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第1回 中国の最悪の輸出品 三橋貴明(作家・経済評論家) 登録失業率という謎 中国の最悪の輸出品とは、ずばり数字である。 数字とは具体的にはGDP統計や国際収支、失業率などのさまざまな経済指標、 数値データを意味している。 中国の場合、発表される数値データに、 あからさまな捏造が含まれているケースも確かに多い。 だが、それ以上に厄介なのが、一見まともそうに見えても、 裏に巧妙に毒が含まれている数値データも少なくないことだ。 例えば、中国は2008年の失業率について、以下の通り発表している。 「2008年の登録失業者数は886万人で、失業率の実績は4.2%である」 失業率4.2%といえば、現在の日本と同レベルである。 この数値を「思ったよりも良い」と思うか、「思ったよりも悪い」と思うかは 人それぞれだと思う。だが、それ以前に、この文章を見た瞬間に 「んん??」とピンとこなければ、 その人は中国経済について語ることを差し控えておいたほうが無難である。 失業者総数が886万人に対し、失業率が4.2%。 失業者とは、すなわち労働人口に対する失業者の割合である。 失業者の定義については国によって若干の差異があるものの、 計算方法はどの国も基本的には同じだ。 すなわち中国国内の「失業者数(886万人)」÷「労働人口」で 弾き出された失業率が、4.2%ということである。ここで、 「あれ?」 と疑問を持たれたほうは、なかなかに鋭い人だ。 あなたには、中国経済を語る資格があると、筆者から太鼓判を差し上げよう。 中国当局の発表数値「失業率4.2%」と「登録失業者数886万人」 から逆算すると、中国の労働人口が、 なんと2億1000万人という小さい数字になってしまうのだ。 人口が13億人を超える中国において、 労働人口がわずかに2億人強とは恐れ入った。あれほどの人口を抱えながら、 2億人が働くだけで国が成り立つとは、中国とはどんな天国だ、 などと皮肉の一つも言いたくなるわけだが、 現実にはもちろんそんなことはない。 現実の中国は、間違いなく天国よりは地獄に近い。 この中国の失業者総数886万人であるが、 あくまで「登録」失業者総数なのである。 「登録失業者」の総数ということは、逆に登録されていない失業者が存在し、 彼らは本失業統計には入っていないわけである。 ところで、登録失業者とは果たしてなんだろうか。 登録失業者とは、中国の都市戸籍を持つ者の中で、 失業登録をしている人々のことである。 すなわち、同じ都市部の失業者であっても、失業登録をしていない者や、 農村部からの出稼ぎ労働者、いわゆる民工で仕事を失った人々は 含まれていないのである。 これら失業統計に含まれていない人々の数が誤差程度に収まれば、 無論、本統計数値「失業率4.2%、失業者総数886万人」を 報道する価値はあるだろう。しかし、現実の中国の失業者総数を見ると、 この「失業者総数886万人」のほうが 「誤差」に思えるような凄まじい状況に至っているのである。 ちなみに、中国の都市部及び農村部は、 日本のように行政管轄上の「地域区分」を意味してはいない。 ご存じかもしれないが、中国は1949年の建国以来、 住民は都市戸籍と農村戸籍に明確に区分けされている。 そして都市戸籍の住民が多く住む一帯が「都市部」、 農村戸籍が多い地帯が「農村部」と呼ばれているわけである。 経済都市上海などはもちろん「都市部」にはなるのだが、 そこに農村戸籍を持つ人が出稼ぎに来た場合であっても、 彼らは永遠に農村戸籍のままである。農村戸籍の人が上海で失業しても、 都市部の「登録失業者」にはなれない。 当然ながら、農村部からの出稼ぎ労働者は、 前述の失業者総数886万人には含まれないわけである。 農村部から出稼ぎに来ている膨大な労働者を含んだ場合、 中国の失業率は果たしてどの程度に高まるであろうか。 中国社会科学院の「社会青書2009年」によると、 都市における実質失業率は9.4%に達しており、 中国政府が発表する「登録失業率」の2倍以上に達しているとのことである。 さらに、中国の失業状況は地域差がとても激しい。 ご想像はつくと思うが、中国では沿海部から内陸に入れば入るほど、 失業率が悪化する傾向が強い。 同じく「社会青書2009年」から引用するが、 中国の中西部における失業率は、早くも10%を上回っているとのことだ。 