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イメージ 1

「・・・・・。」


とくん・・・とくん・・・


激しくわたしの鼓動が鳴り始めた。


階段の上、ライトに照らされて成瀬さんが立っている。


どうしよう・・どうしよう・・。


そんな言葉ばかりが わたしの頭の中を回って


ただいまの次の言葉が出てこなかった。


バックを握り締める手にじんわりと汗をかく。


- 成瀬のやつ 海外に・・ -


マスターの言葉が成瀬さんの顔と重なって

ぐるぐる回ってしまう。


わたしは思わずはっとして、不自然に目をそらしてしまった。


「・・・・?亜紀?」


そんなわたしの様子に、

タン・タン・・・

とゆっくり、成瀬さんが階段を降りながら


「・・・ずいぶん遅いから、どうしたのかと思って

店に電話かけたらもう留守電になっててさ


明日の用意でもしてるのかって思ったんだけど・・・」


そう言いながらわたしの前に立つと


うつむき加減のわたしを覗き込んだ。


「・・・どした?」


「・・・・・ぇ?!」


わたしは少し動揺しながら

すぐそばの成瀬さんを見上げた。


「・・・なんか、お前 おかしくない?」


「・・・・。」


今、聞いちゃえばいいのかな。


今、・・聞いちゃえばすっきりするのかな


でも、何て言えばいい? 何て・・・

わかんないよ。


「・・・・?」


成瀬さんをじっと見つめて、わたしは


ぎゅっとバックを握り締めると


ちいさく唇を動かそうとした


”海外に行っちゃうって本当?”


