうか。
 
 異質であり続けることが酷くショックで、見開いた瞳から蛇口が壊れたように涙が溢れ出す。
 
 追いかけるようにして引き結んだ唇が綻び、悲しみの声が溢れ出す。
 
 
 
「どうしたの、楓!?」
 
 
 
 楓のいるすみれ組から一番遠い場所にあるさくら組に席を置く 涼宮 大地 が、大きく名前を呼びながら室内に飛び込んできた。
 
 大地は楓と同じマンションの隣同士で、兄弟のようにして育った。
 
 来年小学校に入学する年長組の大地は、休み時間には欠かさず年少組の楓を訪ねてくる。
 
 大地が傍にいる時は、同じ組の男子から肌の色や髪の色をからかわれることはない。
 
 人見知りで引っ込み思案の楓にとって、四月に入園したばかりで未だ慣れていない園での生活の中、大地の存在は大きかった。
 
 その大地の登場で、安堵する気持ちから泣き声が一際大きくなる。
 
 意地悪をされても大きな声で泣くことなどない楓の号泣に、グリーンのノースリーブスモックを身につけた大地は、驚きの大きさを示すように戸口で立ち止まった。
 
 細く柔らかな真っ直ぐの髪質の楓と違い、太くて硬い上に癖のある髪質の大地は楓と違い幼い頃から短髪だ。
 
 男の子と思われたことがなく、気弱な気質を表しているかのような柔らかで儚げな面差しの楓と違い、目鼻立ちのくっきりとした大地の面差しは、強い気質を物語るように力強くはっきりとしている。
 
 その面差しが号泣する楓の姿に驚きに開く。
 
 だがすぐに我に返ったように面差しを引き締めると慌てた様子で駆け寄り、号泣する小さな身体を安田から庇うようにして抱き寄せた。
 
 状況や理由は分からなくても、安田の言動で楓が泣いていることは理解したのだろう。
 
 幼いながらも精悍だと言われる面差しに憤怒の色を浮かべ、強い拒絶を滲ませた眼差しを安田へと向ける。
 
 敵意に満ちた面差しに、安田の口元に苦笑が浮かぶ。
 
 
 
「先生、意地悪をしたわけじゃないのよ。楓君ね、日焼け止めクリームを塗りたくないって言うの。日焼け止めを塗らないと大変なことになるの、大地君も知っているでしょう」
 
 
 
 楓とは兄弟のような付き合いであるから肌の弱さも、日焼けによる弊害も大地はきちんと理解している。
 
 だから安田の言葉に驚きを隠せなかったのだろう。
 
 漆黒の瞳を見開くと腕の中で号泣する楓と僅かに距離を取り、頭一つ分大きい身体を丸めるようにして泣きじゃくる面差しを覗き込む。
 
 
 
「楓、どうして?」
 
 
 
「皆と同じ肌の色になりたいんですって」
 
 
 
 優しい声音での問いかけに、ますます緩む涙腺に答えられない楓の代わりに、安田が悲しげな面持ちで言葉を綴った。
 
 その言葉に酷くショックを受けたような面差しをした大地からも言葉が出ない。
 
 
 
「大ちゃんと……同じがいい……」
 
 
 
 まだ幼く、たくさんの言葉を知らない。
 
 けれども窓を閉めていても届く庭で遊ぶ子供達の嬌声が響く中、楓は懸命に心からの望みを口にした。
 
 
 
「同じに……なりたいの……」
 
 
 
 色が真っ白で、お化けみたいだとからかわれるのが辛かった。
 
 目の色が変だと言われ、煌きの違う髪を引っ張られるのが嫌だった。
 
 だがそれよりも、楓は大地のようになりたかった。
 
 太陽の下を自由に駆け回り、小麦色に日焼けした元気いっぱいの大地。
 
 物怖じしない性格で常に人の輪の中心にあり、快活で闊達な大地は大人しい気質の楓の憧れだった。
 
 そう、楓は大地のようになりたかった。
 
 
 