日本やアメリカどころか、ユーロ圏に匹敵するほど、 現実には中国の失業率は高まっているのである。 2009年4月、中国の人事社会保障省は2 009年第1四半期の都市部の登録失業率が、4.3%に「悪化」したと発表した。 同時に、同省は民工の失業者総数が2300万人、 都市部の登録失業者が880万人であることを明らかにしたのである。 しかし、前述の「社会青書」の数値と組み合わせると、 またもや辻褄が合わない話になってしまう。 登録失業者と民工の失業者を合わせると、 およそ3180万人が中国の都市部の失業者総数になる。 この失業者総数と「社会青書」における 都市部の実質失業率9.4%を組み合わせても、 労働人口の総数は3億4000万人にすぎない。 人口14億人、全土の労働人口が9億人を超す中国で、 3億4千万人分の失業率や失業者総数を公表して、 果たしてなんの意味があるのだろうか。 残りの5億人を超す労働者の就業状況は、一体どうなっているのか。 現況がさっぱり分からない。 本来、中国が失業統計を発表するのであれば、まずは全土の労働人口、 失業者総数、そして失業率を公表するべきなのだ。 その上で、都市部全体の失業率は何%で、 さらに都市部の「登録失業率」は何%であると、 順番にブレイクダウン(細分化)をしていかなければならない。 ところが中国当局は、最もミクロな数値である「登録失業率」のみを公表し、 都市部全体の失業率は別資料の「中国社会青書」に記載するという、 まことに不自然な発表手法を続けている。 さらには、中国全土の失業率に至っては、もはや一切発表していないのである。 要するに、中国当局も全土の失業率など把握できていないというのが、 真相のような気もする。 仮に「社会青書」に記載された「9.4%」という失業率を適用した場合、 中国全土の労働人口は9億人であるので、 失業者総数は8800万人を超えることになるわけだ。 都市部の失業者総数3180万人や、民工の失業者総数2300万人にしても、 思わず失神しそうになるほど膨大な人数である。 しかし、中国全土の失業者総数を真面目にカウントすると、 日本の労働人口を上回る規模の失業者が存在している可能性さえあるわけだ。 実際、中国の失業問題について考える際は、登録失業者数886万人など、 真実、誤差の範囲にすぎないのである。 ここで、日本の新聞が中国の失業問題について記事を書く際に、 その見出しがどうなるかについて想像してみてほしい。 「中国全土の失業者総数、8000万人を超える可能性も!」 とは、日本の新聞は決して書かない。 日本の新聞は単純に中国共産党の発表を垂れ流し、 「中国の登録失業率4.3%!」 という見出しで記事を書くだけである。 本来、クオリティペーパーとやらを自称するのであれば、 登録失業率とはなにを意味しているのか、 民工を含めた失業率はどの程度なのかについても解説するべきだろう。 しかし、日本の新聞がそこまで踏み込んだ記事を書くことは決してない。 せめて日本のマスメディアが、「社会青書2009」の 都市部の実質失業率9.4%を見出しに使ってくれれば、 まだしも「社会の公器」を名乗る資格はあると思う。 先ほどから筆者は何度も「失業率9.4%」を繰り返しているため、 なんとなく感覚が麻痺してきたかもしれない。 だが、この中国の都市部における実質失業率は、 膨大な失業者総数に苦しんでいるアメリカの最新失業率8.5%をも 軽く上回っている数値なのである。 失業率4.3%と9.4%では、いくらなんでも開きがありすぎだ。 なにしろ、先進諸国で最も失業率が低い日本(2月ベースで4.4%)と、 アメリカの失業率の差さえをも、軽々と上回るほどの大きな開きなのである。 例えば、日系企業が中国投資を検討した際に、 「中国の都市部の失業率4.3%」と言われた場合と 「中国の都市部の失業率9.4%」とでは、経営判断が 決定的に変わってしまうだろう。 中国当局が目の玉が思わず零れ落ちるほどに、 異様な数値の公表を続けるのは昔からの伝統芸だが、 日本の新聞までもがその片棒を担ぎ、数値を右から左へと流すだけでは、 もはや「メディア」を名乗る資格はないだろう。http://voiceplus-php.jp/web_serialization/china_economy/001/index.html 以下、三橋さんのWEB連載は続きます。 続きはこちらから、 |

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