鉄の表情ぎゃらりー

今年も古物市探索頑張るぞ〜!

片刃刃物と裏スキ修正

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お早うございます。

このところまたブログから遠ざかってしまっていました。

体調を崩す日が多く、悪いと一週間に二回程度頭痛と熱でダウンしていたりします。


裏スキの修正や刃角の修正にお預りしている品の作業の進捗状況はマズマズといったところで、順調というわけでもなければ、私らしいカタツムリペースというわけでもない、いい加減なペースで進んでいます。

実は裏スキの修正自体は機械を使うためそれほど時間は掛からないのですが、刃角度の修正の方が時間が掛かり、ある程度裏出しをした後は安全のため一度刃を寝かせるといった工程が必要で、それゆえ何日も作業が延びるような結果になっています。

このあたりの理由は以前にも書いたのですが、刃物としての内容が強靭な刃物ほど、鋼の復元性により裏出しした鋼が裏出し以前の状態に近い状態に戻ってしまい、裏出しの手間がパーになってしまいやすいという事が、一つ目の理由としてあります。

そしてもう一つ、あまり一時に集中して裏を出し過ぎると、鋼内部に溜まった応力が行き場を失い、ヘタをすると鋼にクラックが入ってしまうこともある、―というのが二つ目の理由です。

このようなクラックに繋がりうるような鋼に溜まった応力は、ある程度は時間を置くことで分散し解消されますので、かなり強めに裏を出した際などは一晩程度時間を置いてから鎬を研ぐのが賢明なわけです。


しかしそうすると、裏出しをしては砥石に向かうというサイクルは、ある程度の量をこなしたらその日は一度終了するという区切りが付くわけですが、その後の空いた時間は次の鉋の裏スキ修正などに当てることになります。

そういうわけで最近は、問屋銘源兵衛や会津重長、左久作さんの鉋などにも手を付けているのですが、ちょっと実験したいことがあり、仕事の順番を無視して最近1100円で買った私物の金井鉋を修正して見ました。
(お待ち頂いている皆様申し訳ないですが・・・・・。)

試験内容は裏スキに付ける研ぎ目を深くする試験で、この作業に2s305さんより頂いた超硬チップを用います。

従来の金剛砥石により一様の砥石目を付けてゆく修正方法では、裏スキの凹凸が小さすぎて黒染めが指との摩擦で取れやすく、折角防錆のため黒染めしたのに大した効果が無く点錆が出る、―ということが頻発していましたので、その改善目的でより深いスキ目を付けるという試験です。


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上の写真がそのスキ目の比較写真ですが、これらの写真を見比べると、どちらの方がより深い目が付いているか一目瞭然ではないでしょうか。

そして少し試験した印象からすると、防錆目的でのこの手法の活用は有効な手段であると思います。

まず何と言っても、凹凸の深さが変わったことで表面積も大きくなりましたから、それゆえ黒染めの定着度自体に改善が見られたようです。

ですので、当初の目的は達成できたのでこの実験自体は概ね成功と言えるでしょう。


一方で問題もあることはあり、まず挙げられる点としてはこの技法はかなり難しいという事があります。

やはり一度焼きが入った鋼を相手にするわけですから、深い傷を切削により付けるという作業は、人力ではかなりの力が必要な荒業なようです。

元々鉋や鑿などの片刃刃物の裏スキというのは、鋼が焼入れされる以前のまだ生の状態で、センと言う切削工具と荒砥石による生研ぎによって作られる物です。

生の状態の鋼は軟鉄とそう変わらない硬さですから、鋼に傷を付けるという作業は焼入れ前であればそう難しいことは無いはずです。

焼きの入った鋼と軟鉄では、傷を入れられる深さが違いますから鏟の刃先や砥石の粒子は、まだ柔かい鋼に対しては深々と食い付いてくれますが、一方で焼きが入った鋼はロックウェル硬さ(押し潰す力に対する強さ)やモース硬さ(引っ掻き強さ)などが格段に高くなるため、センの刃先がツルツル滑るような現象が起き、なかなか刃先が鋭く食い付いてくれないということになるわけです。

もちろん、焼きが入った鋼であっても傷が付くようなことは珍しくありませんし、鏡のように研ぎ上げた刃先を拭いたティッシュの繊維程度でも傷の原因になりえることから、理論上はある程度の深さの傷を付けること自体は可能なはずですが、切削対象が硬くなればなるほど、深い傷を付けるためにはより大きな力が必要になるという事が、無視するにはあまりに大きすぎる課題であると言えるでしょう。


今回の実験は、超硬の切削工具を用いることで鋼と切削工具の硬さの差を大きくし、それによりより深い切削痕を得るという趣旨だったということです。

しかし、このような超硬の刃先を用いた用途というのは、通常は旋盤などの回転動力が用いられる作業ですので、人力でそれに準ずる深さの切削痕を付けようとするとかなりの力が必要ですし、また強く力を掛けることにより切削方向の制御なども非常に扱いが難しいものとなってきます。