「大ちゃんと……同じに……」
 
 
 
 自らの切望をうまく言葉に出来ず、泣きじゃくりながら同じ言葉を繰り返す楓に、目の前の面差しが今にも泣き出しそうに歪んだ。
 
 二の腕をつかんでいた指先が、大切そうに流れ落ちる涙のせいで熱くなった白磁の頬に触れる。
 
 
 
「こんなにきれいなのに……」
 
 
 
 揺れる声音で慈しむように頬に触れていた指が、窓から差し込む光りに金色に煌く髪に触れる。
 
 
 
「僕は楓の色、大好きだよ」
 
 
 
 強く綴られた言葉に、楓は俯いていた面差しをゆっくりと上げた。
 
 
 
「だいす……き……?」
 
 
 
「うん!」
 
 
 
 見上げる楓に向けて、大地が満面の笑みで大きく頷いた。
 
 
 
「綿飴みたいに真っ白な手も足も、はちみつ色の髪も、お空みたいな目も綺麗で大好きだよ!」
 
 
 
「ほん……と……?」
 
 
 
「うん」
 
 
 
「きらいじゃ……ない……?」
 
 
 
「うん。大好き!」
 
 
 
 真夏の太陽にも負けないような鮮やかな笑みで力強く発せられた言葉に、止まりかけていた涙が再び溢れ出す。
 
 周りの子と違う肌の色も瞳の色も髪の色も、楓は大嫌いだった。
 
 その容姿を、大地は大好きだと言ってくれた。
 
 綺麗で、大好きだと。
 
 そのことがただただ嬉しくて、大嫌いな容姿が少しだけ好きになれたような気がした。
 
 そう、楓にとって大地の言葉は絶対だ。
 
 なぜそうなのかは幼い楓には分からない。
 
 ただ格好良くて強い大地は楓にとって憧れでありヒーローだった。
 
 両親と同じくらい好きで、他に比べようのない大切な存在。
 
 この頃から楓は大地が、ただただ好きだった。
 


 
 
 
 
 
大好きな、フィギュアスケートのお話です。
 
BL扱いになっていますが、単なる青年の、スポーツ成長記録になっているような気も……
 
そんな中途半端なBL小説、『約束。』
 
ご興味を持たれた方は、ご一読の方、宜しくお願い致します
 
 

『桜貝眠る君の傍で』

気がつけば、9月も下旬に差しかかろうとしています。
ここ最近、月日が経つのが物凄く早いです
これって、年のせいですよね
 
日常は、相変わらずです。
旦那さんは働いておらず、ジジイはブツブツ、ババアはボケボケです。
 
私自身も変わらず、チマチマと小説を書いております。
先日書き終えたお話が、私の中では物凄いヒットで、続編もムフムフと想像しております
 
同じように、『ムーンライトノベルズ』さんにも、頑張って掲載しています。
先日、掲載を終えたのは、『桜貝眠る君の傍で』という作品です。
この作品は、以前、こちらのブログで掲載させて頂きました短編、『夏祭り』を大幅に改稿し、
中編として仕上げた作品です。
 
冒頭部分は、こんな感じです
 


 
今年の梅雨は雨が少なかった。

 それは 野中(のなか) 陽(よう) 太(た) の住む日本海沿岸部の村に限ったことではなく全国規模の話で、早くから水不足が懸念されていた。

 枯渇する湖や川に追い討ちをかけるように、都心部では七夕の頃から連日猛暑日が続いている。

 ワイシャツの背中を汗で濡らしハンカチで滴り落ちる汗を拭うサラリーマンの姿は、東北沿岸部の鄙びた村に住む小学生の陽太には画面の中という以上に遠い存在だ。

 冬には雪で閉ざされる村は海からの風に真夏でも比較的涼しく、日常の動作で汗だくになることはない。

 都心部から直線距離にすれば、さほど遠くない村は、古くから避暑地として栄えていた。

 景気の低迷の影響が全くないとは言い難いが、それでもプライベート・ビーチ付の別荘は未だに人気があり、夏の間は普段は閑散としている村もそれなりの賑わいをみせる。

 陽太の家は村に一軒しかない食料品店を営んでおり、幾つかの別荘の管理も任されていた。

 だから友人達と遊び終えて帰宅した家の前に、淡い草色地に多色と金箔で花模様が柄付けされた絽の訪問着を着た透かし模様の入った日傘を差す女性の姿を見て、別荘の住人が避暑に訪れたのだとすぐに理解した。

