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中国深センのNICUスタッフに混じらせてもらって
診療に参加しています。
中国の深センのNICUで、
染色体疾患で保育器の中で酸素を吸入している
赤ちゃんがいました。
心エコー検査を頼まれて、
心臓病の診断も一緒にさせていただきました。
その赤ちゃんのお父さんが面会にきて、
NICUの廊下でこのNICUスタッフと
口論になったそうです。
「どうして?」と聞いたら。「お父さんが納得いかない」
「赤ちゃんを預けて、病院をもう離れたい」
といっているということでした。
日本の神奈川ではこんな風に病状説明しているというのを通訳を介して
NICUスタッフに伝えたら、スタッフの人たちにお父さんにそのことを
伝えて欲しいと言われました。
別室で口論になっている親御さんとNICUスタッフの
話の輪に自分が加わりました。
中国語の会話で
お互いに伝えたいことを言い合っている感じで
平行線な雰囲気でした。
自分が入っていって、
まずしたのは
お父さんが言っていることを全部聞かせてもらいました。
通訳の人に訳してもらいながら。。。
一生懸命気持ちを伝えようとしているのが
わかる表情でした。
そして、拳を握りしめている手が切なく感じて、
手に手を重ねて肩に手を寄せさせてもらいました。
戸惑っているのですね、、、
という気持ちを伝えたつもりでした。
お父さんはそれで寂しそうな笑みを浮かべつつ、
静かになり、落ち着かれました。。。
自分は次のようなことをお話ししました。
「自分は日本からきました。日本で同じような御疾患の赤ちゃんたちの
お誕生を見守らせてもらっています。赤ちゃんはかわいいですね。
パパさんに似ていますね。
この病院の先生の説明どおりでご疾患があるのは確かです。
「なんで?」と思うからもしれませんが、お父さんが妊娠前に
何かしたとか、しないとか、お母さんが妊娠中に何かしたとか
しなかったとかのせいでないご疾患です。
ある程度の頻度でお腹の中に授かるご疾患です。
このご疾患はお母さんのお腹の中で
妊娠の初期に亡くなってしまうことも多いご疾患です。だから、
このご疾患で生まれてきて、今、NICUの中で生きているのは
強い子だと思います。お誕生を一緒に喜びたいと
思っています。生まれた後もあの場所で頑張っている
姿を讃えたいです。
自分たちの病院でも20歳を超えている人も10歳代になって
お子さんもいます。だから、すぐに死んじゃうとは限りません。
でも、生まれた初日に15%のお子さんは人生を終えることも
あります。今日死んじゃうとは思えない状況ですが、明日は
どうかは誰もわからない気がします。
生まれた赤ちゃんの半分は1週間、1ヶ月を超えるのは
3割、1年を越えられるのは1,2割です。
この子のご寿命がどうかは自分たちにもわからないけど
どう人生の時間をご家族で過ごすかを一緒に考えさせて
くださればと思います。
自分たちの病院では生まれてすぐからママさんやパパさんと
過ごすようにしてから赤ちゃんたちが元気になる子もいて、
4割を超える赤ちゃんがNICUを卒業してお家に家族と過ごせる
ようになりました。お家に帰れる可能性だってあると思います。」
とお話ししました。通訳を介しての言葉を聞いてくれている
お父さんに思えました。
その上で、
「自分の話を聞いた上で、今、一番聞きたいと思っていること、
困っていることは何?ですか?」と尋ねたら、、、
「今日までの入院費が40万円、今日から酸素が必要で5000円
さらにかかると言われて、自分たちにはとても払えない。。。」
「上に6人兄弟もいて、一番下は7歳。これから
どうしていいかわからない。。。」という趣旨の言葉でした。
農村部の肩でこの病院まで運ばれてきたということでした。
一っこ政策から3年前から2人っこ政策になりましたが、
それを越えると罰金が科せられるとのことです。
でも、農村部は
成人まで達するのが当たり前ではないのでそれ以上の
子供が生まれているし、
罰金も払えない家には黙認とのことです。
このご家族が入院費を払えないのは確かだろうと皆がいって
いました。
