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空を飛ぶ夢を見た
高く高く――、遠く遠く――。
どこまでも続く空
なつかしく、そして・・くるおしいほど
せつない――――。
目が覚めたとき、向日葵は泣いていた。
夢の内容はさっきまで憶えていたのにもう忘れてしまっている。
「向日葵ぃー、早くしないと遅刻するわよ〜」
「は〜い、ママ」
1階から聞こえる母の呼びかけに慌てて服を脱ぎ、支度をする。ふと、鏡に映る自分を見て違和感を感じた。
(――だあれ?)
向日葵は鏡に映った自分が一瞬、違うモノのように見えた。だがすぐにもとの自分の顔に戻ったので、見間違いだと、首を2,3振ってランドセルを持ち部屋を出た。
「おはよう。パパ、ママ」
食卓では父親がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。向日葵が席につくと、新聞を置き、テーブルの上にあるコップに牛乳を入れて向日葵に差し出す。
「めずらしいな、向日葵が寝坊なんて」
「うーん。変な夢見ちゃった」
「やだ、ひまちゃん、あの時の事故の・・・?」
母が心配そうに尋ねた。
「ううん。違うと思う。でも忘れちゃった」
母親が出したパンをひとかじり。牛乳をゴクゴクと飲み、ぷはーっと一息つく。その様子を見て母は一安心する。
2年前、6歳の時に向日葵は車のわき見運転の事故に巻き込まれたのだ。頭を打ち、一時は生死の境をさまよっていたが、奇跡的に助かった。幸い大きな怪我もなく、今は元気に学校にも通っている。だが母親はまだ後遺症の事などを心配しているのだ。
「あ、もう行かないと!」
向日葵は時計を見て慌てた。残りのパンを大急ぎで頬張り、洗面所に向かった。歯磨きをして顔を洗い、おおざっぱに髪をとかすと、いそいでランドセルを背負う。
「いってきま〜す」
いつものように軽く父親の頬にキスをして、次に母親の大きなお腹にキスをする。
「いってくるね、空」
「もう、向日葵は勝手に名前付けちゃうんだから」
「だってもうすぐ生まれるんでしょ?絶対、ぜったい【空】!」
「はいはい。さ、早く行きなさい。車に気をつけるのよ」
「はーい」
元気に出て行く姿を見、手を振る。
「さてと、俺も行くかな」
父親もコーヒーを飲み干し、向日葵と同じように「いってきます、空」と、妻のお腹にキスをした。
「もうっ、パパまで」
母は口とは裏腹に嬉しそうに微笑んだ――。
夫と娘が出かけた後、臨月を迎えた母親は掃除をはじめる事にした。2階に置いてある掃除機を娘の部屋に運ぶと、脱ぎっぱなしのパジャマを拾い、やれやれとひとりごちた。
「やだ、また開けっ放し」
向日葵はよく部屋の窓の鍵を閉め忘れる。風で少し窓が開いていた。母親は掃除をするのにもう少し窓を大きく開ける。すると窓際にひまわりの種が置いてあるのに気がついた。
・・・昔よくこの種を置いておくとシジュウカラが来ていたっけ。そういえば最近来なくなったなぁ。
母親は掃除をしながらぼんやり思い返していた。向日葵とパパと一緒に窓の外に種を食べに来る可愛い鳥を見ていた。あの鳥は・・・いつから来なくなったのだろう?
(もう・・・・大丈夫だよね)
一瞬、クラッっとめまいが起きた。そしてお腹を締め付けるような痛みが走る。
「・・・・いよいよ、かしら」
ひまわり柄のベッドに横たわり、時計を見ながら痛みが去るのを待った。
1週間後、母親は男の赤ん坊と共に病院から帰ってきた。
家へ着くと、父親が大きな荷物を抱え、玄関の鍵を開ける。
「さあ、あなたのおうちに着きましたよ〜」
母親は嬉しそうに赤ん坊を抱えると、2階の子供部屋へと向った。
2階のいちばん奥にベビーベッドが置いた部屋がある。だがそこへ向おうと2階についた時、暖かな風が吹き、手前の部屋の扉が静かに開いた。
「どうした?」
後から来た父親が尋ねる。
「パパ・・・・」
2人は開いた扉の部屋の前に来た。窓が少し開いている。
また、暖かな風が今度はフワッと体を包み込んだ―――。
神様、どうしてあの人達はあんなに泣いているのですか?
