ミニマム書架。

11/27:どうやらこの冬は暖冬らしいです。

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国境の南、太陽の西

『国境の南、太陽の西』 講談社(1992)


主人公の「僕」は、子供のころからジャズの魅力に引かれ、大学進学のために上京、

卒業後サラリーマン務めのあと、ジャズ・バー『ロビンズ・ネスト』を経営する。

元ジャズ喫茶の経営者だった春樹さんの専門的な知識、ジャズへの情熱が盛り込まれた、

自伝的なストーリーともいえる作品です。



ストーリーは「僕」と3人の女性との関係が縦軸として語られていきます。

1人目は小学五年生のときに出会った「島本さん」。

「僕」は彼女とレコードを聞きながら共生感覚のようなものを抱くが、やがて関係が途切れてしまう。

2人目は高校の同級生の「イズミ」。

「僕」は彼女と付き合いながら彼女の従姉妹と肉体関係を持ち、深く傷つけてしまう。

3人目は三十歳のときに旅先で知り合い結婚した「有紀子」。

彼女の父親は中堅の建設会社の社長で、「僕」は彼の援助によって青山にバーを経営し、軌道にのせる。

子供も二人作り、おおむね幸せな生活を送っている中、「イズミ」の消息を聞かされる。

しかし、彼女はすっかる損なわれてしまったという。

さらに「島本さん」が店を訪れ、「僕」は彼女に対する思いを募らせるようになっていく。




春樹さんの恋愛小説というと『ノルウェイの森』が真っ先に思い浮かぶのですが、

私はこの作品もかなり傑作だと思っています。

好き嫌いがはっきり分かれる作品かもしれませんが、どこかとても強く引かれるものがあるのです。

それは私が一人っ子だということに関係しているのかもしれません。

この物語の主人公と「島本さん」は、互いが一人っ子だということが大きなきっかけとなって、

共生感覚のようなものを抱くことになります。

春樹さんの小説の主人公はほとんどが一人っ子である場合が多いのですが、

この作品は一人っ子であるということを、まるで「僕」と「島本さん」の特別なしるしとして

語るところがなんとも言えないんですよね、一人っ子の立場から言えば…




作品のタイトルにもなっている「国境の南」ですが、

これは島本さんとよく聞いていたナット・キング・コールの曲名で

(実際にはナット・キング・コールはこの曲は歌っていない)、

これは島本さんと過ごした時間を象徴するものといえるでしょう。

「太陽の西」は島本さんが語るエピソードにもあるように、

「国境の南」と対をなすものとして考えることができます。

島本さんが語るエピソードというのは「ヒステリア・シベリアナ」という病気の話で、

シベリアに住む農民が生活の単調さの耐えかねて死に至るという残酷な話です。

このふたつの言葉が表すのは、

・「僕」はもう「島本さん」と一緒に過ごした幼い頃に戻れないということ、

・シベリアの荒野で死んでいく農夫でもないということ、

つまり「僕」は「国境の南」でも「太陽の西」でもない場所に存在しなくてはならない

ということなのかな、と思いました。

物語の最後で「島本さん」が姿を消し、「僕」はやっと彼女の面影に捉われない、

なにもない真っ白な状態に戻っただけなんですよね。




この話は、「僕」の恋愛や性体験の告白だけじゃなく、

その裏側に春樹さんが書きたかった何かがあるのであって、ただの恋愛小説だとは思えないのです。

1人の男性が成功者となるまでの経緯を恋愛と絡めて告白しているわけでもないし、

『ノルウェイの森』とは別の方向から描かれた「生」と「死」の物語のようにも感じます。

「死」を感じさせるのは「島本さん」で、「生」は「僕」のようにも思える。

しかし「僕」は「生」の中に「島本さん」の幻想を見ているので、

地に足がちゃんとついていないような奇妙な感覚でいるのでしょう。

「島本さん」が去り、すべてをリセットされた「僕」ははじまりに戻ったと考えるのが妥当でしょうね。




作品の大きな読みどころは、ジャズの名曲が登場するということです。

春樹さんの小説にはいつも何か音楽が登場します。

クラシック、ジャズ、ロック、時にはミッキーマウス・マーチであったこともありました。

春樹さんの小説の中で、これらの音楽というのはとても象徴的なものですが、

作品を読み進めていく中で重要なポイントになるといってもいいと思います。

さりげなく使われた音楽が小説をぐっと引き立てて、

その音楽を聴けば小説の世界が目に飛び込んでくるような、それも村上作品の要素のひとつですよね。




『国境の南、太陽の西』のタイトルにもなっている「国境の南」、

これは国境の南メキシコで恋に落ちた男の話が詞になっている曲で、

“明日ね。でも明日は決してこない”という歌詞はこの作品を象徴するかのようで、とても切ない。

「僕」と「島本さん」が幼い頃に居間のレコードプレイヤーで聴いた、

ナット・キング・コールの歌う「プリテンド」の“辛いときは幸せなふりとしよう”という歌詞や、

恋愛の名曲である「時のたつまま」の“時が流れても愛は変わらない”という歌詞を

ストーリーに重ねてみると面白んじゃないかと思います。



この小説に登場する曲をとりあげたCDが出ているのでぜひ聴いてみてください。

クロード・ウィルアムソンのピアノ・トリオ作品です。

全8曲で、最後には「太陽の西」という曲がクロード・ウィリアムソンのオリジナルで収録されています。

