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「それはまるで啓示のような意外な新発見であり、
真実の確認のような経験だった。
僕はついに、正直でストレートなものに出会えたのだ!」
1926年9月。
28歳のシュピースは、モスクワ、シュチューキン画廊で一枚の衝撃的な絵と出会う。
アンリ・ルソーの原生林絵画である。
シュピースはその素朴さと筆致にすっかり魅了されてしまう。
シュピースという画家にとって、大きな転機となる体験だった。
2007年9月。
僕は、イギリスの大英博物館で、ルソーの虎が出てくる、あの有名な原生林絵画と対面した。
絵はガラスケースもなく、そのまま壁に掛けられていて、鼻先を近づけて鑑賞できる。
絵と自分のあいだには、なんら障害はない。
いつの間にか、その絵のなかに埋没している自分がいた。ルソーのこの絵を、それほど間近で
鑑賞するのは初めてだった。画面がマットになり、草のそよぎが、雷光が、虎の眼差しが、
音と空気を伴って押し寄せてくる。
ひと気のほとんどない観覧室で、僕は近づき、離れしながら、10分以上見入った。
シュピースの感じたセンセーションの追体験だった。
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