とくん・・・とくん・・とまた鼓動が早くなる


「・・・なんだよ。さっきからぼーっとして・・


何か・・あったのか?」


ほら、今聞かなきゃ。


勇気を出して聞かなきゃ・・・・

このチャンス逃したら聞けないかもしれない。

勇気を出して聞かなきゃ。


聞かなきゃ・・

でも、そんなわたしの決心は


わたしの中でまるで風船がしぼんでいくように

小さくなっていった


・・・・だめだ。聞けないよ・・


「・・・・ううん。何でも・・ないよ。


 ちょっと忙しかったから、疲れちゃって。ごめんね。」


いくじなしのわたしから出てきた言葉はまったく違うものだった。


言いたい事はそんなことじゃないのに・・。

わたしの馬鹿。


「・・・。」


成瀬さんはうつむくわたしを見つめると、少しして


ふっと笑って


「・・そっか。今日も暑かったもんな。お疲れ。」


と言って、それ以上聞かずに

わたしの頭に手を置いて、くしゃくしゃと頭をなでた。


「部屋、涼しくしておいたから、はやく帰ろう。」


「・・・うん。」


そう小さくうなづくわたしに成瀬さんはもう一度


ぽん。とわたしの頭に手をのせると


「おつかれ。」


と笑って、先に階段をのぼりだした。


タン・タン・・と足音がマンションに響く


「・・・・。」


くしゃくしゃになった髪の毛にそっと手を伸ばす


いつもなら嬉しくてにやけちゃうはずなのに


いつもなら・・成瀬さん追い越していっちゃうのに


・・・なんで今日はこんなに苦しいんだろう


少し、泣きそうになって、わたしはぐっと


それをこらえると、ようやく階段を


重い足取りで、のぼり始めた。



AM 1:00  亜紀のマンション



シャァァァ・・・・・


シャワーのお湯が 渦を巻きながら 排水溝に吸い込まれていく


頭から思いっきりシャワーを浴びながら


わたしはそれをじっと見つめていた


「・・・・・。」


体は・・汗を流してすっきりしても 


心は・・・すっきりしないまま。


なんでこうなっちゃうんだろう


こんな気持ちで、


明日どうやって海になんか行けばいいのだろう

楽しく過ごせる自信・・ないよ


「・・・はぁ。」


大きなため息が何度もこぼれる。


部屋に入っても、成瀬さんの顔が見れなくて 


なんか話したら泣きそうになる自分がいて

「汗かいたから・・お風呂入ってくるね。」

って、そのままそそくさと

お風呂にかけこんだのはいいけれど


いつまでもここにいるわけにはいかないし・・・


感のいい成瀬さんのことだから


わたしがいつまでもこんなんでいると


疲れただけじゃないってわかっちゃう。

・・・いや、もうわかっちゃってるかも・・


「・・・・出よう。」


わたしは濡れた髪の毛をかきあげると

もう一度はぁ、とため息をついて


きゅっ。


と観念したようにシャワーを止めた



カチャ・・・


タオルを頭にかけながら

重い足取りで部屋に戻ると


成瀬さんはソファーにもたれながら雑誌を読んでいた

まだ、眠ってなかったんだ・・。


眠ってて欲しかったような・・そうでないような・・。

わたしは複雑な気持ちでタオルで顔をかくすように

成瀬さんを見つめていた。


「・・・・。」


ドアが開く音に気がつくと


「?」


とこちらを向いて


「ずいぶん今日は長湯なんだな。」


と言って笑った。


「・・・うん。」


「なんか飲むか?」


ぱたん、と雑誌を閉じると

成瀬さんが立ち上がろうとしたので

わたしはあわてて


「あ。い、いいよ。自分でやるから。」


「・・・?そう?」


「うん・・。」


とわたしは頷くとキッチンへ向かった


だめだ・・どうしてもぎこちなくなっちゃう。


ガチャッと冷蔵庫を開けながらわたしは大きなため息をつくと


冷えたミネラルウォーターを1本取り出した。


手のひらに冷たい感触が広がっていく。


「・・・。」


ゆらゆらとボトルの中で揺れる水をじっとみつめて


わたしは少しの間立ち尽くしていた。


「・・・・亜紀?」


「?!」


ふいにした声にわたしが振り返ると


すぐそばに 成瀬さんが立っていた。


「・・・どうした?」


すこし心配そうにそう言う成瀬さんに


わたしは


「・・・ぇ?」


と言ったまま言葉が出てこなかった

「明日の事、どうなった?ってさっきから聞いてたんだけど

お前ちっとも返事しないから」

「あぁ・・・ごめん・・。」

そう言ってわたしは目をそらしてしまった

だめだめ・・こんな事してたら余計に・・


「・・なんか、帰ってきてから、様子がおかしくないか?」

そんなわたしの気持ちを見透かすように

成瀬さんが言った。


とくん・・・と鼓動が早くなる。


「・・・そ、そんなこ・。」


「目。」


「・・・ぇ?」


「お前が嘘つくとき、絶対俺から目をそらす。」


「・・・。」


つーっと握り締めたボトルから水滴がわたしの手に伝った


「・・。」


「・・・なんかあったんだろ?」


うつむくわたしのタオルをかけた頭にそっと


成瀬さんが手を置いた。


「どした?」


「・・・・。」


そう言って、軽くわたしの頭をぽんとたたく


「・・・・。」


そうじゃない。そうじゃないよ?


