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   せっかくのケーキも失敗作
   夢のサプライズも上手くいかない
   あなたの声が好きです
   言えないけど

   それはそれは笑った顔が素敵
   照れると髪触る癖も知ってるよ
   優しいとこも好きです
   言えないけど

   眠れない空にあなたへの言葉
   明日は勇気を出そうかな
   だからどうか どうか

   好きで好きで大好きなの
   何千もの星の下で巡り会う奇跡
   あなただけなの
   夢はハッピーエンド
   あなたとお揃いのストーリーがいいの
   歳をとるたび好きになるのよ


   帰り道同じ時間なら
   また一緒に帰ってくれますか?
   もっと楽しそうにすればよかったなぁ

   あと1センチが遠いよ苦しい…
   だめだ だめだ 期待したってどうせ
   ぎゅっとされたらそれで済むのに


   眠りの中でも目が覚めた時も
   隣にいて欲しいの
   だからどうか どうか

   好きで好きで大好きなの
   明るい星に隠れて魔法のキスして
   もう何もいらないから
   ハンバーグが好きなあなた
   73億分の1のあなたじゃなくちゃ
   あなたじゃなくちゃ だめなの

   だめなの

   好きで好きで大好きなの
   何千もの星の下で巡り会う奇跡
   あなただけなの
   夢はハッピーエンド
   あなたとお揃いのストーリーがいいの
   歳をとるたび好きになるのよ

   好きで好きで夢見ちゃうの
   何千もの星の下で巡り会う奇跡
   恋しているの あなたに




 ひたむきに誰かを求め続けるこの声を聴いていると、自然と落ち着いた気持ちになるのは何故だろう。
 まっすぐに人を愛せるということは、とても健康的なことだと思うし、人間として信頼に値する資質をそなえている証しだとも思う。

 もちろん私たちは、必ずしもきれいな心だけで生きているわけではない。様々な困難や生活のノイズの中で、知らず知らずのうちに現実的で卑近な利益や目的を求めることだけが あたり前の生き方であるかのような意識に囚われている。

 でも純粋な心に触れるとき、時として私たちは、自分の意識や価値観の根底にも 本当はそうした素直な愛情や夢があったということを思い出すことがある。たとえそれが自分には縁遠いものだと思えたとしても、そこに少しでも懐かしさや親しみを感じたとすれば、それはもともと私たちが心の底に、そんな素直な気持ちをこっそりと隠し持っている証拠に違いない。


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 4月5日に配信限定でリリースされた上白石萌音とandropの内澤崇仁による『ハッピーエンド』は、3月21日公開の映画『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』(川村泰祐監督作品)の主題歌。
 この曲は、2年前に上白石萌音が内澤崇仁から楽曲提供を受けた際に 候補として上がっていたもので、今回の映画の主題歌として是非歌いたいという上白石たっての希望により 念願のリリースが実現したということだ。

 映画ではヒロイン・西森葵を演じ、初めてのキスシーンにも挑戦した上白石萌音。
 最初 葵役のオファーが来た時には ずいぶんと驚いて、
「なんで私なんですか!」「本当に私でいいんですか?」と反対に質問攻めにしてしまったそうだ。


 上白石本人としては少女漫画の世界のヒロインへの抜擢が信じられなかったようだが、でも私流に解釈させてもらうなら、上白石萌音は(本人の自覚すると否とにかかわらず)既存の価値観に囚われない自由で多様な人間の生き様を、強い偏見や抵抗もなく ごく自然に表現することができるような、天性の素質を予感させる女優なのだ。少なくともそんな期待を抱かせるような 特別なオーラを持った役者だと思う。


 最終的には、川村監督から
「キラキラものという枠にとらわれず上白石さんの芝居をしてほしい」
 と説得されて、上白石も「どんな役でも演じるということは同じだし、表現だし、これまで学んできたことを出すといういつもと同じスタンスで良いんだと思い」オファーを受ける決心をしたという。
*注1

 プロデューサーも、上白石萌音を「素朴さ、芯の強さ、あと身長(笑)がまさに葵そのもの」*注2 と評して彼女を起用したというから、案外この役は 大抜擢というより、天が上白石萌音のために予め用意した特別席だったのかもしれない。


・『ハッピーエンド』作詞・作曲:内澤崇仁

 *注1 川村監督と上白石さん自身の言葉は、『HOT PEPPER』2019年3月号の記事から引用しました。
 *注2 (笑)も含めてプロデューサー談。


 1月期の連ドラもほとんどが幕を閉じ、個人的にはもう何もかも終わったという心境だ。

 今期いちばんの収穫であった『刑事ゼロ』と『ハケン占い師アタル』も同時に最終話を迎え、その内容の素晴らしさは最後まで衰えることがなかった。


 ちょっとドラマの本筋とは離れるけれど、
 『刑事ゼロ』第8話では 佐相
智佳刑事(瀧本美織)が髪をほどいて、いつになくしっとりと柔らかな雰囲気で登場する場面があった。

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 じつは佐相刑事、17年前に父親(小倉久寛)が起こしたある事件をきっかけに両親が離婚し、それ以来 父とはずっと疎遠になっていた。
 その父が今度は殺人の容疑で逮捕されたのだけど、結局 17年前の事件も、今回の殺人も、父は無実だったことがわかり、佐相は大好きだった父と再会。現役検察官の母(かとうかず子)も加わって、久しぶりに親子3人が揃い、佐相は温かい気持ちに包まれる。

 じつは佐相は知らなかったことだが、17年前の事件のとき、父は会社の上司を庇って 敢えて自分が罪をかぶっただけだということを母の佐相検事も知ったうえで、二人は離婚を決めていたのだ。

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「一つだけお願いがあるの。
 しばらく、このままでいさせて。お願い」

 そう言って佐相は両親と寄り添い、泣き笑いしながら しばし親子水入らずの時間を過ごした。




 また、『ハケン占い師アタル』については、私はSF考証みたいな話ばかりを書いてしまったけれど、実際これは本当によくできた話で、なおかつ心温まるいいドラマだったと思う。

