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前々回も書いたとおり、目立ての最中アサリ出しに失敗し、 「あ〜!」ってコトになりました。 今回はこれではイカン―と、必要に迫られ新たに調達したアサリ出しの道具や、 目立て依頼の鋸と一緒に狛犬さん送られて来た道具を中心に、 鋸の目立て道具を紹介します。 ちょっと脱線気味な気もしますが、まぁいいか。 ここにそろえたのは擦り込みに使う道具です。 手前右側より、 ・鉄粉回収用、ネオジム磁石 ・鉄粉除去用、ブラシ ・ひっこき用、通常のダイヤモンド砥石 ・150mm鬼下し用、荒い目立て鑢 ・歯成形用、目立て鑢(長) ・歯成形用、目立て鑢(短) ・目底用、目立て鑢 ・電着ダイヤモンド目立て鑢 ・窓目用、電着ダイヤモンド丸鑢 そして奥は一度登場した目立て用挟み板です。 鬼下し用の長い鑢は普段は専ら前挽き大鋸など、特大サイズの鋸に使いますが、 山林用鋸の歪んだはを思いっきり成形し直す作業では活躍します。 歯形整形用の鑢二本は以来品の鋸に同封されて来た狛犬さんからの贈り物で、 信頼の広島の老舗鑢メーカー、ワタオカさんの鑢です。 この鑢の特徴は素晴らしい硬度です。 普通の鑢よりも硬度が高いので何倍も研削力が持続し、刃毀れも起きません。 ですので硬度の高い現代鋼の鋸に対して特化した鑢であるといえます。 この鑢は特注品で、肩の所が鑿のように丸く落とされるなど、 細部の使い勝手について考え尽くされた仕上げが、通常品とは異なります。 柄はある目立て師の方曰く、黒松の皮付きが良いそうですが、 そんなモン身近に無〜いってことで、若桑の枝を使っています。 少し長めの柄にしているつもりですが、これはナゲシなどの成形のためで、 一度ひっこきで全体をリセットし、鬼下し鑢で大まかな形を作った後、 角度や歯の姿、平面を整えるのに長いストロークで擦り込むためです。 この鑢の高い硬度は一体どうやって出しているのかな? 焼入れか、それとも戻しかな? 多分それらを含め全ての工程に、老舗の意地を掛けた秘伝があるのでしょう。 ともあれ狛犬さん、よく働く鑢を頂き本当に有難うございました!<(_ _)> そして今度はアサリ出し用の道具、右はソーセット、左はアサリ槌です。 この道具は一体何と表現すればいいのでしょうか? アサリ出し専用の一種のプライヤーのような物だと思いますが。 使い方はきわめて簡単かつシンプル、このように挟んで握りに力を掛けるだけ。 ぐい〜っと。 このように握りに力を掛けると、歯を押し出す小さい突起が 数字が刻まれた銀色の円盤に向って猫の爪のように出て来ます。 アサリの幅調整はダイヤル式で調整できますので、あらゆる鋸に対応です。 このソーセットは大工・木挽き鋸の歯に合わせてあり、荒物用です。 もっと歯が小さい胴突き鋸など細工用鋸にはもう一つ専用の物があるようです。 狛犬さんの鋸、欠けた歯は通常のラジオペンチでやってしまいましたが、 このソーセットは歯のごく先の方、必要最低限のところを押し出すようで、 そこが歯を折らないための一つのポイントなようです。 もう一つ、鋸の調整に欠かせないのがこのアサリ槌です。 アサリ槌はその呼び名の通りアサリを出すための専用道具で、 このように刃を一つずつ叩き出すのに使いますが、私はソーセットを使うので、 この槌はどちらかと言うとアサリの出過ぎたはを逆側に戻すのに使っています。 以上はアサリ出しに限定した使い方の話ですが、この槌にはもう一つ、 この槌にしか出来ない、重要な使い道があります。 それは鋸の板身の狂い取り! 鋸は板に狂いがあると、木材相手に挽いている最中、 木材の中で板の出っ張っている箇所が擦れて引きが重くなったり、 板の歪み通りに木材も歪んだ切れ方をしたりします。 それを直し、真っ直ぐに鋸が通るようにするのがこの槌のもう一つの用途です。 写真で槌の先端の凹凸が確認できるでしょうか。 この凹凸で鋸の板に凹み傷を付けて板の狂いを修正していきます。 原理としては鉋刃の裏出しと基本的には同じですが、鉋の裏出とは違い、 こちらは押し出す方向のコントロールが必要なので、より高度な技術が必要です。 これを上手くやれれば鋼を延ばすことも出来れば、相対的に見て縮めることも、 (私に出来るかどうかは別として)理論上は可能なそうです。 そしてこれは以前、鋸も細かい鑢で仕上ることでより良く切れると知り、 興味が出て実験してみたときの物。 薄い板にゆうけんさんに頂いた天然砥石、丸尾山アイサの欠片を貼り付け、 擦り込みに使えないか試してみました。 結論としてはダメでした。orz キメが細か過ぎて鋼を下すまでに時間がかかり過ぎるのに加え、 砥面の歪みが想像したよりも早く、あっという間に木の下地が出てしまいました。 では浅黄のような硬い砥石に名倉を掛けたり、人造仕上砥石に変えたり、 人造中砥石を使ってみるのはドヤ?って疑問も出てきますが、 それは浅黄木端の刷り込みナドナド、色々と大変なことが多いので、 また機会があれば実験してみます。 その上で、砥石は鋸の目立てに使える物なのか考えてみます。