まるで、ジャズ・バー「ロビンズ・ネスト」にいるような気分を味わえちゃいます。

個人的には小説の中でも「僕」が大好きな「スター・クロスト・ラヴァーズ」がお気に入りです。



☆ 『国境の南、太陽の西』 クロード・ウィルアムソントリオ

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なんで一人っ子としての欠落感をはじめの段階で布石うってくるのだろう!?と読みながら思ってたけど、それは主人公が島本さんとの恋で、不満のない平穏な生活が欠落していってしまうというのにも若干繋がってるのかな?島本さんは、いろんなものが欠落してしまっている感じだけどねぇ・・・。悩みながらも自己探求して再生する姿はヒトだなって感じた。この物語は傑作ですよね!僕もとても好きです。あと、やっぱり音楽ネタがいいですね。

2005/6/21(火) 午後 2:31 kei*hi*7

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以前私が読んだ時とは装丁が変わっているみたいですね。春樹氏の本を読んでいる時、いつも作中の曲がずっと聞こえているような気がします。この本を読んでいるときはずっとジャズが・・♪<辛いときは幸せなふりをしよう>

2005/6/21(火) 午後 8:04 nik**ikou*uf*25

『ダンス〜』のユキも島本さんみたいな女性になりそうな気がする…男性はこの小説、けっこう自分と重ねて読んだりするのかなーって思います。来世で男に生まれたら絶対読もう。>けいちさん

2005/6/22(水) 午前 11:57 かえで

このCDもなかなか良いですよ☆ジャズは聴かなかったのですが、この小説とこのCDに出会って、聴くようになりました!個々の小説に音楽のエッセンスを取り込む春樹さんのセンスに脱帽です。>nikoさん

2005/6/22(水) 午前 11:59 かえで

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長編のなかでも、比較的短い小説だけど、この本はかなり好きです。人間の弱さや、許すことの難しさ、生きることの難しさみたいなものが、リアルに描かれていて、春樹さんにしては珍しく現実的な話だなって思います。

2005/6/22(水) 午後 0:30 [ - ]

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この本にはとても運命を感じました。この本は僕がメキシコに行ってるときに読みました。国境の南=メキシコ。そして遺灰を流す場所が石川県の川。当時、僕は石川県に住んでいたのです。そして、メキシコの街をブラブラ歩いて、読めもしないのに本屋に入りました。そこで、なんと、偶然手に持った本が、スペイン語版「国境の南 太陽の西」3000円くらいしましたが買いました。当然読めないけどね。。

2005/6/23(木) 午前 7:46 [ eiichi ]

言われてみれば珍しく現実的な内容ですね。春樹さんといえば寓話性を持つ作品ばかりなのですが…春樹さんの自伝的な小説とも言える感じだし、相変わらず虚無感は健在で**>ひまわりさん

2005/6/23(木) 午後 2:12 かえで

スペイン語版、しかも高っ!(笑)でも、偶然にしては運命を感じずにはいられないですね〜☆自分の生活や経験とリンクする小説の風景って、生きる糧になりうるように思います♪そんな小説に出会えるなんて幸せじゃないですか〜>a1yoshiさん

2005/6/23(木) 午後 2:15 かえで

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初めまして!最近村上春樹作品のおもしろさを知りました!勝手ですがお気に入りにさせていただきます。大変参考になります。

2005/6/23(木) 午後 7:39 [ hrs**1017 ]

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とうとう登場しましたね。鼠も羊も井戸も出てきませんが、とても好きな作品です。どこが好きかは。。。今度レビューに書きます。(^^) 1000ヒットおめでとう!

2005/6/25(土) 午後 6:27 [ my_*ver*c*angi*g*mood ]

わあ!ついにきました!この作品、「ノルウェイ」「世界の終り」に続いて好きな本です。イズミの顛末が切ないというか、怖かった・・・私の中では島本さんよりも印象深い登場人物でした。かえでさんは音楽と合わせて村上春樹の世界を楽しんでいてステキだなあって思います☆私も篭城する曲をもっと聴いてみようかなと思いました!

2005/6/27(月) 午後 3:34 [ - ]

早速ですがクロード・ウィルアムソンの「国境の南、太陽の西」ツタヤで借りてきました☆「As Times Go By」とかは前から好きだったんですが、「スター・クロスト・ラヴァーズ」も良いですね☆

2005/6/28(火) 午後 3:32 [ - ]

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フランク・シナトラの歌もカラッとしていて、いいです。ときどき、カラオケで歌います。

2005/9/20(火) 午後 7:22 [ gra*ch*00*1 ]

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