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今日は朝からお母さんはお出かけで、日曜なのでお父さんは10時ごろから起き出して 庭の手作り池の 錦鯉(お父さんがそう言っているだけで、コメットと言う金魚です。金魚鉢よりは大きな池なので金魚さんも大きくなり 今では20センチ近くにまでデッカクなった。) 餌を与え、安楽椅子に寝そべって 持ち出してきたクーラーボックスの中から缶ビールと魚肉ソーセージを取り出して ちびちび やりださはりました。
缶ビールはお父さんのもんやけど、魚肉ソーセージは私とバチョフの食材です、抗議の意味をこめて小さく「ワン!」と言いますと、お父さん一口齧っただけで皮を剥がして 私にくれました。
500mlを2本 平らげてお父さん,また うとうとやりだしたので、つられて私もお父さんの足元で うとうとz,z,z〜
初夏の陽指しを心地よく受けて どれ位寝ていた事でしょうか、
「こんにちは〜」と遠慮がちな声に2人とも起こされ門扉の方を見たお父さんが
「之は珍しい人がやって来た。 どうぞお入りなさい、野暮な鍵なんかは掛かって無いから。」
「ご無沙汰してます、近くまで来たもんですから 立ち寄って塀越しに見れば 気持ち良さそうに昼寝してはったので一言だけ声かけて 起きはらへんかったら そのまま帰ろうと思いましてん」
「帰られては 申し訳ない事をする所やった、まずはお茶代わりに。」
と鰐三郎さんに缶ビールを一本渡すお父さん。 家の中に入り何種類かのチーズやチョコレートやレーズンを持ち出してきた。
「ところで鰐三郎さん、お見かけしたところ元気そうやけど、其の後 身体の方はどうですか?。」
鰐三郎さん2年前に癌で胃の摘出手術を受け、昨年はまた腸閉塞で手術を受けはった事は 私もお父さんから聞いていた。元々小柄な鰐三郎さん、消化器系の病気ばかりで さらに痩せてしもて やつれて見える。[お元気そう]や言うのは お父さんのベンチャラですわ!。
「相も変わらずです、ご飯が少ししか食べれない分を ビールやお酒で補う明け暮れ、医者には止められてるねんけどね、」
「少量でカロリーの高い食べ物 選んで食べれば宜しい、チーズやチョコレートやレーズン、之全部鰐三郎さんに打って付けの付き出しですは!、僕も胃弱なので お豆腐、大根おろし、小魚、海草、噛まないで飲み込んでも消化出来る様な物ばかり食ってる。」
言いながらお父さん新たなビールを2本取り出し鰐三郎さんに1本渡した 余り進めん方がいいのに。
「社長は 姐さんが作ってくれはるさかい宜しいけど、僕は一人暮らしやさかい。 別れた嫁はんと2人の娘が近所で住んでるので、時々下の娘がオカズ作った言うて届けてくれますが、」
「息子のS君は 長いこと逢って無いけど、気張っとるのん?」
鰐三郎さんも息子のS君もお父さんの会社で働いたはったんですが、鰐三郎さんは病気で働けなくなった。息子のS君は お父さんの先輩筋の店を紹介してもろて修行したはるそうです。
「息子は2回目の手術の後に病院覗きよったきり、1年近く逢ってないのです。 子ずれの×壱と一緒に住んどるから 僕の方からも行きにくくて。どっちにしても出遭たら喧嘩ばっかりの親子ですから。」
「S君に一度 言って聞かせて置くさかい、」
それが切所で鰐三郎さん 立ち上がり
「お休みの所、突然お邪魔して ご馳走になりました、お暇致します、姐さんに宜しく仰っておいてください」
「いやいや、女房が留守で 何もお構いできず、申し訳ない」
帰っていかはった鰐三郎さんが 座ってはった椅子の足元に車のキーらしき物を発見して、お父さんに見せたのは 鰐三郎さんが我が家を出て15分くらいたった後のことでした。
「おっと、之では鰐三郎さん家に帰れない、 しかしキー探しに戻ってもこないとは! 何故やろ?」