何もなかったんだけど・・・

いや、何もなかったわけじゃないけど・・

あぁもう頭の中ぐちゃぐちゃ。

どうすればいいんだろう。

どうすれば・・・


「・・・亜紀?」


ぽたっ。


ペットボトルを握り締めた手に涙が落ちた。

ぽたっ・・・ぽたっ・・。

気持ちとは関係なく涙がこぼれて落ちる。

それがまるで引き金になったように

わたしの気持ちがあふれ出した。


「・・・・なんだよ。どうし・・。」


そんなわたしの様子にあわてて成瀬さんが

わたしを覗き込んだ。


「・・・海外で・・。」


「・・・ぇ?」


「海外で、仕事したいって本当?」


「・・・・。」


わたしを覗き込んでいた成瀬さんの表情が


一瞬、揺らいだ。


「・・・・ぇ?」


そんな成瀬さんの言葉をさえぎってわたしは続けた


「なんで・・・言ってくれなかったの?」


「・・・・。」

「なんでそんな大事な事ずっと黙ってたの?」

「・・・お前・・。」


成瀬さんはそっとわたしの頭から手を離すと

なきじゃくるわたしを見つめて少しして、


「・・・マスターに・・聞いた?もしかして。」


と少し笑った。


コクン・・とわたしが頷くと、そっか。・・と


小さく言って成瀬さんはふぅ、と軽く息をついた。


「・・・そっか・・聞いたのか。」


「・・・うん。」


そう頷くわたしを少しの間見つめていた成瀬さんは


「あっちでさ、座って話、しようか。」


と言うと、いつもの顔に戻って、うつむくわたしを覗き込んだ

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やがてたつきはゆっくりと視線をそらすと


「・・・お前といると調子狂うんだよ。」


と呟いた。


「・・・・なによそれ。」


「なんでもいいだろ?いいから帰れ。」


少し強い口調でそう言うとたつきは


吸いきったタバコを道路に落として


「・・・あんまり彼氏を心配させんなよ。」


とタバコを踏みつけながらつぶやいた。


たつきの口から出た、意外な言葉に驚いて


「・・・・ぇ?」


とわたしが聞き返すと


「・・・お前が帰らないなら、俺が帰る。」


と言って、はぁ、とひと息つくと


よいしょっと立ち上がって


お店の玄関に転がしていたヘルメットまで


歩いていくと、ひょぃっとそれを手に取って


わたしを振り返ると


「・・・じゃぁな。」


と、短く言って


ガレージの奥へすたすたと歩くと


止めてあったバイクに


ストッ。


と乗り込んだ。


「え?あ、ちょっと。」


あわててそう言うわたしの声をさえぎるように


ヴォン!


とバイクのエンジンがかかるとガレージが


バイクのライトで明るくなる。


「わっ・・まぶしっ・・。」


ドドドド・・・とエンジン音が響く中


「・・・・。」


たつきは目を細めるわたしをちらっと見ると


フルフェイスのヘルメットを深くかぶって


もう一度


ヴォン!!とエンジンをふかすと


勢いよくガレージから出て行った。


「ちょっとっ!たつき!」


そう言っている間に


たつきのバイクは行きかう車をぬうように走りながら


あっという間に見えなくなった


かすかにこげたようなオイルの匂いが残るガレージで


わたしはふぅ、と一息ため息をつくと


「・・・・。」


たつきの残していったたばこの吸殻を見つめた。


「なによ。あれ。」


・・・・・・・・・


[あぶねぇって!]


「・・・・。」


ぎゅっと汗ばんだ右腕を左手で握り締める


たつきの手の感触が、まだ右腕に残っているような気がした


[お前といると調子が狂うんだよ]


「・・・・。」


・・・わたしだってあんたに関わるとろくな事ないのよ


・・・わたしだって調子狂うのよ


あんただけじゃないんだから。


あんたが思うよりわたしの方がずーっとそう思ってるんだから


・・・それにわたしは・・・”錯覚”じゃない。


”錯覚”じゃないんだから。


なんだかもやもやした感情が残る中


わたしは、たばこの吸殻を拾い上げると


「たつきのばーか。」


と。


自動販売機の横のゴミ箱に


ぽいっ


とそれを投げ込んだ。



PM0:30


亜紀のマンション


トントン・・・・


階段をのぼるわたしの足音があたりに響いていた


トン・・・トン・・・


いつもなら一段飛ばしでかけあがる階段を


一歩づつ重い足取りであがっていく。


・・・わたしの部屋まではもう少し


「・・・・はぁ。」


わたしは1階と2階の踊り場であしを止めた


自分の部屋に帰るのにこんなに憂鬱になった事はない


まして、成瀬さんがいる部屋に帰るのが


こんなに気が重いなんて・・・


「・・はじめてかもね・・。」


わたしは一人そうつぶやくと肩にかけたバックを


もう一度かけなおしてふぅ、息を吐いた。

・・・ここまで帰ってきたのはいいけど


・・・どんな顔して会えばいいんだろう。


[成瀬はいつか海外で暮らしたいって・・・]


「・・・・・。」


・・・マスターからあんな事聞かなきゃ・・・


・・ううん。マスターが悪いんじゃない


遅かれ早かれいつかはわかった事だもの


むしろ早く知ってよかったのかも。


でも・・・成瀬さんから直接聞いたわけじゃないし・・


シン・・・と静まりかえった階段の踊り場で


わたしは動けなくなってしまった。


どうしよう・・・どうしよう・・・・


知らないふりして 普通どおりになんか・・・

出来ないよ。


でもこのまま帰らなかったら成瀬さん心配するし・・


そうは思ってもなかなか一歩が出ない。


いっそのこと聞いてしまったほうがすっきりするのかな

でも、聞いてしまったら、わたしは・・

”わたしのこと見てて欲しい”

”自分に自身がないの”

