幼い心に震災の影 被災児童に目立つストレス
東日本大震災の被災地では、地震や津波のショック、生活環境の変化などから、ストレス反応を示す子どもが少なくない。家族ら周囲の人たちは戸惑いながら、幼い心と向き合っている。
気仙沼市の阿部大成ちゃん(2歳7カ月)は、通っていた南気仙沼幼児園が津波で流され、慕っていた先生が犠牲になった。 近くの高校や親戚宅で避難生活を送り、3月下旬にようやく自宅に戻ったころから、「赤ちゃん返り」と呼ばれる言動が目立ち始めた。 一度は取れたおむつが、再び必要になった。一人でできていた着替えも「できない、ママやって」とねだる。母恵子さん(35)は「急に甘えるようになって驚いた」と振り返る。 「幼児園がなくなった、先生がいなくなった」と言って大泣きすることもあった。恵子さんは、被災者の心のケアに取り組む東北大の臨床心理士のアドバイスを受けるなどし、大成ちゃんと遊んだり話をしたりする時間を多く作るよう努めた。今は「以前に比べて、やや落ち着いてきた」という。 被災した子どもたちが通う施設にも、震災は影を落とす。 津波被害に遭った仙台市若林区荒浜などの乳幼児約100人が通う同区のあっぷる保育園。津波で園児1人が母親を亡くし、3人が自宅を流された。 強い風の音がしただけで泣きだす子や、緊急地震速報の口まねをしたり、「地震が来たらやっつけてやる」と強がったりする子も目立つ。 半沢和枝園長(67)は「子どもは『家が流されちゃった』『泥だらけになった』とあっけらかんと話すが、大人のように言葉で表現できない分、いろんな思いが詰まっているのだろう」と語る。 余震の不安から、外での散歩を中止するなど制約も続いている。半沢園長は「室内でできる遊びを取り入れ、保育園にいる時間だけでも楽しく過ごさせたい」と言う。 (菊池春子) ◎遊び場子ども生き生き/被災地の休耕田や林活用 東京のNPO 東日本大震災の被災地では、子どもに遊び場を提供することで、ストレスを発散させ、子どもらしさを取り戻すのを手助けしようという試みが行われている。 気仙沼市本吉町寺谷の休耕田や雑木林で3日、地元の子ども約50人が滑り台を楽しんだり、竹で作ったジャングルジムによじ登ったりして、元気に遊び回った。タケノコも掘り出し、獲れたてを天ぷらにして食べた。 何度も食事を差し入れている近所の主婦鈴木美和子さん(62)は「子どもたちは遊び場ができた途端に生き生きとし始めた。震災後は、大人を気遣っていい子にしていたのだろう」と目を細めた。 遊具を準備したのは、東京のNPO法人日本冒険遊び場づくり協会。副代表の天野秀昭さん(52)は「被災地の大人が生活の再建に奔走する中、子どもが自分の心を表現できる場を提供したい」と説明した。 登米市登米町の登米児童館では、東京のNPO法人ワールド・ビジョン・ジャパンが週5回、子どもとボランティアが一緒に遊ぶ機会を設けている。 児童館には、登米公民館と登米武道館で避難生活を送る宮城県南三陸町の未就学児や小中学生約20人が通う。子どもが「やりたい」と提案した遊びを、ボランティアも楽しむ。遊びは日によって、ドッジボールや鬼ごっこ、卓球などさまざまだ。 遊び場を3月下旬に始めてから、1カ月以上がたった。子どもたちはボランティアに積極的に話し掛け、さまざまなことに好奇心を示すようになったという。 スタッフの山野真季葉さん(31)は「子どもたちは遊びを通じて、少しずつ普通の生活を取り戻し始めたようだ」と話した。(柏葉竜、丹野綾子) ◎心のケアどうする?/甲南大・森教授に聞く <自由なスペース確保/大人と一緒で安心感> 震災後の子どものストレスへの対応について、阪神大震災で被災した子どもの心のケアに当たった甲南大文学部の森茂起教授(臨床心理学・トラウマケア)に聞いた。 災害のショックや、避難生活による環境の変化などに伴うストレス反応として、子どもには普段と異なるさまざまな行動が表れる場合がある。 典型的な症状の一つは、これまで普通にできていたことができなくなったり、甘えたりする「退行」。不安な状態を大人に守ってもらおうとする行動で、過去の自分に戻って心を立ち上げ直そうとする動きでもある。 ごく自然な反応であり、多くは時間とともに収まる。「怖かったね、でも今は大丈夫だよ」と伝え、気持ちを受け止めてあげてほしい。 子どもたちが地震ごっこや津波ごっこなど、災害を再現する遊びをするケースもある。遊ぶことによって気持ちを整理する子どもなりのプロセスだ。攻撃的な言葉や態度を示す子どもは、気持ちをうまく伝えられず、消化できないイライラを抱えている。 避難所でも学校でも、子どもが自由に遊べるスペースの確保が極めて重要だ。大人が一緒に遊んであげることも安心につながる。 親を亡くし、深い喪失感を抱える子どもを預かる親族や里親をどう支えていくかも大切だ。 子どもを守るため、自分を捨てて頑張り過ぎることのないよう、個々の家族が情報を共有できる仕組み、地域の専門機関と連携してのサポート体制づくりが求められる。 子どもは被災した地域の未来をつくる存在だ。今、被災地で活動する関西のボランティアの若者の多くは、子ども時代に阪神大震災を経験している。大人が精いっぱい支えてくれたことへの感謝の気持ちは将来、必ず地域の力になる。 <もり・しげゆき>1955年、神戸市出身。京都大大学院教育学研究科博士後期課程退学。甲南大文学部専任講師などを経て97年教授。2010年から文学部長。兵庫県児童虐待防止専門家会議議長などを歴任。56歳。 河北新報 |
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