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O, the rain falls on my heavy locks
And the dew wets my skin
My babe lies cold ...
静かな部屋の窓越しに、ふと外を見ます。
雨音が聞こえる休日の午後。
本を読みながら、ゆっくりと時間を遣り過ごすのも悪くありませんが、季節に不釣合いな冷たい雨音を聞いていると、少しだけ心がざわつきます。読んでいた本を傍らに置いて、漠然と外の静かに濡れそぼる風景を見ていると、色々な事が頭を過ぎります。する事もなく、無為に時間を過ごしながら雨音を聞いているような時、必ず頭に浮かぶのが、冒頭の一節です。
J. Joyce の 『 Dubliners 』 に 「 The Dead 」 という小品が収められています。
その中に、雨を謳った、この一節が出てきます。古い Ireland の民謡に取材した短い断片は、その曲調も定かではないにも関わらず、何故か心に残ります。
大学院生の頃、一時期を過ごした Dublin の事が、雨音と共に蘇ります。
暗く貧しい、どこかうらびれた Dublin の下町は、他の欧州の街とは全く異質の匂いが立ち込めていました。そして、雨。Dublin は、とにかく、よく雨が降る街でした。休日の午後、しとしと降りそぼる冷たい雨音を、下宿の部屋の窓越しに何度聞いたことでしょう。雨が、その音を静かに重ねれば重ねるほど、論文を書く手も滞り、色々な思いが頭に浮かんできます。研究の進捗から、将来に対する漠とした不安に到るまで、雨音は心を遠巻きにざわつかせます。
そのような時、雨音を遣り過ごそうと、決まって手にしたのが 『 Dubliners 』 です。
難解な字句を文字通り拾う様にして読んでいると、頭の中から余計な心配事が 1 つ 1 つ消えていきます。そして、「 The Dead 」 を繰り返し読む度に、あの 「 雨の歌 」 が目に留まります。狭い下宿の部屋の机に向かい、適当に節を付けて口ずさむと、Dublin の雨音が奏でる寂しさが、不思議と和らいだものです。
異国で過ごす、休日の午後に降る雨を、私は、その様にして遣り過ごしました。
雨音は、思い出を蘇らせる効果があるようです。
休日の午後、そぼふる雨を窓越しに見る時、皆様は、どのような思い出が頭を過ぎるのでしょう。寂しさや悲しさを伴った日々、そして、遠く過ぎ去った、大切な人との少しだけ切ない思い出。いずれにしても、雨音が静かに重なるほどに、記憶が蘇るようです。
雨の休日。
久し振りに 『 Dubliners 』 と、Dublin を、そして、昔の事を思い出しました。
--- Do you know Trinity College ?
--- Yes, sir, said the cabman.
--- Well, drive bang up against Trinity College gates, said Mr Browne, and then
we'll tell you where to go. You understand now ?
--- Yes, sir, said the cabman.
--- Make like a bird for Trinity College.
--- Right, sir, cried the cabman.
The horse was whipped up and the cab rattled off along the quay amid a chorus of laughter
and adieus.
・・・ The Dead, Dubliners : James Joyce
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