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(ガブリエラの冬籠り) 学問というのは言葉の塊であって、「そういう言説」と称すべきものである。かつて人類学という学問ジャンルが意識され、その中で「人種」とか「民族」という概念が利用された。学問が学問たる所以は、「客観性の担保」と「再現性」であり、AならばBという因果関係を証明するには、観察者や実験者の主観をできるかぎり廃した地点が成立する必要がある。 ところが、案外にこれは難しいのである。自然科学の世界でも、たとえば「念写」といって、写真フィルムに人の思念を感光させることができる、といった主張をされた科学者がった。これは、客観性というよりも再現性に問題があって、同じ条件で同じ人に念写をさせても、うまくいかないことが再々おきたのであるが、その都度「前回とは○○の条件がちがう」と、実験者や観察者の体調まで素材にして語るものであるから、最後は「信じたものが救われる」ということになってしまった。 私が子供の時分の大人のものいいや漫画などにも、「土人」という表現がよくでてきて、なんだろうと悩んだものである。現地人(彼の土の人)という意味か、とも思ったがそうではなく、具体的には「アイヌ」や「ミクロネシア」そして、服を着ないで裸でいる風俗ももつ人を、意味していたのであった。それは、観察者による発見と分類であった。 思い起こせば、われわれはアメリカやヨーロッパによって発見され観察されたのであって、そこでの評価基軸は「キリスト教」「近代国家」「産業社会」「帝国主義、キリスト教近代であった。それを内部に取り込むことで、今度は自らが観察者たらんとしたのが日本の近代、中でも勝つはずのない戦争に「勝ってしまった」日露戦争後の帝国日本であったろう。 まさに、そういう中で、「日本人の起源」「天皇」などなどの自画像を、ポジで描くのではなくネガ、で描く役割を果たしたのが、人類学だったというのが、著者の証明である。 ヨーロッパの人類学が、文明社会=ヨーロッパ=キリスト教に立脚して無批判に自己の立場を肯定していたことが、帝国主義と顕現したのであれば、被観察者であった「日本」が観察者に転じるにには、見られた部分の修正あるいは隠蔽、さらには見る側にまわるための「近代化」は必然であった。民族や人種をいう概念は、そのような歴史的な言辞であることを、21世紀のわれわれも肝に銘じておきたい。 柳田民俗学もまた、「日本」とは「日本人とは」を日本の民俗のフィールドから寄せ集めて形成する学問であった。そこにや柳田の政治性を読み取る敏感さもまた、失ってはならない感性であろう。 20世紀を「民族」の世紀とくくってみれば、見る側と見られる側という分裂からそれの統合へと向かう流れがその歴史であると私は考える。そうであるからこそ、人類学が自然人類学と文化人類学に分化し、民族学も民俗学もいったんの衰退をむかえざるを得ないことも必然である。見る側も見られていたのであるという、両側の記録やまなざしを交差させるところに、類として生きるという意味での「人類」学を成立させていく作業が、21世紀の歴史であろうか?
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2010年01月28日
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コメント(2)
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ええ、このブログを読まれるお友達から、「あんたの頭はいったいどうなってるの???」と聞かれたので、こんな本に惹かれて教えられています、というのを紹介してみる。 昨年、呼んだ学術書(だいたい3000〜10000円する)の中で、一番 国家論や日本人論、はたまた天皇論を論じるためには、神道をきちんと学ばなくてはならんのだが、案外体験を絶対化する人が多い。 この本の内容から学べるのは、「神道」というくくり概念そのものが、時代とともに変遷し一定でないことだ。したがって、「神道とは…」という言説は本来個人が発話するのであるから、実は極めて恣意的でかつ主観的であることは、自明の理である。 ところが、多神教であるとか、あるいは自然崇拝であるとか、主観をあたかも歴史的論証の結果のように記述する山折哲雄などが言を弄するもんだから、明治の神道を過去に投影して歴史性を感じるという「顛倒」が起きているのである。 そんなこんなの、仏教者の不満をこの本は見事に解明してくれたので、「そりゃあそうだよな。江戸の初期に伊勢神宮バンサイとはならんわなあ」という常識を思いだしたのである。 悪口に聞こえてはいけないから、当流でいうと、おそらく室町の中ごろには、「親鸞」といっても誰一人知らんかったというのが真実であろう。蓮如と言う人が大衆に受けて、その蓮如と人格を通して「親鸞」という存在が知らされていくわけで。その逆はない。そういう時代意識に縛られた中で思想的に格闘されてきた先達の言葉や心に触れるのは心地よいのである。 この論集では、春と秋のお彼岸が、明治初期に祖霊信仰に再編成されていく過程と議論がなかなか興味深いことであった。
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