 「シンシアイベンツ」制作Dチームの社員たちは皆それぞれに弱さを抱えた愛すべき小市民だったし、何よりアタル(杉咲花)のキャラが魅力的で、それでいて謎が多く、あれこれと詮索せずにはいられない気持ちにさせてくれる存在だった。

 
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 第8話(最終話の1つ前)では、アタルを連れ戻そうとする母親のキズナ(若村麻由美)と これからも「シンシアイベンツ」で仕事を続けたいと願うアタルが対立。
 アタルは「シンシアイベンツ」でたくさんの "初めて" を経験し、それがとても嬉しかったとキズナに話すのだが、キズナはあくまでアタルを連れ戻そうとする。
 しばらく話し合った末、アタルがキズナの差し出した手を握って
「わかりました」
 と言ったので、キズナはアタルの手を引いて帰ろうとするが、なぜかアタルはその場を動こうとしない。

 わけがわからない様子のキズナに向かって、アタルは
「あなたを見ます」
 と告げる。
 つまり、アタルが母親のキズナを占うというのだ。
 で、そのときの表情が とてもよかった。

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 会議室でキズナと二人きりになり、アタルが言うには
「母親だから言わなかったけどさぁ、実は いっちばんヒドイものが見えんだよね昔から!」
 ということらしい。

 で、いつものようにキズナの原風景を映し出す "穴" が開くのだが、キズナはそれを見てずいぶんと驚く。キズナは、アタルがそんな離れ技までやってのけるということを、母親でありながら今まで知らなかったようだ。


 それで結局、アタルは「シンシアイベンツ」で仕事を続けることになり、その代わり二度と "占い" はしないと母と約束する。

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 だが最終話で、アタルは自分のそんな決意を揺るがすような出来事に見舞われることになる。


 アタルは大手ゼネコンのCSRイベントの企画として、豪雨災害で学校をなくした子どもたちのための卒業式をあげることを発案し、Dチームはコンペで受注を勝ち取っていたが、その卒業式の当日、予想外のトラブル続きで 大事な卒業式が ぶち壊しになりかけてしまう。
 でもそんな中、アタルが占いを使って卒業生たちに はたらきかけたお陰で、彼らがその日のために一生懸命練習してきたシュプレヒコールと合唱を 父兄や教師たちの前で披露することができて、結果的に最悪の事態はなんとか免れる形となった。

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 でも会社に戻ってから アタルは、母との約束を破って占いを使ってしまったことをひどく気に病んでいた。

 そんなアタルに向かってチーフの大崎(板谷由夏)は言った。
「いいんじゃないかなぁ、それで!
 やっぱりアタルちゃんは、占いでたくさんの人を救ってあげるべきよ。私たちにしてくれたみたいに」

 アタルが神田(志田未来)に「その人にしかできないことがある」と言ったように、占いを使って人を救うことは アタルにしかできないことだ。Dチームのみんなは、本当はこれからもアタルと一緒に働きたいと思っていたが、その特別な能力を使わないのは やはり間違っているとも考えていた。
 今回のイベントを通して、みんなそのことをあらためて実感したようだ。
 占いはアタルの仕事だと考え、これからもその道のエキスパートとして占いを続けていけばいいと みんなは言った。


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 ところが、そんなDチームのみんなに向かって、アタルは再び
「わかりました。皆さんを見ます」
 と告げたのだった。

 というのも、いったんは順調に人生を歩み始めていたかに見えたDチームの面々も、ここに来て また新たな悩みを抱えていることに アタルは気づいていたのだ。



 こうしてアタルはもう一度Dチームのみんなを占うことになったのだが、今度は前みたいに ふんぞり返った偉そうな態度をとることはない。
 アタルがあんな態度をとったのは、
「(占いは)もうしないって誓ったのに、破った自分に腹が立った」ということもあったし、「皆さんに嫌われたほうが二度と占ってほしいって言われないかなぁって思った」からということだった。

 それで、この時は会議室ではなくDチームのオフィスで、みんながいる前でアタルが一人ずつ占っていった。

 で、注目したいのは、その最後の占いの中で、ただ相手の心を読むだけでは言えないはずのことを、この時のアタルは語っていたということだ。


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 まずアタルは もうすぐ子どもが生まれる神田に、自分の本当の気持ちを目黒(間宮祥太朗)にきちんと話しておくべきだと諭し、それを受けて神田は、目黒と結婚すれば幸せになれると思っているが やはりお腹の子の父親である元カレと縒りを戻そうと思っていることを目黒に話した。

 そのあとだ。
 アタルは目黒に
「目黒さんは、もうすぐ運命の人に出会います。
 将来その人と結婚して、たくさん子どももできて、とってもいいお父さんになります。だからヤケになったりしないで、今のままの目黒さんでいてください」
 と話している。

 で、アタルが次の品川(志尊淳)の占いを始めようとしたとき、目黒は大きな声で
「その前に一ついいかな!? どうやったら、運命の人ってわかるのかな?」
 と尋ねる。
 するとアタルは、急に以前のような横柄な態度になって
「そんなの会えばわかるよー」
 と めんどくさそうに答えるが、すぐに
「あ、すいません、あの…。つい、いつものクセが…」
 と 申し訳なさそうに謝った。そして
「その人は、たぶん何かピンクの物を持っています」
 と言ったのだ。


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 そして大崎チーフに対しては
「大崎さんは会社を辞めちゃダメです」
 と言い、
「大崎さんは将来ここの社長になる人です。
 だって大崎さんは、誰よりもこの仕事が、この会社が、そしてここで働いてるみんなのことが
好きですよね」
 と言った。だから夫の母親の介護は大変だけど、家族みんなで話し合えば 仕事を続けられる方法も見つかるはずだとアタルは告げたのだ。


 ほかの人への言葉は割愛させてもらうが、問題は、目黒と大崎に対してアタルが告げた内容だ。
 つまりその二人に話したアタルの言葉には、現在の彼らの心を読むだけではわからない将来の事実が具体的に語られているということだ。