中国では国民皆保険ではないので病院に入院するということは
医療費がかかります。農村部の人にはとても払うことが困難なことも
あるということです。ご老人たちは自分が入院して医療費がかかると
孫たちの生活に迷惑がかかるから、病院にはあえてかからない人たちも
多いという話を通訳の方から聞きました。
その言葉に、日本とは違う新生児医療の状況を
実感しました。。。
自分が話した後、お父さん、一人でしばらく考え、ご家族と
相談したようで、その後、
「この子と一緒に退院したい。
兄弟、家族の基に一緒に連れて帰りたい。
そして、一緒に過ごしたい。」
といってきました。
自分は心臓病は軽症だし、心不全も今はなさそうだから
経管栄養などの練習すれば家に帰えれるかなとも話したのですが
そんなスピード感でなく、その日に退院することになりました。
そのスピードに驚きました。
赤ちゃんを抱っこして病院を去ろうとするパパさんは
涙を浮かべながらも笑顔でお礼を伝えてくれました。
自分は、赤ちゃんとご家族が一緒に過ごせる時間が
いい時間であることを祈っていますとお伝えしたら、
涙を浮かべながらうなづくお父さんでした。
赤ちゃんに
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちにあえて
よかったね。いっぱいかわいがってもらってね」
と声かけながらパパさんに抱かれて去っていく姿を
見送りました。 そして、病院の救急車で家族が待つ場所まで
送っていたこのNICUの先生たちでした。
それを見届けた自分に
通訳さんが自分に伝えてくれたのは
財政が豊かな地区のNICUではそこまでではないにせよ、
病院によっては「お金が払えない状況の患者さんだと
わかっていて、どんどん医療することは医師がその医療費の
負担や罰金が科せられることもある。この病院の先生方は
医療費はこれ以上請求しないし、救急車で家まで送るなんて
中国の中ではすごく親切な人たちなんだと思った」
と一般の目線で伝えてくれました。
そして、自分に
「先生がお父さんの話を延々聴いていた姿や
質問に答えながら話していた姿に正直驚いた、勉強になった。
患者さんや家族に寄り添う
日本の医療を感じて勉強になった。。。」と伝えてくれました
夜の食事会で
日本ではあの状況で親御さんが帰りたいといっても
帰っていいよというNICUはまずない気がすると話すと
中国の先生たちは
「ああいう状況では親御さんの希望を大切にする」
と話してくれました。
自分は
「日本は医療費の負担を患者家族も医療者もあまり考えない。
国が面倒を見てくれると思っている。だから、良かれと思うと
対費用効果など考えずにどんどん医療をできる、だから成績が
いいとも言える。
一方で、<親御さんの希望>はここほど通らないと思う。
お金を払わないで済む分、医療者の意見が強くなる
状況かもしれない。
だからこそ、
重症な赤ちゃんもより助けられる日本なんだと
思える。
一方
病院でできる医療をして安定しない限り、兄弟に会えなかったり、
家族と引き離された状況の赤ちゃんたちも多いと思う。」
と話した自分でした。
中国を始め世界の多くの国のように医療費の負担が1−2割あったと
したら、NICUの中でも数百万円の家族負担はあることがあります。
集中治療を重ねていく上で、家族の経済的負担なども踏まえた上で
必要な医療を考え、どこまでNICUで救命を目指して、どこから家族で
の時間を過ごしたいかなどを話し合う必要がでるんだろうなと思えました。
国民皆保険やNICUの診療に対する補助金があるからこそ、
医療費を気にせずの救命医療ができる、、、
そして国民皆保険やNICU診療に対する補助金があるからこそ、
「助けた後は親御さんが他国でみられないような在宅療養に
家族が向き合う状況がある日本」なのかもしれない。。。
国民皆保険を誇る日本だけど、一方で国民皆保険だからこそ
他の国にはないようなその先にある悩みだって赤ちゃん、大人に
関わらずあるし、介護や福祉などにつながっていく背景なんだと
思える
と中国の仲間と思える先生たちにお話ししていた自分です。
赤ちゃんと家族で過ごすことを決断した