 村には着物を普段着にする女性などいない。

「陽太、ちょうどいいところに帰ってきた!」

 陽太に気付いた父親が、大きく手招きをする。

 少し足を速め近付いた陽太に、父親が身体を女性の方へと向け口を開く。

「岬の南側にある別荘の持ち主の藤村さんだ。息子さんと夏休みの間、住むことになった」

「藤村です。宜しくね」

 父親の紹介に、漆黒の髪を結い上げた女性がフワリとした笑みを浮かべた。

 着物を着ているせいで落ち着いて見えるが、その面差しは若く清楚で品があった。

 新雪を思わせるような白く透明な肌に浮かぶ琥珀色の瞳はくっきりとした二重に縁取られ、薄桃色の唇は艶がありながらも上品で綺麗な弧を描いていた。

「ほら、ちゃんとご挨拶しろ!」

 テレビ画面の中の女優さんのようだなと、見惚れていた陽太の頭を父親が小突く。

「野中陽太です」

 慌てて頭を下げての挨拶に、目の前の女性の美しい相貌に更なる笑みが広がった。

「陽太君ね。中学生?」

「小学校六年です」

「まあ、大きいわね。うちの子と同い年とは思えないわ」

 うちの子という言葉に、陽太は驚きに目を見開いた。

 目の前の女性は、少女と呼んでもおかしくないくらい愛らしく若々しかった。

 とても自分と同じ年の子供がいるとは思えない。

 脳裏に母親の姿を思い浮かべる。

 夏痩せなどとはまるで無縁の豊満な肉体は、陽太が知る限り一度も痩せたことはない。

「嘘だ……」

 呆然としながらの呟きに気付いていない様子の女性が半身を捻る。

 その仕草に初めて、陽太は女性の背後に隠れるようにして立つ少女の存在に気付いた。

「仲良くして頂戴ね」

「こんにちは。 藤村(ふじむら) 蒼生(あおい) です」

 女性に背を押されるようにして前へ出た少女が、はにかみながらも小さな笑みを浮かべ言葉を綴る。

 陽太より頭一つ小さな少女は、女性の肌の白さを上回る真っ白な肌をしていた。

 麦藁帽子の下から伸びた髪は栗色の煌きを見せ、見上げる琥珀色の瞳は長い睫毛に縁取られていた。

 桜貝を思わせるような肉厚の薄い唇は淡いピンクで、全体的に色素が薄い。

 先日テレビで見たアルビノという先天的にメラニンの欠乏した遺伝子疾患の少女を、不意に思いだした。

 その少女と決定的に違うのは、目の前の少女が目を瞠るほど美しい面差しをしているということだ。

 気付いた瞬間、真夏の陽射しを浴びたように両頬がカッと熱くなった。

 直視していることになぜか恥ずかしさを覚え、腹を立てたように思い切り視線を逸らす。

「こら、陽太!」

 挨拶に答えることなく顔を背けた陽太を諌めるように、父親が名前を呼んだ。

 間髪いれず大きな手が頭を 叩(はた) く。

「仲良くしなくちゃだめだろう!」

「女と仲良くなんか出来るかよ!」

 叩かれた頭を両手で押えながら、隣に立つ父親を睨み上げる。

「ばか! 蒼生ちゃんは男の子だ!」

「男!?」

 慌てた様子の父親の言葉に声音が引っくり返る。

 驚きに視線を少女へと戻す。

 白い肌も細い手足も長い睫毛も面差しも、どこからどう見ても少女にしか見えない。

 信じられない思いに、少女の股間へと手を伸ばす。

「やっ!」

 短い悲鳴と共に身を引いた少女の身体には、確かに自分と同性である存在がしっかりとあった。

 それは幽霊を目の当たりにしたような衝撃を陽太に与えた。

 経験したことのない驚きに仰け反り、悲鳴が上がりそうになった陽太の後頭部を外部からの衝撃が襲う。

「何するんだ!」

 父親の怒声の中、目の前に星が飛んだ。


 
興味を持たれた方は、宜しくお願い致します
 
 
 
 
 

『君に咲く花』

気がつけば、4月も今日で終り……はやっ
私、何してたんだろう……というくらい、何にもしていない4月でした。
 
まあ、チョコチョコ何かはしていましたが、未だ頭の中はケヴィン君状態。
 
まずい……こんなことしてたら、あっという間に、次のシーズンがきてしまうわ
秋には駅伝も始るし、そしたら、また何にも手につかなくなる〜〜〜
ということで、そろそろ本気で軌道修正しなければと思っています。
とりあえず、連休明けにでも
 
こんなダメダメな私ですが、チマチマと、小説の方は掲載させて頂いております。
以前、こちらのブログでアップさせて頂きました、雪乃瀬さんと鐘音ちゃんのシリーズと、
舞子ちゃんと優希君の『大好き!』を、アップさせて頂きました。
 
