小説家の角田光代さんには、教育実習に来た先生志望の女学生の雰囲気がある。そのまんま年を重ねたみたいな少女のようなイメージだが、書くものは凄いね。この人の小説はどうやっても男には書けない。そう思うくらい、女のもっているドロリとしたものをあっさりと、しかし微細に描く。品がいいね。露わでもね。優しそうな人なんだけど、怖いね。そこが魅力。向田邦子さんもそうだったね。女の視点でするどく世間を見ている。
「八日目の蝉」は、ずばり言えば、これは母性の映画であった。
女性にはまた違う思いもあるかもしれないが、男のぼくにとってはそう見えた。
女性はこの映画を観ると疼くんじゃないか?
運命の皮肉が生む人の世の逆転劇が面白い。
不倫の子を身ごもりながらも堕胎する女。
復讐の思いか本妻が生んだ幼子を誘拐し育てる。その間に情愛が芽生え、出ない乳がうずくほどにその子を愛する。
誘拐された子は真の親と思い母にすべてをまかせ、甘え、懐く。
誘拐された子の本当の母は、トラウマにある子から愛を得られず、逆に子を恨めしく思う。
誘拐という事実から不実を世間に露わにされた夫はふがいなく母子の間を右往左往するだけ。
成長した娘は、運命のいたずらか育ての母と同じような境遇になり、やがて僅かな過去の記憶を遡る旅に出る。
過去の偽母子の逃亡と流浪としばしの安楽。
現代の成長した娘の漂流と孤独と母への思慕。
それらを巧みに交錯させた脚本が抜群に巧い。
冒頭の独白2発からとても映画的である。
雨の坂道、小豆島の祭りなど詩情豊かな映像が素晴らしい。
そして運命のラスト。
ズバリ!「八日目の蝉」は、今年の日本映画の収穫である。成島出監督は「孤高のメス」あたりからメキメキ腕を上げている。
永作博美は主演女優賞をあげてもいいでしょう。彼女の最高作である。
井上真央も新境地を切り開いた。彼女もいい。
小池栄子、余貴美子、風吹ジュン、森口瑶子など女性脇役陣が圧倒的な存在感を示す。
やや小ぶりながら、名作「砂の器」をも彷彿とさせる人と人の絆を考えさせる秀作である。
「阪急電車・片道15分の奇跡」は、こんな身近な題材が映画になるのかと思った。
まあ、原作もあるということで。
中谷美紀のシークエンスがユーミンの歌にあるような結婚にまつわる彼氏へのプチ復讐で気を惹いた。
ホームに佇むウエディングドレスの女なんて、いいじゃない。
しかしあとはどうってことないエピソードばかりで、困った。
宮本信子と犬のエピソード。関学入試志望の女高生の恋愛とか、あまりにもプチすぎて映画にしちゃいけない。ほんとうに困った。
奇跡って、いったい何が起きた?
しかも、阪急電車ならではの特色も電車の色以外になく、これなら舞台が東京でもいいじゃん。
小田急でも、井の頭線でも、池上線でも同じじゃないのか?
そう思ったらだんだん醒めてきた。唯一、「ごめんやっしゃ」と、おいどで座席を確保するプロトタイプの関西のおばちゃん軍団がうるさくて、ずうずうしくて、空席取りのバッグ投げくらいが、大阪ノリか、という程度。
しかし、これは、南海電車や阪神電車じゃなくて阪急電車だから、大阪でなく兵庫だからねえ。この関西ノリはどうなの?アニマル柄のファッションと同じじゃねえ。
阪急沿線は泣きます。
ラストの宮本信子のおばあさんが関西のおばちゃん軍団への論理的ブチギレは堂々とセリフ処理の演出しないし、宮本のお婆さんの若かりし過去の自宅の呼び鈴はあの音か?
「ピンポン」だった?ブザーみたいな音じゃなかった?もしいま70なら少なくとも45年前として正しい?昭和40年ころ。あの音かい?
演出も逃げ腰でいいかげん。困った。ほんとうに困った。
常套句だが、テレビの2時間ものの域を超えていない。
少なくとも今の観客が映画に求めるものはそこになく、
それゆえに観た者が満たされるものがないのは、
もはや映画の領域にある作品とはいえない。
同じ阪急沿線が舞台なら、市川崑の名作「細雪」があるが、あのくらいの豊饒な映画的世界を擁してないと2時間は持たないと思う。まあ比べる由もないが。
5分枠エピソードを20積み上げるならやはりテレビで充分だ。
昔、転勤でちょいと近くの武庫之荘に住んでいただけに、もっと沿線ならではの上品な味わいのある人間オムニバスが観れるかと思ったんだが。残念!
名所とか、グルメとか、由来とかもっと沿線情報出さなきゃ。小林の小学校の絵で町の優しさや人情だすなんてあまりにイージー。
あの八日目の蝉ではないですか?
2011/6/13(月) 午前 9:38 [ しまさん ]
しまさん>文字ばけ。ならぬ文字ぼけ。です。御指摘ありがとうございました。「八月の蝉」なんて、「八日目」です。修正しましね。私としたことが…。
2011/6/13(月) 午後 10:44 [ ner*ma5*55 ]
「八日目の蝉」は、永作博美、井上真央が、自身の代表作になるでしょうね。エンゼルの余貴美子にはまたまた驚きました。こういう名脇役女優がいるだけで、映画も深まります(笑)。
2011/6/26(日) 午前 11:03
fpdさん。演出・脚本・役者・映像が巧みだと、映画は俄然面白くなりますね。
2011/6/26(日) 午後 7:31 [ ner*ma5*55 ]