|
財部の前畑さんから一本の芋焼酎をいただいた。
ふかい印象的な逸話を醸した酒だ。
ご記憶の方も多いだろうと思う。
大雨による土砂災害によって焼酎用の麹米『亀の尾』を栽培していた田んぼが壊滅的被害にあった。2010年7月のことである。
焼酎が仕込めないかもしれない・・・はるか南国の農家の危機を聞いた山形県庄内町の阿部亀治翁顕彰会が2011年5月、『亀の尾』種籾を提供したのである。このことは新聞等で大きく報じられた。
この年、阿部亀治翁顕彰祭(例年9月5日)に鹿児島県曽於市の農家などでつくる「びっきょの会」17名が庄内町を訪問して参加、交流が始まった。
北と南の農家をつなぐ縁が生まれたのだった。
この顕彰会の血を引く鹿児島産「亀の尾」で麹を作り仕込まれたのが新・甕御前である。
蔵は八丈島から薩摩に帰還した丹宗庄右衛門が上陸した港に近い、と裏ラベルに紹介されている大石酒造だ。
書いてある通り小さな蔵。しかし元気のいいそして技術面にもこだわりの深い杜氏社長のいる蔵だ。
造りの項目に、<黄麹使用、補酸なし>と書いた小さな文字に自信と力がこもっている。
開栓する。
蔵の空気が漂い出る。懐かしくもあり美味しくも感じるここちよい大気。
そこには蔵で感じた香りが確かに含まれている。
大石さんのほかの酒に共通する濃淳な香りが立ち上がる。だが、この蔵の代表銘柄である鶴見の、いささか飲みやすいサラリとした味わいを想像すると手痛いしっぺ返しがくる。
濃くて苦くてやがて湧き上がる深い甘みが、この酒のただものではない味わいの残響となる。
穀物の焦げた感あり、蒸し上げた芋のねっとり感あり、微かに果物を思わせるフルーティさまたあり、縦横斜めに綾なした香味が飲み手に正面から挑んでくる。まっこと、うれしい挑戦ではある。
ロックでも、水割りでも美味しい。飲み方を選ぶ必要のない酒だと思う。
ですがね、おすすめはお湯割り。夏の夕方にまた厳寒の季節に季節を選ばずにお湯割り(なにしろお湯割り原理主義者なのでこうなります)。
|