お昼に成瀬さんに言った言葉が

重くわたしの上にのしかかっていた。

・・・あんな事言わなきゃよかった・・・。


「・・・・はぁ・・・。」


そう言ってわたしが何度目かの


ため息をついた時だった。


タンタンタン・・・・・


「・・・?」


ふいに足音がして、わたしははっと顔を上げた


それは誰かが上の階から降りてくる音


週末の夜中だからきっと今から出かける人もいるだろう


わたしは肩のバックをぎゅっと握り締めると


ずっとここにいる訳にもいかないと

「よし。」


と、息を吸って一歩を踏み出そうとした。


その時だった。


「・・・・・?!あれ?」


「・・・・?」


階段を下りてきた人影がわたしを見て立ち止まった


その声は聞いたことのある声だった

「・・・・ぇ?」


そう言ってわたしが

ゆっくりと顔を上げると


その人影がわたしを見つめて


「・・亜紀?」


とわたしの名前を呼んだ。


「・・・・ぁ。」


と思わず呟いて、足が止まる。


「・・・おかえり。」


優しい声が階段に響いた。


成瀬さんがいた。



とくん・・。


とわたしの鼓動が早くなる


どうしよう・・・どうしよう

そんな言葉が渦巻いていく


「・・・・ただいま。」


階段の数段上から、わたしを見下ろす成瀬さんを見つめたまま


わたしはそう言うと


さらにぎゅっと肩にかけたバックを握り締めていた。


It continues to next time・・・

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ざわざわざわ・・・・・


立ち尽くすわたしたちの横を何人もの人が通り過ぎていく


「・・・・。」


「・・・・。」


たつきに強く腕をつかまれたまま


わたしはそこから動けずにいた。


たつきが黙ったままわたしを見つめる。


「・・・・?」


ふいに、見つめるたつきに何か”違和感”がした


息もかかりそうな距離でたつきはわたしを見つめている


見つめているんだけど


けど・・・・


「・・・・。」


たつきの目は、”わたし”を見ていないような気がした


もっと、もっとわたしを通り越して


別の”なにか”を探しているような。


なんかそういう言い方はおかしいのかもしれないけど


確かにそのときのわたしはそう思ったのだ


ゆらゆらと揺らぐ瞳を覗き込みながら


「・・・・・たつき?」


とわたしが聞き返すと


はっ。


となにか夢から覚めたかのように


たつきが我にかえったかと思うと


ぎゅっと握っていたわたしの腕を見て


「・・・・ったく。タバコ落としちまったじゃねぇかよ。」


と言うと、ばっとわたしの手を払った


「・・あーあ。もったいねー。」


たつきはそう言うと、わたしから目をそらして


道路に落ちてしまった、半分以上燃えてしまったタバコを


見下ろして、くしゃくしゃと髪をかきあげた


「・・・・。」


たつきが握ったところが少しじんじんした


わたしは腕をさすりながら、たつきを見つめると


「あ・・・あんたが悪いんでしょう。・・怒るような事言うから。」


と言って、そっぽを向いてしまった。


なんとなく、気まずかったのだ


「・・・お前にかかわるとろくな事ねぇな。」


たつきはそう言いながら、タバコを靴でぎゅっぎゅっと


もみ消した。


「・・なによそれ。」


たつきを振り返らずにわたしがそう言うと


たつきは少し、黙り込んだ。


「・・・・?」


とわたしが振り向くと、たつきはまたポケットから


タバコを取り出して、口にくわえると


ライターで火をつけていた。


ぽぅっとまたたつきの口元が一瞬


明るくなって、煙があたりに漂いだす


「・・・・。」


わたしは何ていっていいかわからずに


そんなたつきの横顔を見つめていた。


さっさとこんなやつほっといて


帰ってしまえばいいのだけど


なんとなく・・・・このまま帰りづらかった。


さっきの・・・たつきに感じた”違和感”が蘇る


わたしを見ているようで見ていないあの目・・。


どっかで見たことあるような・・。


たつきの背中を見つめながら、しばらく考え込んでしまった。


どこでだろう?どこで・・?


どこで・・・


さっきのあいつの顔を何度もくり返し思い出して


記憶の奥を探っていく・・・


どこで・・・・


すると、わたしの中である場面とたつきの顔が”一致”した。


「・・・・・ぁ。」


数日目の事


”・・・紀”


大事なキーホルダーを投げ捨てようとしたたつきを


必死で止めた時に見せたあいつの顔


”夕紀!?”


