樺太史研究室

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「牛を見捨てられぬ」餌運び続ける 原発事故警戒区域

http://www.kahoku.co.jp/img/news/2011/20110504041jd.jpg
人恋しそうに集まってくる牛に餌をやる村田社長=4月29日、福島県浪江町のエム牧場浪江農場(提供写真)
 「300頭以上の牛が腹をすかせて待っている。行かなければ死んでしまう」。福島第1原発事故で立ち入りが禁じられた20キロ圏内の警戒区域に、今も牛の餌を運び続ける畜産農家がいる。丹精込めて育ててきた牛への愛情と、日々の営みを突然奪った東京電力や国への怒りが、農家を突き動かしている。

<重なり倒れる>
 「人が行かなくなった畜舎は悲惨。成牛も子牛も折り重なるように倒れてる。生き残った牛もがりがりにやせて、力のない目でこっちを見る。もう、いたたまれない」
 20キロ圏内の牧場の様子を切なげに話すのは、二本松市の農業生産法人「エム牧場」の村田淳社長(56)。同社は県内7カ所に牧場があり、和牛約1200頭を飼う。原発事故で職員が避難した後も数日おきに、原発から14キロの浪江町の牧場にトラックで餌を運んできた。
 浪江農場は敷地約30ヘクタールと広大な主力牧場で、震災前は328頭を飼育。畜舎を増設するなど規模を拡大中で、近く600頭まで増やす計画だった。
 場長の吉沢正己さん(57)は国が3月12日、20キロ圏内に避難を指示した後も踏みとどまった。しかし、原発の状況が悪化したため17日に退避した。「原発が爆発するたびに、どーんと重い音が響いた。双眼鏡で見ると白い煙が立ち上って、もうこれまでかと泣く泣く牛を置いてきた」と振り返る。
 その翌日には必死の思いで農場に戻り、畜舎の牛を放牧場に放した。浪江農場の牛をどうするか、社内で激論が交わされた。出荷できない牛に経費をかけて維持し、何の意味があるのか。国の指示に従わず、危険を冒す必要はあるのか―。
 「結論は命を見捨てて、同じ生き物として恥ずかしくないのかということ。できる限りのことはしたい」。率先して浪江に餌を運ぶ村田社長は語る。吉沢さんも「東電が事故を起こし、国が住民の意見を聞かずに立ち入り禁止の線を引いた。牛や農家は何も悪くない。ひるんで逃げるのは嫌だ」と強調する。

<細い山道抜け>
 通り道の浪江町と南相馬市には立ち入り許可を何度も求めてきたが、認められていない。「なぜ駄目なんだ」と村田社長は憤る。やむを得ず、検問を避け、細い山道を抜けていく。帰りは必ず被ばくの有無を確認するスクリーニングを受けるが、異常値が出たことはないという。
 今、20キロ圏内では春の日差しの中、放された牛や豚がのどかに草をはみ、その脇の畜舎では逃げられなかった家畜が無残な姿をさらす。「まさに天国と地獄だ。本当は家畜を放すのも良くない。でも仕方がなかった。畜舎を閉じたまま避難した農家にも事情がある。正解なんかない」と村田社長。
 餌を積んだ車が到着すると、放牧場に散っていた牛たちは甘えた声を上げ、集まってくる。中には生まれたばかりの子牛も。「牛飼いをやってて良かった、餌運んで良かったって実感する」と村田社長は言う。

2011年05月05日木曜日
河北新報
 

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