僕とチータのジャズ日記

お久しぶりです、オダギリです。まだ生きています!

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雨宿りとエレベーター


ノラ・ジョーンズ「セプテンバー・イン・ザ・レイン」
 
 
 
自分の会社の女性社員に惚れたことがある。
ある有名大学出身の才媛だった。
名の通った大病院の院長の一人娘ということであったが、
医者にならずに私の会社でシステムエンジニアをやっていた。
優しく愛らしい喋り方と上品さと控えめな態度、
加えてモデルのようにすらりとした長身のプロポーションで、
男性社員に大変な人気があった。
しかし変な話だが、彼女の振る舞いは全然お金持ちの娘さんらしくなかった。
以前に雨宿りをテーマに小説を書いたことがあるが、
その主人公とは実はこの女性のことである。
外出先から会社へ帰る途中の地下鉄の出口で、
偶然にも雨宿りしていた彼女に遭遇し、話しかけたのだった。
確か暑い夏を目前にした季節のことだったと思う。
そのときは猛烈な雨で、大通りが大袈裟でなく水路のようになっており、
私の会社がいかに地下鉄の出口から近くても、また、
たとえしがみつく様に傘を差したとしても、
雨に濡れてしまうような横殴りの大雨であった。
そのとき私は彼女に話しかけたのはいいが、
以前から気になっていた彼女の前で、頓珍漢な天気の話を始めてしまったのである。
雨が降っているとはいえ、低気圧や6月の積乱雲のことや雨の降るメカニズムなどを
好きな女性の前で話すバカがどこにいるだろうか。
くすりと笑いながらそれでも天気の話を聞いていた彼女と、にわか天気予報士の私は、
15分かもう少しだけその場に留まってから、
私だけ先に会社のほうへ歩き出した。
小説では確か相合傘で歩いて(笑)、と書いたと思う。
そんなことは実際にはしなかった。
会社が近すぎて社内の人間に発見される可能性が大きすぎたからだ。
もし発見されれば、すぐに悪い奴らの格好の噂話となり、
私とは何の関係もない彼女は立場がないだろう。
それで先に歩き出したのであった。
そして、数分で会社のエントランスにたどりつき、
私はあとからやって来るであろう彼女の到着を待った。
雨が少しだけ弱くなったとはいえ、まだ豪雨のなか、
彼女は役立たずの傘といっしょに、
足元を選びながらそろそろとエントランスに近づいてきたのだった。
到着した彼女と二人で誰もいないエレベーターに乗り、
私は行き先である6Fのボタンを押した。
左斜め後方で、今度は彼女が私に話し始めた。
「ホントにすごい雨・・・。足先まで濡れてしまって・・・」
それはさきほど雨宿りしていた時の彼女とは違う、意外にも饒舌なお喋りであった。
そのときの彼女の格好を私はいまでも覚えている。
センスの良いブルーストライプのブラウス、そして黒の膝上丈のタイトスカート。
靴はベージュのパンプスの、いたってシンプルな出で立ちであった。
いけなかったのは、彼女のブラウスが雨に洗われて透けてしまい、
豊満さを包み隠した窮屈な下着を申し訳なく覆っているだけになっていたことだった。
若かった私には目のやり場がないほど、濡れた彼女の全身からは色香が漂っていた。
こんなときにそのエレベーターの中で、
「もう大丈夫だよ」などと言って彼女の額にチューでもすれば、
どこかのB級映画のワンシーンということになるのだろう。
しかし、現実は厳しい。
こんな野暮な男がそんなことをするわけないではないか。
ただ、このことで、彼女は私の心の中にずっと居座り続けることになる。
その後、彼女と私は特にこれといった会話を交わすこともなく、
彼女が家庭の都合で退職し、私は転勤となった。
転勤後2、3年してから、彼女が将来を嘱望される医師と見合いで結婚したことを、
社員の噂話で知った。
今はきっと幸せになっておられると思う。



Mさん。あなたが好きでした。
また雨の日にお会いしたいですね。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

閉じる コメント(6)

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おはようございます。随分久しぶりのような気がします。
やはりオダギリ節はお洒落で素敵です。今日一日良い気分で過ごせそうです。ぽち。

2010/10/6(水) 午前 6:21 やま

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こんにちは〜。お久しぶりです♪

なんでもない、ちょっとした思い出のひとコマなんでしょうけど、読み終えると、なんともいえないウェットな気持ちになってました。不思議だなと思うけど、それがオダギリさんの世界なんですよね♪

2010/10/6(水) 午後 3:35 しょ〜すけ

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お久しぶりです。お元気でしたか?
雨の日、雨宿りというシチュエーションは音楽と成就できなかった恋が似合いますね。
いつか聞いたFMでドヴォルザーク交響曲確か8番が彼女と雨宿りした本屋で流れていたというお便りを読むDJが記憶に残っていて、この曲を聞くと、本屋さんでまるで自分がデートしていたような気分になります。
メロディー・ガルドーのThe Rain もオダギリさんが紹介してくださいましたよね。

2010/10/7(木) 午後 10:18 [ top*zio*2j* ]

yama兄さん、お久しぶりです。
実際の私の生活は、お洒落とはほど遠いものです。
土・日に力仕事が多いですね。
それにしても彼女、どうしてるんでしょうかね。
医師と結婚した後、彼の留学先(海外)について行ったらしいですが・・・。
傑作をありがとうございます。

2010/10/10(日) 午前 10:51 オダギリ&チータ

しょ〜すけさん、お久しぶりです。
ちょっとした思い出ですが、なかなか消えないものですね。
いっそ額にチューすればよかった(爆)。
そうしたらますます消えなかったでしょうけれど。
読んでいただいてありがとうございます。

2010/10/10(日) 午前 10:54 オダギリ&チータ

top*zio*2j*さん、お久しぶりです。
元気ですが、今年は5月までハードワークで……。
ここのところ仕事は少しだけ楽になりましたけれど。
雨というと物悲しさが付きまといますが、この雨宿りの件は楽しい思い出です。
それこそ、あのとき音楽が流れていたら最高でしたね(笑)。
その曲を聴くたびに、彼女のことを思い出したでしょうから。
自分の会社で唯一好きになった女性でした。
また遊びに来てくださいね。

2010/10/10(日) 午前 11:05 オダギリ&チータ


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