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バリ島へ引っ越して間もなく、ヴァルター・シュピースは金欠で貧窮する。
やむなくはじめたのが、インドネシアの学校教科書用の、挿絵作成だった。
挿絵といっても、油絵による、精細な歴史的場面の再現である。
オランダ植民地政府からの注文で、一枚800ギルダー、合計20枚描いてくれ、
という、貧乏画家にとっては願ってもないはなしだった。
しかし、毎月一枚、仕上げてくれ、といわれ、創作にとりかかったシュピースは筆が進まない。
「自分のためでもないのに、どうして描ける?」
結局、彼はお金は必要でも、強制された創作活動は受け入れられなかったのである。
それでも、できあがった何枚かは、実際にその時代の教科書に使われ、さらに写真として
引き伸ばされて、ポスターのように教室にも飾られていたと、
カランアッサムの王子、ジャランティックさんは僕に言っていた。
写真はそのうちの一枚、「11世紀の岩窟遺跡にいる修験者」(1929年作)である。
これはバリ島の古代遺跡をあしらったものと思われる。
結果的にこれを含む3枚が描かれ、合計2400ギルダーの収入で、シュピースは
ウブドゥのチャンプアンに新居を建てていくのである。
(いま、ホテル・チャンプアンがあるところだ)
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