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帰港

 
 Torna a Sorrento ...
 
 
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 Amalfi 海岸への入り口である風光明媚な Sorrento の湾。
 南イタリアの景勝地たる評は確かな響きで、一筆の跡を辿るような海岸線と言いようのない 「 蒼い 」 夏の海色は、飽かず目線を惹きつけます。背後の段々に茂るレモン畑の薄い香りが潮風に混ざり、否が応でも季節の風情が充満するようです。湾内の海面に浮かぶ船影が刻々と動き、それだけが時間の経過を示します。
 
 Sorrento の湾に行き来する大小の船。
 
 Sorrento から出て行き、再び戻って来るであろう様々な船の淡い航跡をぼんやりと眺めているうちに、「海 」 もまた旅の出発点であり、終着点であることに改めて気づきます。列車駅に独特の旅情があるように、Sorrento の蒼い港にさざめく波間にも、何処か胸底を締め付ける音が漂います。
 
 此処から出て行く船 ・・・
 
 地中海を揺れ、はたまた外海を廻り、そして最後に Sorrento を終着の地として戻って来る船に、この蒼い港はどのように映るのでしょうか。
 
 美しい Sorrento の静かな夏。
 

広場

 
 
 夏の Firenze も良いと思います。
 
 
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 盛夏の色を濃く帯びた 「 花の都 」 は、冬のそれとは様相を異にします。
 この街を訪れた人であれば、誰であっても眼前にする筈の Duomo や Uffizi の威容、
P. Vecchio の美観、はたまた S. Marco 寺院の枯れた佇まいもまた、夏の日差しを浴びて一層際立ちます。それは、落ち着き払い物静かな風情の反面、何処か侘しい冬の冷たい空気の中に浮かぶ立ち姿とは全く異なります。Firenze を彩る 「 美的遺構 」 の諸々は、季節らしい強烈な陽を浴びてもまた、美しく目に映ると思います。
 
 
 
 夏は 「 花の都 」 にとっても 「 ヴァカンス 」 を意味する季節です。
 大勢の人を引き寄せる 「 花の芳香 」 は、この街が持つ魅力の普遍性を何よりも雄弁に物語るものでしょう。冬とは異なる人の流れに 「 美的遺構 」 は、少しだけ当惑しながらも、数え切れない視線の直射に堂々と応えるかのような貫禄があり、それはそれで頼もしくもあります。「 人の群れ 」 の中に凛として咲く 「 花 」 も、決して悪くはありません。
 
 
 
 人波を少し泳ぎ疲れたら、いつも決まった 「 広場 」 に向かいます。
 中心部から、左程の距離もない裏通りに、ぽつねんとある小さな広場。観光客はもちろん、
Firenze に住まう人ですら振り返ることのない小さな広場です。 気を付けなければ、其処が広場であることすらも分からないような、この静かな愛らしい空間が大好きです。
 
 
 その広場の名は、S. Pier Maggiore ...
 
 誰もが忘れてしまったこの愛らしい広場は、かつて Dante が永遠の恋人として胸に刻んだ
Beatrice と初めて会った場所です。花祭りの縁日で、多感な少年であった Dante が、可憐な少女 Beatrice を見つけたその刹那、身体の中を通り抜けたであろう震えは如何ばかりであったか ・・・ 静かな広場を前に、黙ってそのような事に思いを巡らすのも一興でしょう。
 
 人で溢れる街にあって、静かに沈思することが出来る広場にもまた、季節の陽が降り注ぎます。
 
 
 大勢の人を包み込む夏の 「 花 」 にも、静かな魅力があるものです。
 
 
 
 
 
In quel la parte del libro della mia memoria,
Dinanzi alla quale poco si potrebbe leggere,
Si trova una rubrica,
La quale dice:
Incipit Vita Nova.
 