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 アタルは全員を占ったあとで言った。
「私は今まで人のことが何でも見えると思ってたけど、それは間違ってました。皆さんがこんなに変わるのは見えませんでした。
 だから、自分の占いが少しでも助けになったんなら、私はこれからも占いを続けます。自分の大好きな仕事として!」

 つまり、やはりアタルは、他人が心で考えていることや記憶している内容だけでなく、その人のことが何でも「見える」ということらしい。
 もっとも、少し穿った見方をすれば、目黒や大崎にアタルが言ったことは、アタルによる "善意のハッタリ" だったかもしれない。

 それは
 "目黒が今までどおり純粋な心を持ち続けていれば、必ず近いうちに運命の人は現れるはずだ"
 "大崎はこの会社の社長になれる資質を持った人であり、社長になるべき人物だ"

 というアタル自身の分析と確信が、アタルに具体的な未来像としてそんな事実を語らせたのかもしれない、ということだ。
 そしてそのアタルの言葉じたいが、占われた彼らの信念となって彼ら自身の将来を変えていくことになるかもしれない。

 焦って "運命の人" の見分け方を訊いてきた目黒に対して
「その人は、たぶん何かピンクの物を持っています」
 などと、ややテキトーな予言を付け加えたのも、「占い師」ならではの悪意のない作法だったように思えてならない。


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 もちろんこんなことを書くと、つまらない理屈でドラマの内容を貶めているように思われそうだが、人間の未来は現在のその人の環境や意志や意欲が導くものであり、それは確定した宿命ではなく絶えず揺れ動いているものだとすれば、人の未来とは結局、現在のその人の心のあり方しだいで どのようにでも変わるものと言えはしないだろうか。

 だから、他人のことなら「何でも見える」アタルの能力とはたぶん、人間の心を認識して その人がたどる当然の未来を把握する力であると同時に、その人が進むべき望ましい未来を指し示す力であるのかもしれない。


 アタルは母のキズナに言った。
「もうわかってる未来なんか欲しくない。
 私が欲しいのは、真っ白なページの日記帳なの!」

 これはアタルが母親の束縛から逃れたいという思いで発した言葉だが、人間の未来というものの理想と本質を捉えた言葉だと思う。
 未来は自分が作り出すもの。おそらくアタルが占いで与えるものは、救済であり生きる力であって、硬直した予言の類いではない。

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 だから、大崎は社長にならなくてもいいし、目黒の生き方も自由だ。
 予言と見える部分も、アタルのアドバイスにすぎない。
 要はどれだけ意義深い人生を送れるか。その手助けをするのが "占い" であるに違いない。

 そして、アタルはそのことをよく知っているのだろう。
 そこに謎めいた占いの奥義があるのかないのか、そんなことは全くわからないけれど、アタルの占いが超一流の本物だということは間違いない。


 ドラマが終わって、アタルロスな気持ちが心から引いてしまっても、この小さな占い師と彼女がくれた言葉のことを 私はずっと忘れないだろう。


 現在『NHKニュース おはよう日本』に 平日の気象キャスターの一人として出演している山神明理さん。
 全国放送での気象解説も すっかり板についてきた感じですね。


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 『おはよう日本』での気象キャスターは2018年の春からで、それ以前は NHK大阪放送局で『おはよう関西』や『ぐるっと関西おひるまえ』といった番組に気象予報士として出演していました。

 気象に関する仕事に就く前には小学校の先生をしていたということも、結構よく知られている話ですよね。


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 そして昨年の秋くらいからでしょうか、
 外から中継するでかける天気 カエる天気のコーナーには、
 カエルのマスコット デカケルン(♂)とカエルン(♀)が 登場するようになりました。コーナーの最後に山神さんと一緒にかわいく挨拶する姿は、もう皆さん すっかりおなじみですね。


 『おはよう日本』の「出演者ブログ」に ご本人が書かれているところによりますと、冬の屋外からの中継の際には、①お尻の上のほう②肩甲骨の間 の2箇所にカイロを貼って寒さを凌いでいるそうです。

 ブログには「これが、働く女の背中です。」と書かれて2枚のカイロを貼った写真も掲載されています。
 素朴で控えめなイメージの山神さんですが、なかなか大変なご苦労のなか、気象予報士としてのお仕事をされているのですね。


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カエルンと一緒に「いってらっしゃーい」をする山神さん


 さあ今日も 山神さんたちの笑顔に見送られて、元気に一日を過ごしましょう。
 それでは皆さん、ごきげんよう。


 ※ 画像は いずれも3月13日放送時のものです。


 ドラマ『ハケン占い師アタル』第7話(2月28日放送分)を見た。


 突然会社に母親(若村麻由美)が訪ねてきて動揺するアタル(杉咲花)。
 たまたまアタルの母に悩みを聞いてもらった大崎課長(板谷由夏)は、アタルが母の元から逃げていることを知らずに、自分が勤めている会社にアタルがいることを教えてしまったのだ。

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 アタルから事情を聞いた大崎は、1階のロビーで母親に応対し、アタルはすでに会社を辞めたと嘘をついた。
 アタルはその様子を物陰から不安そうに見ていた。

 母親に居場所を知られそうになったアタルは、その日以来、何か考え込んでいる様子で、ずっと元気がなかった。

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 それはさておき、第7話でクローズアップされたのは代々木部長(及川光博)だ。
 都心の一等地のタワーマンションに 妻と二人の娘と共に暮らす代々木は、会社に忠誠を誓い 出世を目指すのが会社員の当然の姿だと考え、上司の重役たちへのアテンドに明け暮れる日々を過ごしていた。

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 分厚い革の手帳には、社長や専務らの家族の誕生日や結婚記念日までが記され、そのためのプレゼントを自分の妻に言いつけて用意させていた。

