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スウィートbonbon(壽光寺の内緒話)

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そう言えばゴミっていくつだっけ。おっと危ない。女性に年齢を聞くのは今のオレに立場からいえば「セクハラ」になるのか?いや「ハラスメント」とは上司と部下の関係で、ゴミとオレはまあ今のところ「知り合い」程度やからいいのか。なんてぐちゃぐちゃと妄想にとらわれていると、「やったあ」とゴミが叫ぶ。

おペピ発見か、とあわててゴミの後を追う。ゴミは爬虫類ブースにまっしぐら。げ、オレ長いの苦手。

「おい、ペピちんいたのか。」とおそるおそるのぞくと、ゴミはニシキヘビにうっとり見とれている。「うん、セクシー」ってお前。お祭りのヘビオンナかあああああ、っと突っ込みをいれたくなる。「おお、グリーンイグアナ」「わ、揚子江ワニ」なんじゃこいつは。ペピちんを探しに来たんだぞコラ。

とトランシーバから「ペピ発見。キリンです」とエガちゃんの声。こんな爬虫類オタクはほっとけ。とキリン舎へ向かう。

キリン舎の前に人だかりだ。飼育員さんの姿もちらほら見える。ヤバイ。なんかえらいことになってないか。とペピちんの高くてよく通る声が聞こえた。「たかおくん死んだ。たかおくん死んだ」

「たかおくん」て誰?人混みをかき分け手進むと、ペピちんとが大きなキリンが互いの顔を見つめている。あれ飼育員さんも泣いてない?そういえば人だかりと見えたけれど、よく見るとみんなハンカチを手にしてる。
「エガちゃん」とこっそりペピちんの手をそっとにぎいっているエガちゃんにささやく。「だいじょうぶです。ペピちん落ち着いてます。」「そうなの?」「ええ」そっとペピの顔を見ると滂沱たる涙に包まれていた。そしてまるでペピちんを中心点にして広がる悲しみのウェーブに引きよせられたように、キリン舎に人が集まり、オリの中のキリンまでもが同じように泣いているとオレには見えたのは、白昼夢であったのだろうか。そしてその輪の中にいつのまにかゴミの姿もあることをオレは目の端で確かめていた。

この日の夕方、お迎えにきたママにさっそく事件を伝えお詫びをしたら、
「あら、それアタシのせいだわ。」
と恐縮された。
「いえね、この子小さいときからキリンが好きでねえ。他のウチの子は4歳にもなれば十分言葉をしゃべるのに、全くといっていいほど言葉がでないもんだから、あっちこっちのお医者さんに診てもらってたんやわ。で、どうもウチの子はふつうじゃないのかなあってうすうす感じ始めた頃だった。パパと三人で病院帰りに動物園に行ったの。今から思うと何かこう普通の親子の風景に溶け込みたいっていうかそういう事で楽になりたかったのかもしれない。ソフトクリームなめたりホットドッグかじったりして、楽しかったんだわ。そしたら〈キリンさんに赤ちゃんが生まれました。タカオです〉って、あそこ子どもが生まれると向日葵のマークついたボードがオリの前に張られるでしょ。で、三人でいったのキリン舎に。」
へえへえ面白い話やんか、と玄関に腰を下ろしたママさんに、車椅子のまっちゃんが冷たい麦茶をすすめる。「ありがと」とママさんは一気に飲み干した。まっちゃんはかがめないから、空いたコップをママさんからまっちゃんの膝に上に返してもらう。他人の為にできることはする、というのがこのベースのルール。台所では文さんがエガちゃんといっしょに夕食の準備をしている。ご飯が炊けるいい匂いが漂ってくる。

「大きなキリン二頭のあいだにねえ、たよりなげで今でもこけそうな小さいキリンが隠れるように辛うじて立ってた。」「雅幸(ペピちんはまさゆきという、ホントは)、キリンさんの赤ちゃんだよ。タカオくん言うんだって。」
「こう話しかけたら、例によってパピパピってパパの手を引っ張ってた雅幸が、はっきりと、『タカオくん』って言ったのよ。」

それが彼が発した最初の意味ある言葉。大好きなキリンの名前。そしてママさんは20年後のこの朝、新聞でそのタカオくんが天寿を全うした事を知る。
「あら残念ねえ。タカオくん死んじゃったんだ。」と臨時の仕事の算段をしつつトーストをかじっていて思わずママさんは呟いたんだそうだ。うん、引き金引いたね。

ペピちんは(ママさんはパピだって言うんだけどオレらやペピの幼馴染には確かに、ペピと聞こえる。オレの耳は左右とも2.0だぞ。あれ?これは視力やったかな〉、だから、ママさんに送ってもらってベースに着くなり真っ直ぐに動物園に向かったんだ。そして真っ直ぐにキリン舎に向かった。そうや、ペピちんはペピちんなりのお葬式をしに行ったんや。それにしてもその行路でも「平行」「整列」にこだわるのがペピらしいけどネエ。

飼育員さんたちが「おおきになあ」とペピちんの肩を抱いてくれたのも、大勢のタカオくんファンとともに出口まで送ってくれたのも、そしてタカオ君の写真の入った下敷きを売店のオバちゃんが10枚もくれたのも、みんなペピが起こしたウェーブ。だってペピは、物言わぬタカオくんの奥さんとその長女の気持ちを全身で受けて代弁したんだから。間違いない。園長までもがオレたちが帰っていくのを直立不動で見送ってくれたんやから。誰かに見送られるなんてオレすら初体験んだからな。


陽が傾いて通天閣の「日立マーク」がくっきりと浮かび上がる瞬間が近づいている。ペピちんは昌子さんといっしょにゴミにへばりついているので、安心してママさんのお話が聞けた。そういえばママさんとこんなに長い事お話したのは初めてやないか。ママさんが綺麗に見えるのは気のせいか。
「オレ、馬鹿だからうまくしゃべられへんけど、今日はベースやっててよかったなって。ママさんやペピちんと会えてよかったなって…。」あれ?うまいことしゃべられへん。え???オレ、泣いてる。うわ。ヤバイ!