現在は、『君に咲く花』というお話を、連載中です。
以下は、冒頭部分です
 


 
 新年度早々二日も休んだのは、生徒会長という重責から解放されたことによる気の緩みだと、
白鳥 ( しらとり ) 和昌 ( かずまさ ) は自己分析した。

 周囲に押される形で生徒会長に就任した高校ニ年は、多忙と戸惑いと興奮であっという間に過ぎた。

 けれども、生徒会の仕事から解放されたと手放しでは喜べない高校三年。

 大学進学に向けて志望校の選定や、学力アップを図らなければならない。

 世間一般では青春と呼ばれる高校時代は、男子校というむさ苦しい環境に恋する間もなく月日が流れ
何とも慌しい。

 深いため息と共に、人波に押されるようにして滑り込んできた電車に乗り込む。

 ニ年間の電車通学で気付いたことがある。

 人は同じ車両に乗り込み、同じ場所に座る傾向があるということ。

 三人掛けの連結部側の座席にいつも座るのは、神経質そうな面持ちで新聞を読む中年男性。

 反対側の端に座るのは、いつも眠たげな眼差しをしたOL風の女性。

 間には長い足を組み、微かな騒音を漏らしながら音楽を聞く若い男性。

 座っている人は勿論、立っている人にもそれぞれの定位置がある。

 そんな中、フワフワ漂うように立っているのが、自分と同じ 杏 ( きょう ) 香 ( か ) 高校に通う新入生達だ。

 モスグリーンの制服はまだ身体に馴染まず、初めての電車通学に、ちょっとした揺れにも
大きく身体を揺らす姿が微笑ましかった。

 弟を見守る兄のような心持ちで、満員に近い状態の車内にゆったりと視線を走らせる。

 その動きは、一人の少年の存在に制された。

 色白の目鼻立ちのはっきりとした面差しに、一瞬女子かと思った。

 けれどもモスグリーンの制服が、白鳥の考えを即座に否定する。

 固く締められた緋色のネクタイは新入生の証だ。

 白鳥が気に留めたのは、愛らしい容姿のせいではない。

 少年が座っているのが優先席で、少し離れた所に、微かな膨らみではあるが妊婦らしき女性が
立っているということだった。

 目の前に立つ長身の少年と談笑する小柄な少年の姿に、雄大な気持ちは吹き飛んだ。

 考えを結ぶより先に足が座る少年へと向かう。



「ここは優先席だ! 立て!」



 別に正義を気取ったわけではない。

 ただ身重の女性を側に座っている少年が許せなかった。

 白鳥の言葉に反応したのは、座っている少年ではなく、目の前に立つ長身の少年の方だった。

 切れ長の瞳を見開き、食いつかんばかりの勢いで白鳥へと視線を向けた。



「なんだと!  純哉 ( じゅんや ) はな――」



「いいよ、 翔 ( しょう ) 太 ( た ) 」



 叫びを制して少年が立ち上がる。

 目の前の少年の肩先にも届かない小柄な少年の右手には、前腕固定型のクラッチ杖が

