新生児成育医学会60周年という節目の式典にてご挨拶をさせていただく機会を光栄に感じております。NICUの臨床現場にいる世代の1人としてご挨拶させていただきます。
先ほどのスライドショーを拝見して、本学会の歴史は「救命が困難であった赤ちゃん達の命にあきらめずに向き合い続けてきた歴史」と改めて感じました。
ちょうど20年前、私は初めてNICU研修をしました。サーファクタント、HFOなど、この学会の諸先輩方が開発してきた治療方法がすでに臨床応用されていました。超低出生体重児であっても救命は可能で、<後遺症を少なく救命すること>に目標がシフトした時期の学会に加わらせていただきました。
私自身は研修医時代に防ぐことができなかった脳室内出血を撲滅したくて、新生児循環管理にこだわって診療や研究に取り組んできました。この学会でも、様々なご意見やご指導をいただきました。13年前にこの学会の学会賞をいただいたことは大きな励ましでもありました。NICUの<保育器の前>で感じる若手の悩みや取り組みに心寄せてくださり、<世代を越えて共に考えてくださる>この学会の文化の中で、医療者として育てていただいたと感謝しております。
この10年間で、学会のプロジェクトとして参加させていただいたことをお話しさせていただきます。日本の極低出生体重児の救命率は世界有数と言われてきましたが、どのNICUに入院するかで10倍以上の死亡率の差があることが明らかとなりました。その要因として診療方法の施設間差異が大きいことも要因と分析されました。
本学会からのご提案で<未熟児動脈管開存症の治療ガイドライン>を、41施設66名の同世代の皆様と一緒に作成させていただきました。私たちはガイドラインを作成する中で、ガイドラインは診療の質向上や施設間差異を減らすためのスタートラインに過ぎないと実感しました。
引き続いて参加させていただいた周産期医療の質と安全の向上のための研究プロジェクト(INTACT)では、全国40施設のNICUをお互いに訪問し合うワークショップを各地で開催しました。ガイドラインなどの根拠をNICUチーム全体で共有しつつ、各現場において自律的に改善行動計画を策定し、その実現を多施設協働で支え合うという<チーム医療に対する質改善>に取り組みました。私は全国各地のNICUをご訪問させていただき、質改善を目指したワークショップに参加させていただきました。
そこで感じたことは、全国各地にその土地で生まれる新しい命を大切に寄り添うNICUの医師や看護師さん達がたくさんいることを直に感じました。日本の成績が世界有数であるとしたら、それは設備や技術などではなく、NICU医療者の人財や赤ちゃん達に向き合う想いや姿勢が世界一だったのではないかと思えました。
マニュアルやガイドラインなどに頼りすぎず、各施設のきめ細やかな取り組みなどをお互いに伝えあい、共有しながら検証・研究し続けていくことで、お互いの診療の質向上につながり、未来の施設間差異は自然と減っていくだろうと感じました。
「周産期医療の質と安全の向上のための研究」の参加施設では極低出生体重児のフォローアップ率が9割を超えるようになりました。救命率は高いがフォローアップ率は高くないという日本の課題を改善するきっかけの1つになったと考えます。
NICU卒業は赤ちゃんやご家族にとってゴールでなく、スタートだと思います。NICUの集中治療は発達へのマイナス要因を減らすと信じますが、発達面へのプラス要因としてご家族と一緒にNICUから積み重ねていく取り組み、NICU卒業後に療育・教育・福祉など社会の中で多くの方々と一緒に取り組んでいくことにさらなる予後改善の可能性を感じています。
新生児成育医学会という名称変更は、新生児医療はNICUの集中治療だけではない、その後の発達支援も含めて、赤ちゃんたちとご家族を見守っていくのが新生児医療であるという未来へのメッセージにも感じました。
そして、新生児成育医学は早産児の医学だけではないとメッセージと感じました。胎児診断の普及は重症児の生直後からの診療の増加に繋がりました。最重症児への胎児治療、新型出生前診断などの医学の進歩は妊娠ご家族に困惑をもたらしている部分があると感じます。私たち新生児科医も「患者としての胎児(FETUS AS PATIENTS)」の意識をもって出生前からの様々な小児医療疾患の診療に踏み出していく必要性を感じております。早産児の集中治療や家族支援、発達支援などこの学会で蓄積したノウハウは様々な小児医療疾患の救命医療や発達支援につながっていくと考えます。小児医療の中で新生児医療が果たす役割が今後大きくなっていくと信じています。
子供を大切にしない国には未来はこないと考えます。新生児成育医療は<未来への希望の光>になれると信じています。
この学会を基盤として、ここにいる皆様、全国各地で留守を守ってくださっている皆様、未来にこの学会に加わってくださる皆様と共にこの先も共に頑張っていきたいと思います。未来に生まれる赤ちゃんとご家族が笑って生きていけることを支えらえる<新生児成育医療>を目指していけたらと願い、私のご挨拶とさせていただきます。
この式典のことを含め、
後日改めて学会初日の報告記を書かせていただきます。
明日は朝一番に循環のセッションで動脈管に関する
基礎研究の講演と夜一番最後に
以下の講演をさせていただく予定です。
盛岡にいらっしゃる皆様には
ぜひ、ご参加いただければ幸いです。
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