七時雨 咲の書斎

いつか枯れる日が来るまで・・・

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〜第4話〜


激しい夕立が去り、辺りは再び蝉の声に包まれる
同僚の藤井さんと6駅先にある居酒屋へ向かう
今夜は直属の上司である支部長の送別会だ

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5年前、地元企業にしては高い競争率で応募が殺到するなか
大したスキルも無く、地味な私を採用した支部長
気位は高く数字に細かいが他方、面倒見がよく正義感は誰よりも強い
この5年の間、藤井さんと私は幾度となく世話になったものだ

ワイン好きだと聞いていたので口当たりの良いイタリアの赤をセレクトし
会場に到着したのは開始時刻ギリギリだった
メンバーを見渡すと一番端、窓際の席に千原部長、彼がいる
軽く会釈をするが、間もなく私は奥にいる部長に手招きされた
顔色ひとつ変えず見事な飲みっぷりを披露する私は
中年上司達にとっては格好の標的で、日本酒→ワイン→紹興酒
といった具合に次から次へ強い酒を勧められる

臨むところだ

理性の箍がはずれた中年は、肩に手を回したり
その赤い顔を近づけシモネタを連発する
こうなると上司でも何でもない、ただの酔っ払いオヤジ・・・

支部長にワインを手渡し、今までの思い出話をすると
眼鏡をはずし涙ぐむ様子にこちらも思わず泣けてきた

「 私の後任は千原君になったらしいね? 」
「 はい 」
「 やりにくい相手だとは思うが、しっかり頑張りなさい 」

やりにくい相手・・・
私はこの言葉の意味を後日理解することになる

21時をまわると店内には中締めの声が響き渡る
その直後に彼は部下たちを連れ一足先に店を出た

(やっぱり一緒には帰れないよね・・・)

うしろ姿をボンヤリ眺めていると
気付いたのだろうか、振り返り自分の携帯を指差している

(連絡して)

そう言ってるのだと思った
乗り継ぎ駅で皆と別れ、急いで彼の携帯を鳴らした
閉店時刻を過ぎたデパートの前で手を振る彼の姿が見える
歩き始めた二人の距離は5センチ、肩と肩が触れる距離

「 こんな近くを歩いてもいいんですか? 」
「 大丈夫ですよ、今夜は 」

街灯もまばらな噴水公園、周りのカップル達の姿もよく見えない
自販機で買った1本のお茶を、2人まわし飲む

「 今日は貴女の苦手な中華でしたね。あまり食べてなかった 」
「 よく見てますね。ところで先に店を出たのは何故ですか? 」
「 中締めも済んだし、つまらない飲み会だったから 」
「 それは・・・上司のお相手ばかりしてた私のせいですか? 」
「 いえ、違います。それよりも・・・怪我した所を見せて 」

ワンピースの裾をめくりあげると
治りかけの傷口を温かい手で優しく撫でそっとキスをした

「 こんなところ誰かに見られたら大変だな 」
「 うふふっ、そうですね 」
「 今度バイクに乗るときは気をつけないと 」
「 はい。ご心配お掛けしました 」
「 では、夜も遅いし車を拾いましょう。送ります 」

大通りに出るとタクシーはすぐにつかまった
彼の左手が私の右手を包み込む
そして初めて逢った時からずっと気になっていた薬指のリング

「 これとって 」

と、冗談で回してみたが動かない

「ごめんね、もう何年も抜けないんだ」

わざと頬を膨らませ瞳を覗き込むと運転席をチラッと見ながらキスをくれた
顔を見合わせ悪戯っぽく笑った


数日後、職場に彼が初出向する日を迎える
現職兼任という事で彼の勤務地である都内から
ここ神奈川支店に出向するのは月に数回程度になるようだ

「お早うございます、今日は宜しくお願いします」

まず事務的に挨拶を交わし、社屋内を簡単に案内する
日常業務をひととおり伝え彼のパソコンの初期設定にとりかかろうと
キーボードを操作した時、ふいに互いの顔が近づいた
皺ひとつない真っ白なワイシャツから柑橘系の良い香りがする
奥様がしっかりされてる方なのだな、と感じた
胸のドキドキが聞こえてしまいそうな距離
それでも顔色ひとつ変わらぬ彼

「 やぁ!千原くん!!」

そこへ親会社の専務がやってきた
二人は遠い昔からの長い付き合いのようで
この日は歓迎会を兼ねて一杯、と計画していたらしいのだが
専務に急な出張が入り、次回に延期しようと伝えに来たのだった

「予定、あいちゃったな。どうですか。軽く・・・行きますか?」

コップ酒を飲み干すしぐさで私を見る

駅前にオープンしたばかりの、料理が自慢の居酒屋で待ち合わせた
今夜は彼の実態を詮索する私がいる

「 私で何人目ですか?正直に言ってください 」
「 初めてだよ 」
「 その割には仕事中よく平気ですよね。ポーカーフェイス、私は苦手 」
「 そこは割り切らないと駄目だよ 」

オンナというものは相手の愛情の深さをとにかく知りたがる
自分を本当に愛してるのか、またどのくらい愛しているのか
ハッキリした言葉や目に見えるカタチで確認し、安心したいのだ
いつかコラムで見た記事にこう書いてあった
浮気をするタイプの男というのはその大概が常習犯
マメで優しく、経済的にも余裕のある人が多い、と
すべて彼に当てはまる
やはり彼は常習犯?
確認したい・・・

「 それと・・・自分は完璧な人間ではありません
 もしも気に障るような事があれば遠慮せずに何でも言って下さい
 貴女とはこの先ずっと永くやっていきたいから・・・ 」

永く・・・
意外な言葉・・・
嬉しさ半分、不安半分

店を出た私たちは商店街の路地裏で抱き合い、キスを交わした
後ろを通りかかった若い女性が横目でチラリとこちらを見ていた

「 今夜はこのまま離したくないな・・・ 」
「 駄目。主人がそろそろ帰ってくる 」
「 次はいつ会える? 」
「 土曜日なら・・・ 」

その時、今までにないほど強い力が私の身体を抱きしめた

「 土曜日・・・抱きたい・・・ 」

・・・抱かれたい・・・

素直にそう感じた


自宅へ戻ると車庫にはもう車が見える
主人は予想より早い時間に帰宅していたのだ・・・
髪の乱れを軽く直し、何くわぬ表情でキッチンに立つ

「 親会社の懇親会も気疲れして大変よ 」

うまく誤魔化したつもりだが、主人の目つきはいつもと違うように感じる
いや、気のせいだろう、こんな時こそ平静を装うもの
ポーカーフェイス!!
大好きな彼に愛されるために・・・

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七時雨 咲
七時雨 咲
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