|
家でエスプレッソをよく飲む。
3年前に、銀座のデパートで小型の「エスプレッソ・マシーン」を買った。
家庭用品の売り場の一隅に、即売コーナーが出来ていて、「マシーン」の実演販売を行っていた。最初は、半信半疑であったが、若い女性の販売員の哀願するような潤んだ眼に負けて、試しに飲んでみたら存外美味しく、軽い衝撃を受けた。味、香りとも、今まで飲んだ、どのエスプレッソよりも上質だ。「お!」という顔色を敏感に感じ取った販売員は、ここぞとばかりに美辞麗句を並べ立て、攻勢をかけた。5万円弱と値は張ったが、「毎日、こんなに美味しいエスプレッソが、1杯あたり60円で飲めるのですよ!」という決め台詞に押し倒されて、その場で購入した。
それ以来、毎日のように自宅で楽しんでいるが、やはり美味しい。
専用の豆パックを所定の位置に設置して、水をタンクに入れてレバーを引けば、簡単に濃く抽出されたエスプレッソが出てくる。豆を圧力で抽出する時に出る、独特の「ブォブォ、クォー」という音もそれらしい。砂糖を沢山入れて飲む濃いエスプレッソの風味は、疲れた時などに、心身両面を活性化させる効果があるらしく、「1杯60円」の贅沢も、案外良いものだと思う。
イタリア語の caffe は、英語の coffee に対応する語であろう。
しかし、caffe の一義的な意味は、いわゆる「エスプレッソ」だから、イタリアで「アメリカンコーヒー」のつもりで、
caffe を注文すると「あれ?」という事になる。逆に、「エスプレッソ」のつもりで、わざわざ Caffe espresso, per
favore. 等と言わなくても、caffe と頼めば、自動的に「エスプレッソ」が出てくる算段だ。
Napoli で、初めて caffe すなわち「エスプレッソ」を飲んだ。
それまでイタリアでは、コーヒーを飲みたいと思った時は、cappuccino を頼んでいたが、たまたま立ち寄った中央駅構内のスタンドにはなく、caffe を頼んだ。小さなデミカップに半分くらい入ったどろっとした黒い caffe は、少量であっても染み渡るように美味しく、疲れた身体が瞬く間に目覚めるようであった。駅のスタンドなどでは、
cappuccino よりも caffe が好まれるらしい。cappuccino を、ちびちびと時間を掛けて飲むよりも、「気つけ」の
caffe をさっと飲んで颯爽と立ち去るのが、如何にも様になる。以来、食後は別として、駅のスタンドや、街中の
bar で飲むコーヒーは、圧倒的に caffe が増えた。
自宅で「エスプレッソ」を飲みながら、たまに、ナポリで初めて口にした caffe を思い出す。
旅先で初めて飲んだ caffe の面影が身体の何処かしらに残り、それが「マシーン」を買わせたのかも知れないと最近思う。
使い込んだ我が家の「マシーン」が淹れてくれる「エスプレッソ」も、ナポリの caffe に決して負けない。
|