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 そんな代々木の態度を娘たちは不満に思っていたし、会社でも代々木は何かと陰口を叩かれる存在だった。
 しかし自分のやり方が正しいと信じる代々木は、批判する奴らが間違っているのであり、「苦しんでいるのは俺だけだ」と思っていた。



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 さて、いつものように制作Dチームのオフィスにやって来た代々木部長、その日は やけに上機嫌だった。
 近々人事異動の内示が出るらしく、代々木は晴れて本社に戻れるものと思い込んでいたのだ。

 そして、第6話で大崎課長が自分の指示に従わなかった腹いせに、またしてもDチームに厄介なイベントの仕事を押し付けてきた。
 それはニューヨーク在住のTAKAO(佐藤貢三)という有名なピアニストのコンサートの仕事だった。もともと制作Aチームが担当して準備を進めていたのだが、そのピアニストは気難しい性格で知られており、コンサートまであと1週間という今になって「やっぱり出たくない」と言い出したらしい。
 代々木はその仕事を「Dチームなら きっとなんとかする」と言って持ち込んできたのだ。Dチームは、たった1週間でコンサートをゼロから企画して成立させなければならなくなった。できなければ、会社は信用を失い、Dチームが責任を負うことになる。



 しかし代々木部長の上機嫌もそこまでだった。
 異動の内示は出たものの、代々木は本社には戻れないことになった。
 どうやら第6話で 点数稼ぎのため各制作チームから1人ずつリストラするよう独断で画策したことが社内中に知れ渡り、それが上司のひんしゅくを買ったようだ。
 狼狽した代々木は社長に直訴しようとするが、取り合ってもらえない。


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 打ちひしがれて社員食堂の椅子に一人へたりこんだ代々木を、たまたまアタルが見ていた。

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 周囲の社員たちの心の声を、アタルがこっそりと口に出して喋っている。
「 "あの人、これで本社に戻る可能性ゼロになったみたい" 」
「 "もともと大した能力ないし、社長たちに便利に使われてただけなのに"
「 "悲惨だよなぁー、プレゼントやアテンドしてれば出世できると勘違いしてたんだから"

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 その翌日から代々木は、制作Dチームの "専任部長" として Dチームの部屋のデスクに座ることになる。といっても、"心ここにあらず" といった感じで、ただ ぼーっと座っているだけだ。
 Dチームのメンバーはやりにくくてしょうがないが、とにかくピアノコンサートは間近に迫っていて、そんなことにかまっていられない。



 ある時、アタルがコピーをとるために席を立つと、神田(志田未来)がすかさず寄ってきて、
「ねぇアタルちゃん、このスケジュールどう思う?」
 と自分が作ったスケジュール表を見せて尋ねた。

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 アタルが一瞬神田の顔を見てから
「ココが時間的にキツイかも…」
 とスケジュール表を指差して答えると、
 神田は「だよねー」
 と納得して席に戻った。

 続いてやってきた品川(志尊淳)が
「チラシ作ってみたんだけど、どっちがいいと思う?」
 と尋ねると、品川の顔を一瞬見たアタルは、2つあるうちの片方を指差して
「こっち」と答えた。
 品川は
「やっぱりかぁ」
 と言って席に戻る。

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 次に田端(野波麻帆)が
「ねぇ。これ何か予算削れるとこないかな?」
 と訊きに来たときにも、アタルは田端の顔を数秒見てから
「ココとココですかね?」
 と書類を指差して答える。
 田端はやはり納得したように「ありがと」と言って席に戻った。

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 そのあとアタルは、どこか不安げな表情でコピーをとっていた。
 その様子を訝しげに見ている代々木部長。


 このシーンを見ていると、みんながアタルのことをとても頼りにしているのがわかる。
 だが品川のチラシはともかく、神田のスケジュール表とか、ましてや田端の予算についてまで、新人派遣社員にすぎないアタルに意見を求めるのは、少し行きすぎのように思える。

 でもアタルはそれに答えていく。
 おそらくアタルは書類を持ってきた者の心の中を覗いてみて、もともと彼らが問題ありと思っている部分を指摘したり、本人が良いと思っているほうを選択したにすぎないのだと思う。
 つまり神田や品川や田端は、自分で問題点に気づいていて、あるいは自分で選択をしておきながら、その判断に確かな自信が持てなくて、アタルに最終的な判断を仰いだのだ。アタルは心を覗き、彼ら自身の判断を尊重してそのまま答えたにすぎない。

 悩みに答える占いの場ならともかく、仕事上のことまでいちいち自分が頼られることに、アタルは一抹の不安を覚えたかもしれない。

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 コンサートの準備は大急ぎで進められたが、ピアニストのTAKAOは噂どおりの我が儘な人物で、ピアノが気に入らないだの 調律師を替えろだの 弾きたい曲がないだのと 無理難題を言ってくる。そのたびにDチームのメンバーは大わらわだ。

 そんな部下たちの様子を見て、代々木は
(おまえらのイベントなんか、失敗しちまえばいいんだ)
 と心の中で笑っていたが、ふと気づくと、アタルが自分のことを睨んでいる。

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(なんだぁ? 人の心を読めるみたいな顔して)
 と少し戸惑う代々木。

 その翌日も、代々木は
(もっと難癖つけてやりゃいいのに)
 とか
(今度こそ中止だな)
 などとコンサートが失敗に終わることを願って心の中で笑っていたが、そのたびにアタルは代々木をのことを睨み、最後には舌打ちまでした。代々木はそれを見て動揺する。

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 コンサートの当日、最後の難題も ようやくクリアして徹夜明けのDチームメンバーが会場へと向かったあと、一人残った代々木は、意欲的な部下たちの様子に疎外感を覚え、
(もう俺には何もないのに……)
 と心で思ったあと、おもむろに受話器をとってコンサート会場に電話をかけ、
「今日そっちでやるコンサートを中止にしろ。さもないと…爆弾を…」
 と言いかけたところで、誰かが電話を切った。

