Urah-Kat(w):blog

更新は非常にマイペースです。

読書記録

[ リスト | 詳細 ]

読んだ本について書いていきます。純文学系の小説が大半ですが、たまにラノベなどもあるかもしれません。
記事検索
検索

全1ページ

[1]

イメージ 1
 
長野まゆみ『カルトローレ』(新潮社、2008年)
 
 ↑来年の一月ごろに、文庫化する予定との情報があるようです。そうなるともち運びできるようになるので、実にうれしい。でもやっぱり、ハードカバー本の質感もたまらないんですよねえ……。
 
 
<航行不能になった《船》を降り、きび色の沙漠がつづく自治区で暮らすことになった青年・タフィ。<Cartorolle>と題された百九冊の航海日誌を調査するかたわらで、タフィは自治区の役人やその助手、水のありかを探るすべを知る少年などと出会い、ゆるやかな流れにみちた沙漠での日々をつみかさねてゆく。>
 
 長野まゆみというと、おもに少年が主人公の初期作品で有名かと思うのですが、この本の主人公は青年です。また、今回は長野まゆみ独特の硬質な文体がほぼ封印され、ひらがなを多用することで、ひじょうにやわらかな印象をあたえる文体となっています。
 こういった点などで、長野まゆみの初期作品、あるいは最近の作品などともすこし色あいがちがう(どちらかといえば近年の作品にちかい感じはしますが)ような印象ですが、個人的には長野作品のなかで一、二位をあらそうくらいお気に入りです。
 
 なにがお気に入りかって、まずなんといっても文章のうるわしいこと。もともと長野まゆみは情景描写などにすぐれていると(勝手に)思っているのですが、淡々とした、まさにかわいた沙地のような文体の中にきらめく描写のかずかずが、とにかく端正でうっとりと陶酔してしまいます。
 また、さきに硬質な文体を封印しているとはいったものの、やはり長野色は健在で、「『沙』漠」や「水紅色(ときいろ)」、「占象(うらかた)」に「刺青(ホシ)」、などの独特なことばづかいを見ているだけで、ゆたかなことばの海にゆったりとたゆたっているような心地よさをおぼえます。
 
 つぎに、この物語の世界観。主人公のタフィが暮らすのは、きび色の沙地がひろがる、モロッコや中東あたりを彷彿とさせるようなところです。そこに呪術的な要素や、それとは真逆の近未来的な要素などが絶妙にからみあい、物語の世界がしっかりと構築されています。
 ええ、もう私にとってはものすごくツボでして、この本を読んでいると、(ちょっと地域はズレますが)アラビア世界やペルシアやシルクロードやらへのあこがれが爆発しそうになってしまいます。 
 
 そしてまた、小説のなかに登場する料理のかずかずの、ほんとうにおいしそうなことといったら……。物語のはじめからおわりまで、とにかくひんぱんに食事や料理の描写がでてくるのですが、どれもこれも「食べてみたい……!」と思わずゴクリと唾をのんでしまいます。
 ディアボロマント、花豆の冷製ポタージュ、レモンパイ、シチュー・ド・ティ、午后茶(ハイティ)、春野菜の冷製スープ、フルーツケーキ、カタツムリのかたちをしたパン、チョコレート、「ばらのような」パスタ……などなど、このほかにも素朴でありながら凝った料理がさまざまに登場し、枚挙にいとまがありません。
 
 とにもかくにも、読んでいるだけで眼福、といいたくなるような、淡々としてしずかな流れが心地のよい物語です。
 ただし、「小説はハッピーエンドなりバッドエンドなり、きっちりはっきりとした結末が用意されていなければ、もどかしくて気持ちがわるい!」と感じられる方には、少々向かない小説かな、とも思います。
 
 長野まゆみの特徴ともいえると思うのですが、この作者の作品には、あえて張った伏線を回収しないまま終わったり、わざとつじつまを合わせることを放棄したりといった展開のあるものがあります。
 この『カルトローレ』もそれらと似ていて、まるで読者をけむに撒くような、といいますか、すっきりした結末を期待していらっしゃる方には、ちょっと拍子ぬけしてしまうかもしれない終わり方をする感じです。かくいう私も、はじめて読了したときには「あらっ?」と思ったりしました。しかもそれまでの展開も、確定的なことをなるべく述べずにあいまいなまま進んでしまうので、イライラする方はすると思います。
 ただ、何度も読みかえしたり、『カルトローレ』についての作者インタビューを目にしたりしているうちに、個人的にはこれはこれでいいのではないかな、と思うようになりました。
 
