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遍路
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歩いても歩いても 山道だった この日は、 朝からあいにくの雨 濡れた石で 靴は滑るし そのたび へたくそに背負った リュックが揺れて その反動で身体がぐらつく 昨日一日で作ったマメで 思うように踏ん張れない。 道幅は狭く 崖に落ちれば 死ぬことはなかろうが 自力で這い上がる 自身がない。 十一番札所の藤井寺から 十二番札所の焼山寺まで 四国八十八か所 最初の遍路ころがし 昔のままの姿を残す 数少ない遍路道。 山道は 上り下りを繰り返し いつまでたっても 終わりそうにない。 カッパは 謳い文句通り 雨ははじくが 謳い文句通りには 風を通さなかった。 体温が異様に上がったようだ。 心臓が音を立て 高速に打ち始めた。 慌てて カッパを脱ぎ びしょ濡れになって 歩きはじめる。 一歩一歩 歩いていれば、 いつかは焼山寺に辿り着く そう言い聞かせるが あの曲がり角をまがっても やっぱり山道。 途中、 柳水庵という寺に 公衆電話があった ご丁寧にタクシー会社の 電話番号も書いてある ここらで挫折する 遍路もいるのだろう。 携帯電話は アンテナ・ゼロ本 ずっと圏外 私は脈が上がれば 歩みを緩め おさまれば戻して 歩き続けた。 一歩一歩 歩いていればと 自分で自分を励ますが 永遠に思えるほど 道のりは遠い。 六月に入り 歩き遍路には 時期が遅いのだそう。 暑さ寒さで 遍路も減るとかで 同行者はなく すれ違う人もない。 雨の山中一人きり この雨の勢いじゃ 台風は近い やがて 小さな集落に出た。 無人の民家で雨宿り 朝方コンビニで買った 弁当を広げる。 どこからか聞こえる 笑っていいともの オープニング曲。 嗚呼すぐそこには 日常があるんだなと にぎり飯をほおばった。 一歩一歩 歩いていれば、 いつかは焼山寺に辿り着く 気楽なものではないか ぐらつきながらも 歩きつづければ いずれは辿り着くのだ。 そう思えば 気持ちも楽になる。 十年足らず前、
四国にて─── |
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