|
函館の夏がこんなに暑いとは知りませんでした。
空は海から海へと横切っていく雲で晴れたり曇ったり。
だいぶ乗り馴れた市電のイスに座り、なんとなく天井付近を見上げると「東京都交通局」なんて書いていました。
「へぇー」「へぇー」「へぇー」・・・
そして十字街で下車し海の方角へ向かいました。
確かレンガ造りの倉庫との間に小さい雑貨屋があるはずなのです。
しかし、どうやら迷ってしまったみたいです。
地図を忘れてしまったのが失敗でした。
通りかかった紳士に尋ねてみたが、古い記憶を探してくれているのか、空を見上げたきり答えは頂けない。。
また雲がやってきて温い風が汗ばんだ体に纏わり付く。
そして「夜になれば分かるのではないでしょうか。」
紳士はそう言うと道を渡り角を曲がって行ってしまった。
夜?
十字街は琥珀色のランプのように光っている。
山の上からはサーチライトのような光が射している。
きっと今日も沢山の人が夜景を楽しんでいるのでしょう。
そして光と光の間の闇の部分に私は立たされました。
そして小さな雑貨屋は難なく見つかりました。
元々は古い蔵だった雑貨屋は、小さな窓から琥珀やルビーやエメラルドの光を放っていた。
カラリン。
重い扉の向こうでは、どこか懐かしいランプの白灯油の匂いがする。
夏のグラス。
秋のグラス。
そして冬のグラス。
なぜか春は置いていない。
古い飴色をした不恰好なビアジョッキが手にしっくりくる。
とても小さく、ガラスは分厚い。
手の平に入るビアジョッキである。
つまみは要らない。
ビアジョッキを眺めながらビールを楽しむから。
|