今回は日頃の体感により、そのようなコントロールの難しさが事前に予測できていたので、切削治具としてある程度の直線が出た木材に沿わせることにより、切削痕の向きを揃える事に一定の成果が出せました。

もしこの切削痕の向きがてんでバラバラの向きに付くようなことになると、その通常以上に深い切削痕は刃先に傷となって現れ、鋭い刃先が求められる鉋の裏刃に致命的な欠けをもたらすことは確実ですから、この切削痕の方向の制御は非常に重要であると言えます。

ですので、力を強く掛けることで制御がより難しくなる状況をコントロールする事が、今回の実験では大きな割合を占めていたように思います。

振り返れば、時々うっかり「あっ!」と言うようなおかしな方向に引っ掻き傷を入れてしまい、治具を用いてなお制御しきれない難しさに悔しい思いもしたのですが、それゆえにやはり今回は人からの預かり物を使わなくて正解だったと思います。


長くなりましたが、上記が新たな手法の問題その一で、もう一つはこれらの難しさに由来するコストの問題です。

裏スキの修正という仕事は産地でも請け負っておられる職人方がいて、私の場合それらの本職方の価格を参考としつついくらか値段を割り引いた言わば「駆け出し価格」という設定で、裏スキの修正に加え刃角度の修正を合わせても一律2500円ということにしていました。

しかし元々友人からは「一日に何枚も出来るわけじゃないんでしょ?あんまりに割に合わないよ」と言われている有様ですし、自分でも今年の夏あたりにでも価格を見直すかと考えているところでしたので、今回の新手法を取り入れる場合、少なくとも700円〜1000円程度は割り増しにしないと、正直言って全く割に合わないのです。

もちろん、鋼の種類と熱処理の方法によりかなり錆びやすい刃物というのも時々ありますし、今回の手法もそういう刃物の様子を見つつ活用してくことにはなりますが、とはいえやはり実用化に向けてはそれなりのシステム化も図らないと、こんな状況では刃物を一つ作るよりも大変なんてコトになりかねないと思います。


https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-68-91/new_alces/folder/725186/63/28555163/img_0_m?1487022233


おまけ

今回の超硬の刃先を用いた切削では強い力を掛ける必要があることから、切削工具は勿論のこと、鉋刃それ自体もかなり動きやすい状況になります。

ですので、鉋刃をしっかり固定する工夫がまず必要です。

私が使ったのは愛用の自作治具、寸四から二寸までの幅に対応した木製の治具です。


https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-68-91/new_alces/folder/725186/63/28555163/img_2_m?1487022233
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-68-91/new_alces/folder/725186/63/28555163/img_3_m?1487022233


そして超硬の刃先を有効な角度で食い込ませようとすると、2s305さんに頂いた固定時具ではネジが当り鉋刃の中ほどでは扱い難かったので、ペンチで強力に握りつつ使う必要がありました。


https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-68-91/new_alces/folder/725186/63/28555163/img_1_m?1487022233


このような格好で切削していきます。

写真はある程度切削痕が付き、切削痕に沿わせるようにしていれば方向がブレない、かなり終盤になってからの状態です。

作業の終盤までは片手で治具を押さえてつつ作業しますので、両手でペンチに力を掛けるようなことは出来ませんでした。


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修正中の状態、まだ黒染めする前です。

それにしても超硬のチップで一本ずつ切削痕を付けてゆくという方法は、ある意味では刃幅の極端に狭い鏟で切削していっているような行為に近いといえますが、すでに焼きが入った鋼を相手にセンを用い整形してゆく道具としては鋸があり、その意味ではこのスキ肌は一種鋸の肌を連想させるような部分もあります。

そんな共通点があるからでしょうか、超硬の刃で切削した均し目は綺麗な輝き方をしますね。

刃物の刃先として砥石で研ぎ澄まされた澄み渡るような艶にも、鋼という物体が持つ美しさは現れますが、このような切削痕にも何かもっと粗野でありつつも、荒削りゆえの鋼の良さがある気がするんです。

鋤き肌の目の揃い方、たったそれだけの要素で私が魅了されてしまった鋸に、新潟の名工・山口介左衛門の胴突鋸がありますが、そのスキ肌は素晴らしいものでした。

関西の鋸鍛冶の名工、宮野平次郎も大変に美しい肌の鋸を作り、その作品は花魁鋸とまで言われたそうですが、恐らく胴突鋸のみに限って言えば、精度や美しさで山口介左衛門の右に出る工人は後にも先にもいないでしょう。

こんな鉋の裏スキなんかにそのような美しい肌を再現するようなことは出来ませんし、そこまでの見栄えが求められることも無いはずですが、とは言え一つの技術目標として憧れる物があるのは確かです。

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やっぱり銑掛けは焼き入れ前にするものなんですねぇ。焼き入れ後の裏を鋤くのはなかなかしんどいです。私の場合は鉋に合わせて板に釘を2本打ちこんで動かないようにしてます。

2017/2/14(火) 午後 2:31 [ Yakan ]

超硬で一本一本、凄い手間ですね〜

2017/2/14(火) 午後 3:37 [ ハチ ]