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 アタルだった。

「出世の道 断たれて辛いのはわかるけど、人にあたるのはやめましょうよ」
 そう言ったアタルに代々木は言い返そうとするが、続けてアタルは言った。
「 "オマエみたいな小娘に何がわかる。俺がこんな目に遭ってるのも全部あいつらのせいだろうが…" 」
 代々木が驚いて
「やっぱり…俺の考えてることがわかるのか?」
 と言うと、アタルは
「あーあぁ、アンタにまで知られたくなかったんだけどねぇ…」
 とゲンナリした様子で言った。

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 そして
「あいつらを変えたのもオマエだったのか?」
 と訊いた代々木に、アタルは
「アンタまで占いたくなかったんだけどねえー!」
 と今度は声を大きくして皮肉っぽく言った。
 事態が呑み込めない様子の代々木に向かって さらにアタルは
「アンタみたいのが同じ部屋にいたら、ほかのみんなに悪い影響与えるだけだからさぁ」
 と言い、
「おい、もっとわかるように説明しろ」
 と言った代々木に、アタルは
「はいはい わかりました…。あなたを見ます」
 と 気の進まない顔で なげやりに言った。

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 いつものように空いている会議室で、アタルと代々木が向き合って座っている。
「言っとくが、俺は占いとか、そういうものは一切信じない」
 と代々木が言うと、
「そういう奴に限って 愚痴とか不満とか山ほどあるんだよなぁ。
 "俺はもっと幸せになっていいはずだ" とか "なんで俺がこんな不条理な目に遭わなければならないんだ" とか!

 とアタルは皮肉たっぷりに言った。

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 そのあと例によって、占い料の話やアタルの偉そうな態度についてのやりとりを済ませたあと、代々木は言った。
「俺はもう…出世できないのか?」

 するとアタルが尋ねる。
「そもそも、なんのために出世したいわけ?アンタ」
 代々木は答える。
「それは……権力を握れば、自分のやりたいように会社を動かせるし」
「じゃあ一体何がやりたいわけ会社で?」
「それは…まず売り上げを伸ばすことを考えて…」
「あとは会社の車で送り迎えしてもらって、重役室でふんぞりかえってれば満足なわけ?」

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「失敬なこと言うな!」
 代々木は慌てたように少し憤慨したが、アタルは続ける。

「だいたいさぁ。今の時代 何が起きるかわからないのに、会社が潰れたらどうすんの?」
「まさかぁ。ウチの会社に限って」
「だからぁー。思いもよらない事件に巻き込まれた被害者みたいなこと言ってないで、現実見ようよ! もっと大切なこと思い出そうよ」
「何だよ それは?」
「そもそも、なんでアンタこの会社に入ったわけ?」
 そう訊かれて代々木は言葉に詰まった。


 するとアタルが代々木のほうへ にじり寄って、じっとその目を見つめる。
 しだいにあたりが暗くなったかと思うと、眩しい光が差して、気づけば暗闇の中にぽっかりと穴が開き、何かの風景が映し出されている。

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 よく見ると、それはまだ若い頃の代々木が 仕上げたばかりの企画書を上司のもとへ持って行くところだ。その目はキラキラとして、希望に満ちているように見える。
 しかし、上司のいる部屋まで来たとき、上司は同僚たちと代々木の悪口を話していた。
「代々木の奴うっとうしいんだ。毎週毎週使えない企画書持ってきてさぁ」
「あいつの口癖知ってます? "俺は必ず世界一感動するイベントを作ってみせる" ですよ」
 それを聞いた上司は笑いながら
「できるわけないじゃん、あいつ才能ないんだから!」
 と言い、代々木の企画書をゴミ箱に捨てた。
 そして、そのまま帰ろうとした上司は 代々木がいることに気づいて言った。
「オマエあれだよ。営業行ったら? そのほうが向いてるから」
 代々木は、持っていた新しい企画書を手の中で握りつぶした。


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 その光景を現在の代々木は苦しそうな表情で見つめていた。

「なるほどねぇ。憧れの上司にあんなこと言われたからクリエイティブな奴リベンジしてるわけだ。だからそんな手帳持って、毎日せっせと上司をアテンドするようになったんだ」

 アタルがそう言うと、代々木はひどく憤慨して言い返した。

「アテンドの何が悪い! 贈り物もらったり気を遣われて、イヤな気分になる人間なんて一人もいないし、そのお陰でどれだけ仕事がスムーズに運び、俺が会社にどれだけ貢献してるか わからないのか!
 なぜもっとみんな俺を認めない!? 小さい頃からそうだ。優秀な兄と弟に挟まれて、親はぜんぜん褒めてくれなかった。今まで好きになった相手にも、一度も見向きもされなかった。
 なぜ俺だけ欲しいものが手に入らないんだ!?」

「だからって関係ない部下にパワハラしていいわけ!?」
 アタルも大声で言い返した。

「社内の奴らは陰口叩いてバカにするようになっても、Dチームだけは今までどおり変わらなかったのに。
 だいたいさぁ、アテンドのどこが悪いって開き直ってるけど、アンタのはアテンドじゃなくてアピールじゃん。本物のアテンドは、見返りなんか求めず、相手のことを心から思ってやるものなんじゃないの?