握られていた。

 その杖の存在に、心臓が大きく拍動した。

 優先席の背後のガラスには、松葉杖を持った人物が大きな丸で囲まれている。

 白鳥の位置からは杖が見えなかった。

 もし見えたとしても、隣に座る老人のものだと思っただろう。

 少年の足には包帯らしきものは巻かれていない。

 まさか少年の足が不自由だとは思わなかった。

 何も言えないまま呆然とした面持ちで立ち尽くす白鳥の前を、クラッチ杖を使った少年が過ぎた。

 瞬間、大きなカーブに電車が激しく揺れた。

 バランスを崩した少年が、膝から崩れるようにして前のめりに倒れた。

 杖が床を打つ乾いた音に、白鳥は我に返った。



「大丈夫か!?」



 助け起こそうと手を差し伸べた白鳥に、少年が切るような勢いで振り返った。

 少し癖のある長めの髪が、日焼けなど無縁のような白い頬に揺れ落ちる。

 挑むように向けられた漆黒の眼差しは、黒目の多いくっきりとした二重だ。

 すっきりとした鼻筋の下に添えられた小さめの唇は、口惜しそうに引き結ばれていた。



「触るな!」



 きつい物言いで長身の少年が、白鳥と倒れた少年の間に入る。



「大丈夫か、純哉」



「平気」



 差し出された手を素直に取り、少年が立ち上がる。

 落ちた鞄を拾い上げた長身の少年が、貫くような双眸を白鳥に向けた。



「行こうぜ」



 吐き捨てるように言うと、小柄な少年の肩を抱き、電車中央部へと二人は異動した。

 謝らなければと思った。

 けれども窓の外を睨むように見つめる眼差しに強い心の痛みを感じた。

 何よりその泣きそうな面差しに、声をかけるどころか足を踏み出すことすら出来なかった。



 
 
 何年か前に、ブログで知り合った方、何人かに読んで頂きました。
 その際、主人公よりも完全脇役の男の子の方が、人気があった作品です。
 私も、この脇役の子が大好きで、この子のお話をいつか書きたいなと思っています。
 
 水曜・土曜・日曜・祝日の19時掲載で、全34話、7月5日完結です。
 
 
 
 7月……ケヴィン君の誕生月だわ
 その頃には、サイズの合う靴が見つかって、元気にスケートをしてくれているといいな……
 
 
 
 という訳で、興味を持たれた方は、ご一読、宜しくお願い致します
 
 
 
無事掲載が終わりました『好きだから。』
 
最終話掲載日には、13000人以上の方が訪問して下さり、ひたすら感謝です
 
登場人物の勝利と椿を私が気に入っていること、また続編を望むお言葉を頂き、頑張って書きました
 
プロット段階では「思い切りセックスがしたい」ちゃんちゃんと、軽いノリで、3話で終わる予定でした。
 
ですが、書き進めていくうちに話しは重苦しくなり、気が付けが原稿用紙142枚の大作に
 
それが、こちら
 
 
 
 
 