 なんでも<Cartorolle>ということば自体、「日記」という意味をふくんでいるそうで、となるとあいまいな終わり方もアリなのではないかと。
 つまり、「日記」というのは、書き手が書くのをやめるか死ぬか書けない状況におちいるかでもしないかぎり、どこまでもつづいてゆくものです。それなら『カルトローレ』という本は、いうなれば主人公・タフィの「日記」の一部を抜粋したようなものであって、この物語の結末のあとも、タフィの「日記」(あるいは人生というべきか)はずっとつづいてゆく。それは読者には読めないものではありますが、タフィやあの小説の登場人物たちには読めるもので、そのなかで「放棄された伏線」も、やがて明らかにされるときが来るかもしれません。ただし、それは読者にはわからないわけですが……。
 だからまあ、微妙な結末でも、それはそれでよいのではないかと思います。あとは読者がそれぞれ、勝手に自分のすきなように、想像していけばいいんです。……まあ、「それがイジイジするんだよ!」といわれてしまえば、それまでですが(苦笑)。
 
 
 というわけで、ひじょうに長々となってしまいましたが、まあ、ひとことで申しあげれば私にとってはおもしろい本でした。興味がおありの方は、ぜひごらんになってみてください。来年一月あたりに(まだ確定ではないようですが)文庫化するらしいので、ハードカバーじゃ財布がいたむ、という方も安心です(笑)。もしくは、図書館に入っているところもあると思いますので。
イメージ 1
 
杉浦日向子『4時のオヤツ』(新潮社、2006年)
 
 風邪も少し落ち着いてまいりましたので、一冊。
 
 
<深夜でも、明け方でもない。昼間でも、夜でもない。そんな中途半端な「4時」という時間を埋める、オヤツの数々。微妙かつ絶妙な人間関係に彩られた会話とともに、おいしい時間を「頂きます」>
 
 こういった料理紹介関係の本を、私は勝手に「画に描いた餅」系本、と呼んでいます。腹は膨れません、という意味で(笑)。
 ですが私、空腹のときにあえてこういう類の本を読むのが好きだったりします。その方が、内容をさらにおいしく頂ける気がしますので。特に私の場合、料理もお菓子も量を食べない(というか刺激物や油脂に弱く、油断するとすぐ腹痛や胸やけを起こす)タチなので、本を通して脳内で食の快楽を味わうのが一番楽しいのです。
 ……でも辛いものとかお菓子とか好きなんですけどね(笑)。量が食べられないだけで。
 
 いやはや、しかしまあおいしそうなオヤツの数々です。個人的に、特に食べてみたいなあと思ったのが、井の頭の糸切りだんご、米久の稲荷寿司、清正の酒饅頭、しろたえのデリス・パンプキン、上野風月堂のカステラ。添えられている写真が実においしそうで、空腹のときにはたまりません。
 
 もちろん、おいしそうなのは写真だけに非ず。オヤツにまつわるそれぞれの会話小話が、また何ともコクのある味わいをもたらしてくれます。あっさりと歯切れよく、軽妙一辺倒の語り口かと思いきや、親子、友人、恋人など、繊細かつ微妙な人間模様が、短い会話の中で見事に表現されています。
 ときにあたたかく、ときにしんみり交わされる言葉と、それに寄り添うオヤツたち。何とも甘美な関係です。
 
 また、特におお、と思ったのが、会話の中での女性の口調。
 たいてい小説の女性の口調というのは「〜だわ」とか「〜よね」などといった、いかにも女性らしい口調が多いように思います。しかし実際には(特に若い人は)、女性であっても、日常会話のすべてを「だわよね」のような口調にしているわけではない。そりゃもちろん、こういうおしとやか気味の口調も使いはするでしょうが、普段はもっとくだけていたり、ときには男言葉を使ったりもします。
 この『4時のオヤツ』では、女性の不自然な「だわよね」的口調は少なく、とても自然な口調になっています(中高年の方の会話では、「〜だわ」なども頻繁ですが)。しかもそれでいて、ちゃんと女性であるということはわかる。そこが気取らず、リアリティがあって、いかにも日常の風景らしいのですよねえ。
 
 
 とにかく内容が「オヤツ」なだけあって、疲れたときや小難しいことを考えたくないとき、休憩がわりにちょっとつまんでみたくなる本です。いやはや、ごちそうさまでした。
イメージ 1
クラフト・エヴィング商會『クラウド・コレクター<手帖版> 雲をつかむような話』(ちくま文庫、2004年)
 
 先日「いずれ」読みたい、などと言っていたのですが、結局辛抱ならず早々に購入してしまいました。
 続きや姉妹編がある、と聞くとすぐ欲しくなってしまうんですよねえ……。まあさすがに三巻以上続くような本ならば、こんな風に一気に買ったりはしませんが。
 
 
<クラフト・エヴィング商會の三代目が見つけた、祖父・吉田傳次郎(よしだ・でんじろう)のトランク。その隠しポケットから出てきた手帖は、傳次郎が「アゾット(AZOTH)」という遠国へ旅行した記録を綴ったものだった>
 