【いとしい者を失ったからだよ】
イトシイモノ――?あの、太陽のように暖かな笑顔
【そう、誰よりもいとしい娘】
もう、あの人達の笑顔を見ることはできないのですか?
【―――お前は、見たいのか?】
はい。わたしはいつもいつもこの窓よりあの人達の笑顔を見てきました
【鳥よ、翼を持つお前が心を痛めるのか】
ココロ、というものが何かはわかりません。でも、もう一度あの笑顔を見れるのなら
【―――ならばお前の願いをかなえてやろう。だが、お前はもうその翼で飛ぶことはかなわない】
かまいません。
それでまたあの人達が笑うのなら――――
「ひま・・・わり?」
窓から流れる風でカーテンが揺れている。
ベッドカバーと同じひまわりの柄が誘うようにゆらゆらと。
2人は赤ん坊を抱いたまま、部屋へと足を踏み出す。
大好きなひまわりのベッドカバーにカーテン。
小学校に入った時に買った机の上には
赤いランドセル――――。
父と母は泣いた。
なぜ、あの子を失って
どうやって今まで過ごしてこれたのか。
先ほどの風がまるで記憶を持ち去った様に思い出せない。
私達は泣いていた。くる日も、くる日も。
だけどいつからか、向日葵が生きていた頃と同じように笑っていた気がする。
そして、新しい命が・・・。
ふと、赤ん坊を見ると、手を動かしながら窓をじっと見ていた。
母が窓に近づく。窓際にはひまわりの種と一緒にあのシジュウカラが息絶えていた。
「パパ・・・」
父親がそっとシジュウカラの亡骸をすくい上げる。そしてまだ少し温かい体をそっと撫でた。
「お前が・・・見せてくれた夢なのか?」
シジュウカラの骸に涙が落ちた。
ああ、どうか泣かないで
わたしはあなた達の笑顔が見れただけでいいのです
一緒に過ごした時間
とても幸せで
ココロというものがあるのなら
あたたかくてフワフワした雲のよう
もう一緒にはいれないけれど
大丈夫
わたしはこんなにも幸せなのだから
たとえ、あなた達が忘れてしまっても―――
赤ん坊の手がそっと父親の手に触れた。
「 空 」
まだ付けていないはずの名前を口にする。
「・・・そう、あなたは【空】」
父と母は泣きながら微笑んだ。
空の瞳には小さな少女が窓の外にふわりと舞い降りるのが見えていた。
その少女がシジュウカラに手を触れると、シジュウカラの体からすうっと魂が浮かぶ。
(ああ、もう一度あの空を飛べるのですね)
少女は一度、部屋の中を見て微笑む。
(もう・・・大丈夫だよね)
空が手を振るように動かし、窓を見つめた。
少女とシジュウカラは
高く高く、舞い上がった―――。
Fin
このお話はmayaさんのブログ【時の破片パズル】→http://blogs.yahoo.co.jp/mayatakakura
の企画「この指とまれ♪」のお題「鳥」で書いたものです。
同じ企画のお題に「花」があるのですが、題名を見ると「花」の間違いか?と思った方もいるのではないでしょうか。しかし内容はやはり「鳥」のお題が適切かと。
※このお話には少し仕掛けがあります。
ファンの方で知ってる方もいると思いますが、文章に隠し文字が存在します。
中盤の“あの鳥は・・・いつから来なくなったのだろう?”と
最後の方“少女は一度、部屋の中を見て微笑む。”
の下を左クリックしたまま下にドラッグしてください。
シジュウカラと向日葵の言葉が隠れてます。
また、こじつけなんですが
同じくばっどさんのブログ【映画と競馬と笑いの好きなばっどの部屋】→http://blogs.yahoo.co.jp/yusakuw2001
の企画にものせようと思っています。お題は「扉」もしくは「鍵」なのですが、
文中に少しだけ扉と鍵が出てくるんですけど、かなりこじつけです。
でもこのお話、構想の段階で結構自分でもうるっとしてしまいました。
ですから、ちょと他の方にも読んでもらいたいなぁと。。。
このお話で何か感じていただければ書き手としては嬉しい限りです。
もし感じなくても、それは私の力量不足。。。
そして最後にここまで長々とお付き合いいただいた方に感謝いたします。
はなみ
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てんきさん いらっしゃいませ〜^^お読みいただきありがとうございます。私も遊びに行きますね!
