西暦2050年。
世界の人口は100億人を超え、あちこちで争いや食糧不足が起き、それによる多くの死者が出ていた。
20世紀後半から各国で行われた数々の政策はことごとく失敗に終わっていた。
生態系は変化し、わけの分からない伝染病も広がり、いまや地球上の生物は絶滅に向かって進んでいるようであった。
そんな中、日本の超ド田舎の傾いた研究所で歩くのもおぼつかない一人の老人がつぶやいた。
「完成した。やっとタイムマシンが完成した・・・」
心臓も患っているその老人93歳は自称ネコミ博士という。
多くの世界の学者がそうであったように、ネコミ博士は世界がこうなることを予測し対策を考えていた。
「世界を救うにはどうすれば良いか?」
ネコミ博士は他の学者とは違った道を選んだ。
聖書を若いときにかじった事があるネコミ博士は創世記3章がすべての問題の始まりであることを知っていた。
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創世記3章 (新世界訳より)
3 でも,園の真ん中にある木の実を[食べること]について,神は,『あなた方はそれから食べてはならない。いや,それに触れてもならない。あなた方が死ぬことのないためだ』と言われました」。
4 それに対して蛇は女に言った,「あなた方は決して死ぬようなことはありません。
5 その[木]から食べる日には,あなた方の目が必ず開け,あなた方が必ず神のようになって善悪を知るようになることを,神は知っているのです」。
6 そこで女は見て,その木が食物として良く,目に慕わしいものであるのを知った。たしかに,その木は眺めて好ましいものであった。それで彼女はその実を取って食べはじめた。その後,共にいたときに夫にも与え,彼もそれを食べはじめた。
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すべては神が食べてはならないと言った木の実を女(エバ)が食べてしまったことによって起きているのである。
そうであればエバが木の実を食べるのを阻止すれば、根本から世界を救う事ができるはずだ。
つまり、タイムマシンを作って時間をさかのぼり、エデンの園に行き、木の実を食べないようにエバを説得すればよい。
ネコミ博士はさっそくタイムマシンの制作に取り掛かった。
ネコミ博士53歳の時であった。
しかし、タイムマシンの制作は困難を極め、始めにいた協力者も病気や事故、高齢の為に次々と亡くなっていった。
時は流れ、40年の月日が流れた。
ネコミ博士は、いまや世間からは変人扱いされ、たった一人になっていた。
それでも、心は燃えていた。
「私はあきらめないぞ・・・」
そして今、タイムマシンは完成した。
形は70年前に見た映画「バックトゥ・ザ・フューチャー」の自動車をモデルにした。
「ううっ・・・」
急に胸に痛みを感じたネコミ博士は心臓のクスリ(ニトロ)を飲んだ。
だんだんクスリが効かなくなっていた。
「もう、時間がない、地球の時間も私に残された時間も・・・」
ネコミ博士はタイムマシンに名前を付けた。
「ヤマト」
それは70年以上前に奥さんと見に行ったアニメ映画の宇宙戦艦の名前であったが、奥さんが亡くなって20年近い時間がたっていた。
ネコミ博士はよろよろとヤマト(タイムマシン)に乗り込み、場所を「エデンの園」、時間はエバが木の実を食べる1日前に設定し、ヤマトのスイッチをオンにした。
パパパパッと計器類のランプが点き、キーーーンと音がし始めた。
その時、一匹のゴキブリがヤマトの中に飛び込んで助手席に落ちた。
ネコミ博士は気がつかない。
バタン!
ドアは閉まり、ネコミ博士とゴキブリを乗せてヤマトはエデンの園へと出発した。
つづく