ペンチで握りながらはシンドイね(^^)
何か良い方法は無いのだろうか(^^)??
柄をつくる??(笑)

2017/2/14(火) 午後 3:52 [ 天然砥石尚 ]

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★Yakanさん★

こんばんは、いつもコメント有り難うございます。
そうですよね、これが炭素鋼系であればまだ食い付きも良いし、割とサクサク削れる気がしますが、この金井のような合金鋼の切削では抵抗が寄り大きなものとなり、本当に根気の勝負になりますね。

2017/2/14(火) 午後 7:32 あるけすさん

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★ハチさん★

こんばんは、いつもコメント有り難うございます。
焼きの甘い裏金とか、徳川時代の硬度が低い玉鋼の鉋などは時にヤスリが掛かるほどだったりしますので、そういう鉋などでセン掛けの練習はしていたんです。
ただそれらもいくら甘いと言っても、接地面の広い鍛冶屋センでは抵抗が大きく、鋸用の目立てヤスリの先端を研いでキサゲのようにして使っていました。
今回のやり方はその延長線上にある感じだと思います。

2017/2/14(火) 午後 7:36 あるけすさん

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★尚さん★

こんばんは、いつも有り難うございます。
そうなんですよ、これは流石に腕がパンパンになります。(笑)
柄を作ることは私も考えたのですが、固定の上手い方法が思いつきません。
ネジのような物を用いてしまうと、結局その頭が邪魔になってしまいますし、難しいですね。
でも片手だけで力を込める作業は慣れているので、当面はこれでいけないことも無いかもしれません。

2017/2/14(火) 午後 7:39 あるけすさん

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穴開いてるからそれを利用して、尚さんの言う柄に固定するとか〜!
しかし自動裏スキ機とか無いもんでしょうかね〜

2017/2/14(火) 午後 7:39 おとっと

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> おとっとさん

こんばんは、いつもコメント有り難うございます。
そうなんですよね、柄への固定ができることならそれが一番理想的ではありますよね。
問題はその方法ですが、蟻溝のような物を掘った金属に隙間が全く無い状態ではめ込めれば、何とかならないことはないかもしれません。
ただその精度が少しでも低ければ全く用を成さなくなってしまうはずなので、そこが難しそうに思います。
あと、考えられる方法はロウ付けとかでしょうか・・・・・。

2017/2/14(火) 午後 7:51 あるけすさん

さすがプロですね!
透きの深さまで拘るなんて素晴らしいです。
オイラも今度プロに頼もうかなぁ。

2017/2/15(水) 午前 10:21 [ ころんびあ ]

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> あるけすさんさん
ロー付けバイトを研いだのでそのうちそちらに廻ります。
チップの上にクランプ機構の無い物も同梱します。

2017/2/15(水) 午後 4:47 [ 2s305 ]

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★ころんびあさん★

こんばんは、有り難うございます。
これまで何丁も仕上げてきて、やはり錆の出やすさについてはどうしても気になるんです。
新品の鉋であればなぜか錆が出にくいので、どうしてそういう違いが出るのかを検証し続けた結果、金剛砥石やダイヤモンドヤスリで焼入れ後の鋼を削ると錆びやすくなるという結論に至り、それで試行錯誤が始まったんです。

2017/2/15(水) 午後 11:34 あるけすさん

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★2s305さん★

え〜!いやぁ、いつも申し訳無いです!
よ〜し、それなら私もそのうちなにか2s305さんにイイ物お返しするぞ〜っ!

2017/2/15(水) 午後 11:36 あるけすさん

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高度なテクニックで、私なんぞ全くついて行けませんが、裏スキがこんなにも繊細で手間のかかる作業なんだと言うことが良く分かりました。
スゴイ!
現状は確かに安すぎると思います。

2017/2/18(土) 午後 9:24 [ 針屋町 六 ]

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針屋町 六さんこんばんは、いつも有り難うございます。
機械でガーッと裏を作ってお終いってコトであれば、簡単で早くできるのでしょうが、そこから先より良い精度をって話しになると、途端に時間がものすごく掛かることになりますね。
今日はこの道の先輩にもOKがもらえたので、一応精度面では手落ちの無い仕事が出来たと思います。

2017/2/18(土) 午後 9:32 あるけすさん

一本一本は根気のいる作業ですね。
感心してしまいます。
いつ見ても素晴らしい出来ですね(^^)

しかし、自分もやって見たい気が…。

2017/3/17(金) 午前 0:08 [ ヒゲちゃん ]

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> ヒゲちゃんさん

先日裏スキ修正の道の先輩に会う機会があったんですが、どうやらこの方法は私以外はまだ誰も試したことの無いやり方なようですね。

やり方を白状すると、皆に「指がつりそう」と言われます。(笑)
裏スキ修正のやり方として、錆に対する対策まで考慮するなら、これ以上の方法は存在しないと断言できるのですが。
やはりココのところでも変態扱いされそうな気がします。(笑)

2017/3/17(金) 午後 9:28 あるけすさん


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