 相変わらず、とても装丁の美しい本です。
 挿絵では、『すぐそこの遠い場所』とかぶっている部分もありますが、もちろんあちらには載っていなかったイラストも多数掲載。また、この本は商會の三代目(吉田浩美)が語り手となっている部分は黒字、傳次郎の旅行記の部分は青字、と色分けがされています。それがまた、現実とアゾットをふらりふらりと行き来しているような何とも言えない気分になるのですよねえ。
 ……そういえば、こういう仕掛けってミヒャエル・エンデ『はてしない物語』の単行本版の方でもありましたね。初めて読んだときには実に洒落ているなあ、と思ったものです。
 
 閑話休題。本の内容の方も、個人的にはとても好ましいものでした。ヨーロッパやらアジアやらさまざまな要素の混在するアゾットの設定が、とにかく私のツボなのです。行ってみたいのはもちろんですが、こんな世界を小説で描けたらなあ、とうらやましくてなりません。
 
 ところでこのアゾット世界、『すぐそこの(以下略)』の方では日常生活(?)ファンタジーと書いたのですが、こちらの旅行記もあわせて見てみると、単なるほのぼの癒し系ファンタジーというわけではないのだとひしひしと感じました。あちらでもかすかな郷愁の余韻、のようなものはあったのですが、こちらはそれが非常に顕著です。
 
 旅行記の主人公である傳次郎。アゾット・エリア1(アゾットは、全体が21のエリアに分かれているという設定になっている)にやって来た時点ではまだ単なる旅行者にすぎない彼ですが、進むにつれて眼前に立ち塞がってくる「永遠」と「忘却」の問題に対して、次第に頭を抱えるようになります。そしてそれは、アゾットの人々が抱えている問題でもありました。
 「永遠」と「忘却」にともなう郷愁、焦燥、悲しみ、空虚……。悩み、思考する傳次郎を通して、その感情は読者にまでじわじわと浸透してくるように思われました。アゾットの世界はただ幻想的なだけではなく、人間が心のどこかに持っているほろ苦い感情を、はっきりと突きつけてくる場所でもあるのです。
 
 ところで、これはちょっと言葉遊びというか洒落的な部分になるのですが、この本、実にさまざまな文学作品や作家が顔をのぞかせたりしています。それがまた、何とも暗号のようで楽しい。
 とはいえ私、ヨーロッパ系の文学に関してはほぼ門外漢なので、そのあたりはさっぱり見抜けなかったのですが……。三代目の説明でやっと「おお、そうだったのか!」などと膝を打っていたような次第で。
 
 
 とにかくこの『クラウド・コレクター』、個人的には非常に楽しめた本でした。久々に結構なヒットだったかなと思います。
 まあ本の趣味なんて人それぞれなので自信を持っては言えないのですが、(非現実ではありますが)ヨーロッパがお好きな方や、小説の「しっかり組まれた世界観」というものを味わうのがお好きな方には、よい本ではないかなと思います。
イメージ 1
クラフト・エヴィング商會『すぐそこの遠い場所』(ちくま文庫、2004年)
 
昨日手に入れた本です。中身の装丁に惚れて買ってしまいました。
私は本を自分の手中に収めてしまわないと気がすまないタイプなので、実に本代がかさみます(苦笑)。図書館で借りても、結局あとから買ってしまうんです……。
 
 
<吉田篤弘・吉田浩美夫妻のユニット「クラフト・エヴィング商會」。その先代・吉田傳次郎(よしだ・でんじろう)が残した、架空世界についての、永遠に未完の事典、という体裁をとった本。架空世界「アゾット(AZOTH)」についてのもろもろが描かれています。>
 
まず、中身の装丁が美しいです。中世ヨーロッパの銅版画のような挿絵と、事典の項目にあわせた写真をフルカラーで掲載。これを眺めているだけでも、非常に幸せな気分になれました。
そして、「アゾット」の世界観。過客・雲母印書房・ガルガンチュワの涙・遊星オペラ劇場・クラウド・シュガー・沙翁……。事典に掲載されている事物のどれもこれもが、空想ごころを刺激します。
ファンタジーとは言っても英雄譚などではありませんが(しいて言えば、事典中の「6Hの詩人」に登場する、「詩神D」などが英雄と言えなくもないですけれども)、日常生活ファンタジー(?)がお好きな方には良い本かと思います。
いやあ、しかしまあ良いですねえ……。個人的に、こういう架空の設定集みたいのはツボです。またいつか別に紹介しようと思いますが、長野まゆみの『鉱石倶楽部』なんかもおお、と思いながら読みました。それから、自分で物語の設定考えるのも好きです。というか、設定考えてるときが書いてるときよりも楽しいんですよね……。
 
この『すぐそこの遠い場所』、同じくクラフト・エヴィング商會の『クラウド・コレクター』という本とつながりがあるようです。そちらはまだ入手していませんが、ぜひいずれ読んでみたいと思います。

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事