お父さん慌てて鰐三郎さんに携帯を掛けるが 出ないらしいのです。
「予備のキーを持ってはったんやろか?」
その夜 お父さんは息子のどらやんに電話して どらやんからS君に「 時々は鰐三郎さんと連絡を取り合うて体の調子も見舞ってやるように」伝えておくよう 話してはりました。
2日後の火曜日、朝9時頃 お父さんの携帯に S君から電話掛かってきました。
「ご無沙汰してます、Sです。 社長! 親父が死にました。」
「えぇ!なんやてぇ いつの事や!。」
「日曜の夜、どらさん から電話もろて、一年近く親父と逢ってない事で説教されました。それで昨日1日中親父に電話していたのですが出ないので 今朝 仕事に行く前に親父の所へ立ち寄って、鍵はスペアーを預かっていたので 開けて入ったところ、布団のなかで死んでました。隣の人が町内の世話役さんと相談して警察も着ましたが、死後1週間は経過しているとの事で検視の為、遺骸を持っていきました。僕は伯父や、おふくろ、妹に連絡を入れ、お袋が社長さんにも知らせておかねばと言いますので、電話させてもらいました。」
「それは! また!。 S君,とりあえず 僕もこれから其方へ行くさかい!。」
「すみません、俺 何を,どこから,どないしたらよいのか、パニック状態で 済みません」
「ゴル、お前さん一昨日 鰐三郎さんが我が家に来たこと、お母さんか バチョに話したか?」
とのお父さんからの問いに 私はなが〜い首を横に振った。
「よし! 俺も誰にも言ってない、ゴルや、日曜の事は俺たちが夢を見ていたんや、なぁ、そうやろう!」
お父さんは手のひらにある 鰐三郎さんの車のキーを眺めながら私に言っているのか,独り言なのか。
鰐三郎さんの遺骸は夕方に検視を終えて帰ってきたそうです。その日のうちのお通夜、翌日午前中の告別式、 お父さんは 古くからの仕事仲間にも声をかけ 一人でも多く お別れに参列してあげてほしいと連絡を入れ、翌日の葬儀は仕事の人も多いので お通夜終了後 大工仲間の人々だけでお父さんや,鰐三郎さん達の行き着けのスナックで2次会をしたそうです。
御人好しで,頑固者,仲間思いだった鰐三郎さんの急死に驚きながらも 多くの人が集まりました。参列者同士が出会うの数年ぶりという人達もいて、
「ここは一つ、賑やかな 陽気な鰐三郎さんらしく 送ってあげようや無いですか。」
一時間ほどしてS君も顔を出し 皆さんにお礼を申し上げて 最後にお父さんのところえやってきた。
「社長、今日はほんまに有難うございました。ここに集まって下さった皆様のお陰で、やっと親父も成仏できますやろう、」
「いやいや、矢張り親子や、S君!よう見つけてあげたわ! 鰐三郎さん,息子に見つけてほしかってんで!。そう思うわ。 それはそうと この車のキー、大分前に内の家へ忘れて帰らはったんやけど 今となっては本人に返すことも出来ないので 君に返すわ」 と お父さんはS君に例のキーを渡しました。S君はしばらくそのキーを眺めていましたが。突然
「これ!古いキーですわ! 何時の頃に忘れて行きよったんですか?。2年前 親父が胃の手術して 退院した時 「退院祝い」や言うて、社長始め5,6人の人が親父にご馳走してくれはった帰り道 親父が一人相撲で交通事故起し 乗ってた古いベンツ、廃車にしましたでしょう。 後からそのベンツ見て 社長が ベンツやから怪我せんで済んだんや!ほかの車やったら 大怪我してるで!。言うたはりました、あのベンツのキーですわ!」
「そうやったんか! S君,もし要らんかったら、そのキー 俺にくれへんか? 鰐三郎さんの形見にしたいさかいにな!」
そんな訳で、お父さんは 今も Mercedes-benz と書かれたキーを 持っている。
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