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鋸(のこぎり)
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前回に続き鋸の修理ビフォー・アフターシリーズです。 工程があまりに多く、一つの記事ではどうしても長くなってしまうので、 何回かに分けていきます。 前回は目立てや狂い取りなど板の調整でしたが、今回は柄の製作です。 鋸の柄には軟質の木材を用います。 一般に杉や桐を用いるとされていますが、一説によると杉材は手が焼けるそうで、 桐材の方が優れるようです。 桐材は家に無かったので、浅草の桐材専門店「見吉屋」で木端を買って来ました。 これを柄の大きさに合わせてカットします。 今回も土田刃物店にお邪魔して、手曲鋸の柄についてアドバイスを頂きましたが、 腰鋸や窓鋸などの手曲鋸の類の柄は前引き大鋸のような太めの柄が良いそうで、 近年流行の細めの柄は見てくれこそカッコいいものの、手への負担が大きく、 長時間使うと手に肉刺が出来てしまうとのことです。 昔の木挽き職人さんなどは長時間作業しますから、そのような柄で作業をしていると 手が血肉刺だらけになったり、悪いと肉刺が裂けて血が流れ出たりしたそうです。 そのようなお話を一郎さんに教えて頂いたので、元々の柄を参考に、 一回りか二回りほど大きめに木取りをしました。 木取りが済んだら穴を掘ります。 茎の寸法に合わせて墨付けし、細い四方錐にて穴をあけ、 焼鏝を押し込んで茎の大きさに合った穴を開けます。 下の写真は穴を片側だけ縦方向に広げていますが、 これは曲がった首に合わせた形で、こうしておくことで十分な深さまで茎が入ります。 柄の自作は初めての経験で、どういう形が良いのか分からなかったので、 首の面をどのような角度で落とすか迷いました。 迷った末、結局中段の線通りに落としましたが、これで良かったのかな? 穴の深さなどを決めたら柄の外観を成形し、手の滑り防止と、 茎の圧力による柄の割れを防ぐため、口の辺りに藤の蔓を巻きます。 この蔓は駒沢公園で剪定作業中の職人さんから貰って来て加工しました。 そしてこの蔓がまた後々、柄の乾燥が進み痩せることで緩みやすいので、 滑り止めに松脂を下塗りしてから巻きました。 蔓は乾燥した状態では折れてしまいやすいので、予め水に漬けておき、 使用直前に茹でて軟化させ使用します。 松脂を溶かすため、アルミの使い捨てスプーンを作りましたが、 これでは松脂が引火しやすかった・・・・・。 何か大きくて底の深い耐熱容器が必要なようです。 巻き始めはまずマイナスドライバーを突き立てて穴を開け、 次に穴に瞬間接着剤を流し込んで素早く蔓を穴に差し込みます。 瞬間接着剤なら水から取り出した直後の蔓の水分に反応して素早く硬化するので、 蔓全体が乾いてしまう前に固定することが出来ます。 柄を入れてみると、ちょっと蔓が押し上げられている・・・・・。 どうやら蔓を巻く位置が高すぎたようです。 切れることは無いので、実用は問題ないですが・・・・・。 完成した柄を装着しました。 柄の挿げ方ですが、まず雑巾などを用意し水で濡らしておきます。 次にコンロやバーナーなど、なるべく火力の高い物で茎を加熱します。 この時熱が刃に伝わっては焼が戻ってしまうので、濡れた雑巾で首の部分を巻き、 熱を吸収させ焼が戻るのを防ぎます。 熱した茎を柄の穴に入れたら素早く柄の底を槌で叩き、十分奥まで焼き入れます。 この辺りは包丁の柄の仕込み方と全く同じですね。 こうして仕込んだ柄ですが、試しに使ってみると柄の入りが緩かったらしく、 使用中に抜けてしまったので、二度目の焼き込みでは柄を入れる前に、 溶かしておいた松脂を穴に流し込んでおき、更に茎を叩きいれた後にもう一度、 隙間などから松脂を流し込んで固定しました。 これだけやると今度は流石にしっかり固定されたようです。 それにしてもこの松脂を流し込む作業、要注意です。 写真を見ると松脂がたれ流れたあとがはっきり分かりますが、 この流れた松脂が手にかかり、軍手をしていても火傷をしてしまいました。 その三に続く
