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「ごいんさん、いたはりまっか。」
本堂まで、響き渡る大きな声。ゴイチさんだ。はいはい、とあわててでていく。
「うちのお仏壇を、買い換えよう思いましてな。」
「買い換える?そりゃまた、急な。」
「おとうさんが往生しはった時に、買いましたやろ。もう、10年目できちゃないんです。」
「きちゃない。あんた、この十年で何回お掃除しはりました?」
「掃除て、そんな、お仏壇、わたいら勝手に触られしません。」
「なんで。」
「なんでて、何や気色悪い。」
そうなのだ。お参りしていて時々、埃のかぶったお仏壇や線香のススがいっぱいのお仏壇にお会いする。いつの頃からこうなったのだろう。
「あのね。真宗のお仏壇は、阿弥陀経に説かれる安楽浄土を模したものや。文で書かれたものをビジュアル化したもんやで。せやさかい、阿弥陀様のお働きに気づかせていあただき、お礼をいう相手として作られてんねん。それを、ほっといたらあかんやん。」
「へえ、死んだおとうさんが入ったはるんと思たから、近づいたら怖いとこへひっぱりこまれんのかと思てました。」
それでわかった。いつも月命日参りにいくと、私をお仏壇の前に残して、ゴイチさんはすっといなくなるのである。何でかなと不審な思いであった。
「あんたな、お救い下さる佛さまをこわがってどうすんねん。怖いのはこっちにおる人間の方やろが。」
「いや、ごいんさん、うまい事言わはる。」
「感心してんと、お仏壇いっぺん掃除してみ。10年くらいやったら、すぐにピカピカになるで。」
「おおきに。よう教えて下さった。ほんなら、買い替えやんぴ。」
まあ、気散じな事だ。
と帰りかけたゴイチさん、Uターン。なんやろ?
「えらいこと忘れてた、ごいんさん。掃除する前に、魂抜いてもらわんとたたる。」
私の中で、何かがプチンとはじけた。
「ええ加減にしなはれ!!!」
と怒鳴ろうとしてとき、ゴイチさんは再びUターンしていた。
「せや、たたり防止は、坊さんと違う。隣のお払い屋に頼んだらええ。」
鼻歌まじりでスキップをして、遠ざかっていくゴイチさんを、虚しく見送る私であった…。
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