|
イタリアとて、志の高い料理人であれば 「 食材 」 の妙を生かした調理に励む筈です。
折々の 「 旬 」 における高級素材を時節に関係なく揃え・・・ などという無いものねだりはともかくとして、少なくとも 「 賞味 」 の頃合が過ぎた 「 食材 」 に、やたら味付けの濃いソースを添えて誤魔化したり、素材味の原形がなくなるまで火を通すというような 「 仕事 」 振りでは、全く頂けません。その手の料理を出す店に限って、「 何とか濃厚ソース 」 あるいは 「 トスカーナ猟師風炙り焼き 」 等と、もっともらしい注釈を付けて客に供するのが常ですから、「 食材 」 という principle を、自らの内に常備しない限り、相応の 「 一皿 」 に巡り会うのは至難の技となるでしょう。
海辺に行けば 「 海の幸 」 があり、丘陵地帯に旅の歩を進めれば、必ず其処に 「 山の幸 」 があるものです。 そして、その 「 幸 」 の持つ 「 風味 」 と 「 頃合 」 を十二分に心得た料理人が、イタリアで多数を占めるからこそ、同じような食のメンタリティーを持つ日本人が、これ程までに彼の地の料理に対して共感を得るものと思います。魚であれ、肉であれ、はたまた野菜や果物に至るまで、新鮮な素材の 「 味 」 を生かした調理に、我が技の集約を試みる料理人に出会った時の喜びは、何物にも換え難いものです。
その店の 「 素材勝負 」 という心意気を推察する、一番の要素は 「 前菜 」 ( antipasti ) にありましょう。 「 前菜 」 は、それこそ 「 食材 」 に余り手を掛けない 「 定番 」 が多い筈ですから、そこで 「 素材感 」 のある一皿が出てくれば、料理人の見識、あるいは後に控えて続く料理の水準も推して知るべしです。従って、「 前菜 」 を頼む際には、「 奇をてらった 」 ものではなく、丸ごと 「 食材 」 の味を楽しむ事が出来る 「 定番 」 を選びたいものです。 メニューにその姿を見つけると、必ず頼むのが Caprese です。 トマトとモッツァレラチーズ、バジルのサラダである Caprese は、シンプルでありながら、「 食材 」 の出来不出来が、その完成度を左右する、いわば 「 誤魔化し 」 のきかない定番メニューです。トマトの持つみずみずしい甘みと清涼感、新鮮なモッツァレラ独特の歯応え、アクセントになるバジルの風味、何れかが欠けたとしても Caprese は Caprese として成立しません。一個の独立した素材として、生食に耐えられるフレッシュなトマトはもちろん、モッツァレラ本来の 「 水牛乳製 」 を手に入れるのは、なかなか困難ですから、美味しい Caprese に巡り会えただけで、「 食材 」 の仕入れに神経を集中する料理人の 「 指針 」 を窺い知る事が出来ます。 ローマ、ナポリ、サレルノ、そして神楽坂に、素晴らしい Caprese を出す店を知っています。 やはり Caprese は、その店の 「 食材 」 に対する 「 尺度 」 に成り得るらしく、これらの店では、どの料理を頼んでも 「 食材 」 の味がしっかりと生きていて、「 美味しい 」 という言葉を発するのに躊躇が湧きません。 イタリアでも日本でも、美味しい Caprese と、それを吟味して供す料理人との出会いに、いつも胸をときめかせます。
「 素敵な 」 食事相手が目線の先に座っていれば、何も言う事はありません ・・・。
|
過去の投稿日別表示
[ リスト | 詳細 ]
全1ページ
[1]
全1ページ
[1]



