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月の光に包まれて夜空に煌めく 瞬く間にほかの星たちも集まり 天体は彼らの華麗なステージとなる ああ 宇宙船地球号に乗って いつかこの広い宇宙を旅してみたい すると小さくくだらないことが ただちに忘れられると思う 悠久の天体に惑星たちが遊び いつのまにか僕たちの存在の儚さを知る 僕たちはいまいったいどこの誰なんだろう 大宇宙四丁目地球星日本国? 明日は水・金・火・木までゆらゆらと その次の日は土・天・海・冥に夜間飛行だ するとますます僕は僕の存在の儚さを知り 人生が信じられないほど 生きやすくなるかもしれぬ こんなにもちっぽけな僕が どうしていま太陽系に存在しておるのか おーい ほかの星はどうだい? ほかの星では何が存在するのか 生きてるのか そもそも生物はいるのか そもそも“セイブツ”と言うのか 何を食べてどこに寝ておるのか いったいどういう生活をしておるのだ いまかなりの速いスピードで 宇宙船を走らせておる もうすぐ君の住む星のある 大宇宙一丁目へ到着し そこで鼻も耳も髪の毛もない 初対面の宇宙人である君と一杯やりながら 僕の星 地球での僕の悩みを 本当に真剣に聞いてくれないか いままで誰にも言えなかったんだけど 君になら言えそうな気がするんだ 僕はとにかく誰かに言いたかったんだ 言いたくて仕方なかったんだ そして君が親身になって 僕の悩みを聞いてくれたら 僕は君をただちに宇宙船に乗せ 地球まで招待することにする 到着したとき君は「やれやれ」と 言うかもしれない そこでは殺戮や飢餓が蔓延し 富む者だけがはびこり 暴力や気狂い沙汰のオンパレード でもこれが僕の住む地球なんだ これこそが地球という星なんだ 人間という蟻も笑うほどの ちっぽけな生物が存在する あの素晴らしい地球へ 愛すべき地球へ君といっしょに帰ろう そのとき僕は なんだか地球にある 窮屈な酒場のカウンター席に 君を招待するのがみっともなくて 泣いてしまうかもしれない でも そこにいるほかのみんなが ここが空いてるから ここに座れよと 奥のテーブルのほうから 君と僕に声をかけてくれると思うんだ そんな優しさという輝く心の星を からだの中に持った人たちが住むところ それが地球さ さあ 僕といっしょに あの素晴らしい地球へ帰ろう 君になら地球のことを こんなところですと胸を張って言えそうな そんな気がするんだ 2025年のその日、地球代表を含む初めての「惑星会議」が開かれた。各星からの代表が一人ずつ当番星の地球に集まり、自己紹介から始まって自分の星の日常や人々の暮らしを紹介した。集まった星の代表者は口々に「私の星では……」とその星の自慢話を聞かせた。酸素がないのに生きていることや食事がいらない、勉強も不要で進学も就職もなく、ただ悠久なる宇宙に漂う星での生活を殊更不思議なことでもないように語り合っていた。まず最初に水星代表が口を開いた。 「うちの星では地球さんのとこでいうベンキョ−ってのがないです。ベンキョ−やらなくても生活できてしまうので……」 次は金星代表だった。 「私の星もベンキョ−はいりません。そもそもガッコウというものがありませんので。それにシゴトというものをしなくても全員が食べていけますし、ショクジといっても私たちは呼吸もせずに生きていけますので。エイヨウというものを摂る必要がないのです」 金星代表は当たり前のようにそう言った。今度は火星の番だ。 「うちはカイシャってないです。自分たちは何もせずにそのまま生きていけますから。金星さんのところとおんなじです。生きるのに必要なものが何もありません。それで生き長らえることができます。ビョウキというものもありませんし」 続けて木星代表が言った。 「星のケイビというのもないです。ほかの星から来てもらってもいっこうにかまいません。なぜなら住みにくいということがないですから。住むというのは領地が絡むのでしょうけど、うちではそもそも領地が一緒でもいいし、すぐそばに知らない人がいてもかまわないです。そしてスイミンというものが必要ないし、アメなんていうものも降らないから家屋がいりません。ここからここまでが自分の土地なんていう概念がないのです」 すぐに土星代表も言った。 「生きていければ他に問題はないでしょう。自分がいつ死ぬかはその人にすべて委ねられています。一度死んでも生き返ることができるし、別に永久に生きていてもいいのです。ちなみにハンザイというものもありません。そういうことをする必要がないし、ニクシミという感情がありませんから。もちろんセンソウも、です。イジメ? サベツ? イジメってどういう意味ですか? サベツって何ですか?」 天王星代表が言う。 「ロウドウというものをしなくていいから問題も起こらない。オカネというものも存在しないし……」 海王星代表も笑いながら言った。 「うちは地球さんのところのようにオトコだとかオンナもない。一種類しかありませんから」 冥王星の代表も言った。 「そうだな。オトコとオンナというものがあるのは地球さんとこだけだよ。うちもそういうのはないです。そんなものがあると逆に厄介じゃないかな」 各星の代表がホストの地球のことを話題にして率直に意見を述べた。それは地球が太陽系の惑星のなかでいかに異質の存在であるかを裏付けるものだった。地球代表は十二歳になったばかりの小学校六年生、ミス・ホリデイ。