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もう一年以上前になりますが、狛犬さんに狛犬さんのお爺様の持ち物だった 鋸の目立てと柄の交換を頼まれました。 ご覧の通り古い窓鋸です。 地方によっては改良刃鋸とも呼ぶようです。 目立てはまだ前挽き大鋸で練習している有様で、かなりの素人なので、 正直歯を折る可能性を危惧しましたが、最終的にはお預かりすることになりました。 判読するのが難しい銘です。 中屋晋までは読めるのですが、その後の文字がどうしても読めません。 中屋晋正なのか、それとも銘は中屋晋までで、その下は作と切ってあるのか? いずれにしても戦後頃の作品で、会津周辺の中屋系統の鋸ではないかと思います。 鋼の性格や切れ味などの作風は中屋伝左衛門さんの鋸に似ています。 この鋸は昨年の師走頃に調整を終えお返ししました。 それから随分時間が経ってからのブログ掲載になりましたが、 私自身、鋸については全くの無知なので、あまり変なコトを言わんように、 鋸や目立てについて多少は勉強してから掲載しようと思い、 延びに延びて今頃になりました。 しかしパソコンのモニターが故障して目立て関連の動画の編集が不可能になり、 目立ての記事で紹介する計画もパーになったので、とりあえず鋸の紹介と、 調整のビフォー・アフターだけは掲載していくことにします。 というわけで狛犬さん、大分お待たせしましたです。<(_ _)> 板の状態です。 結構錆びていますね。 やや赤茶けてき始めていますが、程々に錆を落とし油を引けば良い色になりそう。 柄は緩くなっていた様子で、クサビや、果ては釘なども差し込まれています。 そしてビニールテープで巻かれている様子を見るに、割れがきていそうです。 テープを剥がすとやはり割れていました。 茎に合わせて内部を削り、二枚の板を張り合わせる大工用鋸の真直ぐな柄と違い、 製材用鋸の曲がった柄は一枚の木に突き刺す感じで作るので、 後々このように割れ易いようです。 もうこの柄は使い物にならないので取り払いましょう。 錆びて先の方は無くなっていやしないか、ちょっと心配でしたが、 抜いて見ると中身は健全でした。 これなら再び柄に仕込む際、思いっきり加熱しても酸化皮膜が落ちて茎が痩せる、 ―なんてことは無さそうです。 まずは一番簡単な作業である錆落しから掛かりました。 基本的には金剛砂を塗った木砥で磨いていく感じですが、錆が深い箇所のみ、 天然中砥石を用いて膨れ上がった錆などを擦り落とします。 そして再び錆が出る前に油を引けば、このような茄子皮色の寂びた表情になります。 錆と寂び、音は同じでも大違いですね。(笑) 境界線は曖昧ではあるものの、窓目より刃側は元々砥石で磨いてありましたので、 この部分に関しては錆は完全に落としきってあります。 刃のすぐ近くを砥石で磨いておくのは製材用の荒物鋸の特徴で、 挽き始めに長い板身を安定させるために指を添えて挽くような使い方をするので、 そのために指を擦らないようにこの部分は当たりを滑らかにすることがあります。 製材用鋸は板の厚みが厚く歪みなどは出難い方ですが、一応チェックしてみると、 先の方に狂いがありました。 よく調べてみると鼻に割れがあるので、きっとこの割れによって歪が生じ、 この辺りから波及的に狂いが出たのでしょう。 使い物にならなくなる程の狂いではなかったものの切削方向が曲がってしまうので、 何とか叩いて狂い取りをしておきました。 板の錆取り、狂い取りが終わったら次は目立てです。 まず歯の大きさや角度のバラツキを正すために、一度刃先を潰してしまいます。 この作業を「ひっこき」と呼ぶそうです。 目立てについては基本的に中屋伝左衛門さんのホームページで紹介されている 方法に従っているので、素人の私はあれこれ語らないでおこうと思いますが、 この作業は私は鑢ではなく、普段研ぎ物に使っているダイヤ砥を使います。 金属の鑢よりダイヤの方がどんなに硬い刃にも食い付きますし、 ダイヤ砥石の方が長さがある分、安定した直線を作れるからです。 ついに擦り込みも終わりアサリ出しです。 ―が、やってしまいました。 アサリ槌などが無いのでプライヤーで曲げてアサリを出していましたが、 甲高いパキンという音と同時に歯が折れてしまいました。 これがショックで、この後作業再開にはかなりの日数が掛かってしまいました。 その二に続く