2008/5/23(金) 午後 0:31
なおちゃん そうなのよ〜。子を持つ親が読むと感情移入しちゃうよね。自分で書いてるくせに読み返してうるうるしてるのは私です。。。
隠し文字はね〜、文字の色を白にしてるのさっ^^
2008/5/23(金) 午後 0:34
空ちゃん、おねぇちゃんの分まで楽しく人生を謳歌してくださいね。。
2008/5/23(金) 午後 6:04
あああ、ものすごく感動してます。
涙が……。
本当に優しさに溢れた素敵な作品でした。
2008/5/24(土) 午前 9:48
ばっどさん きっとひまちゃんがお空から見守ってくれるでしょう。。。
2008/5/24(土) 午後 7:05
みゆさん 感動していただけましたか!素直に嬉しいです。その涙はきっと暖かいものですね・・・。
2008/5/24(土) 午後 7:06
私はとても好きですよ、こういうお話。切なくなりました;;
命のバトンを引き継ぐまで、きっとシジュウカラは待っていたんですね。その笑顔を見届けて、彼も安らかに眠ったはずです。
大きな代償を払ったようで、実はそうじゃない。もっと限りない空を気持ちよく飛ぶ姿が目に浮かぶようです。
素敵なお話ありがとうございます^^ぽち
2008/5/24(土) 午後 8:32
るるさん そうなんです。大好きな人達がまた笑顔でいられるように。そう、それ!るるさんのコメントそのまんま!(返コメ手抜きじゃないよ)
ありがとう、わかっていただけてうれしいです!
2008/5/24(土) 午後 10:14
シジュウカラが見せてくれた夢だったんでしたか。
たぶん、空が来るまでの夢。
でも、その間の空白を埋めてくれたシジュウカラは、死んでしまったけど、なかなかいい奴ですね。
2008/5/25(日) 午前 7:14 [ 藤中 ]
2重応募作品ですねー、切ないなー、でも感動する。はなみさんが御自身でうるって来るのもうなずけます。
羽ばたいていくんですね。最後の締めが、すばらしかったです。
2008/5/25(日) 午前 9:07
藤中殿 そう、めずらしく?いい奴しか出てこないお話でした。死んでしまったのはそれだけの代償を払わないといけなかった大きな望みだったんですね。
2008/5/25(日) 午後 6:51
タヌキさん ちょうどmayaさんのとこの応募用に書いてる最中、ばっどさんのお知らせがきまして・・・。文中にむりやり(笑)いれてしまいました。。。この作品、「父と母は泣いた」のとこでうるっちゃうんだよなぁ〜。
2008/5/25(日) 午後 6:57
ココロが何なのか、それすら分からぬ鳥でさえ、好きな人が笑顔でいてくれたら嬉しく思う・・・切なくて、愛しい物語でした。
2008/5/30(金) 午後 4:56
tabaさん もうね、この作品は純粋な心で書きました(普段は・・・?)
SFとかばっか書いてると、こういう普通のも書きたくなるんです。今あっためてる現代小説?があるので、よかったら読んでくださいね^^
2008/5/30(金) 午後 9:07
難しい話で、何度も読み返しました。^^;
隠し文字のおかげで何とかシジュウカラの気持ちが分った気がしました。
傑作!
2008/6/9(月) 午後 9:57
神誘木さん いらっしゃいませ^^
あれ?難しかったですか?ちょっと伏線的な書き方してるからかな。。。傑作、ありがとうございます!
2008/6/11(水) 午前 9:18
はなみさん、こんばんは!
この作品を、審査員特別賞に選出させていただきました。
2008/7/1(火) 午後 8:36
麻耶さん ありがとうございます!
すごいですね、本格的な企画で飛び込み参加的に書いてしまって申し訳ないようです。
今後もこれを励みに精進します!
ありがとうございました^^
2008/7/2(水) 午後 7:48
今晩は、はじめまして。弊ブログの訪履歴から翔んできました。素敵なお話ですね。悲しいお話ですが、少女の魂や鳥さんのこころで皆が救われていますよね。だから、読後感が爽やかでもあります。「指とま」には遅いですが、[傑作]プレゼント致します。 とりあえず、おすすめから読ませていただきましたが、いろいろありそうなので、また訪問させていただきます。
2009/1/21(水) 午後 11:40 [ cygnus_odile ]
シグさん(すみません、なれなれしくて)以前、「Beautiful Snow」にコメントいただきました。こちらのお話も読んでいただきありがとうございます。
この話は、子供がいるので結構感情移入して書いた記憶があります。傑作ありがとうございます^^
私もまた伺いますね。
2009/1/22(木) 午後 8:30