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縁あって、いま人気沸騰中の若干20歳の台湾新人歌手、蕭敬騰(ジャム・シャオ)のライブを、
この一ヵ月で三度も見た。最後は1月7日、ファン関係者のみ観覧できる台北のテレビ局「中天電
視」の音楽番組(公開録画)で、その人柄や声をより近くで実感できたので、少々書きたい。
蕭敬騰(シャオ・チントン……JAM(ジャム)というのは彼のニックネーム)は、去年テレビ
で人気のオーディション番組からセンセーショナルなデビューを果たした、艶のある力強いボー
カルに特徴のある、青年だ。台北の下町(ヘビ屋横丁)でアミ族の母から生まれ、チンピラじみ
た青春を過ごしたという彼は、ボンジョビを聞いて音楽に目覚め、ドラムやピアノを独学で習得
。大学在学中に、母親譲りの伸びのあるボーカルをいかして、パブ(台北では音楽パブというラ
イブハウス飲み屋がいくつかある)でセミプロとして、ピアノの弾き語りをするようになる。
ちなみに張宇をはじめ台湾の人気歌手・ミュージシャンの多くが、パブでのパフォーマンスを経
て、デビューしている。しかし、チントンの場合、僕も行ったことのあるパブ(BZとかいう名
前だったか、忘れた)で歌わせてくれとマネジャーに頼んだところ、そのおかしな風貌(飴色に
染めたパーマのかかった長髪!70年代のアメリカ人ミュージシャンそのままの風貌!)を見て怪
しまれ、相手にしてくれなかったという、可哀想な経験もある。(ちなみにそのパブのマネジャ
ーは、チントンが有名になってからこのことがバレ、パブの社長にクビにされたという)
そんなとき出場した、国民的人気のオーディション番組「超級星光大道」で、チントン(チント
ンというとトンチンカンな響きがあって変だが、ジャムだと妙に甘い液体が脳裏にちらつくので
、ここではチントンと呼ぶ)はその長髪を振り乱し、ライオンのようなボーカルでライバルたち
や審査員、会場を飲みこんでしまたのである。ちょうど張宇が審査員できていたが、彼の眼は確
かに「すげえ」と感激し、潤んでいた(と思う)。
このオーディション番組は生で見ていないのでよく知らないが(後でYoutubueや録画で拝見した
)何度か勝ち抜けばプロになるらしく、しかし、張宇はチントンが落ちても自分が契約してデビ
ューさせるつもりだったという。チントンのところには収録後ソニーやワーナーなど名だたるレ
コード会社が契約に殺到した。チントンがワーナーを選んだのは、聞くところによると「その会
社の人たちが優しそうだったから」という。チントンは物事をあまり深く考えないタイプで(あ
るファンによる「ボケている」らしい)本当にその程度の直感で会社を選定したようだ。
かくして三度出ただけで周囲に鮮烈な印象を残したチントンは、その後すぐ張惠妹(アーメイ)
のアルバムでデュエットし、じっくり時間をかけてファーストアルバムを出す。チントンは作詞
作曲のできるアーチストで、アルバムには数曲彼のオリジナル(一曲は17歳のときに書いたロッ
クンロールもある)が入っている。ファーストシングル「所蔵」……(PVがいい。詩もいいが
他人による)、その後の「BLUES」もヒットし、バラードからアップテンポまで幅広くこな
せる才能と、性格のよさ(非常識なところも愛嬌として受け入れられている)から、あっという
間に2008年の台湾における最大の新人歌手として、圧倒的な人気を得てしまった。先週だろうか
、中国上海での中国音楽新人賞のようなものまで受賞したのだから、中華圏でいまもっとも注目
されているといっていい。ヘビ屋街のチンピラから短いパブ歌手を経て、シンデレラボーイとな
った、この若干二十歳の青年というか少年(人によってはその女っぽい色白細面、シャイな様子
から少女とも呼ぶ)は、日本人がまったく知らない台湾ポップス界のひとつの象徴的な事件、あ
るいは伝説として、現在進行中なのである。
チントンはなんと識字障害を持つようだが、そのぶん暗記力や想像力にすぐれているらしく、ラ
イブで歌うときに目を閉じ、集中し、情感をこめて歌う姿が、印象的だ。
さて、スタジオでは、先の中国音楽賞で女性歌手賞をとったジャスミン・リャンとのデュエット
も含め、聞きごたえのあるボーカルを披露してくれた。識字障害があるせいか、スクリーンの歌
詞を読みながら歌うときにはマネジャーがつきっきりで傍にいたが、特に周囲をわずらわせるこ
となどなかったようだった。
台湾のテレビ番組を内側から見たのも初めてで、とても興味深かった。ファン(当然ほとんどす
べてが女性)との交流の仕方、マネジャー女史とのやりとりなど、チントンはシャイながら非常
に控え目で仕事熱心な青年のようだった。オーディション番組からたくさんの若者がデビューす
る台湾で、彼がここまで急速に成功したのは、その性格にも関係しているようだった。
ヘビ屋横丁のボンジョビ・アミ族系青年、シャオ・チントン。要チェックである。
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