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華氏451(1966年) 原題:FAHRENHEIT 451 製作国:イギリス / フランス 時間:112分 / カラー 原作:レイ・ブラッドベリ 脚本:フランソワ・トリュフォー、ジャン=ルイ・リシャール 撮影:ニコラス・ローグ 音楽:バーナード・ハーマン 出演:オスカー・ウェルナー、ジュリー・クリスティ他 近未来、活字のない社会。そこでは読書が全面的に禁じられ、本を読む者は反社会分子とみなされていた。すべてが耐火住宅になり、本来ならば火を消すはずであった「消防士」の仕事は禁止されている本を探索し、それらに火をつけて消却すること。有能な消防士として昇進も約束されているモンターグ青年は、ある日モノレールの中で近所に住むクラリスという女性に「本を読んだことがある?」と声をかけられる。家でテレビばかりを見、薬物で恍惚感に浸る妻に見た目はそっくりながらも溌剌としたクラリスと親しくなるにつれ、モンターグは禁止されている書物へ興味を抱くようになる…… ☆ ☆ ☆ これまでトリュフォーの映画についていくつか記事を書いてきましたが、私が彼の作品に惹かれる大きな理由は、そのどれもが本好きの人間のための映画だからです。トリュフォーの映画では書物を読む、手紙を書く、文章をタイプするなどといった行為が非常に重要な役割を果たしています。どの作品も読書好きのトリュフォーらしいユーモアに彩られ、本好きの人間であれば間違いなく彼の心配りに親しみを感じることでしょう。 そんなトリュフォーの書物への愛がひしひしと伝わってくるのがこの『華氏451』です。活字が全面的に禁止された社会を描いたレイ・ブラッドベリのSF小説『華氏451度』を映画化したものなのですが、トリュフォーが大のSF嫌いであったこともあり、SF的な要素を抑えた人間味溢れる作品に仕上がっています。一部では駄作とみなされトリュフォー自身も失敗作と認めていたらしいのですが、なによりも書物への愛に満ちた素晴らしい映画なのです。 おそらくこれは原作も相当面白いはずです。本が禁止されるということと、それを取り締まるのが消防士という発想。そして原作の世界観を見事に映像化したトリュフォーがすごい。60年代からみた近未来という設定だから、もしかしたら今頃の時代を想定したのかもしれません。「いとこ」たちが出演するスクリーン、モノレール、規格化された住宅...細部まで見るとこれはちょっとおかしいよねというところもありますが、殺伐としたひとつの時代のイメージを十分に伝えています。 そして何より本が燃えるシーンの美しさと、本を読むシーンの素晴らしさ。これらのシーンに心が動かされるということは、感情移入ではないけれど本に愛着を覚えるからではないでしょうか。もちろん映画の主人公はモンターグなのですが、焦点が当てられるのは本です。本が燃えるシーンを見つめている時の自分の心理を見つめ返すことによってこの映画の素晴らしさがわかるのだと思います。そして本への愛着があれば、自ずとラストシーンが美しく感動的なものになるでしょう。トリュフォーの映画はどれも脱線が面白く泣いている暇などはないのですが、この映画のラストだけは特別でした。映画好きの人だけでなく、本が好きな人にも是非観てもらいたい作品です。 ☆ ☆ ☆ この『華氏451』を『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』で知られるフランク・タラボン監督がメガホンを取り、ハリウッドでリメイクする話がどうやら進行中のようです。2004年にタラボン氏はトリュフォー版『華氏451』を「パッションに欠ける」と言い、今回の企画をリメイクとも思っていないようで、これまで一度も映画化されていない本の映画化と考えているらしいのです。はて、トリュフォー版のどこがパッションが欠けているというのでしょうか。トリュフォーほど書物への情熱に溢れた作品を撮り続けた映画監督が他にいるとしたらぜひ教えてもらいたいものです。トリュフォーの書物への愛が彼の映画の根底にあるということはこの『華氏451』に限らず、女性や恋愛テーマにした他の作品を観ても歴然としています。例えば脚フェチ男の恋愛遍歴を描いた『恋愛日記』(1977年)のなかにこのような台詞があります。 「一冊の本が出版されるということは、この世に赤ん坊が生まれるのと同じように素晴らしいことなのだ」 タラボン氏がトリュフォー版『華氏451』を「パッションに欠ける」としたのは、原作がとても情熱的な本であるにもかかわらず、原作にみられる情熱が映画には感じられず、それどころかとてもビザールな作品に仕上がっているという点からです。原作を読んでいないので私も偉そうなことは言えないのですが、ハリウッドのCG演出に慣れてしまった人間が、トリュフォー版『華氏451』を奇妙な作品と感じるのは致し方のないことのようにも思えます。しかしこのリメイクの話、一度消えたかと思いきや、2008年の時点でキャスティングの段階という情報があったり、いまひとつとぱっとしないようです。個人的にはハリウッド演出お得意の爆破シーン(タラボン氏の言うパッションとやらが見られるのはおそらくこれなのではないかと思うのですが)をてんこ盛りでやられるのであれば企画倒れで終わって欲しいのですが...どうなるのでしょう。トリュフォーの人柄込みで観てしまう、トリュフォーが撮るから面白いと考えてしまう私としては、ハリウッド版はあまり見たくないというのが本音なのです...
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