「ほれ、ママさん待ってるで。今日はこれでバイバイや。」とゴミがペピちんを連れてきた。
「これ、やるさかいに今度アタシにだまってどっかいったらしばくぞ。」そう脅してペピの手に握らせた絵に、口を真っ直ぐに結んだペピの目から画面いっぱいにロケットのように涙が飛び散っていて、その涙のつぶの中に微笑むキリンが描かれている。
「いやあ、これ雅幸やわ。市川さんやっぱり上手やねえ。」とママさんが感心したので、ゴミが照れた。やっぱこいつ天才?
「あれ、バニさん。ひょっとして泣いてる?」うっさい。あんまり暑いさかい目から汗が出たんじゃ。

「ただいまあ」「おかえり」「…」「おかえり」。仕事先から帰ってきたフジコさんに武さんが、表にでてママさんの車に乗り込むペピたちの横を首をかしげながらすり抜けてく。今日は土曜だから本当はペピちんはベースにこない日なのだ。ママさんが仕事のない土日は家で過ごすのが普通なんだけど、臨時の出勤になったので急遽ベースで受け入れた。

「明日もう一度、雅幸を連れて動物園に行きます。ね、雅幸。」「ペピ!!!」
おお、ご機嫌のお言葉。後ろでは、フジコさんと武さんが昌子さんと抱き合って「お帰り」の挨拶。
そんなオレたちを真っ赤な夕日が静かに静かに抱きしめていく。
スキップするよに発車したエンジン音に、文さんの「ごあーーんだよう」の声が重なった。今日のご飯にはゴミもいて欲しいという思いに気がつき、オレの顔が夕焼けになった。

第一話タイトル 「たかおくん」 (完)
さて、夏の読書の第三弾。

海外ミステリーの古典版です。シンプルにベスト10.

1.S.S.ヴァン・ダイン「僧正殺人事件」1929年 

名探偵ファイロヴァンス、御手洗潔の祖先。グリーン家殺人事件より私はこっち。なぜならこの本で「マザーグース」を知ったから。中学1年でした。イギリス文化に引き込まれたきっかけ。
  SSヴァンダインの部屋 http://homepage2.nifty.com/shiraboo/vandine.htm

2.エドガー・アラン・ポー 「モルグ街の殺人」1841年

そのファイロ・ヴァンスの祖先、オーギュスト・デュパン登場。そのトリックに小学生のボクはびっくりした。「アッシャー家の崩壊」等子どもながらに破滅型の作家?と感じていた。

3.ダシール・ハメット「マルタの鷹」1929年

ハードボイルドだぜ。サムスペードの視点が斬新だった。ここからアメリカのギャング映画を見るようになった。翻訳は読みにくく難渋した。後年、英語で読んだら面白かった。初めて購入した原書。

4.モーリス・ルブラン「怪盗リュパン」シリーズ 1905年〜

もう説明要らない。でも、ルパン三世しか知らない人は絶対に読むべし。「813」「黄金三角」「奇岩城」「三十棺桶島」。ドルイド教やフランス革命やもう欧州文化の全てを学んだ。

5.ガストン・ルルー「黄色い部屋の謎」1907年

言わずと知れた「オペラ座の怪人」の作者の歴史に残る傑作。令嬢という言葉に仄かなエロスを感じかつ若き新聞記者ルールタビーユに憧れ、ジャーナリストコンプレックスを形成させた一作。

6.イーデン・フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」1922年

イギリスやイタリアの自然に関心を与えてくれた作品。高1のとき読んだ。「闇からの声」も好き。江戸川乱歩が激賞した作品として知られる。

7.J.ディクスン・カー(カーター・ディクスン)「赤後家の殺人」1935年

トリック王。密室好きのカー。オカルト作品も多いし、推理小説上のルール違反を最初にやった人かも。死んだ人の声を聞かせるなんてすごいでしょ。ネタバレになるのであまり詳しく書かないけど、カーのある作品を読んで、ねじ回しやトンカチをもってドアと格闘した日々を思い出す。

8.エラリー.クイーン「Yの悲劇」1932年

名探偵ドルーリー・レーン。中2のときに読む。衝撃的であった。欧米が怖くなった。問題作であろうが、昨今の日本では問題にもならんだろうねえ。国名ミステリーは、有栖川有栖氏がオマージュとして、引継ぎ作品を書いている。北村薫氏も影響下にある。

9.アガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」1939年

孤島ものの代表作。有栖川有栖氏の作品から「ケイゾク」まで。さらに女性作家の草分けともなっ た。ミス・ジェーン・マープルにエルキュール・ポアロ。貴族趣味からイギリスの田園風景に庶民の暮らし等、事細かに吸収させていただいた。父子二代で読み継いだ作家です。

10.ドロシー・セイヤーズ「ナインテイラーズ」1934年

全く何の予備知識もなく父の本棚から抜いて読み、結果として辞書を引き引きとなったが、キリスト教文化や音楽を通して、村共同体を考えさせてくれた文学作品である。ミステリーとして読み始めたのではないので、感動は深かった。

※注 9.10が女性作家なのには何のジェンダーバイアスはありません。

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