パパさんの涙を浮かべながらの笑顔と
赤ちゃんの表情を思い浮かべながら、あの
ご家族に幸あれと思いながら酒を酌み交わした夜でした。
これから中国は救命率がどんどん上がっていくし、
そうなるように
自分もお手伝いもしていくつもりだけど、
NICUで救った先の赤ちゃんと
ご家族の医療や生活支援も中国でもその文化の中で、
一緒に考えさせてくださいと話した夜でした。
異国の新生児医療の文化に触れることで
日本の新生児医療のことを改めて考える気がした
この日の経験でした。
ご意見ご感想などコメント欄にお寄せくだされば
と思います。
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と毎日感謝しています。ありがとうございます。
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その日に退院とは!とびっくりしてしまいました。
赤ちゃんかわいそう!ととっさに思いましたが、
日本では医療ネグレクトという言葉があるけれども、
医療を受けられる制度があるのに受けさせないからネグレクトなのであり、
受けられる制度がない国で受けないというのはネグレクトとはまた違う問題なんだろうと思いました。
医療や福祉の考え方は国によって本当に違いますね。
アメリカの知人にも日本の保険制度を驚かれたことがあります。
それによって生命倫理の考え方も違うと感じることもありました。
今後、医療が国境を超えると言われていますが、
色々な問題も生まれるのだろうなと記事を拝見して思いました。
おうちに帰った赤ちゃんがいい時間を過ごしていることを願います。
2017/6/19(月) 午前 0:50 [ sou***** ]
> sou*****さん、読んでくださり感想ありがとうございます。上記の感想と同じようなことを自分も思いました。<赤ちゃんが入院できなくて可哀想>と思うのが日本かもしれませんが、<その状況の中なら家族で過ごす時間を大切にしよう>と決めた御家族や医療者の姿に<可哀想>だけでない何かの覚悟や究める気持ちがあるようにも思えていました。日本の<医療ネグレクト>は日本だからこその<ネグレクト>であるんだと思えていました。
どこがいいとかわるいとかでなく、文化の違いの中で医療の<役目>も変わっていくと思います。医療のかたちが違えば福祉や教育も社会も変わっていく、、、病院にいくかどうか、入院するかどうかも全てが当たり前でなく、家族の希望の中で出来る医療をしている中国の医療の中で様々な気づきをもらえた気がします。中国の中での新生児医療のかたちを中国の方々と一緒に考えていけたらと思う経験でした。また、お会いしたときのお話し出来ることを楽しみにしています。いつも心寄せてくださり、同志と思っています。ありがとうございました。
2017/6/19(月) 午後 2:21 [ NICUサポートプロジェクト ]
峻太朗の母です。
状況は違えど、お話のお父さんの気持ちはあの日の私達家族と違わないと思います。「病院を後にするのは怖いけど、でも、、、」という、とても言葉では表すことのできない気持ちです。
赤ちゃんを含めたご家族があたたかい時間を過ごすことを祈っています。
このようなお話を聞かせてくださり、ありがとうございます。
2017/6/20(火) 午前 8:55 [ sao*i*nakad* ]
> 峻太朗の母さん、中国で産まれた同じ御疾患のお子さんと御家族に心寄せて下さりありがとうございます。自分もしゅんたろうくんたちを想い出しながら御家族に気持ちを伝えてきました。「病院を後にするのは怖いけど、でも、、、」、、、<一緒に過ごすことに決めた>というこのお子さんのパパさん、それを見送る医療スタッフに医療あ社会の背景は違えど、同じ想いを感じた自分でした。日本は医療に基本お金がかからない分、いい面も悩む面もあるのだと異国のNICUで日本のNICUや小児医療や福祉を外から考えるような時間でした。それを伝えたくて書いた文章に心寄せ、一緒に考えて下さり心強く感じました。ありがとうございます。
2017/6/22(木) 午前 8:47 [ NICUサポートプロジェクト ]