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弁護士も、すでに勝敗の見えた案件にけりを付けたかったのだろう。
私の心の整理を付けた返事を催促している。
最高裁上告期限まで、あと数日……。
家内に相談すると目に涙を溜めて「もう止めましょう……」と言った。
俯いたままで言葉を続ける。
「お墓にお金もいるし……、これ以上の出費は……」
困窮する我が家で一千万程の裁判費用は大きすぎる。
しかし、行政も誰も助けてくれない。
ありありと冤罪と分かると言うのに……だ!
情けない……
これだけ確かな事故鑑定書があると言うのに……
Nシステムの情報さえ確認できれば、簡単に真実が分かると言うのに……
京都府警九条署、二名の警察官が作成した実況見分調書は、決して覆す事ができない。
私は口惜しさに涙が溢れた。
「社会正義、礼節、道徳を重んじる」
子供達を前にして、人としての道を笑顔で説いていた竜介の言葉を思い出す。
事故の真実を確認するために、これで終わらせる訳にはいかない。
たとえ、金を溝に捨てるような結果になっても良い。
私は最高裁判所への上告を弁護士に告げた。
最高裁判所への上告手続きはセレモニーのようなものだったかもしれない。
竜介の理不尽な事故内容に対しての納得しきれない最後の抵抗だった。
弁護士から上告手続きが終了したとの連絡があり、最高裁判所の書類受理の報告書が提示される。
全ては静かに静かに行われた。
話題になる事も無く、竜介の死は過去へと消えて行った。
口惜しさに胸を押し潰されそうになりながら、何処に向けて怒ればいいのか分からないままの憤怒が燻った。
日本の冷たさが……
日本の怠惰な行政組織が……
日本のおざなりな警察機構が……
竜介の命を闇に葬った。
闇の向こうに、西濃運輸、高橋英則や京都府警九条署、林田警察官のほくそ笑む顔が見えた。
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