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 さっきから認めろ認めろとも言ってるけど、そうしてもらいたいなら、アンタがまず相手を認めろっての!
 部下や家族に心からアテンドしたら、みんなアンタのこと認めてくれるようになるって!」

 そんなふうに強く言い放ってから、さらにアタルは言葉を続けた。

「要するにアンタは怠け者なんだよ。逃げてるだけなんだよ。
 才能がないって言われて傷ついたかもしれないけど、あのとき歯くいしばって諦めずにいたら、今頃クリエイティブな仕事してたかもしれないじゃん!」

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 そしてアタルは立ち上がって言った。
「この世に才能のない人間なんて一人もいないんだよ。
 どんなに辛くても、諦めずに努力し続けることを "才能" っていうんだから」

 そう言い終えるとアタルは部屋を出て行き、残された代々木はただ茫然と座っていた。

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 前回の記事で私は、「アタルに見てもらったDチームの仲間たちが 本当の悩みの根源を目の当たりにし、今まで見えなかった希望を自分の中に見出していく過程が、とても感慨深く 尊いと感じられるから」このドラマを見ていて涙がこぼれると書いたのだが ── しかし、やはりなんといっても 切々と相手を諭すアタルの態度とその言葉が、いちばん胸に迫るものであり、泣ける要素なのではないかと、今回第7話のこのシーンを見て あらためて思った。

 アタルはどうして、こんなに素晴らしいことが言えるのだろう。
 今まで普通の人たちとは違った生活を送ってきたアタルの口から、これほど的を射たアドバイスが飛び出すことも驚きだが、アタルに諭された者たちが皆、自分の心を素直に深く内省し、実際に人生を歩みなおそうとし始めることも、このドラマの不思議でありステキなところだ。


 きっと "占い" と称されている この読心と説法の組み合わせは、単なる事実認識と説諭に留まるものではなく、一連の所作全体が何がしかの超常的な力を帯びたワンセットの現象なのかもしれない。
 だからこそ、アタルの行ないは あくまで「占い」なのであり、アタルは占い師であって、誰も彼女のことを「超能力者」とも「人生の達人」とも言わない。おそらく一度 "占ってもらった" 人間には、そのことがよくわかるのだろう(ずいぶんと怪しいことを書いてるね)。


 アタルに占ってもらったあと、代々木は現場にいる大崎課長からの電話を受け、コンサート会場まで行くことになる。ピアニストのTAKAOが、代々木が来なければ演奏しないと言い出したらしい。

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 代々木は、てっきりDチームのメンバーが何か粗相をしでかしたものと思って TAKAOに演奏拒否の理由を尋ねるのだが、TAKAOはその理由を話そうとしない。
 アタルに占ってもらった代々木は、この気難しいピアニストに対してどんな態度をとり、何を話すだろうか。


 結論から言うと、コンサートは成功に終わった。
 アタルの占いのお陰で、代々木は言うべきことが言えたし、希望に満ちていた あの若き日の代々木の頑張りが、思いもよらない形で この日のコンサートで今の代々木を手助けしてくれたのだ。
 それに、実は ただぼーっと座っているだけに見えた代々木が、我が儘なピアニストに振り回されるDチームの仕事ぶりを ちゃんと気にかけていたらしいということも、TAKAOとの会話の中に見て取ることができた。


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 このコンサートの成功をきっかけに、代々木はDチームのみんなを部下として認めることができたし、 Dチームのみんなも代々木を自分たちの仲間として迎え入れることとなった。
 傑作なのは、上野(小澤征悦)が自分のケータイのアドレス帳にあった「クソ部長」という名前を「代々木部長」に変更したことだろう。


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 その日の帰り、打ち上げの席で乾杯の音頭をとった代々木は、
「きょうのコンサート…私にとって世界一感動するコンサートだった。みんな、今まで酷いことばかりして、本当にすまなかった」
 と頭を下げ、
「じゃあ、乾杯」
 と言って顔を上げてみれば、徹夜続きで仕事をしてきた部下たちは、アタルを除いて全員眠りこけていた。
 代々木が
「アタルちゃん。こいつらみんな、才能があると思わないか」
 と訊くと、アタルは笑顔で
「はい」
 と言って頷いた。

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 でも代々木が
「これからも助けてやってくれないか、みんなのことを」
 と言ったとき、アタルは少し考えてから
「それについては……」
 と言って俯き、
「すみません。ちょっと風邪気味なのでお先に失礼します」
 と言って、そそくさと一人で帰ってしまった。


 アパートの部屋に帰り、
「ただいま」
 と籠の中の小鳥に言うアタル。

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「みーちゃん。元気にしてた?」
 とアタルは鳥に話しかけるが、なぜか鳥は籠の中で興奮したように落ち着かない。
「どうしたの、みーちゃん?」
 と声をかけるアタルの耳に、

「♪歌を忘れたカナリヤは うしろの山にすてましょか」

 と聞き覚えのある声で誰か歌うのが聞こえる。
 アタルが見上げると、母親がいて
「おかえり、アタル」
 と言う。

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 アタルが黙っていると
「やっと会えた」
 と母は言った。
 アタルはただ母の顔を見つめるだけだった。

 以上が『ハケン占い師アタル』第7話の大まかなストーリーだ。



 さて、前回の記事から『ハケン占い師アタル』が「お仕事ドラマ」であることを何気にスルーして書いてきたが、人生の中で「仕事」ほど厄介で その意味が曖昧なものはないと思う。
 仕事や職場に関することで 多くの悩みを抱えている人も少なくないだろう。

 そして 現実の職場に占い師アタルはいない。
 だからこそアタルの言葉は私たちの心に沁みる。


 次回第8話では、母親に見つかったアタルが窮地に陥るらしい。
 今度はアタル自身が、自分の生き方を問われることになりそうだ。
 心して次回を待ちたいと思う。


 ドラマ『ハケン占い師アタル』は面白い。
 だけど、このドラマを見ていると、いつも涙がこぼれてくるのは何故だろう。


 イベント企画会社「シンシアイベンツ」の制作Dチームに派遣社員としてやって来た "アタル" こと 的場中(杉咲花)は、(通勤の際に変な黒眼鏡をかけていることを除けば) 仕事ぶりも真面目で、上司や先輩から何か頼まれれば
「よろこんで!」
 と笑顔で応じるような、一見何の変哲もない二十歳過ぎの女性だった。

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新入り派遣社員の的場中(杉咲花)

 でも出勤初日に自己紹介を求められると、
「私、生まれてから人前で自己紹介したことないんで、なんか嬉しくて」
 と話すなど、今まで普通ではない生活を送ってきたようだった。
 その過去について尋ねられても、アタルはいつも
「それについては言いたくありません」
 と素っ気なく答えるだけだ。