夕方の土手でのあいつの顔


・・そうだ。そうなのだ


たつきはいつも・・・


わたしを夕紀さんを”錯覚”した時に、


そんな目をしていたのだ。


・・・まさかたつき・・まさかね。


やがてそんなわたしの視線にたつきが気づくと


「・・・?なんだよ。」


とわたしをちらりと振り返った。


「まだ何か用かよ?」


ふぅ、と煙を吐き出しながらたつきはまた前をむいた。


「・・・・別に・・何も・・。」


「なら、はやく帰れよ。」


「・・・帰るわよ。」


「もうさっきから何回も聞いてるんだけど。それ」


指にはさんだタバコの灰を


トントン。


と道路に落としながらたつきがこちらを向いた


「そんなに俺といたいの?」


なかばあきれ気味にそう言ってたつきがわたしを睨んだ


「なっ!誰があんたとなんか。」


「・・・じゃとっとと帰れよ」


たつきはそう言うと目をそらしてうつむいた


「・・・・。」


たつきはわたしに背を向けたまましゃがみこむと


「ったく・・・。」


と言いながらタバコを口にくわえた。


タバコの煙がゆらゆらと蒸し暑い空に舞い上がって消えていく


・・・どうしよう。


でも、まさかね・・・


頭の中でいろんな考えが浮かんでは消えていく


でも、もしそうなら?でも、まさか・・


”亜紀さんってなんとなくお姉ちゃんに似てる”

瑠璃ちゃんの言葉が胸をよぎった。

でも似てるっていったってそんなそっくりでもないし

第一わたしと性格だって違うわけだし・・

わたしの中に”夕紀”さんを見てるだなんて

思い上がりもいいところだし・・・・

だけど・・・


否定と疑問が繰り返しては消えていく


でもそんな事、


「・・・・・。」


ゆらゆらとタバコの煙が立ち昇っては消えていくのを


ただだまって見つめながら


まさか・・たつきに聞けるわけ・・・・ないよね


とわたしは小さくため息をついていた。


「・・・・なんだよ。人のことさっきからジロジロと・・。」


たつきが横目でわたしを見ながら、言った。


「別に・・・わたしは。」


「・・・・・。」


「・・・・・。」


ふわりと蒸し暑い風が髪を揺らした。


後編へ続く

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ひんやりとした店内とは反対に、じとっとした蒸し暑い空気が


体にまとわりついてくる。


「あぁ・・いやだぁ。蒸し暑い・・。」


深夜になっても、週末の繁華街はまだまだ賑わっていた。


途切れなく行きかう人並


ネオンがキラキラと点滅する街並みを眺めながら


わたしは振り返ると、店内で最後の確認をしている


たつきを見つめた。


「・・たつきのばーか。」


ふわりと生暖かい夏の風が髪の毛を揺らす。


・・・わたしがたつきと夕紀さんの事を知らいままでいたなら


きっと・・・少しは気持ちが楽だったのかもしれない。


海に行くのも楽しみだったと思うし


由佳ちゃんのお願いにも、きっと快くうなづけたのかも・・。


でも、今は・・・


「・・・。」


”夕紀!”