彼女は各星の代表がひとしきり地球の感想を述べたあと、地球代表としての挨拶を促されてゆっくりと壇上に上がり、皆を見回してから口を開いた。 あたしは…… かなしくなったとき たいようけいのわくせいさんたちのところへ あそびにいく なにかにいかりくるって どはつてんをついたとき いじのわるいがっこうのせんせいを くしざしにしてやろう うわきしたぼーいふれんどをやつざきにしてやるぞと ほんきでおもったとき ともだちにうらぎられてしにたくなったとき じぶんのうんめいをのろいたくなったとき わくせいさんたちのところへあそびにいく わくせいさんたちのところへは たどりつくまでに すこしじかんがかかるけど そのぶん とてもきぶんてんかんになって あたしのかなしみがうすらいでいく ちきゅうでのかなしみが しばらくのあいだ わすれられるきがするのだ そしてたいようけいのわくせいに あたしのかなしみがすこしずつたまって あたしのすむちきゅうには すこしずつよろこびがふえていく そんなきがするんだ ほんとにわくせいさんたちには わるいのだけど でも あたしには…… かなしみをふきとばすほうほうが それしかないのだ あたしにはそうするしか かなしみをいやすほうほうが みつからないのだ いままで ほんとうにいろいろと このちきゅうで ためしてみたのだけれど どれもこれもが かいめつてきに だめだったのだ もうどうしようもなく だめだったのだ どうしても どういうほうほうによっても あたしのちきゅうでのかなしみをいやすことは ついにできやしなかった もうそれは どんなかみさまや どんなまほうをつかっても いやすことのできない しゅるいのものだったように おもう さつりく せんそう あらそい ふりん いじめ さべつ ぎゃくたい ぼうりょく はんざい…… あたしがまじめにいきようとすると いろんなものが めのまえにたちはだかり そしてあたしのこころを めちゃめちゃにうちのめしていく それはいつもじぶんたちにんげんの おろかなるこうどうの なれのはてなのだった いつのひか ふらふらとうちゅうをさまよっていて きがつくとあたしは きんせいさんのところへたどりついていた そしてあたしは そのだいちにおりたち きんせいにすむひとたちと あくしゅをした どのひとたちにも そこぬけのよろこびの ひょうじょうがあるのに きがついたのだ わらっていたのだよ そしてきんせいのだいちをまわると なんだかうきうきわくわく してきたのだ もううれしくなって そこいらじゅうのきんせいさんの ひとたちと てにてをとり よろこびというものがこんなに すばらしいものなんだということを あたしははじめてしったのだ そしてあたしは こんどのどようびも きんせいさんのところへいく あたしがちきゅうというほしを すてさるひも ちかいかもしれない でも…… やっぱりあたしは このちきゅうがすきなのだ どうしてもちきゅうでないと だめなのだ どうしようもなくおかしくて ざんこくで そしてかなしい このちきゅうというほしが それでもあたしはどうしようもなく すきなのだ すきですきでしかたないのだ あたしはこのほしにうまれ やがてこのほしでしんでいく みなさんのほしへいくと えいえんにいきつづけることが できるかもしれない でもこれからもあたしはこのほしで なんどもなやみながら かかえきれそうにないかなしみを せおいながら ちきゅうというほしにいる あたしのなかまたちと うんめいをともにしたいと おもいます みなさん ようこそかなしみのほし ちきゅうへ ちきゅうだいひょう ホリデイ 彼女が紙に書かれたものを読み終えた瞬間、各星の代表と聴衆からまるで怒涛のような拍手と歓声が沸き起こった。そして聴衆は皆立ち上がり、小さなホリデイに温かい拍手を送り続けた。なかにはそれまで流したことのないナミダで目を潤ませる者もいた。すぐに壇上から降りてきたホリデイに各星の代表が駆け寄ってきた。 「あなたのお話をもっと聞かせていただけないかしら。地球のことを私はもっとよく知りたいの。私の星にはナヤミというものがないし、カナシミというものもないんだけど、でも私にはあなたの言うことがなぜかとてもよくわかる気がするの」 金星代表がそう言うと、各星の代表者も大きく頷いた。そしていまから地球を見て回ろうと誰かが言いだした。ホリデイはわかりましたと言い、そのまえに一緒に食事でもしませんかと言った。各星の代表は「ああ、そうだな。地球のリョウリというものを一度食べてみたいものだ」と顔を見合せ、にこにこと笑いながら言った。 ようこそ悲しみの星、地球へ! |
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ひらがなにモノローグは合うのだとは思っていましたが、お見事です。ぽち。
2010/5/24(月) 午前 7:53
yama兄さん。
確かに合いますね。シンプルこの上ないです。
読んでいただいてありがとうございます。
2010/5/24(月) 午後 10:42
午後4:53さん、お久しぶりです。
まぁ、私たち人間というのは蟻のように小さな存在ですよね。
でも、人の頭の中にある「宇宙」はけっこう大きかったりで・・・。
考えねばいいものをいろいろ考える人間というのは、
やはり厄介な生き物でしょう。
そんなときはやっぱりジャズ♪
すべて忘れたいときには音のシャワーを浴びるのが一番です。
読んでいただいてありがとうございました。
2010/6/7(月) 午後 8:22