 しかし ある時、同じDチームの入社3年目・神田和実(志田未来)が、同棲している司法浪人中のカレの子を妊娠してしまい、仕事でも大失敗をして一人悩んでいたところ、偶然ネットで
「どんな悩みもズバリ解決する 天才占い少女」
 という動画を見つける。

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 そこに映っていたのは、幼い頃のアタルが "天才占い少女" としてテレビに出演している姿だった。


 その動画を見た神田は アタルの不思議な能力に薄々気づいていたので、アタルに自分のことを占ってほしいと頼む。
 アタルは
「すみません。もうそういうの しないんで」
 と言って一度は断ったものの、神田の苦しむ様子を見かねて、彼女を占ってやることになる。


 その占いの席で、神田が いつも自分の決断に自信が持てないのはどうしてだろうと質問すると、
 アタルは、神田には自分自身に対する "愛" が欠けていると指摘し、
「まわりのことばっか気にするより少しは自分を愛そうよ。
 アンタさぁ、人に胸を張れることは一つもないと思ってるかもしれないけど、それ違うから。そんな人間この世界に一人もいないから!
 誰にでも必ずあるんだよ。自分にしかできないことが」

 と厳しく言い放った。

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入社3年目の神田和実(志田未来)

 それを聞いた神田は、自分の妊娠のことを皆に打ち明け、このまま今の職場で働き続けて 子どもも産むことを決断する。そして程なくして神田は、アタルの言葉が間違っていなかったことを思い知るのだった。


 「シンシアイベンツ」の制作Dチームは、優秀な制作AからCチームまでとは違って、あまり大きなイベントの仕事はまわって来ない、小さな制作チームだった。
 そこには、親会社から出向してきている代々木部長(及川光博)の下に、大崎課長(板谷由夏)以下6名の正社員たちがいて、皆それぞれに悩みを抱えていた。

 占いのあと、神田は
「占いのこと、人に言ったらブッ殺すから」
 とアタルに口止めされていたが、後日、同期の目黒(間宮祥太朗)にも アタルに占ってもらうことを勧めてしまう。
 そして、そのあとには入社1年目の品川(志尊淳)もアタルに見てもらうことになり、そうやってアタルに見てもらった社員たちは、他の悩める仲間たちにもアタルの占いを勧めずにはいられなかったので、結局第5話終了の時点で 部長・課長以外の5人の社員がアタルに心を覗かれ、その叱責とアドバイスによって悩みを解決してもらうことになる。
 「ブッ殺す」と言っていたアタルも、結局みんなを占うことを断れなかったのだ。


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 アタルの占い料は1回につき10万円。
 ということになっていたけど、なんだかんだ言って今まで誰も払ってない。
 占うときには、決まって空いている会議室などでアタルと相談者が向かい合って座り、この時だけは 何故かアタルはいつになく非常に偉そうな態度をとるが、それが彼女のスタイルということらしい。
 そして、いつも質問を3つまで受け付け、それに答える形で相談者に辛辣なアドバイスを与え、見事に悩みを解決していく。


 涙が出てしまうのは、制作Dチームの社員たちの悩みが 自分の悩みと重なって見えるからではない。まぁ重なっている部分もあるかもしれないが、それはあまり重要なことではない。

 大事なのは、悩みを抱えている みんながみんな、誰にも悩みを相談できず、それまで悶々とした日々を過ごしてきたということだ。
 それは何故か。

 それはきっと、私たちが自分の悩みを的確に他人に伝えることができないからだ。
 悩みの前提となっている自分の過去や現在の状況、自分の意志や感情といったもの。あるいは自分でも気づいていない自分の気持ちや行動だってあるに違いない。

 私たちが誰かにそれを話そうとするとき、その内容は多かれ少なかれ抽象化され一般化され、ステレオタイプな悩みにすり替えられ、もしくは相談相手の偏見によって事実が歪められてしまう。


 しかし、アタルが誰かを "見る" 時には、誰もが自分自身の過去を見せつけられ、自分の本当の気持ちと対峙することを余儀なくされる。
 それは、アタルに3つの質問をするなかで、必ず一度は周囲が暗くなり、相談者自身の過去を映し出す "穴" が ぽっかりと開かれるときだ。

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 アタルはその "過去" の中へ
「よっこらせ!」などと言いながら入っていき、しばらく相談者の役を演じたかと思うと、いつのまにか そこにいるのは過去の相談者自身に変わっている。

 相談者は否が応でも、それがまがいもなく自分自身の過去──何のすり替えも歪曲もない自分の悩みの根源であることを自覚することになる。
 もちろんインチキ宗教みたいに紛い物の神や仏が絡んでいるわけではない。アタルが見せてくれるものは、相談者自身がよく知っている紛れもない事実ばかりだ。

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アタルと過去を見つめる入社12年目の田端友代(野波麻帆)


 この "過去を見る" 毎回のくだりが 現実のものなのか、単なる映像上の特殊効果として捉えるのかは各人の自由だが、大切なのはアタルが他人の心を読み取る能力を確かにそなえているということだ。

 アタルは、神田の妊娠を見抜いていたし、目黒の回(第2話)では、
「初めてアンタ見た時びっくりしたもん、コイツどんだけ純粋なんだって!
 普通の人間が持ってる邪気とか悪意が全然ないし、呆れるくらい "仲間" とか "奇跡" とか信じてるし」
 と言って呆れていたが、これはすなわち 相手を普通に見ただけでその内面が把握できることをアタル自身が告白しているような発言だ。

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入社3年目の目黒円(間宮祥太朗)


 自分の事情を正しく知らない相手に、悩みを打ち明けるのは難しいことだ。
 たとえば自分の症状を医者が理解していないと感じれば、誰だって安心して診断を仰ぐことなどできないだろう。だから時として患者は、納得のいく診断ができる医者を求めて渡り歩くことになる。

 では人生の悩みを解決するには誰を求めればいいだろう。
 「信頼できる人」をあげる人は多いかもしれないが、信頼に値する人間が自分の悩みと同じ土俵に立った人生経験をしているとは限らない。所詮は他人なのだ。

