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年金改革をめぐり、民主党政権は年内に現行制度の修正案をとりまとめるべく議論を急ぎ始めた。税と社会保障一体改革の過程で、マニフェストに記した自らの抜本改革案を棚上げし、現実路線にかじを切ったというのが実情だ。それでも「手直し」にさえ異論は多く、財源問題も絡んで実現は並大抵でない。課題に挙げた(1)中立で公平な制度(2)最低保障機能の強化(3)持続可能性の確保−−は、どこまで達成できるのか。
現行制度では、週の労働時間30時間以上の人が第2号被保険者(2号)となる。厚生年金に入り、労使折半で保険料を払う。片や30時間未満の人は、勤め人の夫(妻)の扶養を受けていれば第3号被保険者(3号)として保険料なしに基礎年金(11年度の満額は月6万5741円)を受給できる。それが、独身や、夫(妻)が自営業だと第1号被保険者(1号)として国民年金に入り、月1万5020円の保険料(11年度)を負担せねばならない。
夫が自営業で、国民年金に入る埼玉県内のパート女性(41)は「職場はサラリーマンの奥さんばかり。同じ仕事なのに保険料がなく、うらやましい」。
こうした差は不公平感を招くほか、労働時間を調整して保険料を免れようとする人を生むなど雇用をゆがめている。そこで政府は週の労働時間が20時間以上なら厚生年金への加入を義務づけ、1000万人いる3号を減らそうとしている。1800万人ほどいるパートのうち、厚生年金に加入している人は1000万人程度だが、「20時間以上」への適用拡大で最大400万人が新たに加わるという。
とはいえ、厚生年金に入ると、事業主、パート双方に負担が生じる。厚生労働省は「パートが1年加入すれば9万7000円の負担増となる代わり、生涯の年金は17万3000円増える」とお得感を強調するものの、パートを多く雇う外食、流通業界は猛反発している。
政府が適用拡大を狙うのは07年に次いで2度目。当時、食品業界団体がパートの声を聞くと7割が「反対」と答え、政府案を廃案に追い込む原動力となった。将来の年金増より3号のまま負担を避けた方がいい、との判断だ。この団体は今回もパートの意向を集約しており、関係者は「前回より反対姿勢は強まっている」と明かす。
86年に始まった3号制度は、主婦の年金権を確立した。とはいえ、1980年に614万世帯だった共働きは2010年、1012万世帯へと増えており、2号のフルタイムで働く女性たちが3号制度に注ぐまなざしは厳しさを増している。
厚労省は、3号のパートや専業主婦から保険料を集める案も検討した。だが、支払いが難しい人も少なくない。「家事で夫の仕事を支えている」との反論も強く、結局、9月29日の社会保障審議会年金部会では、妥協案として夫の保険料の半分を妻が負担したとみなし、厚生年金を夫婦で2等分する案を示した。
ただ、この案では夫婦合算の負担と給付に変わりはなく、女性の就労促進にもならない。女性の労働問題をライフワークとする小宮山洋子厚労相は30日の会見で「根本的な解決ではないが、公平な方向に一歩前進した」と言うにとどめた。
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「公平性が大事だ」「モラルハザードを生まないか」
9月13日の同年金部会。厚労省が▽年収65万円未満の人の年金に月1万6000円加算▽受給に必要な加入期間を25年から10年に短縮−−との案を示すと、有識者から疑問が相次いだ。
基礎年金の平均月額は5万4000円。1万6000円を上乗せすれば、民主党公約の「7万円の最低保障年金」と同額になる。しかし、基礎年金しか受給していない人の平均は4万9000円。最多層は3万円台だ。
2011/10/2(日) 午後 9:25
一方、加入期間を10年に短縮すれば、今後最大118万人に上るとされる無年金の人は減る半面、低年金の人が急増しかねない。10年間だけ基礎年金に加入した場合、受給額は月に1万6000円程度。こうした人にも加算するなら、元々の給付と同じ金額を上乗せすることになる。
本来年金は「負担した人に受給権が生じる」保険制度だ。
年金部会で植田和男部会長代理(東大大学院教授)は「保険と所得再分配(加算)を両方すると保険の効率が悪くなる」と述べ、加算には慎重な考えを示した。
今回の最低保障機能強化策には約6500億円を要する。厚労省は年収1000万円以上の人の基礎年金を最大2分の1削減する案も検討しているが、対象者は受給者の0・6%。得られる財源も450億円で、所要額の大半を先行き不透明な消費税増税に頼らざるを得ない問題も残る。
2011/10/2(日) 午後 9:25
少子高齢化による支え手不足に直面し、政府は04年年金改革で持続可能性の向上を目指した。柱は将来の保険料に上限(厚生年金18・3%)を設ける代わり、給付の伸びを抑えること。そのために導入したのが「マクロ経済スライド」だった。
同スライドは、物価や賃金の変動に合わせてきた年金額の決め方を大きく変える。物価や賃金上昇率より年金の伸びを0・9%抑える仕組みで、厚労省は年金財政立て直しの切り札と期待していた。
それでも物価下落時には発動しない決まりなので、デフレ基調の下、まだ一度も機能していない。当時59%だった厚生年金の給付水準(現役世代の平均的手取りに対する年金額の割合)を50%まで下げるはずが、賃下げによる現役の手取り減少で分母が縮み、逆に60%台へ伸びている。
2011/10/2(日) 午後 9:26
17年、保険料は上限を迎える。少子化で今後の収入増は見込めない。このため厚労省は物価下落時も同スライドを発動し、年金カットに踏み切る法改正を模索している。
ただ、民主党政権は高齢者の給付削減に極めて慎重だ。「やれっこないよね」。厚労省幹部はそう漏らす。
同省は支給開始年齢の65歳からの引き上げも課題に挙げるが、腰は引けている。給付削減が進まない中、09年度末の積立金は想定より7兆円減った。基礎年金の国庫負担割合50%を維持する2・5兆円は、いまだに「埋蔵金」でしのいでいる。(毎日新聞 2011.10.2)
2011/10/2(日) 午後 9:26