ここから本文です
走路有風〜 作家・坂野徳隆の書斎からの景色
Photos & Texts (C)Narutaka Sakano 転載厳禁 *著者への連絡は上の「メッセージ」にお願いします

書庫ヴァルター・シュピース

記事検索
検索

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 前のページ | 次のページ ]

「もし(絵画の独自の手法が)うまくいかなければ、僕は
芸術のことを忘れ、田舎で労働者にでもなります!
きっとそれもすばらしいことでしょう。
結局、どこへ行っても、この世はすばらしいことばかりなのですから!
僕は、魂を持った人々の住む国へ行き、住んでみたいです!
このひどい国(ドイツ)よりもマシでしょう」

1919年5月

一次大戦の捕囚から解放され、ドイツへと帰国したシュピースは、世紀末的なドイツの世情に
幻滅し、捕囚の地ウラル山脈で経験した素朴な遊牧民の世界へ憧れを募らせる。
父親に充てて、若き画家シュピースは、魂からの叫びを綴る。

実際に、彼はスペインでもどこでもいい、ドイツを出て素朴な人々の住むところへと
旅立ちたかった。。。
もしスペインへ行っていたら、カタルーニャあたりで有名な画家になっていたのだろうか。。。

「それはまるで啓示のような意外な新発見であり、
真実の確認のような経験だった。
僕はついに、正直でストレートなものに出会えたのだ!」

1926年9月。
28歳のシュピースは、モスクワ、シュチューキン画廊で一枚の衝撃的な絵と出会う。
アンリ・ルソーの原生林絵画である。
シュピースはその素朴さと筆致にすっかり魅了されてしまう。
シュピースという画家にとって、大きな転機となる体験だった。

2007年9月。
僕は、イギリスの大英博物館で、ルソーの虎が出てくる、あの有名な原生林絵画と対面した。
絵はガラスケースもなく、そのまま壁に掛けられていて、鼻先を近づけて鑑賞できる。
絵と自分のあいだには、なんら障害はない。
いつの間にか、その絵のなかに埋没している自分がいた。ルソーのこの絵を、それほど間近で
鑑賞するのは初めてだった。画面がマットになり、草のそよぎが、雷光が、虎の眼差しが、
音と空気を伴って押し寄せてくる。
ひと気のほとんどない観覧室で、僕は近づき、離れしながら、10分以上見入った。
シュピースの感じたセンセーションの追体験だった。

現在がどんな状況であれ、僕は現在だけを楽しむつもりです。
今日という日は、いつも何かすばらしいことを与えてくれます。
だいたい、明日になれば、僕はここに存在していないかもしれません。
こう考えることで、僕はいつも幸せでいられます。。。


1917年9月2日。
ウラル山脈の収容所で抑留生活をつづけるシュピース青年は、母親にこう書き綴った。
それは、宗教と人間の関わりを軸にした独特の快楽主義の発見であった。
以後、彼の欲求は、楽園に向かって突き進んでいくのである。

どこかのネットギャラリーが「熱帯幻想絵画」という用語を使っているそうだが、これは僕が拙著「バリ、夢の景色」でつくり、その後雑誌で僕が使用してきた言葉だ。
商売に使われているようで、困惑している。

辛いことに遭うたび、僕はシュピースの手紙を思い起こす。
人生で二度の大戦に巻き込まれ(20歳と43歳のとき)、両方のとき収容所に入れられ、終に沈み行く捕虜輸送船と運命をともにした、悲劇の芸術家である。

「僕にとって、人生のすべては終わりのない誕生日です!」
彼の誕生日のテーブル(つまり人生のステージ)には、好むもの、好まざるものに限らず、さまざまなプレゼントが山のように積まれていく。彼はそれらをすべて受け入れ、良しも悪しきも同様に「楽しみたい」と思うのだが、あまりにもプレゼントが多すぎて、そうする時間がない。
彼は、そのことを「なんともったいないことか!」と嘆く。
そして、運命に困難を何度ぶつけられても、彼は「まるで起き上がりこぼしのように」起き上がり、くじけることはない。

人生とは、良い事と悪い事が常に交錯し、混在することで成り立つ、シリアスなステージだと、シュピースは20歳のころから実感していた。それを楽しむ術こそ芸術であり信仰であると、彼は考えた。46年の生涯を終えるまで、彼は人生という芸術と、生きている奇跡を信じる信仰に、明け暮れた。

心で思い、念じるだけで幸せになれるのだということを、信じたい。
この冷たい風が、はやく南風に変わりますように。。。

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 前のページ | 次のページ ]

坂野 徳隆
坂野 徳隆
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
検索 検索

本文はここまでですこのページの先頭へ

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!

その他のキャンペーン

みんなの更新記事