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映画「フラガール」や東日本大震災からの復興で話題になった「スパリゾートハワイアンズ」(筆者の世代では「常磐ハワイアンセンター」の方がなじみがあるのだが…)の最寄り駅、JR常磐線の湯本駅に降り立った。駅前広場の一角に足湯が楽しめるコーナーがあり、硫黄化合物の香りがそこはかとなく漂うなど、早くも温泉地の風情が感じられる。
そんな駅前を後にして温泉旅館などが建ち並ぶ街並みの「上町通り」を抜け、10分ほど歩くと、温泉街の賑わいもまもなく果てようという一角に、その建物はあった。
重厚な瓦屋根を乗せた現在の姿だけを見ても、それがいかなる建物であったかを想像することは難しいであろう。しかし往事の痕跡は、わずかばかりではあるが残されている。「入口」と書かれたドアと、その横に掲出された「18才未満の方の入場は固くお断り致します。」の注意書き。そして塞がれてはいるが「テケツ」のような窓枠。横に回ると、奥に伸びた平屋部分が見えてくる。
この建物こそ、2006(平成18)年5月31日をもって閉館した「いわきミュージック」の跡である。末期の状況については情報が不足しているが、20世紀の終わり頃には若尾光さん、宝京子さん、相田樹音さん、桜樹ルイさん、雅麗華さん、沙羅さんなど、そうそうたる舞姫のみなさまも乗る“拠点劇場”の一つであった歴史を有している。
実は街灯のプレートや、敷地内に残された掲示板には「いわきミュージック」の名前を見ることが出来る。しかしこれらはスト劇場としての営業を終えた後、ライブハウスとして使われていた時代の名残りのようである。そして筆者が訪れた日も、網戸が入った窓が少し開き、中から人の声が聞こえるなど生活感をいまだ有している様子が窺えた。筆者が外観を拝見していると突然、横の扉が開き、洗濯物を抱えた高齢女性が姿を現した。目が合ったので「こんにちは」と挨拶の声を掛けたが、女性は筆者を一瞥だけして返答もなく歩き去った。果たしてスト劇場在りし日のことを知っている関係者だったのだろうか。
今回の訪問で一つ謎が残った。現在ネット上で閲覧できる「いわきミュージック」の現役時代の写真では、赤テントに覆われていて見えない前面の壁面に、何やら文字が書かれていた痕跡が見えるようである。
筆者の見立てでは「湯本極楽センター」とも読めるようであるが、果たしていつの時代、なんと書かれていた跡なのであろうか。筆者は現役時代に訪れることのなかった劇場ではあるが、建物や掲出物などだけでも末永く残ることを願いつつ、温泉街を後にしたのだった。
(訪問日:2018(平成30)年9月9日(日))
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