 普段、表情を変えない面差し同様、波立たない性格だと思っていた椿が、ドキュメンタリーや映画を見ただけでティッシュが必要なほど涙を零すこと。
 
 肉だけでなく生魚が苦手なこと。
 
 意外にも不器用で、一つのことに集中すると足元が疎かになり、何もない所で思い切り転ぶこと。
 
 香水など使用していないのになぜか甘く香る身体は、幼子のように平熱が高いこと。
 
 普段は気の強い性格が、体調を崩すと弱くなり甘えたがること。
 
 性に対し酷く奥手で、その手の雑誌を全く読んだことがないこと。
 
 唯一の黒子が、淡く陰部を覆う茂みの中にあること。
 
 絶頂を迎えた時、閉ざした瞳を覆う長い睫毛が小刻みに震え、眦から涙が零れ落ちること。
 
 椿と付き合い始めて気付いたこと、知ったことは数多い。
 
 それらの情報の多くは、恐らく勝利しか知りえないものだろう。
 
 それが心を許してくれているからこそ見せてくれる仕草、表情なのだと思うと、それだけで春の嵐に舞い上がる桜の花びらのように気分が上昇する。
 
 椿との関係を失うことを恐れ、必死になっていた頃にはまるで想像出来なかった、天国で暮らしているかのような幸福な日々。
 
 そんな密月な日々に、勝利は痛感した。
 
人の欲に際限などないのだと。
 
「あー思い切りセックスがしたい」
 
 ため息と共に思わず零れ落ちた欲望に、家にいると気が散るからと勉強をしに来ていた竜一が、座卓の向こうで渋面を作った。
 
「振られた男の前で、何言いやがる」
 
「だってよー」
 
「雪村、毎週金曜の夜、泊まっていくんだろう。好きなだけすりゃあいいじゃねえか」
 
 吐き捨てるように綴られた言葉に、今度は勝利が渋面を作った。
 
「椿は身体が弱いんだ」
 
 冬休みが開け学校が始まって以来、日曜日は航平の勉強を見たいからと、金曜日の夜から土曜日の夕食まで勝利の家で過ごすようになった。
 
 好きだという自覚のない時ですら欲した身体だ。
 
 思いを自覚し、晴れて恋人同士となった今、一つ屋根の下で同じ時間を過ごしているのに求めないはずがない。
 
 いくら性に疎い椿でも、泊まっていくのだから勝利の欲望を受け入れる覚悟はしているのだろう。
 
 行為を求めても躊躇いや戸惑い、恥じらいは見せても、明確な拒絶をするということはなかった。
 
 だから猛る心のままに喘ぎの中に発せられた許しの言葉を捻じ伏せて、意識が霧散するまで貫いた。
 
 結果、発熱した身体をタクシーで自宅まで送り届けたのは、冬休み明けの最初の土曜日のことだった。
 
 取引きとして行った行為の再来のような出来事に、勝利は猛省した。
 
 猛省したからといって甘く香る体臭に疼く下半身に、触れないことが不可能ならばと一度の吐精で開放するようにした。
 
 一度で行為を終えることに対し、色付いた面差しに安堵と困惑、謝罪の入り混じった表情を浮かべる椿が何とも切なくて、酷く申し訳ない気持ちになる。
 
 本来なら貫く行為は負担を考えて避けるべきだと思う。
 
 疲れ切った椿を前に毎回反省する。
 
だが尽きることのない欲望に二人きりになれば求め、更に強く欲してしまう強欲さを自粛させるのに精一杯で、行為自体を止められないのが現実だ。
 
「無理はさせられない」
 
「けっ、いつの間にか椿とか呼ぶようになりやがってよ」
 
 ため息を織り込んでの言葉を蹴飛ばすように、不貞腐れた面差しで竜一が強く言葉を吐く。
 
「あんなお天使様みたいな美人と毎週セックス出来るんだ。思い切り出来なくても有難いと思いやがれ」
 
「……毎週じゃない」
 
「あっ?」
 
「毎週はしていない」
 
「なんで!?」
 
