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ブゥゥン・・・
ドライヤーの低い音が部屋に響き渡る
好きな人に会えるドキドキ感を
こういう時みんな楽しむんだけれど
今の私には・・・・
「・・・・。」
鏡に映る、素顔の自分が少し、やつれて見えた
私って、こんな顔してたかな
温風に揺れる髪の毛から、淡く香るシャンプーの香り
彰と一緒にいた頃とはまた違う、少し疲れた私の顔
どんなに笑ってても、前向きに思ってても
ふと、素に戻ると、不安げで、寂しい顔が浮かび上がる
はぁ・・とため息をついてドライヤーを止めると
温風で熱せられた髪をばさばさっと無造作に散らした
時間は0時30分
私は、ひなたの机に行くと、1枚便箋を取り出した
マジックペンできゅっきゅっと短く言葉を並べる
”ひなたへ
お母さんちょっとだけ外に出てるから
起きてもし、お母さんがいなかったら
携帯に電話して、すぐ帰るから”
「これでよし・・と。」
私はその便箋をわかりやすいようにドアに張って
もう一度読むと、ひなたの携帯を
眠るひなたの横に置いて
パジャマ代わりのパーカーを脱いだ
すばやく着替えて、髪の毛を軽くなおすと
口紅だけ薄くつけて、彼からのメールを待った
義母は20時にもう眠ってしまっている
別に凄く、彼に会いたい訳じゃなかった
ただ、ここ数日、イライラしたり、やるせなかったり
時間に追われて、かなり不安になっていたので
情緒不安定な気分を少し、外に出ることで
落ち着けたかった
彼に会いたいと言うよりも
それが先決みたいな・・・・
なんか、わざわざ会いに来る彼には少し
悪いようには思うけれど。
なんとなく、ついでのような感じの彼の行動だから
わたしも”ついで”にくらいの気持ちで、いいのかもね
12月ももうすぐ上旬が終わる
クリスマスが近くなると、やっぱり去年のことを
思い出して苦しくなってしまう自分がいる
だから余計に最近は精神的に苦しくなっていた
いくら消そうとしても、鮮明に蘇る記憶が
めまいや息切れや微熱を引き起こす
体の中に閉じ込めてたものが
小出しに外に出てきて私を悩ませる
それがとても辛かった
「・・・・。」
枕元のスタンドライトがぼんやりと照らす部屋
その視界に、フォトスタンドが入る
少しはにかんだようなひなたと笑顔の私と・・
彰が笑っている
「・・・・。」
遠い過去のようで、つい最近の思い出
つい最近のようで、もう遠い春の記憶
今では、千葉にいた記憶が少しづつ
思い出へかわっていこうとしている
前を向いた私、歩き出した私
だけど、いつまでも、忘れられない私
「・・・・。」
そっと手を伸ばして、フォトスタンドを手に取った
うっすらと表面に埃をかぶってる
それが私達の今を物語っているように思えた
ねぇ、彰
人を好きになる事はやっぱり難しいね
どうしても私は、疑ってしまうし
信用できないでいる
そして、上手に甘えられないでいる
今の彼も、信じようと思ったんだよ?
だけど・・なんかちょっと・・・ね
深く考えすぎるからいけないのかもしれないけど
私の思い描くものとは・・違うような気がするんだ
あぁ、やっぱり男ってみんなそうだ
そう、思ってしまうんだ
それに、私は一人じゃないから
誰よりも幸せにしなきゃいけない
ひなたがいるから・・
恋とか考えちゃいけないのかもしれないね
でもいつか、ひなたも私も、受け入れてくれて
幸せにしてくれる人が現れるのかな?
一番いいのは、誰が本当の運命の相手か
わかったら、いいのにね
ね?
彰は、もうそんな人見つけれたかな?
ゆっくりと埃を指先でぬぐうと
より写真が鮮明になる
「・・・・。」
色んな想いが胸の中をかけめぐる
ここにいるから、なのかな。
彰の面影が詰まったこの部屋にいるから
だから苦しんでしまうのかな。
毎日、彰の事を何かしら話す義母さん
毎日、彰にメールを送るひなた
日常のどこかに、彰の存在がある生活
自分で悩んで選んだ道だけど
それで本当に良かったのかな
だけど・・・あの時はもう選択肢は
ここしか残されてなかった・・・。
だから、私が乗り越えなきゃいけないんだよね?
だけど、ありえないよね、やっぱり
別れた彰の母親と暮らしてるなんて・・・
「・・・・まだまだ、頑張りがたりないのかな・・。」
♪♪
そんな時、足元の携帯が音をたてた
思わずはっと我にかえる
宇多田の着信音 彼だ
そのまま私はフォトスタンドを元に戻すと
携帯を開いた
「もう、着くよ。」
「・・・・・。」
私は少しためらった後
「了解。」
と返事を打って、携帯を閉じた
タイムリミットは1時間
自分でそう決めていた
そのまま携帯をバックに押し込めると
眠るひなたの毛布をかけなおして
すっくと立ち上がると、私は
そばにあったコートを手に取った
マフラーを巻いて、コートを着込むと
バックをかたにかけて、また、ため息をつく
ドアをゆっくりと開けると、わたしはひなたに
小さな声で”行って来るね”と言うと
「・・・・・。」
もう一度、テレビの上のフォトスタンドを見つめて
パタンとドアを閉めた
フォト BY きゅん
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