La Vita Nouva : Dante Alighieri
 
 
私の記憶という本の中の
その章の最初のページに
貴女に初めて出逢えた日のことが
こう書かれている
新しい人生が始まると
 

水辺の方へ

 
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 Venezia では、水路巡りに心惹かれます。
 
 
 どの案内記にも相応のページが割かれるような旧所名跡も、この特異な風情を有する街にとって欠かすことの出来ない重要な要素なのでしょう。しかし、Venezia の所以たる水辺の妙に目を閉じるのは、如何にも惜しい気がします。
 
 
 大きな運河から幾重にも分かれた水路は、葉脈のように街全体に広がります。
 建物の日陰になり、誰も通らないような細い路地を進むと、風情ある小水路、或いは其処に物言わず架かる小橋の姿に行き当たる事があります。
 
 
 大運河に架かる急角度に屹立した大橋も、渡る人の活気や、絶えず下を通る船影の多さに退屈を覚えません。しかし、それと対照的に、静かな水面を下に黙して佇む小水路や小橋も、一幅の絵の様な感を残し、薄い膜の様な魅力を Venezia の風情に与えます。
 
 
 夜になり、ランタンの薄明かりが、小橋の上で寄り添う 2 つの影を照らす時、小水路に小さな波紋が音も無く広がる ・・・ ロマンティックな想像も、この街の水辺には事欠きません。
 
 
 地図が殆ど役に立たない、入り組んだ迷宮都市を巡り、小路の奥で、もう 1 つの Venezia らしい光景を見つける ・・・。決して悪くはない筈です。

小さな教会

 
 
 田舎の小さな教会もまた、良い姿をしていると思う事があります。
 
 
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 例えば、Toscana の小村。
 
 気まぐれに降りたバスが走り去り、小鳥の囁きだけが残る、静かな石造りの家並。
 こういう如何にも 「 田舎 」 然とした村を、そぞろ歩くと必ず、小さいながらも印象的な教会の立ち姿が目に留まる筈です。
 
 
 大きな街には、それに比すようにしてそびえる圧倒されるような大伽藍がありますが、小さな村にも、その景観に相応しい、愛らしくもある古刹が、ひっそりと佇んでいるものです。
 
 Firenze で頭上高く見上げる Brunelleschi の大作に心震わせ、その装飾の麗に刮目するのは無論ですが、その来歴さえ知り得ぬ 「 小さな村の小さな 」 教会に興を覚えるのもまた旅の常です。
 
 大勢の人が取り囲み、目に焼き付ける大伽藍の姿とは異なり、田舎の小さな教会は振り向く人の視線を受け止める事も無く、黙して静かな家並と共に立ち続けます。その光景に、懐かしさに似た感情を持つのは、遙か日本の山中で、ふと出会う名も無い名刹に深く感じ入る時と同じ心の振幅なのかも知れません。
 
 
 夕刻、屋根の上に付いた小さな鐘が静かに響く時、Toscana の小村にどのような夕景が迫るのか ・・・ そのような事を考えて、名も無い教会を見詰めます。

聖地の冬

 
 
 足早に訪れる Assisi の夕刻。
 
 
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 音も無く流れ出す冷たい風が頬に当たり始める頃、古街の風情も極まります。
 先刻まで溢れた嬌声の観光客は、それぞれ暖かな車中の人となり、煌びやかな大都市の懐へと向かい始めます。取り残された Umbria の平原にぽつりと浮かぶ小さな街並みは、冬只中の冷たい静寂の中、再び黙して佇む時刻を迎えます。真冬の夜の侘しい小村に、宿を定めて逗留するのは、一種胸を詰まらすような旅情に自ら身を委ねる事を意味します。
 
 
 
 Francesco が開いた街の帰すべき姿は、やはり 「 静寂 」 となる筈です。
 小山の中腹に据えられた Assisi の落ち着いた立ち姿は、「 下界 」 から離れ、永遠の瞑想に沈もうとする聖人が選ぶに相応しい風情を帯びます。真冬の夕刻、屈んだ身を伸ばすように冷気が聖地に降りて来る頃、かつて同じように聖人が吸い込んだ清廉な空気が辺りに充満します。
 
 
 
 街路を照らす独特の形をしたランタンに頼りない灯りが 1 つ 2 つと点もります。
 それを潮に、人通りは拭い去るように消え、Assisi に、ただただ静かな時間が流れ始める ・・・ 侘しげな風情の中に、「 聖人の開いた街 」 という思いを重ねると、冷たい空気が張り詰め、聖地が持つ凛とした別の姿が浮かび上がるようです。夕刻の静かな街に佇み、抑え切れない侘しい旅情が胸に迫る ・・・ それは、この街にまた 1 つ、言い知れぬ魅力を重ねる事になるのかも知れません。
 
 
 Francesco の名を冠した聖堂の鐘楼が、短く低い音を響かせます。
 その音が、澄んだ空気に乗って小さな街を包み込む ・・・
 
 Assisi の冬。
 
 聖地の静寂。
 

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