「言っただろう、身体が弱いって」
 
「……確かにつれえ話しだな」
 
 掴みかからんばかりの勢いで大きく身を乗り出し驚愕の表情で叫んだ竜一だったが、勝利の下半身事情を自分の身に置き換えたのだろう。
 
 浮かせた腰をユルユルと座布団に戻すと考え込むように腕組みをし、眉間に深い縦皺を刻んだ。
 
 好きな相手と思うようにセックス出来ないことが、まるで国家の一大事であるかのように沈みこむ竜一に、自分を思う気持ちを強く感じ苦笑する。
 
「別にさ、毎週出来なくてもいいんだよ。ただ、もっと思い切り愛し合いたいというか……」
 
 セックスを覚えたての子供ではないのだ。
 
 何も三回も四回も続けざまに欲望を体内に放出したいわけではない。
 
 出来ればしたいが、自制が聞かないほど経験値が低いわけではない。
 
 勝利が思い切りセックスがしたいと言ったのは行為云々ではなく、メンタルの部分を差しての言葉だ。
 
 その心情が上手く言葉に出来ず言いよどむ勝利に、竜一は脱色した眉毛の片方だけを器用に上げた。
 
「なんだ、その思い切り愛し合いたいとかいう乙女チックな発想はよ」
 
「笑いたければ笑えばいいだろう」
 
「ダチの本気の恋を笑うほど、俺はバカじゃねえ」
 
 白松学園から比べればかなりレベルの低い高校に進学した竜一だが、以前、椿が指摘したように決して頭が悪かったわけではない。
 
 本気になれば白松学園を狙えるレベルだと勝利は思っている。
 
 ただ別のことに本気になったため、勉強が疎かになっただけだ。
 
 そんな竜一だからこそ、地方の小さな集まりに過ぎなかった集団を、広域にその名を轟かせる一大勢力へと導けたのだろう。
 
 竜一の魅力は、頭の良さだけではない。
 
 一度自分の懐に入れた人間は、性別に関わらず全力で守り抜く。
 
 損得など考えず、見返りなどまるで求めない竜一は、誰よりも情が厚い人間だ。
 
 だからこそ二百人もの人間が総長、総長と慕い、たかが追試試験に我先にと集まったのだ。
 
 総長のためなら死ねると考えている人間は、一人や二人ではないはずだ。
 
 今も組んだ腕を解かない真剣な面持ちから、小馬鹿にしたような言葉を発しながらも、勝利の恋を本気で心配しているのが理解出来た。
 
 その相手というのが、自分が思いを告げて実らなかった思い人だというのに。
 
 もし自分が竜一と同じ立場だったら、応援出来る自身は正直ない。
 
 その度量の狭さが、自分の欲望だけを押し付けるような、余裕のない恋を生み出しているのではないだろうか。
 
 気質を検分したところで、椿に対する欲求や欲望が軽減するはずもなく、その強欲さに無意識のため息が零れ落ちる。
 
「ばかじゃねえが、してやれるアドバイスもねえ。悪いな」
 
 真剣な面持ちを崩さないままの言葉に勝利は苦笑した。
 
「いいんだよ。原因は分かっているんだ」
 
「原因?」
 
「ああ。俺がもっと大人な態度が取れればいいんだよ。ガッつき過ぎてるんだ」
 
「ガッつかない恋愛なんてねえだろう」
 
「うん。でも何て言ったらいいんだろう。心に余裕がないっていうか……ガッつき過ぎて、俺ばっかりが気持ちよくて、椿は辛いだけなんじゃないかと思って」
 
「まあ野郎同士のセックスは、受け入れる側の負担は相当なもんだっていうからな」
 
 竜一の言うとおりだと思う。
 
 元々、排泄を目的として作られた器官だ。
 
 そこへそそり立つ欲望を捻じ込むなど負担以外の何物でもない。
 
 ただでさえ丈夫でない、同性とは思えない線の細い身体だ。
 
 愉悦に震えるよりも、痛みに涙を散らし震えている時間の方がはるかに長い。
 
「何だか無理強いしているみたいで気が咎める」
 