 でも、悩みを解決することは大切だし、正確な事情を知らない誰かに頼ってでも解決の糸口を見つけていかなければならない時もある。というより、現実の私たちは実際そうやって問題を解決して(または放置したまま)生きていかなければならない。


 だから、このドラマを見るとき、私は涙が出るのだ。
 それは、アタルに見てもらったDチームの仲間たちが 本当の悩みの根源を目の当たりにし、今まで見えなかった希望を自分の中に見出していく過程が、とても感慨深く 尊いと感じられるからだ。
 私も、──いっそ希望など得られなくてもいいから──見てもらいたい。そして、見せてもらいたい、私自身のこの感情の根源を。


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 それにしても、悩みの根源を見せつけた後の、アタルの辛辣な叱責とアドバイスの なんと素晴らしいことか。

「誰にでも必ずあるんだよ。自分にしかできないことが」
「この世に一人もいないっつーの。誰にも必要とされない人間なんて」
「この世に一人もいないっつーの。何が正解かわかって生きてるヤツなんて」
「この世に一人もいないんだからね。自分だけで仕事ができる人間なんて」
「幸せは待ってるものじゃなくて、自分で作るものなんだよ」

 相手の心を読んだ上で、さらにここまで言ってしまえるのが、アタルの凄いところだ。
 でもただそれだけだったら、一度アタルに見てもらった人間が、他の悩める誰かにもアタルの占いをあれほど熱心に勧めるだろうか。


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入社1年目の品川一真(志尊淳)

 それをしたくなるのは きっと、歪みなく自分の心を認識するということが、人生の歩き方を決めるうえで、この上もなく有効な手段であるということを、アタルに見てもらった誰もが理解するからなのだと思う。
 そんな超常的な能力に強い感銘を受けていて大丈夫なのかと私自身いぶかる気持ちがないわけでもないが、アタルのアドバイスはいつも至極合理的でヒューマニスティックなものばかりなので、そのあたりの心配は 今のところ無用なものと考えていてよさそうだ。


 また、これまでのストーリーを見る限り、占い師アタルの特殊能力は 他人の心を読むことに特化したものであることが窺える。
 第4話で上野(小澤征悦)が失くしたケータイの在り処を尋ねたときに、アタルは
「本気で探せばどっかにあるよ。
 ケータイは "希望" みたいなもん。よく失くすけど、案外そばにある」

 とだけ答えて、具体的な場所を示すことはしなかった。

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入社23年目の上野誠治(小澤征悦)

 失くしたケータイのことなど大して重要でないから そう語るに留めたとも考えられるが、それよりむしろ、ケータイを紛失した経緯は本人の記憶には残らないことなので アタルにも言い当てることができなかったと考えたほうが納得できる。

 さらに第1話では、50人の赤ちゃんが集まったイベント会場で 神田が疲労のため立ったまま眠気をこらえていることを隣にいたアタルは気づいていたが、そのあと、神田がよろけた拍子に足元のコードを引っかけてスピーカーが倒れ、それによって風船が割れて 大きな音で赤ちゃんたちが一斉に泣き出してしまい、イベントは大失敗に終わった。

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 このときもアタルは、神田の眠気は読み取れていても、それによって神田がコードを引っかけてスピーカーが倒れるところまでは予見できなかったと考えるべきだろう。
 それはまさに事故であり、人間の意志とは無関係に起きた出来事だったからだ。


 こうした事実は、占い師アタルの本質がサトリ(読心)と説法であり、透視(空間認識)や予知の能力は持っていないことを示唆している。


 アタルがどうして派遣社員として働くことになったのか、それ以前はどのように生きてきたのかは、第5話の時点では まだよくわからない。
 ただ、毎回番組冒頭に登場する新興宗教の教祖のようなイメージの女性(若村麻由美)が (おそらくは勝手に行方をくらませた)アタルのことを追っているらしいことはわかっており、アタルが自分の素性を話さなかったり、カメラに映るのを避けていることも、そうした事情が背景にあるからと思われる。



 女優・杉咲花についてはよく知らないのだが、彼女が演じているアタルは 実によくできたキャラだと思うし、杉咲はアタルを演じるに相応しい風貌と演技の質をそなえていると思う。

 見た目はそれほど超能力者っぽく見えないが、それはアタル自身が心の底では平凡な人生に憧れていて、大きすぎる自分の力を持て余しているせいなのかもしれない。
 ほかの人間が口にする言葉を、少し離れた場所で何気に(若干早いタイミングで)一人囁いてみたりするのも、半分無自覚な "クセ" のようなものではないだろうか。

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 アタルが誰かを占うとき、ふだんの彼女とは打って変わって極端に偉そうな態度になるのは、そうでもしなければ 他人の心の中の事にまで あれこれと言及できないからだろう。それはきっと ある意味非常に辛い所業なのだと思う。

 人の心を読むアタルの行ないは、おそらく崇高や神聖といった性質とは無縁のものであって、たまらなく煩わしくて居心地の悪いものなのだろう。それはアタルにとって不本意な行為に違いない。
 そして、もしその能力が今までお金を得るために使われていたとしたら、アタルはそんな状況に耐えられなかっただろう。

 だからアタルは決めたのかもしれない。
 これからは強力な説法によってではなく、自分の能力をこっそりと身近な人たちのために使おうと。「シンシアイベンツ」制作Dチームの仕事の中で、少しずつ先輩たちの手助けをしてきたように。


 超常的な能力は、強力な武器ではなく、戸惑いや苦しみを生み出す元凶ともなるもの。
 そう考えれば、アタルの誠実な仕事ぶりや「よろこんで!」と言って笑顔する態度も、カモフラージュではなく、彼女の真実の姿として理解できる。

 もちろんアタルの心情としてここに書いたことは、私の推測にすぎない。それが正しいかどうかは、第6話以降 明らかになっていくことだろう。

 みっともなく再び一人涙することを期待しながら 次回を待つことにする。

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