・・・・・


夕方、土手でたつきが見せたあの表情はすべてを物語ってた


たつきはまだ、夕紀さんの事を深く、深く想ってる


きっとあいつは今は・・・由佳ちゃんの気持ちを


・・・受け止められないだろう


二度と戻らない夕紀さんをいくら想っても


仕方ないのかもしれない。


いつまでもそこに立ち止まってたら、前に進めない事ぐらい


あいつが一番良く知ってるはず。


そうは・・・思ってても・・・


でも。言葉じゃ伝えられない深い場所で夕紀さんは


今も”生きて”いるのだ。


たつきの心の中で ずっと。


わたしには、そう思えた。


ふと気がつくと、最後のお店の明かりが消えた。


たつきがこちらへ歩いてくる。


「!」

やばい。また何か言われそう。


わたしはあわててガレージへ歩き出すと自動ドアから背中を向けた


鍵を手に持ちながら出てきたたつきは


「・・・?なんだよ、まだ帰ってなかったのか?」


と、わたしに言った。


「いっ、今から帰るのよ。」


背中越しにわたしはそう言うと


「・・・さっさと帰れよ。彼氏、心配するぞ。」


「あんたに言われなくても、帰るわよ。」


バックからあわてて自転車の鍵を取り出して


自転車に差した。


ガチャン、と音がしてロックがはずれる


いけないいけない、わたしったらついつい。


早く帰らなきゃ。


「・・・・お疲れ。」


そんなわたしに背を向けながら


たつきはそう言って


自動ドアの電源を切ってロックすると


さっきマスターに渡された紙をドアに貼り始めた





自転車に寄りかかったまま


たつきの後ろから遠目にのぞき込むと


[旅行のため土・日は休業いたします。アビーロード]


と書かれてあった。


その文字に

よりいっそうわたしの気持ちが重くなる


よし、と言う風にそれを眺めているたつきの横で


わたしは深くため息をついていた。


「・・・海か。」


「?え?」


いつのまにかつぶやいていた言葉に


たつきが振り返る。


「・・・、あいや・・ね、楽しみだね。」


わたしはあわててそう言うとたつきから目をそらした


・・・なにやってるんだか、わたしは。


「・・・そのわりにはあんまり楽しくなさそうだな。」


たつきはわたしの気持ちを見透かすように

そう言うと


お店の鍵とテープをジーンズのポケットにつっこんだ。


「そんな事・・。」


「ま、俺もそこまで楽しみじゃないんだけどな・・。」


たつきはそう言うと、ポケットからタバコを取り出した


「はなから行く気なんかなかったし・・。」


そう言いながら暑そうに空を見上げるたつきに


「・・無理やり行かされるから?」


とわたしはおそるおそる聞いてみた


「・・・別にそんなんじゃねぇけど・・。」


「じゃ、なによ。」


「・・・。別に。なんとなく」


たつきはポケットからライターとタバコを取り出すと


一本口にくわえてタバコに火をつけた。


「海なんて似合わないだろ?俺」


ぽぉっとたつきの顔が一瞬明るくなる


少しけむたそうにすぅっとタバコを吸い込んだたつきは


わたしを見つめると


「それに・・。」

「?それに?」

そう聞き返すわたしに


わざとふぅーっと煙を吐きかけながら


「・・・お前の水着姿見なきゃいけないから。」


とたつきが言った。


「ちょっと煙たいよ!・・・・ぇ?」


きょとんとしたわたしの顔を見つめて

まじめな顔でたつきが言う

今、何て言った?


”お前の水着姿見なきゃいけないから”


なんだとぉおお???

「はぁ?!」



「・・・・・ぷっ。」


とたつきが噴き出す。


「・・・・あんたねぇぇぇ」


と殴ろうとした手をたつきがひょい、とよける


「危ねぇな。やけどするぞ。」


「してもいい。殴る。」


「あのなぁ。軽い冗談だろうが。」


「あんたが言うと冗談に聞こえない!