 自分が椿だったら、欲望を内に収めるなど、とても許容出来る行為ではない。
 
 それでも受け入れてくれるのは、自分を思ってくれているからだろう。
 
 その思いは勝利にとって何よりの喜びだ。
 
 だが椿にとっては忍耐以外の何物でもないのだと、傷みに震える身体に、きつく閉ざされた眦から零れ落ちる涙に、身体を重ねるたびに痛感する。
 
「それはまあ……仕方ねえんじゃねえのか」
 
 椿に対し申し訳なく思う気持ちに、いつの間にか伏していた面差しを竜一へと向ける。
 
「あのお天使様、頭はいいけど恋愛経験はゼロなんだろう。そっち方面は幼稚園児も同じだ。幼稚園児に大人な恋愛をぶつけたところで、身体も気持ちもついていけねえんだろうよ。そこは察してやれ」
 
 至極真っ当な答え。
 
 ただ真っ当過ぎて、なぜか怒りの沸点に触れた。
 
「椿が恋愛に関して幼いのは分かっている。でも来年には結婚出来る年齢だ。大人としての恋愛を望むのは仕方ないことだろう」
 
 眉間に力を込めイラつく思いで綴った言葉に、内緒話をするように身を乗り出した竜一が、解いた右手を座卓の上に置く。
 
「ようするに雪村に思い切り喘いでほしいわけだ」
 
「いやらしい言い方するなよ」
 
「思い切りセックスがしたいとか言いやがったくせに、なに言ってやがんだ」
 
 一重の相貌で睨みあげるようにして発せられた露骨な物言いに身を引き渋面を作る勝利に、竜一が言葉を吐き捨てる。
 
「とにかく雪村を思い切り喘がせて、よがらせてえわけだろう」
 
「……まあ……な……」
 
 メンタルな面だの何だの体裁の良い言葉を脳内で取り繕っても、結局は欲望に忠実な自分に何とも情けない気持ちでいる勝利の目の前で、悪戯を思いついた幼子のような笑みが竜一の口元に浮かんだ。
 
「いいクスリがあるぞ」
 
 思いも寄らない台詞に勝利は般若のようにカッと両目を見開き大きく叫んだ。
 
「椿は身体が弱いんだ! ドラッグなんかやらせられるか!」
 
「安心しろ。危ねえクスリじゃねえ。仲間内で実証済みだ」
 
「却下だ」
 
「だったら酒を飲ませるってのはどうだ」
 
「くそ真面目な椿が酒なんか飲むはずないだろう」
 
「だったら我慢しろ」
 
 クスリだ酒だのは単なる前振りで、我慢こそが唯一無二の正解だと言わんばかりの物言いに、その正当性に咽奥がグッと鳴る。
 
「まだ付き合いだして一月ちょっとなんだろう。幼稚園児相手に、いい大人がガツガツするな」
 
 言葉を返せない勝利に諭すように告げた竜一が、机の上に乗り上げんばかりの勢いで更に大きく身を乗り出す。
 
「雪村泣かせたら、いくらおまえでも容赦しねえからな」
 
 発光したような瞳の揺らめきに、未だ椿に対し思いがあることを知る。
 
 その思いを隠して、自分の話を嫌がらずに聞いてくれた竜一は、自分よりずっと大人だ。
 
 竜一なら航平のいじめ問題を聞かされた時、セックスを強要するようなことはしなかっただろう。
 
 顔馴染みだからといって、何の見返りも求めず助けたに違いない。
 
 そんな男気気質の竜一と付き合った方が、椿にとっては幸せだったのかもしれない。
 
「わかってるよ」
 
 だからといって、今更、椿を譲る気になどなれるはずもない。
 
「わかってる」
 
 竜一の思いも、椿の性の疎さも自身に再認識させるように、閉ざした面差しでただ同じ言葉を繰り返した。
 
 
 
 
 
続き、読んでやってもいいよという、寛大な方は、こちらから宜しくお願い致します
 
 
 
 
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