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こんばんは。 ビックリクラスの大雪が過ぎ去った現在、空気が澄んだようで、 久しぶりに爽やかな夕日です。 ここ数日曇りの日が多く暗めの毎日でしたが、今日は室内に日光が射してきたので、 練習用に買って来た古い鋸で、板の狂い取りの練習をしていました。 そして狂い取りとはまた別に、最近は正宗さんに勧めて頂いたちょん掛けも 谷口の鑼(ガガリ)の歯でを試してみています。 本当は前引き大鋸の方がちょん掛けが必要そうですが・・・・・。 チョン掛けだけでなく、鑼目の二段刃もこれから試してみたいと思っていますが、 しかしまぁ、鑼目も江戸目とはまた違った難しさがありますね〜。 上の鑼鋸はどちらかというと軟材よりも樫のような硬い木に向いていますが、 ちょん掛けを施してみると杉のような木にも良く食い付きました。 それにしても狂い取りは中々に腰に負担のかかる骨の折れる作業ですが、 頑張って長時間練習したご褒美か? 練習用に買ったジャンクの鋸の内、少なくとも二枚は玉鋼の鋸だったようです。 こういうことがあるとモチベーションが上がるので助かりますね。(^u^)
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昨年の夏ごろ、ヤフオクで水戸の中屋平治さんの鋸を見つけました。 普通に買えば何万円もする物ですが、5千円足らずで終了とかなりお買い得でした。 どんな鋼を使っているのかは分かりませんが、硬く焼が入っていて、 指で弾くとピンピン高い音がします。 平治銘。 鋸の銘としてはかなり読みやすいですね。 裏側には注文者の名前が入っていますがそっちは写さないでおこう。 作りとしてはアゴが無いタイプなようで、胴突き鋸に近い細工用です。 手元に届いた当初は板の狂いが酷く、そのままでは使えない状態だったので、 三軒茶屋の土田さんに目立てと狂い直しをお願いしました。 平治さんの板の造り込みも土田さんの目立ても双方隙が無く、流石です。 この鋸を見つけたのはたまたまでしたが、目立てをお願いしたのには ちょっとした狙いがありました。 丁度この鋸を買った頃、実は狛犬さんから目立てを頼まれていて、 山林用の窓鋸をお預かりしていた最中でしたが、分からないことばかりで 技術的に限界に行き当たっていたので、プロの目立てを拝見して 参考にしようと考えたのです。 そしてその甲斐あり、刃の付け方などは大いに参考になりました。 上の図がそれですが、私の持っている鋸は上の図Aのように鋭角が60度前後で、 一般的な鋸は大体この程度の角度の刃角が多いと思います ですので、私はこれまで自分で目立てをする時はこのような角度にしていました。 しかし土田さんに目立てして頂いた鋸は図Bのようにかなり鈍角で、 パッと見ただけではこれで本当にちゃんと木材に食い付くのか心配になるほどです。 ところが挽いてみると想像以上に良く食い付きました。 包丁や木工具を扱っていると、どうしても鋭角な刃は鋭く切れ、 鈍角な刃では長切れしても鋭さには劣る―と思い込んでしまいますが、 どうも鋸の切れるメカニズムはそう簡単ではないようです。 ひょっとすると刃角が鋭角過ぎると刃がしなることでビビリが起きたりして、 刃に強さがなくなることでかえって切れなくなるようなことがあるのかも? などと今はあれこれ考えるようになりました。 この辺りの加減は単に角度を変えれば良いのではなく、鋸自体の硬度など、 色々な要素が絡み合ってくると思うので、鋸の性格によってどのように 目立てのやり方を変えるべきなのか、今後の研究課題でしょうね。 うん?柄には全体に藤の蔓が巻かれていますね。 法隆寺の棟梁故西岡氏によると、藤の蔓を巻くのは滑り止めの意味なそうですが、 このように全体に巻くのは余計なことで、先の方一寸程度だけ巻くのが良いとか。 これではかえって手が滑るそうです。 土田さんによると、本当は別にどうしても無くてはならない物でもないそうなので、 緩んできたら取っちゃってもいいかも。 この鋸の一番得意な用途はコレかな? 鉋台の押さえ溝を挽くのに丁度良さそうだと思いました。 実際、結構綺麗に狙った所で挽けるので、これまでよりは精度良く作業できます。 まだ目立ても台打ちも全〜然上手くはできないので、今後しばらくはこの鋸に 教えてもらうコトが多そうです。
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