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16歳のユイと26歳だった僕は、たった一ヶ月しかその街はずれの病院にいませんでした。 その一ヶ月の間に、私たち二人の患者は当直の看護師の目を盗んで真夜中にコンビニへ出かけたり、そこ で買ってきたハンバーガーを薬局の前の待合室で食べたり、そして僕がこっそり持ってきていたギターで サイモンとガーファンクルの歌を歌ったりしました。病人がそんなことをやってもいいのかと思いました が、病人で不自由だから尚更やるのだと変な理屈をつけて自分を納得させていた気がします。ユイが亡く なってから一週間ほどして、世話になった看護師から身寄りのないユイの荷物を引き取るようにと連絡が ありました。僕は会社が休みの日に、まだ彼女の温もりのある病室に足を運ぶことにしました。ユイのい た病室は一番陽当たりのいい5階にあり、近くの公園の桜が満開になるのをもう少しで見ることができた はずでした。彼女のベッドの棚の中にある遺品を丁寧にひとつずつ片付けていると、二人で真夜中に歌っ たサイモンとガーファンクルのCDが出てきました。ジャケットの裏の「水曜の朝、午前三時」のところ には☆印がしてあり、『兄さんの好きな曲だ』と震えた字で書いてありました。僕はそのCDのジャケット を眺めながら、僕たちの、悪事の限りを尽くした入院生活のことをまた思い出していました。二人でコン ビニへ行って買ってきたハンバーガーを食べ、口のまわりについた赤いケチャップを拭いながら大声で喋 っていたことを・・・。話の話題はユイの好きなタレントやお笑い、それに勉強やセックスや世の中 のことその他諸々でした。毎回誰にも話したことのないことをひとつ話すのがユイとの約束になってい て、私たちはふだん誰にも言えないようなこと(もしくは過去誰にも言えなかったこと)を平気で話して いました。それはたぶん破廉恥だとかそういうものを通り越し、薄っぺらな見栄や体裁を簡単にぶち壊す 類のものだったと思います。薬局の前の待合室は、そんな二人だけの秘密の喋り場となり、そしてギター を弾いて歌うことのできる簡易ステージにもなっていました。あんな夜遅くに、まさか患者が二人でギタ ー片手に歌を歌っているなど誰が予想し得たでしょうか。それもこれも勘の悪い看護婦さんと仮眠中の医 師そして守衛さんのおかげでした。あのとき僕はユイが『タバコを吸いたいお酒が飲みたい』と言うのを とがめていましたが、彼女の霊前にはセブンスターと缶ビールを供えてやろうと思います。そして今度会 ったらまた悪ふざけしようなと、きっと僕は彼女に語りかけることでしょう。 (了)
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10代で入院していた頃、女の子の患者とけっこう戯れ合いました、とにかくヒマでしたから^^ ポチ。
2010/12/12(日) 午後 0:33
以前の会社にいた頃、20代だったんですが、少し先輩の女性がいて、同じように、普通人には言えないようなことを話せる仲だったことを思い出しました。もちろん、不倫とか、肉体的な関係があったわけではありません。もうずっと会ってもいないんですが、なんか思い出しちゃいました。それにギターでビートルズを弾いてテープに吹き込んであげたり。。。うまく言えないんですが、なんか重なる気がしました。オダギリさん、ひょっとしてホントにあった思い出なんではないですか?
S&Gの「〜3AM」も弾けたんですが、これはやらなかったな、ハハ♪
2010/12/12(日) 午後 2:39
ひろちんさん、入院されたことがあるのですか?
私も10代後半に入院の経験ありです。
これは、その時のことを思い出して書きました。
概ね私もヒマでしたが、手術の前後は辛かったですね。
自由が利かず、不自由でしたから(笑)。この小説はあくまでも創作です。
傑作をありがとうございます♪
2010/12/12(日) 午後 8:45
しょ〜すけさん。
そんな先輩がいると、さぞ楽しい社会人生活だったでしょう。
たぶん相性の問題だと思います。親しくてもそうならない人が大半ですし・・・。
今の職場にも、あまり好きでない年上の女性社員がいますが、
なぜかかなりのことを喋れますね(笑)
その人の人柄がそうさせるのでしょう。
もちろん私も肉体関係はありません(爆)
2010/12/12(日) 午後 8:53