イタリア Lezione

主にイタリアに関する読み物です。

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パレルモからの手紙

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○○ 様





 屹立する石灰岩の、険しい岩肌に慄いているうちに、バスは Palermo の市街に入っていきます。



 左手に深く広がる Tirreno の青い海、右手に所々窪みのある石灰岩の巨大な白い壁 ・・・
 この街に来て最初に観た、青と白の対照は、Sicilia という最果ての 「 南国 」 が放つ、独特の太陽の光と重なり、強烈に心に残ります。細い一本道を、その 「 青 」 と 「 白 」 に挟まれるようにしてバスが進むうちに、
Palermo の街が、不意に眼前近く広がりました。


 Castelnuovo という名前が付いた、広場の一隅にある古風なホテルの部屋に腰を落ち着けます。
 最初の 2 〜 3 日は、旅の常として、旧所名跡、いわゆる 「 見所 」 と言われる観光地を巡りました。Quattro
Canti と呼ばれる市内中心部の四つ辻にあるバロック風の建築物、Pretoria 広場に聳える彫刻群の奇観、
Massimo 劇場の壮麗な装飾、そして美術館、博物館の類は、言うに及びません。


 しかし、ガイドブックに載る様な、「 見所 」 を観て周っても、不思議と心が躍りません。
 それは、Palermo が、思う以上に大きな街だからでしょうか。Sicilia という 「 イタリアであって、イタリアではない 」 という特殊な風土を期待する、観光客が持つ無責任な 「 好奇心 」 を満たすには、Palermo が持つ大都市特有の空気は、些か大人しい ・・・ San Cataldo 教会の丸みを帯びた半円形のドームに、微かに匂う欧州とは毛色の異なる 「 東方 」 の名残りしか見て取れない、自らの見識の低さを呪います。最初に観た、「 青 」と 「 白 」 のコントラストに降り注ぐ、冬のそれとは思えない日差しの印象が余りにも残るが故に、Palermo の整然とした街並みは、少し恨めしく目に映ります。


 一通り 「 見所 」 を周ってからは、思い切ってガイドブックを閉じ、街の散策に精を出しています。
 大きな通りを避け、故意に細い路地に入って行きます。事前に聞き及ぶ通り、「 南の貧しさ 」 は、裏通りに入ると如実です。整然とした表通りから、一歩横道に入るだけで、街の表情は一変します。崩れかけた家の壁や廃墟となった名もない教会、剥がれた石畳の窪みに溜まる濁った雨水、昼間から辻々に屯する若者の一団、野良猫を追いかけて興じる裸足の子供達、そして空を遮る夥しい洗濯物の列 ・・・ 一見、華やかな表通りと異なる、もう 1 つの Palermo は、ある意味、「 青 」 と 「 白 」 の対照以上に、心に残ります。そして、この 「 対照 」 を知って初めて、Palermo の街に入り込む事が出来た様な気がするのです。不思議ですが、窪んだ石畳に足を取られたとしても、裏通りを歩いて、特段、不愉快な事は起こりません。むしろ、何処となく掴みかねていた、 Palermo に、漸く歩み寄る事が出来たという妙な安心感が湧き上がります。否、それ以上に、裏通りで、日々沈殿する、この街の匂い立つような生活臭に酔う方が、余程、「 Palermo 観光 」 の体を成している様に思われて、自分でも驚きます。


 旅をしていると、思ってもいなかった事象が、後々まで記憶に残る、という類の経験を時折します。
 私にとって、この街は、そういう旅の奇妙な経験の最たるものだと思います。「 地中海という特殊な地理条件は、Palermo に欧州、アラブ、そして雑多な文化を花開かせた ・・・ 」 という、ガイドブック的な解説の断片は、街の到る所に観る事が出来ます。しかし、残念にも、そういう類の Palermo は、一向に、私の旅の 「 思い出 」 として記憶に残らない事でしょう。恐らく、私の記憶に残る、この街の断片は、最初に観た 「 青 」 と 「 白 」 であり、華やかで整然とした表通り、そして、それとは全く異なる 「 南の貧しさ 」 が如実に現れる、裏通りに充満する喧騒の類なのでしょう。そう、 Palermo とは、私にとって、良くも悪くも、「 コントラスト 」 の街なのです。


 滞在の最終日に当たる今日、初めて、港の近くまで行きました。
 途中、不意に降り出した雨を避け、海岸が見通せる bar に逃げ込みます。温かい camomilla が、冬の海風で冷えた身体に染み、一息つきました。ふと外を目をやると、霧の様に降る静かな雨の向こうに、初めてこの街に来て観たよりも、一層色を濃くした 「 青 」 が広がります。そして、海岸線の両端に、石灰岩の切り立った断崖の
「 白 」 が海に迫り出しています。


 定時のニュースを終えた、bar のラジオから、唐突に Cavalleria Rusticana 前奏曲の、あの美しいメロディが流れます。眼の前にある、雨が薄く掛かった 「 青 」 と 「 白 」 のコントラストを観て、改めて Palermo の記憶を胸に刻みました。


 明日の朝、列車で Agrigento に向かいます。
 明日まで、雨は降り続けるのでしょうか。

 雨に濡れた 「 青 」 と 「 白 」 のコントラスト ・・・
 Palermo で最後に観る風景として、悪くはない筈です。



 naoki

 Palermo にて。

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