まったくいっつもいっつも人の事


ぼこぼこ叩くし、馬鹿にして。なんなの?!」


そう言ってもう一度腕を振り上げた


「言っていい事と悪い事があるんだから!」


「危ねぇって!」


そう言ってたつきがわたしの腕をつかんだ


「!?」


「?!」


ポトン。と火がついたままのタバコが


アスファルトに落ちる。


すぐ近くに、たつきの顔があった。


「・・・・。」


「・・・。」


思わず目を見開いてたつきの顔をまじまじと見つめる

ざわざわと人が行きかう街並みで


わたしをつかんだままのたつきの手がさらにぎゅっと


わたしを掴んだ。


「・・・・たつき?」


「・・・・。」


どうしていいかわからずに


そう聞き返すわたしをたつきが見つめる。


足元で火のついたままのタバコの煙が


ゆらゆらと立ち上がって揺れていた。

It continues to next time・・・

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PM11:40   アビーロード 


マスターはそのあと、少し酔いをさますと 明日の事があるからと


先に由佳ちゃんと悠太を送って行く事になった


「じゃ、俺はそのまま帰るから、たつき。あとよろしく


あ、帰るときこれ、貼っといて。どっちでもいいから。」


マスターはわたし達を交互に見てそう言うと、


カウンターにぱさっと紙とテープを置いて


「んじゃ、亜紀、成瀬君によろしく。たつきも早めに上がれよ。」


と言って、ドアを出て行った。


「はーい。お疲れ様でしたぁ。」


「・・お疲れさまでした。」


たつきはカウンターの中から、わたしは手前のテーブル席に座りながら


そんなマスターを見送った。


ウイィインと自動ドアが低い音を立てて閉まると


やがて、バン!とドアをしめる音がして、


マスターの車の音が遠ざかっていくのがわかった。


その音が小さくなったとたん、今まで賑やかだった店内が


シン・・・と静かになった。


たつきはふぅ、と息をつくと腰のエプロンをはずしながら


奥へ消えていく。


「・・・・・。」


わたしはそんなたつきの姿を目で追いながら


テーブルに頬杖をつくと、ふぅ・・と息をついて


今日あった事をいろいろ思い出していた。


「なーんかバイトより、バイトする前のほうが


疲れちゃった・・・。」


本当に今日は色んな事があった。


”一緒に暮らさないか?”


「・・・・・。」


そう言ってわたしを抱きしめた成瀬さん。


[あいつ、いつかは海外で仕事したいって・・・


その時はお前も連れて行きたいって・・]


マスターから聞かされた成瀬さんの”夢”


「・・・・はぁ。」


またひとつため息が出る。


[あいつはそんなに完璧な男じゃないさ]


落ち込むわたしにそう言ったマスターの言葉が


何度も胸に繰り返す。


・・・わたしは成瀬さんに、


もしかしたら、


見えないプレッシャーをあたえていたのかな


夕方のあの”姿”が、


本当の成瀬さんだったのかもしれない


わたしは、成瀬さんを”完璧”な人として


見すぎていたのかも・・・。


[俺はそんなに強くない。・・強くないよ・・。]


・・・そんな風に成瀬さんをさせてしまったのは・・


・・しまったのは・・・わたし?


「・・・おい。」


「?!」


ふいに声をかけられてわたしはびくっとして顔を上げた。


「・・・何やってんの?お前。」


そこには、いつのまにか着替え終わっていたたつきがいた。


片手にヘルメットを持ってわたしを見下ろしている


「え?なっ、べ、別に。」


わたしはそう言いながら意味もなくそばにあったバックを


ひざに置いた。


「・・・もう店、閉めるぞ。」


「あ、あぁ、うん。わかった。」


やだ、わたしったら・・ついつい考え込んじゃった。


ふと時計を見ると、もうすぐ0時


やばい、考え事してると時間ってすぐなんだから・・


・・・成瀬さん・・・心配してるかな・・。


「・・・。」


なんだか、どんな顔して帰ったらいいか


正直わからなくなっていた。


「ゴン」


「?!イタッ!」


そんなわたしの頭に鈍い痛みが走る


「なにさっきからぼーーっっとしてんだよ。はやくしろ」


たつきはそう言うとわたしを横切ってレジに回って


店内の明かりをひとつづつ消していった。


「いったいな。殴る事ないでしょう?!」


「殴ってなんかねぇよ。”目”を覚ましてやっただけだろ。」


「あのねぇ・・。」


「・・・ほら、鍵しめるから、外出ろよ。」


チャラ・・とお店の鍵を持ちながら、たつきがわたしを


自動ドアへ促した。


「ちょっと、人の話をね、」


「・・・ここに泊まりたいのか?」


「・・・!」


チャラチャラと指で鍵を回しながらたつきが言った


「・・・まったく。普通に優しく言えないの?あんたは。

泊まりません!」


わたしはそう言うと、ようやくテーブルから立ち上がって


ふんっとたつきの横を通りすぎると自動ドアへ向かった。


なによなによ。人の気持ちも知らないでさ


わたしはいっぱいいっぱい色んな事があって悩んでるんだから


頭パンクしちゃいそうなんだから。


ただでさえ成瀬さんの事でどうにかなっちゃいそうなのに


明日は海だし、


由佳ちゃんは気持ち伝えるから協力してって言うし


悠太は全部知ってて気持ち隠してるし・・・


たつきはたつきでなーんにもわかってないし


今から成瀬さんにどんな顔して会っていいか

わかんないし


あーもうなにがなんだか


「・・・。」


そんな事を思いながら


ウイィイン。


と自動ドアを出た所でわたしはふと、立ち止まった。


後編へ続く

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